お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第187話 半年予定なんて二日に圧縮してしまえ

「あの、総隊長……自分に用事とのことですが、俺なにかやってしまいましたかね……? あ! ひょっとして昨日の件ですか!? 申し訳ありません、あれは……」

「いや、今日呼んだのはそのことではない」

 

 翌日。

 朝一番に三番隊隊舎へと訪れると、天貝隊長を連れて一番隊へ。

 昨日の命令通り、総隊長の前まで連れてきました。

 とはいえ肝心の天貝隊長は、なんだかおっかなびっくりの態度を取っていますが……さて、いったいどんな話を聞かされるんでしょうか……?

 

『どんなことに巻き込まれるか、の間違いではござりませぬか!?』

 

 うるっさいわね! そんなのはもう分かっているのよ!!

 

「お主と、少し昔話がしたくなってな……如月(きさらぎ)繍戉(しゅうえつ)よ」

「……!」

 

 あら? なんだか半分くらい聞いたことがある、知らない名前が出てきましたよ。

 まるで"如月(きさらぎ)秦戉(しんえつ)"と"天貝(あまがい)繍助(しゅうすけ)"を足したみたいな名前ですね。

 

藍俚(あいり)殿!?』

 

 ……なんてボケかまして現実逃避してる場合じゃないわよね。

 まさか、本当に偽名を名乗っていたの!? 如月さんのお子さんだったの!?

 

「えーっと……それはどなた、でしょうか……? 俺は天貝――」

「その顔、かつての如月と――如月秦戉とよく似ておる。一目見て気付かなんだは、儂の落ち度か……」

 

 あ、なんだか天貝隊長の気配が強くなりました。

 総隊長はもう完全に確信しているみたいですね。否定しようとする天貝隊長の言葉を遮って、なんだか遠い目になっています。

 

「偽名を名乗ってまで近づこうとする以上、お主の狙いは獏爻刀(ばっこうとう)であろう?」

「……ッ!!」

 

 あ! 一気に天貝隊長の殺気が膨れ上がりました。このままではマズいわね!

 

「元柳斎ィッ!!」

「ま、待ちなさい!!」

 

 天貝隊長が刀に手を掛けようとするのが見えました。

 その動きに先んじて動き、彼を背後から羽交い締めにします。さらに首の後ろを両手で押し曲げてやりました。

 いわゆる、レスリングのフルネルソンの状態で動きを封じます。

 

「動かないで! 動くと首の骨を折ります!!」

「くっ……! 放せ、放せ女ぁっ! 俺は……俺は……ッ!!」

 

 両手にはそこまで力を入れていませんが、羽交い締めで腕の動きだけはしっかり封じています。なので抜刀はなんとか防ぎました。

 ついでに「下手に動くとこのまま頸骨をへし折るぞ」と脅しを掛けて、物理的にも心理的にも動きを封じます。

 

『……ああっ! 藍俚(あいり)殿藍俚(あいり)殿! 交代、交代でござるよ! 拙者に同じ技を……! 同じ技を掛けて下されッ!! 後生でござるからああぁぁっ!!』

 

 なに? 急にどうしたの??

 

『背中から、背中からおっぱいをぎゅーっと拙者も押しつけられたいでござるよ!!』

 

 ……そう。

 

「俺の親父を殺した貴様を……ッ!! 親父の仇を……!!」

「は……!?」

 

 今、なんて言いましたか? 親父の仇って、まさか総隊長がですか!?

 それに総隊長は総隊長で、また獏爻刀(ばっこうとう)って言ってるし!

 

「ど、どういうことですか総隊長!! 天貝隊長と獏爻刀(ばっこうとう)に、一体なんの関係が!? それに、仇って一体……!?」

 

 私も獏爻刀(ばっこうとう)については調べ直しました。

 

 霞大路(かすみおおじ)家という上流貴族がいます。

 この家は昔から儀典などに使う宝剣を打つお役目を持つ、有名な家でした。

 ですがあるとき、この宝剣鋳造の技術を悪用して獏爻刀(ばっこうとう)という刀を作ろうとしました。

 研究を進めることで犠牲者を何人も出したため、護廷十三隊も本腰を入れて調査をしようとしました。

 

 ですが、そこに待ったを掛けたのが当時の四十六室です。

 霞大路家は、儀典用の武器を打つというお役目があることから治外法権的な立場を持っており、四十六室としても強い態度が取れなかったとのこと。

 

 最終的には、四十六室の命令によって霞大路家は獏爻刀(ばっこうとう)の製造を禁じられ、同時に死神には霞大路家への手出しが禁止されました。

 両成敗で決着が付いたから、これからは遺恨なく仲良くやっていきましょうね。

 という幕引きになったそうです。

 

 ざっと調べ直したところ、背景はこんな感じでした。

 ですが……こんなの、隠れて研究を続けてるに決まってるじゃない!

 

 続いて肝心の獏爻刀(ばっこうとう)の性能についてですが。

 どうやら持ち主の霊圧を吸い取って強くなる武器だったようです。

 しかも誰が持っても同じ能力を発揮するという、いわゆる"斬魄刀ガチャ"は無し。

 持ち手が強ければ強い程、さらに強くなる武器――という代物らしいです。

 ただ、最終的には剣が持ち主を食い殺してしまうという欠点もあったようで……

 

『いわゆる「ちょっと昔のマンガに出てくる意識を持って持ち主に寄生する武器や鎧」のイメージでござるよ!!』

 

 びっくりした! 急に出てこないでよ!!

 

 ……まさか射干玉も私を食い殺して乗っ取ろうとかしてないわよね?

 

『それが狙いなら、もうとっくにやってるでござるよ? 拙者と言葉が通じなかったあの頃など、まさに狙い目でござる!!』

 

 そういえばそうね。

 

『あの頃の藍俚(あいり)殿は本当に初々しくて可愛らしかったのに……』

 

 い、いいでしょ別に! 私だって成長するのよ!!

 

「仇、か……なるほど、それは無理もないことじゃな……」

「総隊長!?」

 

 自分だけで納得しないで! 説明を、説明をして!!

 天貝隊長がもの凄い勢いで暴れてるから、押さえ込むのが大変なのよ!!

 

「確かに、お主の父を……如月秦戉を斬ったのは儂じゃ」

「認めたな元柳斎!! 霞大路家と繋がった貴様を殺すために! 親父の仇を取るために俺は――」

「じゃが、ヤツは獏爻刀(ばっこうとう)に操られておった」

「――何!?」

 

 あ、動きが一瞬だけ止まりました。

 でも本当に一瞬だけです。すぐまた大暴れが始まりました。

 

「ふざけるな! この期に及んで何をぬかす……!! そんなデタラメ、俺が信じると思っているのか!!」

「嘘ではない。そもそも儂は霞大路家と繋がっておらぬ。全ては貴様の勘違いよ」

「勘違いだと! まだそんなことを口にするのか! 俺は調べたんだ! あの時に何があったのか、その真相を! そして確信した!! 貴様が霞大路家と結託して邪魔になった親父を殺したのだと!!」

 

 あの、総隊長? 申し訳ないんですが、言うならズバリ正解を言ってもらえません!?

 結構押さえ込むのも大変なんですよ!

 天貝隊長って凄く力があって、油断したら一瞬で振りほどかれそうで――危ないっ! 遠征部隊あがりは鍛え方が違うわね……!

 

「その真相は、事実ではない」

「ならば何が事実だ! 答えてみろ!!」

「……四十六室の命により霞大路家への検分が不可能となった折り、自ら潜入捜査を志願したのが如月であったのだ」

「な……なにっ!」

 

 あ、今度こそ動きが止まりました。

 

「じゃがそれは危険すぎた。既に四十六室によって霞大路家への手出しは禁じられておったからな。発覚すれば、秘密裏に消されることは想像に難くない。運良く逃げ延びたとしても、四十六室の命を破ったことで厳罰は免れぬ。如月とて、それは理解しておった……全て理解した上で、志願したのじゃ」

「う、嘘だ……! 俺が調べたのは……!」

「そこからはお主にも想像が付くじゃろう? 如月の潜入は発覚し、獏爻刀(ばっこうとう)の実験台とされた。命令した者を――儂を殺すように命じられてな。儂には如月を救うことはできなかった……出来たのは、彼奴を獏爻刀(ばっこうとう)の呪縛から解放してやることだけじゃった……介錯、でな……」

「…………」

 

 天貝隊長の全身から力が抜けました。

 糸の切れた人形のようになっており、私が羽交い締めしてなかったら座り込んでいましたね。

 

「極秘裏に獏爻刀(ばっこうとう)の研究を続けていた霞大路家。極秘裏に霞大路家へと潜入した護廷十三隊。どちらも四十六室の命に背いておったのじゃ。そのためこの件は公には出来ず、表向きには関係を修復させた……いや、させる他になかったと言うべきか……」

 

 えーと……つまり……

 

 非常に高度な政治的判断によって、手出しが出来なくなった組織があります。

 部下が違法な潜入捜査をしていたら、バレて洗脳されて逆襲されました。

 なので泣く泣く斬りました。

 その部下には息子がいます。

 息子は独自調査で勘違いして、総隊長を父の仇と思い込みました。

 総隊長と霞大路家が繋がっていると思いました。

 どっちも復讐しなきゃ!

 

 ……いやいやいやちょっと!!

 そこは当時の時点で霞大路家を全力で潰さなきゃ駄目でしょう!? 四十六室も治外法権とか言ってる場合じゃありませんってば!!

 総隊長も家族くらいには真実を伝えてあげてよ! なんか、こう……あるでしょう!? こっそり伝える方法の一つや二つ!!

 

『しかし藍俚(あいり)殿、空気でござるな』

 

 空気にならざるを得ないわよこんなの! 私、全然関わってないんだもの!! ずーっと天貝隊長を羽交い締めにしてるだけよ私!!

 

「馬鹿な……ならば、あの言葉は……死の間際の"獏爻刀(ばっこうとう)に気をつけろ"という言葉は……」

「そんな言葉を残しておったか……おそらくは、息子のお主に自分と同じ轍を踏ませたくないと、忠告の言葉だったのじゃろうな……」

 

 最期の言葉がまた意味深ね……

 そりゃあ、息子さんも変に勘ぐって調べちゃうわよ……

 

 ――っていうか、なにこれ?

 

 引き出しを開けたらすっごいエピソードが出てきたんだけど……まさかこんな話を聞かされる事になるとは思わなかったわ……

 上手く転がせば、半年くらいはこのネタで引っ張れそう。

 

『なかなかお目が高いでござるな!』

 

 え!? 本当に!? 本当に半年引っ張ったの!?

 全然記憶にないんだけど……!? 何巻!? 何巻の話!?

 

 というか、天貝隊長が就任してからまだ二日よ!? 就任二日目の朝なのよ!? 盛大なネタバレがされてるわよ!? どうやってこれを半年も引っ張ったの!?

 

「湯川よ、もうよい。放してやれ」

「え……い、いいんですか?」

「構わぬ」

 

 まあ、心ここにあらずというか、もの凄く脱力してますから。放した途端に襲いかかるということもないでしょうね。

 総隊長の言葉通り、それでも一応ゆっくりと拘束を解きました。

 

「さて、天貝――いや如月と呼ぶべきか? これが、あの事件の真相よ。誓って嘘は口にしておらぬ。じゃが、お主が信じられなければ……構わぬ。儂を斬れ」

「総隊長!?」

「どちらにせよ、こやつの父を斬ったのは儂じゃ。そして、如月の死を今日この日まで無駄にし続けておったのもな……」

 

 まあ、確かに。

 天貝隊長の立場からすれば「真相を知っていたなら、なんとか動けよ! その貴族の家が全部悪いんだろ!!」って思わなくもないですから。

 

 ……いや、でも駄目ですって!! まだ藍染が残ってますよ!? 藍染相手の準備の真っ最中なんですよ!?

 ここで斬り殺されちゃ駄目でしょう!!

 

「じゃが、まだ命まではやれぬ。反逆者、藍染惣右介らの対処が残っておるのでな。それが終われば改めて斬りに来い」

 

 あ、よかった。

 その場のノリと勢いで「殺せ!」って言ってるのかと思ったわ。

 

「いえ、俺に……俺にそんな資格は、ありません……」

 

 天貝隊長は、腰からゆっくりと刀――じゃないわねコレ。

 斬魄刀とはまた別で腰に差していた剣……? 音叉のような形をした剣を引き抜くと、執務机の上に置きました。

 

「これは、俺が手にした獏爻刀(ばっこうとう)です……」

「お主……!」

「俺は、霞大路家へ接触していました。総隊長を殺すために、獏爻刀(ばっこうとう)の力を得て……実力をつけるため遠征隊に参加して……昨日の件も、俺が仕組んだことです。隊士たちの信頼を手っ取り早く得るために……」

 

 神妙な表情を浮かべながら、ポツリポツリと告白を始めました。

 今までの勘違いから推察するに――

 

 間違った真相にたどり着いたから、総隊長と霞大路家に復讐するぞと決意した。

 復讐のために、父の仇である剣の力に手を染めた。

 何か大規模な計画を予定していて、その計画で総隊長も殺そうとしていた。

 

 でも、私が気付いて総隊長に進言してしまった。

 呼び出されて本名までバレたので「こりゃもう無理だ」と悟った。

 自暴自棄でせめて一太刀でも! というところで衝撃の真相が明らかに!!

 打ちのめされて「刑事さん、俺がやりました……」と自白する。

 

 ――というところ?

 

 ……でも、総隊長に勝てるの?

 斬魄刀も強いし、そもそも霊圧だけでも化け物クラスよ?

 復讐計画には、総隊長を弱らせる手段も織り込んでいたのかしら?

 

「儂の言葉を、信じたということか……?」

「……はい」

「貴様を謀ろうとしているとは思わなかったのか?」

「この状況で、俺を騙す理由がありませんよ……」

「そうか……」

 

 邪魔になったら消せば良いものね、お父さんみたいに。

 反逆者として始末すれば一瞬で済む話なのに、それをしなかったということで総隊長の言葉を信じたみたいです。

 

「俺は、駄目な男ですね……勘違いで、総隊長を殺そうと考えていました……いや、護廷十三隊そのものを利用する腹づもりでした……親父を見殺しにした組織も、霞大路家も、全て報いを受ければ良いと思っていた……挙げ句、親父の仇である力に手を染めて……それが全部空回りで……俺は、何をやってたんでしょうか……」

 

 あらら、すっごい自己嫌悪しているわね……

 無理もないでしょうけれど。

 

「総隊長……」

「む?」

「真実を……教えて戴き、ありがとうございました!」

 

 そう告げると一瞬で斬魄刀を抜き、そのまま自らの喉を貫こうとしました。

 

「いかん!」

「駄目ッ!! ……くっ!」

 

 ですがなんとか、間に合いました。切っ先を掴んで刀の動きを止めます。

 当然素手で掴みました。なので当然、手が斬れました。血が滴り落ちて床に赤い染みが出来ました。

 痛い、凄く痛い……これは骨まで食い込んでいるパターンの痛みね!!

 

「な、何をしている! 手を放せ! その指、切り落とされたいか!!」

「やれるものならやってみなさい!!」

 

 は? 指を切り落とす? そのくらい、とっくに経験済みよ!

 その後の治療まで含めて、もう何百回もやったわよ!!

 なんだったら腕も脚もイケるわよ!?

 

藍俚(あいり)殿は経験豊富でござるなぁ……』

 

「なぜ止める!? 俺にはもはや、生きる資格など……」

 

 あらら、私の前でそんなこと言っちゃいますか?

 

「ふざけないで! 死ぬ!? この私の前で、自害出来るものならやってみなさい! 百回死のうが千回死のうが、絶対に蘇生させてやるから覚悟しなさい!!」

「え……あ……?」

「それに何より! あなたはまだ何もやってないでしょうが! 総隊長に真実を教えて貰ったんでしょう!? だったら今度こそ、ちゃんと正しく復讐しなさい!! 悲観して自害するなんて千年早いわよ!!」

 

 そこまで叫ぶと、天貝隊長は戸惑ったような驚いたような、そんな表情を浮かべます。

 

「…………ぷ、くくく……はははは……あーっはっはっは!! 正しく復讐、か……確かに、そうだな……その通りだ……考えてみりゃ、俺はまだ何もやっちゃいない……死んでる場合じゃなかった」

 

 憑き物が落ちたような顔で笑いながら、彼は斬魄刀から力を抜きました。

 それを確認して、私も手を放します。

 

 うわ……予想通り深い傷……

 

「総隊長、申し訳ありませんでした……早まった真似を……」

「うむ、そうじゃな……如月よ。長い間打ち明けてやれず、本当にすまなかった。そしてお主のその力、今度こそ護廷十三隊の為に役立ててくれるか? かつての如月のように……」

 

 虫の良い話じゃが――と、最後に総隊長はぽつりと付け足しました。

 

「勿論です! ただ、俺の名前は天貝でいいです。如月よりそっちで呼ばれる方が、もうずっと長くなっていますので……」

「む、そうか」

 

 本名よりも偽名を名乗る方が長い人生、ですか……

 その裏には色々と複雑で壮大なドラマがありそうね……

 

藍俚(あいり)殿も大体同じ立場でござるよ?』

 

 ……そういえばそうだった! 私、偽名みたいなものだわ!!

 

「では改めて伝えよう。天貝よ、長きに渡る遠征任務……並びに、霞大路家への極秘裏の潜入調査の任、誠にご苦労であった」

「え……?」

「お主の証言に加え、獏爻刀(ばっこうとう)の現物も手に入った。これだけの証拠があれば、霞大路家を――いや、雲井(くもい)尭覚(ぎょうかく)を処断することも容易かろう」

 

 あー……そういうことですか。

 天貝隊長がやったことをぜーんぶ、秘密の任務だったことにしちゃいましたね。

 任務だから、お仕事だから仕方ないの。だから責任も処罰も一切無し。

 

 まあ、計画は立てていたようだけどまだ何もやってないから問題なし。

 護廷十三隊としてもせっかく新隊長を決めたのに、ここで突然失うわけにもいかないでしょうからね。

 色々ひっくるめて、手柄と相殺でトントンってことで。

 大人ってズルいわよね。

 

 というか、なんだか知らない名前が出てきましたよ?

 雲井(くもい)尭覚(ぎょうかく)って誰?

 話の流れからすると、多分黒幕――霞大路家で悪さをしていた人物でしょうね。

 

「総隊長……ありがとう、ございます……」

 

 同じタイミングで天貝隊長も気付いたみたいですね。

 ゆっくりと頭を下げました。目に、うっすらと涙を浮かべながら。

 

「……礼ならば儂ではなく、湯川に言ってやれ。お主と如月が似ていることに真っ先に気付いたのは此奴よ。儂は言われて漸く、お主が如月の倅だと気付けた……湯川がおらねば、お主とこうして話し合うことも出来ずに、お互い誤った道を歩んでおったじゃろう……」

「そうですか……湯川隊長、ありがとうございました!」

「いえ、そんな……! 私は何にもしてませんよ」

 

 さっきよりも深々とお辞儀をされました。

 いや、私は本当に何にもしてませんよ? 会話シーンだけでなんだか重要そうな事件が解決しちゃったのよ?

 

「そういえばさっき……! 手、手は大丈夫ですか!?」

「え? ああ、あの程度の傷なら平気ですから――」

「平気なわけないでしょう!! ちょっと見せて下さい!」

 

 強引に手を取られました。

 そのまま彼は私の手をじーっと見つめます。

 でももう傷はありませんよ。だってとっくに治療済みですから。

 あるのは血痕くらいです。

 

「これは、傷が……あっ! そういえば四番隊でしたね」

「ええ、そういうことです。言ったじゃないですか、千回死のうと蘇生させるって」

「あははは……そういえば言われましたね。こりゃ死ねそうにはないな……せめて、血だけでも拭かせてください」

 

 懐紙を取り出すと、私の手を握りながらゆっくりと拭いてくれます。

 本質的には良い人なんでしょうね。

 

「あなたのような人が、遠征部隊にいてくれたらどれだけよかったか……」

 

 え……? 遠征部隊に参加……!?

 それは御免だわ……! マッサージが出来なくなっちゃう……!!

 

『ですが、男性死神に囲まれる毎日でござるよ? きっとモテモテでござる!! 面子は固定ですがな!!』

 

 工業高校に進学した女子高生みたいな感じかしらね?

 

『オタサーの姫という可能性も……』

 

 でも蓋を開けたら、救急箱扱いが関の山でしょうね。

 衛生兵みたいに、きっと色んなお世話をすることになるんだわ。

 

『男性隊士たちに色んなお世話をすることについて詳しく!!』

 

「……そうだ、忘れるところでした! 総隊長、獏爻刀(ばっこうとう)ですが俺以外にもう一人、手にした死神がいます……いや、計画のために俺が与えた、と言うべきなんですけど……」

「なに!? して、その者の名は?」

貴船(きぶね)です。ウチの隊の」

 

 また新しい名前が出てきましたが、今度は一応知ってる名前です。

 貴船(きぶね) (まこと)と言って、天貝隊長の遠征部隊に所属していたそうで、そのまま引き抜いて三番隊の三席に任命したとのこと。

 名前だけで、容姿とか人柄とかについては全然知りませんけどね。

 

 口ぶりから察するに、部下も復讐計画に巻き込んでいたということですか。

 

「貴船の分も回収してきます。証拠は多い方が良いでしょう?」

「そうか、わかった。じゃがこの後、緊急の隊首会を行うのでな。あまり時間は掛けぬように」

「勿論です。すぐに戻ってきますよ」

 

 緊急隊首会……

 隊長を集めて霞大路家を急襲するんですね、わかります。

 

「それで、あの、湯川隊長」

「はい?」

 

 一人納得していたら、声を掛けられました。

 

「すみませんが、一緒に来て貰えます?」

 

 ……なんで?

 

 

 

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 なんで……?

 

 疑問に答えてくれる者もなく、そのまま一緒に三番隊まで来てしまいました。

 

「あ、お疲れ様です隊長。ところで総隊長に呼ばれたとのことでしたが、何の用だったんですか?」

「貴船か、ちょうどよかった。お前に用事があるんだ」

 

 天貝隊長を出迎えたのは見たこともない死神――いや、見たことあるわね。たしか、治療したことがあったはず。

 これが貴船(きぶね) (まこと)ですね。

 肩くらいまでの髪を後ろに撫でつけていて、アンダーリムが特徴的な眼鏡をしています。二枚目で、一見すれば柔和そうに思えるんだけど、その裏でどこか冷酷そうな気配がうっすら透けて見え隠れしているっていうか……

 多分だけど、コイツ絶対性格悪いわよ。

 

「私に用事、ですか……? 一体何でしょう?」

獏爻刀(ばっこうとう)を返せ」

「……ッ!」

 

 あらら、どストレートな物言い。

 言われた方も一瞬で顔が青くなりました。

 

「もう一度言うぞ、獏爻刀(ばっこうとう)を返すんだ。今ならば、なかったことにできる。俺からも総隊長に釈明してやれる! 計画は全て中止だ! あれは使うもんじゃない! 俺が間違っていたんだ!」

「……ふ、ふざけるな!」

 

 と思えば一瞬で激怒して、斬魄刀を抜きました。

 その騒動に、三番隊の隊士の子たちが集まってきます。

 

「今更何を言う! これは俺の物だ! 俺の獏爻刀(ばっこうとう)だ!! これが俺の力だ!! 荒れ狂え! 烈風(れっぷう)!!」

「なっ!!」

「貴船三席!! 一体なにを……!?」

 

 隊長に向けて刀を向けてますし、一人称も俺になって口調も荒々しくなりました。そのあまりの豹変具合に、周囲にいた子たちが驚いています。

 極めつけに、始解です。

 手にした刀は一瞬にして形状が変わり、身の丈ほどもある双頭槍へと変わりました。 

 

 もはや逃げ切ることは不可能、けど獏爻刀(ばっこうとう)を手放したくない。ならば目の前の相手を倒してでも!! みたいな思考かしらね?

 破れかぶれの行動なんでしょうけど、でもいくら何でも短絡的すぎる。

 

「仕方ない……だが、これは俺の責任だ。せめて命だけは助かるようにしてやる……! 断ち切れ! 雷火(らいか)!!」

 

 負けじと天貝隊長も始解です。

 こちらは形状こそ刀のままですが、切っ先が鉤爪のように弧を描いています。柄には貝殻のようなナックルガードが増えているのも特徴ですかね。

 

「私も――」

「いえ、大丈夫です! 藍俚(あいり)さんは、そこで見ていて下さい!」

「わ、わかりました!」

 

 斬魄刀を抜こうとしたら、天貝隊長に止められました。

 まあ、部下ですからね。自分の手で介錯してあげたいんでしょう。

 私はしぶしぶ、柄に掛けた手を放します。

 

 その間に、貴船は動きました。手にした斬魄刀を――

 

「おおおっ!!」

「えっ!?」

 

 投げました!

 手にした斬魄刀――烈風を。あのでっかい槍を。

 まさかアレって、槍じゃなくてでっかいブーメランだったの!?

 

「無駄だッ!」

 

 投げつけられた烈風に対して天貝隊長は雷火を振るいます。

 二振りの斬魄刀が衝突し合い、けれど支えのない烈風は地に落ちる――はずでした。

 

「無駄? はははははっ!! それはこっちの台詞だ!!」

 

 ですが予想を裏切り、烈風は地に落ちることなくそのまま空中へと飛び上がり、再び天貝隊長へと襲いかかりました。

 

「どうだ! 俺の力は!! これがあれば俺は誰にも負けない! 隊長に……いや、総隊長にだって上り詰められる! 全ての死神が俺の力の前にひれ伏すんだ!! ひゃはははははははっ!!」

 

 持ち手の意思で自在に飛び回り、攻撃を行える。

 おそらくこれが、烈風の能力なんでしょう。

 なんだかもの凄く小物っぽい発言をしているのが気になりますが……

 と思っていると――

 

「うわ! な、なんだアレ!?」

「き、貴船三席……?」

「化け物だあぁっ!?」

 

 ギャラリーの隊士たちから悲鳴が上がりました。

 彼らの視線の先は皆、貴船の左手に注がれています。

 見れば、彼の左手が何か別の生物に寄生されたように変貌していました。肩の辺りには巨大な目玉がギョロリと蠢くその姿は、貴船の容姿と相まって悍ましいですね。

 

「まさか、アレが!?」

「ええ、アレは獏爻刀(ばっこうとう)――その核です!」

「核!? 核って一体……いえ、それよりも私も援護に――」

「平気ですよ!」

 

 平気そうには見えないんだけど大丈夫!?

 絶対、ヤバイ生物よアレ!!

 

 ……いや私、もっとヤバイ生物知ってる。

 

『マユリ殿でござるかな?』

 

 うん……そうね……そうよね、射干玉……

 

「貴船……なんだかんだ、お前とは長い付き合いだ。できれば助けてやりたかった。同じ隊の仲間として、肩を並べたかったよ……」

「何を世迷い事を――」

「ウオオオオッッ!!」

 

 迫り来る烈風に向けて、天貝隊長は全力で斬魄刀を振り下ろします。

 その強烈な一撃は、烈風を真っ二つに断ち切りました。

 

「ぐあああっっ! く、だが……まだ……」

「……もういい、寝ていろ」

「が……っ!」

 

 斬魄刀を破壊された途端、貴船が苦しみました。というか、左手のナマモノもなんだか苦しそうに蠢いています。

 そこへ追い打ちで柄で殴りつけることで、貴船の意識を刈り取ってみせました。

 ついでに宿主が意識を失ったおかげか、ナマモノもすっかり大人しくなりましたね。先ほどの寄生侵食っぷりが嘘のように、普通の左腕に戻っています。

 

「さて……コイツだな」

 

 天貝隊長は貴船の身体をまさぐったかと思えば、そこから何かを毟り取りました。

 それは肉塊に目玉が付いたようなようなナニカ。しかも生きているようで、手の中にあってもまだ弱々しく鼓動しています。

 

「な、なんですかそれ……?」

「これが、獏爻刀(ばっこうとう)の核です。これがなければ、もう機能はしません」

「核……?」

「コレを寄生させることで、獏爻刀(ばっこうとう)は効果を発揮するんです。貴船は己の斬魄刀に寄生させていたんですよ」

 

 えーと、つまり……このナマモノが本体!?

 しかも斬魄刀に寄生させるって……

 

 あれ? 宝剣を打つ技術を悪用したとか言ってなかったっけ……?

 刀鍛冶って極めるとこんなバイオテクノロジーの極北みたいなことできるの!?

 

『錬金術師だって極めれば、何でもぶっとばす爆弾とか究極の回復アイテムとか作り出すでござるよ?』

 

 うにー……

 ……たーるっ♪

 なるほど。専門職って凄いのね……

 

「寄生させていた……? じゃあ、烈風って……?」

「ああ、本来の烈風は投げるだけです。自在に操っていたのは、獏爻刀(ばっこうとう)の力によるものですね」

 

 本当にブーメランだった!!

 

「そ、それは凄いですね……」

「ははは、でしょう? ちなみに俺が持っていた物には、斬魄刀の力を封じる効果もあるんですよ。ま、もう使いませんけどね」

「え……ええっ!?」

 

 なるほど、そんな能力があれば総隊長に勝てるって思うわけだわ。

 下手したら、そんな武器が量産されるかもしれなかった……

 ……割とピンチだったんじゃ?

 

「さて、用事は済みましたし。戻りましょうか、藍俚(あいり)さん」

「え、あの……せめて三番隊の子たちに説明と指示はしましょうよ!」

「あ……そういえば、そうですね」

 

 この後、三番隊には「貴船は禁制品に手を染めていたので、処罰した。後々沙汰があるから、捕らえて隊舎牢に入れておけ」という説明をしておきました。

 

 ……ってあら?

 

 いつの間にか私、名前で呼ばれてるわね?

 




山本が天貝の正体に気付いていたのかが、未だに分からない。
ラストシーンの言動を見ると、気付いてなかった感がある。
でも気付いた上で黙ってて、天貝を優遇してたような描写もあって……

●天貝の本名
明かされていないので、勝手に命名しました。
父親の「秦戉」から1文字を、偽名の「繍助」から1文字を。
それぞれ取って「如月 繍戉(しゅうえつ)」と命名。
(もう出ない名前)

●獏爻刀(ばっこうとう)
アニオリ話の天貝繍助編に登場する刀。
霞大路家という貴族が造った。端的に言うと禁忌で危険が危ない武器。
刀に持ち手の霊圧を食わせて力を発揮する。
が、やりすぎると持ち手が武器に食われて消える。
(いわゆる「人に寄生して力を発揮する武器」の定型な認識で問題ナシ)

剣から触手みたいなのが生えて所持者と同化する形で所持者となる。
武器を媒介とした寄生生物と考えるのが、一番正しい認識かもしれない。

利点として、誰が持っても同じ能力を発揮できる。
(斬魄刀ガチャでハズレ能力に悩まされることはない)
当然、霊圧が強い者が持つ方が能力もより強くなる。

天貝は「死神の力を抑える」能力の獏爻刀を持っていた。
これは(アニオリとはいえ)流刃若火を封じるくらい、やべー性能。

●貴船 理(きぶね まこと)
天貝の遠征部隊に所属しており、引き抜かれて三番隊の三席に任命した。
見た目は眼鏡を掛けた真面目そうな男。
実際、部下に優しくて人の話を良く聞いて、隊士たちの人望を集めていた。

が、それは仮の姿。
本性は冷酷で、役に立たない者や邪魔者を容赦なく切り捨てる。
自分は優秀だから活躍するのが当たり前、周囲は自分の踏み台。みたいな考えを持っていたので、四十六室に危険視されて遠征部隊に飛ばされた。
(遠征部隊に飛ばされたことで、その考えがさらにねじ曲がった模様)
獏爻刀を得たことで、さらに増長する。
狡猾に立ち回ることで三番隊で絶大な信頼を得るが、最終的に吉良に倒される。

担当声優は緑川光さん。
なので、CVグリリバの裏切りそうなキャラを想像すると大体イメージ通り。

(性格的に拗らせすぎてて、更生は無理と判断したので退場です)
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