お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第192話 切り札の一枚くらい切っておけ

「まだまだ暑いわねぇ……」

 

 九月に入ったとはいえ、高温多湿がなんとも気持ち悪くて。

 行儀が悪いと分かっていても思わず制服の襟元をこう、パタパタと扇いでしまいます。

 

『谷間が! 谷間が見えてるでござるよ!! こんなの道行く男の視線を独り占めでござる!! 拙者はいつでも凝視しておりますが!!』

 

 そう……

 いいかげん暑くって、反応する気も起こらないわ……

 

 前回浦原商店で発注をしましたが、注文を終えてもまだ時間は持て余しています。

 そろそろおやつの時間、といったところでしょうか?

 

 暑いし……このまま帰ってクーラーの効いた部屋でのんびりしたいんだけど……

 

「やっぱり……顔は出しておくべきよね……」

 

 手紙、出しちゃったんだけどなぁ……こんな機会が得られるなんて、思ってもいなかったから……

 でもこういうタイミングなら、顔は出しておくべきよね。

 

『イクでござるか!? イっちゃうでござるか!?』

 

 行きましょう! リサたちの所に行って、ちょっと激励してくるわ!!

 

『おおーっ!! 久方ぶりの登場でござるよ!!』

 

 でもそのまえに、ちょっとコンビニにでも寄りましょう。

 何か冷たい物でも飲まなきゃやってられないわ! あ、あと手土産も必要よね! コンビニのお菓子も美味しいんだけれど、やっぱりちゃんとした洋菓子店じゃないと先方に失礼だから――

 

藍俚(あいり)殿のお気遣いが発動でござる!!』

 

 って、あら? アレって……!?

 

 

 

 

 

 

「あったあった、ここね」

 

 コンビニで飲み物を買って一息ついてから、色々と手土産も買いました。

 その後、空座町全体の霊圧を探ることしばし。

 

 ようやく見つけました。

 本当にもう……こんな厄介な結界張ってくれちゃって!! 意識や認識から逸らすってどういう結界よ!!

 お土産の保冷剤が溶けるところだったわよ!! この時期は食べ物が痛みやすいんだから!!

 ケチらずに「二時間分でお願いします」って注文しておくべきだったわね……

 

『保冷剤マシマシでお願いするでござる!! ドライアイスだったら後で水に漬けて遊ぶでござる! ジェル状だったら冷凍庫で入れておいて再利用でござるよ!! 熱が出たらおでこに当てるでござる!!』

 

 でも確かこの場所って、なんだかんだで織姫さんが探し当てていたし。

 頑張ればなんとか見つかるものね。

 さて次はこの結界を――壊しちゃマズいわよね? ということは、すり抜ける?

 ……できるかしら……?

 

 ……あ、案外いけそう!

 術式に(ホロウ)の要素が入っているから、だったらここから逆算して……ここで死神の鬼道をアレンジしてるわね。ということは……あ、これ違うわね。こっちが起点なの!? うわぁ、最初っから計算し直しじゃない……!!

 

 ふう、ようやく通れたわ。

 本当にもう……こんな厄介な結界張ってくれちゃって!! 保冷剤がもう限界よ!!

 

『二度目でござるよ!! 藍俚(あいり)殿、テンドンは三回までOKでござる!!』

 

 もうやらないから! 三回目なんて絶対に御免よ!!

 まだあったら次からは全力で破壊してやるんだから!!

 

 苦労して結界を通り抜けて、倉庫みたいな建物の中へ。

 中に入ったところ、何やら地下から霊圧が漂ってきていたので、さらに階段を下ります。

 ……なんで倉庫の中にこんな階段あるの!?

 

 その先には――

 

「師匠おおおぉぉっっ!! お久しぶりです!!」

「あら、リサ。久しぶりね、元気にしてた?」

 

 霊圧を感じ取ったようで、リサが飛びついてきました。

 両手が塞がっているものの、なんとか彼女を受け止めます。

 

「そのセーラー服、似合ってるわね。ドキドキしちゃう」

「師匠もそのブレザー……すごくお似合いです!」

「お、オイあれって……」

「湯川だよな……四番隊副隊長の……」

「そりゃリサが飛び出すわけだね。仲良くしてたのを覚えているよ」

「あー! あいりんだー!!」

 

 そんな私とリサのやり取りを、四名ほどが遠巻きに見ていました。

 どれも懐かしい顔ですね。

 

 ……というか、久南副隊長も私のことを"あいりん"って呼んでたのね。

 

『もうすっかり、やちる殿しか浮かばないでござるな!!』

 

「愛川隊長、六車隊長、鳳橋隊長、久南副隊長も。皆さん、お久しぶりです」

「あの、ワタシは……?」

「有昭田副鬼道長も、お元気そうで。これ差し入れです。皆さんでどうぞ」

「ア、これはご丁寧にどうも」

 

 危ない危ない、忘れる所だったわ。

 誤魔化しながら、彼に手土産を渡します。

 

「やったー! あいりんのお菓子だー!! ねえねえ、何作ってきてくれたの!?」

「あ、ごめんなさい。今回はお店で買ってきたヤツなの」

「ええーっ! あ、でもお店のも美味しいよね! ハッちん、お茶いれてお茶!!」

「はいデス」

「あ、このお店のケーキなの!? これ美味しいよねーっ!」

「待て待て待て待てェッ!! おかしいだろ!! なんで普通にケーキ食おうとしてんだよ!!」

 

 六車隊長の渾身のツッコミが入りました。

 

「ぶー、拳西はそういうところがダメなんだよ!! あ、何か雑誌も入ってるよ? えっと……ジャンプ?」

「何ッ!? けど今週号ならもう読んだぞ?」

「ちょっと待ったラブ! 今週号、あんな表紙だったっけ?」

「いや、違うぞ。表紙が違う……先週号でもない……まさか、来週号だと……!? 馬鹿な、今日は土曜日だぞ!?」

「たまたま立ち寄った個人商店で売ってたんで、つい買っちゃいました。よかったら差し上げますよ」

「本当か!? 湯川、ゆっくりしていけ」

 

 愛川隊長が優しく微笑んでくれました

 

 ……よかったわ。誰かがジャンプを読んでたのだけは覚えてたのよね。

 あの時、道ばたでジャンプを後生大事に抱えている子供を見かけて本当にラッキーだったわ。

 

「なんの騒ぎや!? ……って、あああっ!!」

「お、なんだ湯川さんか」

「なんやなんや……って、藍俚(あいり)ちゃんかい!!」

 

 訓練をしていたであろう一護たちも、騒ぎに気付いてやって来ました。

 

「死神が何しにきたんや!」

藍俚(あいり)ちゃん、ホンマもう勘弁してや……俺、一護に話を聞いたときからイッパイイッパイやねんて……」

「黒崎君、修行はどう? 進んでる?」

「え? あ、まあなんとか。湯川さんの手紙のおかげってところかな?」

「みなさん、お茶が入りマシタ」

「わーいケーキ!!」

「甘いモンだからな、コーヒーはねえのか?」

「――って、お前ら全員やかましいわボケェェッ!!!!」

 

 猿柿副隊長、渾身のツッコミ。

 流石に静かになりました。

 

『収集がつかないでござるよコレ……』

 

「ハッチ、お前の結界が張ってあったちゃうんか!? なんで入ってきとんねん!! そんでお前らは何で受け入れとんねん!! コイツ死神やぞ!! 最後に湯川ぁ! お前、なんでここに来とんねん!! よーノコノコと顔出せたなぁ!! ここで会ったが百年目や!! 覚悟しい!!」

「いや、だって師匠やし」

「結界をすり抜けられたのは驚きマシタガ、知っている霊圧でしたノデ」

「ケーキ持ってきてくれたし」

「ジャンプ買ってきてくれたし」

「せっかく現世に来て時間もあったので、激励に来ました」

「はあ!? 激励!? 何ぬかしとんねん!!」

「……ねえ真子、ヒヨリはなんであんなに怒ってるんだい?」

「あー、ローズは知らんかったか? 藍俚(あいり)ちゃん、桐生サンに気に入られ取ったからな。それが好かんらしいで。もう随分昔のコトやのにホンマいつまでもガキみたいに……」

 

『胸が小さいと、心も狭いでござるよ』

 

 射干玉、それは言っちゃダメ――

 

「誰が胸も心も小さいやと!?」

 

 ――!?

 

『――!?』

 

「ひよ里、そんなん誰も言うてへんぞ?」

「あれ? 誰や知らんが確かに言うとった……まあ、そんなことはどうでもええねん!」

 

 ぬ、射干玉の声が聞こえたのかしら……?

 

「激励!? そんなんいらんわ!」

「まあまあ、猿柿副隊長も落ち着いて下さい」

「誰が副隊長や! うちらはもう死神とちゃう!! なのになんでまだ副隊長とか付けとんねん!!」

「そーそー! ひよりんはひよりんだし、拳西は拳西って呼んで良いんだよ!」

「オイ(ましろ)、なんで今俺の名前を出した? てかお前はもっと敬え!」

「なら、そう呼ばせてもらうわね。ひよ里さん、同じ藍染を敵とする者同士、協力は出来ると思うんだけど? (ホロウ)化だって、自ら望んで手に入れたわけじゃないでしょう? 今の尸魂界(ソウルソサエティ)なら、受け入れる土壌は十分にあるわよ?」

「はっ! (ホロウ)化のこと何も知らんやつが……いや、ちょい待ち……オマエ、たしか……」

 

 追い払おうとしたところで、気付いたみたいですね。

 ひよ里さんの目つきが真剣なものになりました。

 

「正解です。私も(ホロウ)化できますよ。なので、正解したひよ里さんにはコレを差し上げましょう」

「なんやこれ?」

「私の飲みかけのカフェオレ」

「いるかボケぇっ!! ゴミの処理押しつけただけかい!!」

 

 ペットボトルを手渡すと、思いっきり地面に叩き付けられました。

 あ、衝撃で潰れて蓋が開いて中身が……

 

「まだ半分くらい入ってたのに。食べ物を粗末にすると、罰があたるわよ?」

「やれるもんならやってみい! シバくぞコラ!!」

「……言ったわね? もう取り消しは不可能よ」

「ッ!!」

 

 少し殺気を放てば、ひよ里さんが大慌てで距離を取りました。

 背負った斬魄刀の柄に手を掛けて戦闘準備が完了しているのは流石ですね。

 私はその動きを義魂丸を口にしつつ見ていました。

 死神の姿に戻り、義骸に待避するように命じてから、続きを口にします。

 

「私、藍染惣右介とは少し戦った事があるの。結果はまあ、上手く利用されたってところなんだけどね」

「それが……どないしたんや……?」

「……つまり、私に勝てないようじゃ藍染を倒すなんて夢のまた夢。激励に来たっていうのは、少し稽古を付けに来たってことでもあるの。有昭田さん、結界をお願いできますか? うーんと分厚いのを」

「はいデス」

 

 私とひよ里さんを囲むようにして結界が張られました。

 ……頼んだ私が言うのもなんだけど、素直に従ってくれるのね。

 

「それじゃあ、まずは論より証拠……(ホロウ)化」

 

 顔の前に手を翳して(ホロウ)化します。

 仮面を被った途端、結界の外から歓声が上がりました。

 

「なんや、ホンマにできるんかい……」

「しかも見たかいあの速度? ボクらよりも洗練されてるよ」

「つまりは俺たちよりも力を使いこなせているってことか……」

「ねーあいりーん! それ、どうやって覚えたの?」

 

 (ましろ)さんってば、なんて直球な質問かしら。

 まあでも、気になるわよね。

 周囲の男たちが「よく聞いた!」みたいな表情をしてるもの。

 

「昔ちょっと、親友を助けたときに(ホロウ)に喰われてね。ただ、おおっぴらに言えるものじゃなかったら、ずっと黙っていたの。ごめんね」

「師匠……けど、そういう理由ならしょうがないやん……」

「ありがと、リサ」

 

 真の理由はハリベルさんのおっぱい揉むため、なんて言えないからね。

 ごめんねリサ。あとで感想教えてあげるから!

 

「あ、そうそう黒崎君?」

「……なんだ?」

「確か破面(アランカル)と戦ったのよね? だったら知ってると思うけれど……もう一歩、先があるの。今日は君は見学だけになると思うけれど、よーく覚えておいて」

「な、何をする気だよ……?」

 

 結界越しとはいえ、ただならぬ雰囲気を感じ取ったんでしょうね。

 黒崎君が息を呑みました。

 良い勘してるわ。

 

「……刀剣解放(レスレクシオン)墨染奈落(ネグロ・パンターノ)

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「な……んや、その姿……は……」

 

 喉の奥から、ひよ里は声を絞り出した。

 それは幼い子供のように頼りなく、震えた声だった。

 

 (ホロウ)化については、自分たちこそが熟知しているとい自負していただけに、その根底を覆されたときの衝撃は尋常ではなかったようだ。

 未知の物に対する恐怖、というものだ。

 

 湯川藍俚(あいり)(ホロウ)化できるということは、仲間を通して知っていた。

 実際に見たのは今この瞬間が初めてだったが、台形を基調とした不細工な仮面を見たときには驚きつつも同時に「この程度か」と思ったほどだ。

 

 だが、これは何だ? こんなものは知らない。こんな姿があるのか? こんな姿になれるものなのか!? どうやって知った!? どうやって()った!?

 

 箱を被ったような不細工な面は、いつの間にか獣を思わせる意匠へと変わっていた。

 身体にも面と同じく体毛のような物が生えており、狐や狼などに代表される獰猛な獣が二足歩行をすれば、きっとこのような感じだろう。

 

 一護は、今の彼女の姿を狛村左陣の親戚のようなものかと一瞬だけ考え、そしてすぐに否定した。

 似ているのは形だけだ。

 彼の隊長は、ここまで禍々しくはない。

 決して、ここまで圧倒的ではない。

 

 ではこれは何だ? これは誰だ?

 一護の身体の奥底が、ぞくりと反応した。

 それは恐怖からか、それともまた別の感情からか。

 

「なにって……(ホロウ)化の先、とでも言うのかしらね? 破面(アランカル)帰刃(レスレクシオン)で本来の姿を取り戻すでしょう? これも似たようなものよ」

「に、似たようなもの……だと……」

「全然ちゃうやん……」

「なるほど……彼女の(ホロウ)化が洗練されていると感じた理由が、今ならよく分かるよ……」

(ホロウ)化どころの騒ぎじゃねえぞ、これ……!」

「う、うあぁ……」

 

 結界の外にいても、なおその霊圧に圧倒されているのだろう。

 ケーキに齧りついていた(ましろ)ですら動きを止め、変貌した藍俚(あいり)の姿から目を離せずにいた。

 

「な、なめんなや! うちらかて――」

「遅い」

「――ッ!!」

 

 斬魄刀を抜いて斬り掛かろうとするひよ里よりも先に、藍俚(あいり)は動いた。

 抜刀しかけた手を掴んで止め、同時に片足で蹴り飛ばす。

 防御はおろか悲鳴を上げることすら忘れ、ひよ里の身体は吹き飛んでいった。

 

「が……あが……っ……!!」

 

 飛ばされた先でようやく苦痛の声が上がる。

 それを藍俚(あいり)は、ひよ里を見下ろしながら耳にしていた。

 なんということはない。吹き飛ばしながら、彼女を追って移動しただけだ。

 

「お、恐ろしいデス……」

 

 結界を維持しながら、有昭田が呟く。

 藍俚(あいり)が少し動いただけで、結界全体がビリビリと震えていた。術者である彼には、それが手に取るように分かった。

 張った結界は、(ホロウ)化の内在闘争用にも使う強固な代物だ。

 容易には突破不可能であるはずのそれが、動いただけで震える。ならば本気で暴れれば、果たして結界は何時まで保つのか。

 今更ながら藍俚(あいり)が「うんと分厚いのを」と頼んだ理由――その真意を悟り、彼は結界の維持に全力を尽くすことを決めた。

 

(ホロウ)化はどうしたの? 使わないの?」

「う、あ……」

「回復はいる? その傷を完治させて――」

 

 途中で言葉を切り、藍俚(あいり)は動く。

 その場所を少し遅れて、巨大な槍が通り過ぎて行った。

 

「良い攻撃ね、リサ」

「おおきに、師匠」

 

 少しだけ視線を動かせば、(ホロウ)化したリサの姿があった。

 攻撃を避けられたのを気にすることもなく、再び構え直すと油断なく藍俚(あいり)を見つめる。

 

「リサ!? オマエ、なにしとんねん!!」

「何って、稽古やん! 師匠も言うとったやろ!!」

 

 真子の言葉を怒鳴り返しながら、リサは藍俚(あいり)へ攻撃を仕掛ける。

 

「こない格上と手合わせできる機会、そうそうないわ! そんならこの場は、精一杯利用したる! 師匠の期待におもいっきり応えたるわ!!」

「――ッ!!」

「嬉しいわ。リサは本当に良い子……ねッ!」

 

 感謝の意を口にしつつ、藍俚(あいり)は徒手の一撃を放つ。

 

「えええいっ!!」

 

 だがその一撃を、躍り込んできた(ましろ)が蹴り飛ばして防ぐ。

 彼女も既に(ホロウ)化しており、やる気は満点だ。

 

「もう一発!」

「それは甘い」

 

 続く攻撃を放とうとするが、その一撃まで藍俚(あいり)は許さなかった。

 

「うえっ、尻尾ぉっ!? そんなの聞いてないよ!!」

「言ってないからね」

 

 尾の一撃ではたき落とされつつも、(ましろ)はどうにか着地する。

 

 伊達や酔狂で獣のような姿へと変貌したわけではない。

 姿が変わるのは、それだけの理由があるのだ。

 分厚い毛皮は攻撃を防ぐ役目があり、その気になれば――未だ用いてはいないが――手足の爪による攻撃も出来る。

 それでいて人型が基本のため、刀を操ることも鬼道を放つこともできる。

 知恵を持つ猛獣――今の藍俚(あいり)は見た目にそぐわぬ怪物といえる。

 

「ならその尻尾、切り落としてでも! 断地風(たちかぜ)!」

天狗丸(てんぐまる)!」

「く……っ……! ふふ、いいですよ。その調子」

 

 拳西とラブの連携攻撃を、藍俚(あいり)は身を捻って躱す。

 (ホロウ)化状態の二人の連携攻撃に、思わぬ苦戦を強いられることとなった。

 思わず腰に差したままの斬魄刀を抜こうとしたが、その腕に黄金色の鞭が巻き付いた。

 

「させないよ、金沙羅(きんしゃら)

「力比べですか? ……ふんっ!」

「うわっ! え、ちょっと……!?」

 

 ならばと藍俚(あいり)が腕を引けば、まるで一本釣りのようにローズの身体が飛び上がった。

 そこへ追撃を仕掛けようとしたところで違和感を感じ、彼女は動きを止める。

 

「はーい、そこまでやで藍俚(あいり)ちゃん」

 

 真子の声が聞こえてきた。

 反射的にその方向へと視線を向けたが、誰もいない。驚き反対の方を向けば、そこでようやく奇妙な刀を手にする真子の姿を目視できた。

 

「これは……? 感覚が……?」

藍俚(あいり)ちゃんには教えたことなかったやろ? これが俺の斬魄刀、逆撫(さかなで)や」

 

 柄尻に大きな輪が付いた刀を真子は見せつけるように回す。

 途端、藍俚(あいり)の視界――その天地が逆になった。

 

「どや? 逆様の世界も中々オモロイやろ?」

「視角情報を逆に……いえ、さっきの感じなら音も!?」

「流石に鋭いなぁ、そういうこっちゃ」

 

 真子はニヤリと笑いながら頷く。

 

「上下左右前後まで逆、見えてる方向も逆。音の聞こえる方向も逆やし、しかもこの能力は自由に切り替え可能や。慣れてきた思たところで、急に認識が正常になったら? どや、どんだけ強いヤツかて、まともに戦えるわけないわな」

「なるほど……それが藍染への対策ってわけね……」

 

 感心したように呟きながら、藍俚(あいり)は両手を上げる。

 

「そういうこっちゃ。頭ン中で何が逆かをイチイチ考えて戦い続けるなんて、どんな達人かて不可能や」

「でも、私が戦った藍染惣右介ならこのくらいは対応してくるわよ? それにこの能力だって無敵じゃない。例えば……こんなのはどうかしら?」

 

 両手に霊圧を集束させ終えると、なぎ払うように動かした。

 

虚閃(セロ)

「うおおおおぉぉっ!?」

「ぎゃあああああ!!」

「し、死ぬ……!!」

「結界が……結界が、壊れそ……うデス……!!」

 

 やったことは、周囲を無作為に攻撃しただけだ。

 光線のように延びる虚閃(セロ)の奔流が有象無象の区別無く周囲を破壊していく。結界が無ければ、この一帯が吹き飛んでいただろう。

 

「な……なんちゅーことすんねん!!」

「身体の動かし方までは変わらないし、細かい場所は分からなくても近くにはいる。だったら、周囲全てを面攻撃してしまえば絶対に当たる」

「そら、そうやけど……」

「だったら、対策の一つも考えておかないと。総隊長の斬魄刀みたいに周囲一帯を灼熱地獄にされなかっただけでも有り難いと思ってね」

 

 ギリリと思わず奥歯を噛みしめる真子であったが、だが内心どこかで藍俚(あいり)の言葉に納得していた。

 無差別攻撃のことはともかくとして、藍染が対応してくるかもしれないという言葉に異様な説得力を感じていたのだ。

 百年前のあの日、自らの前に現れた藍染惣右介の姿を――あの暗い瞳を思い出し、その言葉を否定できなかった。

 

「ありえへんことが、ありえへん……ちゅうコトか……」

 

 何か対策の一つや二つでも講じておくべきかと、真子は密かに決意する。

 

「あらら、ラブさんにローズさん。(ホロウ)化が解けてますよ? まだまだ稽古の時間はたっぷりありますから」

「ちょ、止めろ! 来るな!!」

「さっきの虚閃(セロ)を避けられませんでしたか? 怪我もしているみたいですから……大丈夫、ちゃんと治します。治してから、また修行をしましょうね。でも――」

「ええ加減にせい!」

 

 ようやく復活したのか、完全に不意打ちの形でひよ里が斬り掛かるが、藍俚(あいり)はその攻撃をほとんど見ることなく掴み取って止めた。

 

「まずはひよ里さんの治療からですね。大丈夫、この姿でも回道は使えますから」

「ちょ、やめろ! 回復すんなや!」

「どうせなら、マッサージもしておきますか? もう少しは色っぽくなりますよ?」

「ぎゃあああああああぁぁっ!! なに人の胸を揉んどんねん!!」

 

 アッという間に回復させたかと思えば、さらにはジャージの裾から手を突っ込んで胸まで揉む藍俚(あいり)

 やりたい放題のその光景は、どこか未来の姿を予感させるものでもあった。

 藍染惣右介相手にはどれだけ準備を重ねても、足らないということはあってもやり過ぎという言葉には遠く及ばないのではないか、と。

 

「おらあああぁっ!!」

 

 そんな予感が頭を過った途端、真子は動き出していた。 

 (ホロウ)化しつつ、藍俚(あいり)へと斬り掛かる。

 

「バカ真子! なんや、うちのこと助けたつもりか!?」

「ええやんけ! 藍俚(あいり)ちゃん、俺らを心配して来てくれたんやろ!? せやったらこっちもトコトン、ケツの毛まで毟り取るつもりで利用したるわ!!」

「ええ、そういうことです。全力で来て下さい! 怪我の心配は、するだけ無駄ですよ!!」

 

 藍俚(あいり)の仮面、その奥の瞳が爛々と輝いた。

 

「いくで! 鉄漿蜻蛉(はぐろとんぼ)!」

「うちかてやったらぁっ! 馘大蛇(くびきりおろち)

 

 真子の熱が伝播したように、リサたちもまた藍俚(あいり)へと挑んでいく。

 

 

 

「くそっ……! 俺はまだ、あそこには至れてねぇってことかよ……」

 

 ただ一人、一護だけはその光景を見ていた。

 参加できぬ苛立ちを感じつつ、ほんの一瞬も見逃さずに己の糧としてやろうと目を見開きながら。

 

「いや……俺も、俺だって……! 少しくらいは!!」

 

 有昭田に結界を開けて貰い、一護もまた激戦区へと飛び込んでいった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ふう、我ながら良い仕事をしたわ。

 しかしまさか、一護まで乱入してくるとは思わなかったわね。ちゃんと「待っててね」って言ったはずなのに。

 高校生じゃ、我慢なんて出来ないのかしら……?

 

 ……そういえば高校生で思い出したけれど、織姫さんたちの修行について桃たちから相談を受けていたわね。

 どうせならこの場所、借りられないかしら?

 

 全員分の食事を桃たちが作ります――とか言えば、無碍にはしないだろうし……桃たちだって、私が事前に紹介しておけば変に喧嘩することも無いでしょう。

 

『四番隊の料理は美味しいと評判でござるからなぁ!! 実際、ここの皆様は食事などは当番制でござるよ! あとお弁当買ってきてるシーンとかもあったので、美味しいご飯ならほぼ間違いなく釣れるはずでござる!!』

 

 訓練相手には事欠かないだろうし……よし! 頼んでみましょう!

 

「でもそれは……みんなが立ち上がってからよね……」

 

 精魂全て尽き果てて、死屍累々と横たわる仮面の軍勢(ヴァイザード)の皆さんの姿を見ながら、私は「やり過ぎ注意」という言葉を胸に刻んだのでした。

 

 ……あ、有昭田さんは結界の維持だけで倒れました。

 




●墨染奈落(ネグロ・パンターノ)
藍俚(あいり)の刀剣解放。
(それぞれ「ネグロ:黒」「パンターノ:沼」という意味。皆で一緒に、射干玉ちゃんの深淵に沈もうね)

解放時の姿は、狐や狼・ジャッカルなどを連想させる獣人系の姿になる。
狛村隊長とお揃いだよ、やったね。これでケモノプレイができるよ。

それぞれの姿はZガンダムのバウンド・ドックがイメージだったりします。
虚化の姿:箱を被ったような面(MA形態(モノアイ周りだけ)
解放の姿:獣人な感じで、ケモノっぽい毛皮を纏う(MS形態

●少年ジャンプが土曜日に売っている
昔はそういうのがあったみたいですね。
個人商店とかが、こっそり早く売ってしまう。

現代だとコンプラ的な問題でアウトですよねきっと。

●あいりん
呼び方が、(ましろ)とやちるで被ってることに今気付い……

違います、ネタだから。ふ、伏線だから。
藍染編片付いたら、お菓子で餌付けされた二人が張り合う予定だから。

●入れようとして入れられなかったネタ
(義魂丸を飲んで死神に戻って、義骸に命令する藍俚(あいり)のシーンより)

「危ないから離れていてね」
「了解でござるよ!!」
 ……え!? ぬ、射干玉……!?!?
『なんでござるか?』
 あれ、いるわね……? え、じゃあコレなに……?
 義魂ってこういう性格だったっけ……?
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