「くすん……くすん……」
「せ、千本桜よ……その、すまぬ……」
千本桜、泣いてます。
面頬を付けているので表情までは分かりませんが、なんというかこう……雰囲気で泣いてるってわかります。
しかし全身鎧を纏った若武者が泣いている姿って……なんだか不気味ですね。
白哉もどうしたものかと、オロオロしています。
千本桜たちの醜態が伝播したようで、死神たちも斬魄刀たちも「どうしたものだろうか……?」と唖然としています。
……そして
「なんというか……その……名については次の機会があった時に一考を……」
「本当ですか!?」
あ、復活した。
「ありがとうございます! その言葉を聞ければ百人力……いや千人力!!」
千本桜だけに?
「俺は今このときより、再び共に歩みとうございます!」
「あ、ああ……」
「ということだ。村正よ、短い間だが世話になったな。だがもうお前には協力できぬ」
「ちょっと待てえええぇぇっ!!」
誰かが猛烈にツッコミ入れたわ。
多分、斬魄刀側よね……真っ黒な姿の死神みたいな格好だけど誰かしら……?
『
あ、そうよね。
西洋風の死神っていえば良いのかしら? ローブみたいな格好で小さな鎌を持ってる――あ! あの鎌ってまさか!?
『命を刈り取る形をしているでござる!!』
あれ風死なのね……
――ということで、風死がツッコミを入れました。
「お前それでいいのか!?」
「何か問題でもあるのか? 俺の不満はそこだけだ! 他に不満などない!」
ある意味で潔いというか、空気が読めない天然ボケというか……
「そして、次に産まれてくる子供に"桜"の文字を付けて下さると我が主は約束してくれたのだ!!」
「ちょ……! ま、待て千本桜!! そのような約束はしておらぬ……!! その、子供というのは授かり物でな……どれだけ望んでも、出来ぬ時には出来ぬ物で……」
「第二子には俺の始解を見せながら『お前の名は、この美しい桜から名付けたのだ』と語って下さると約束してくれた!!」
「――いや、待て……それは聞いていないぞ……!? そもそも約束も……」
「斬魄刀にとってこれに勝る喜びは無い!! ならば、お前たちと肩を並べる意味も無いと言うことだ!!」
「…………」
自信満々に言い放つ千本桜と、モゴモゴと口ごもる白哉……なんだけど、どうして白哉は最後に私を見たのかしら? 助け船でも出して欲しいの?
緋真さんならいつでも二人目イケるから心配いらないわよ? 頑張って二人目を作ってあげなさいな。
朽木家としても、直系の跡継ぎは多い方が良いでしょう? どっかの志波の分家なんて三人も子供作ってるのよ?
だからもう諦めなさい。
――それはそれとして。
「あの……千本桜? ちょっとだけ良いかしら?」
「む! そなたは湯川殿!! 主がお世話になっております」
「は、はい。こちらこそお世話になっております。あと、名前の件はごめんなさい……」
「いえ、もう済んだことです。お気になさらずに」
流石は白哉の斬魄刀よね、礼儀正しいわ。
でもなんだか違うような……
「して、俺に何か?」
「たしか斬魄刀は村正の能力で洗脳されている筈……よね……? あなたはもう平気なの?」
「はい、もうまったく。元々、村正の真の目的を耳にした頃に半分ほど目覚めていたようなものです。そして主が約束してくださいましたので、今はなんともありません」
……なるほど、確かに。
元々、不満を煽られて反抗するように仕向けられたわけだから、不満が無くなれば正気に戻るのも道理よね……
……道理なんだけど、なんだか素直に喜べないっていうか……
『過程が過程でござりますからなぁ! もう少しドラマチックさやヒロイックな感じが欲しかったでござるよ!!』
本当にね……そこは全面的に同意するわ。
「ぶ、無事に正気に戻れて良かったわね……創作物でよくある試練みたいに『持ち主が斬魄刀を打ち倒してみせろ』みたいなのが必要かと心配してたのよ……」
「流石のご慧眼ですね。その通りです」
……ん? 今、なんだか凄い大事なことを言ったような……?
「さあ! お前たちも目を覚ませ!! 各々不満は大小あれど、主と共に生きたいという心は嘘ではないはずだ!! この千本桜に続け!!」
「いや……」
「だが……」
「えーと……」
「袖……いえ、これは少し不自然。となればやはり、白か雪ですね……」
聞き返すよりも先に、千本桜が勝手に音頭を取り出しました。
他の斬魄刀たちは全員がソワソワしてます。
……約一名、もの凄くソワソワしている斬魄刀がいます。
純白の着物に色素の薄い銀髪という雪女を彷彿とさせる美しい女性。
おそらく彼女は――
「ルキア様! お子様には白か雪の文字を是非!」
「なっ!! そっ、袖白雪!? お主、突然何を……!?!?」
――やっぱり、ルキアさんのところの相方でしたか。
しかもこの反応……千本桜にすっかり毒されてるわね。
義兄妹の持つ斬魄刀同士だから、仲も良いのかしら……?
「良いではありませんか! 千本桜殿という前例もあります。ならば、
「い、いやその……しかしだな……! こ、子供というのは……さ、授かり物……コウノトリが……」
ルキアさん? 今の時代にコウノトリが運んでくるのは無理があるわよ?
『では
……大豆を煮立ててにがりと混ぜて固めると出来るのよ。
『なるほど、ではさっそく……なん、だと……何故豆腐が!? コレは一体……!?』
「だいたいルキア様はもっと前に出て行って活躍するべきです! あなたの力は
そこまで言うと袖白雪は、一瞬だけ視線を動かしました。
「――相手がアレですから、自分からもっと目立つくらいで丁度よろしいかと。いえ、ルキア様の選んだのであれば文句は言いませんが、やはりアレですから……」
「「ちょっと待てコラあああぁぁっ!!」」
二人分の抗議の声が上がりました。
一人は赤い髪に蛇の尻尾を生やした少年。
もう一人は、阿散井君に負けない長身の女性でした。
腰より長く伸びた髪と全身を覆う緑色の毛皮がなんとも目立ちます。しかも彼女、胸元からおヘソに掛けては毛で覆われていないので、大きな胸元や谷間が丸見えというとってもエッチな格好です。
……あ、胸元にホクロがある! すっごくエッチだわ……!!
それと二人は、互いの身体を鎖で繋ぎ合っています。
反応や姿形から察するに、この二人って多分――
「確かにウチの主は弱いけどよ! お前に言われたくはねえんだよ!! なあ、猿の?」
「うむ、蛇のの言う事には賛成だ。ヘタレであることには全面的に同意するが、それを他の者に言われるのは業腹じゃな」
「オイコラ蛇尾丸!! テメーら言うに事欠いてご主人様に何てこと言いやがんだ!!」
――やっぱり蛇尾丸だったのね。
……あれ? 鎖で繋がれているとはいえ、なんで二人いるの?
まさか蛇尾丸も、京楽隊長とかと同じタイプの斬魄刀の可能性が……!?
「はあ!? まったく、何が"ご主人様"じゃ……お主がそのような情けない死神だから、儂らもいい加減腹を立てたというのに……」
「そーそー! オイラたちに頼ってばっかりだし!」
「テメエら……遺言はそれでいいんだな……?」
「ハッ、おっもしれーの。やってみな!!」
「ぶっ飛ばーーすっ!!」
あっちでは喧嘩が始まりました。
……蛇尾丸、結構強いわね。
運動能力が高いし、サルとヘビで斬魄刀を瞬時に持ち換え可能って地味にエグい。とおもったら今度は鎖を使ってヘビを直接投げてるし……
阿散井君、苦戦してるわ……でも本気の殺気じゃないから止めなくていいわね。
気が済むまでやらせておきましょう。
他の斬魄刀たちも、袖白雪と蛇尾丸に影響されてか、色々悩み始めてます。
そもそも千本桜の言葉を信じれば、ほぼ洗脳解除されてるようなものみたいだし。
「あー……ところで村正くん、ウチのお花とお狂はどうしたんだい? いや、無事でいてくれればいいんだけどさ……」
と思っていると、京楽隊長が村正へと詰め寄りました。
いつも通りの飄々とした表情――いえ、ちょっと違いますね。
怒気です。
穏やかな表情の下には、底冷えする程の怒りが込められています。それを見た更木副隊長が思わずニヤリとするほどの。
「……ッ!」
「もしも害していたならば……僕は君を絶対に許せなくなっちゃうよ」
固められたままの村正――彼の鼻先に斬魄刀を突きつけつつ、冷たい声が響きます。
そのまま数秒ほどの時間が流れ、彼は切っ先を下ろしました。
「だから、教えてくれない? それにほら、君の目論見はもうバレちゃったんだから。ここからの巻き返しは難しい、なら意固地になることもないでしょ? 僕たちからも山じいに頼んでみるし、封印されて結構な時間が経っているんだ。案外、その響河くんも過去の行いを反省して改心しているかもしれないよ?」
「響河……そう、だろうか……?」
説得にどこか心惹かれるものがあったようで、村正がぽつりと零しました。
「もしそうだったら、是非ともその響河くんにも手伝って貰いたいんだよね」
「京楽!? お前……!」
「堅いこと言いなさんなって、浮竹。響河くんはもう罰は十分受けた。なら、そろそろ許されても良い頃だ。それに藍染惣右介を相手にするには、切り札は何枚あったって足りないくらいさ。響河くんと村正くんの力があれば、もっと確実になるんじゃないかな?」
「確かに、鏡花水月に対する切り札となるだろうな……」
「だろう? 山じいだって賛成してくれるはずだよ。そんで上手く活躍できれば大手柄、過去の罪と相殺してもお釣りが来るだろうね」
あー、上手ですね。
相手の心を上手く突いて説得しています。
どうやら効果も抜群みたいで、村正の表情がちょっと穏やかになっています。
……でも、許して貰えるかしら……?
当時、響河はかなりの数の死神を斬ってたから……藍染を討ち取ってもキツいんじゃないかしらね……
『そうでございましたか? 拙者、あまり詳しくは覚えておりませぬが……』
射干玉も覚えてないの?
反乱分子の鎮圧に活躍してたんだけど、突然仲間を斬って投獄されたの。
しかも、どうやったのか不明だけど脱獄して、さらに罪を重ねていったのよ。捕縛に動いた死神まで次々に斬って……
どんなに軽くても無期懲役が精一杯だと思うんだけど……
今は説得中だから、そんなこと言えないけれど。
「手柄……それがあれば、皆が響河を認める……か……?」
「だろうね。もう一度、しっかりやり直そうよ」
「だが私は……私は……」
しばらくの間、葛藤するように歯を食いしばっていた村正でしたが、やがて諦めたように眉間を緩めました。
「……お前たちの推察通りだ。本来ならば山本元柳斎の記憶を読み取り、響河を封印から解放する予定だった……だが、ヤツは自ら結界を張り私の能力を拒んだ……結界を解く手段を探すための時間が必要だったのだ……斬魄刀を死神から解放するというのは、方便でしかない……」
「結界!? なら、元柳斎先生は……!?」
「我々が拠点としている洞窟、そこに封じている。お前たちの斬魄刀――花天狂骨、双魚理、肉雫唼を護衛に置いてな……」
「あら、肉雫唼もでしたか……見かけないから、何処に行ったのかと思えば……」
卯ノ花隊長……? のんびりしすぎてませんか……?
「……ん? ちょっと待った。なんでその三人の斬魄刀を選んだのかな?」
「強いからだ。長年隊長職を務める者の斬魄刀があれば、山本元柳斎が暴れたとて対抗できると考えた」
「それじゃ、
京楽隊長、それ聞いちゃいますか?
そろそろ全員にバラさなきゃ駄目かなぁ……
「当然、私もそう考えた。湯川
「そりゃまたどうして?」
「知らん」
分からないわよね、そりゃ……
それに操れなくて良かったと思うわよ? ヌルヌルテカテカのイケメンが出来上がってた可能性の方がよっぽど高いと思うから。
「てか、天貝隊長や更木副隊長なんかも大丈夫だよね? さっきの口ぶりから、天貝隊長と涅隊長は例のイケナイ刀の影響みたいだけど……二人はどうして?」
「さあな。興味もねえ」
「ふむ……剣八は分かりませんが、
「
「はぁ……まあ、仕方ありませんね」
どこかで申告する必要があるとは思ってましたけれど、まさかこんなタイミングとは。
肩を竦めつつ、
「なっ……!」
「ええっ……!?」
周囲の皆さんから口々に驚きの声が上がります。
まあ、そうなりますよ。
「随分昔、
「……ま、なんだ。見なかったことにしよう」
「浮竹!? お前がそんなこと言うなんて……ズルいな、そういうのは僕の役目だよ?」
「仕方ないだろう? なにより、湯川の事を問うのは今じゃない。元柳斎先生を助けてからゆっくり考えていこう」
「その力……その霊圧……」
私の
「その力があれば、山本元柳斎の結界を破壊できるかもしれん!」
「破壊……!?」
「ちょちょ、ちょいと待った! それは最後の手段ね。まずは僕たちで呼びかけてからにしようよ。ほら、乱暴な方法だとどんな影響が出るか分かんないし」
「……わかった。だが、口にした以上は山本元柳斎を絶対に目覚めさせろ」
「それは勿論。こっちにも都合ってものがあるから」
京楽隊長が頷きます。
「んじゃ、方針も決まったところで……村正くん。案内してもらえるかい? 君たちの拠点へ――山じいが捕まってるところまで、さ」
「お前も行くのか?」
「勿論。だってお花とお狂がいるんだよ? なら、僕が行かなきゃ誰がいくのさ」
「なるほど、確かに。俺も双魚理を迎えに行くか」
「私も行こう。朽木家も無関係ではないからな」
「当然、俺もお供します」
……これ、私も行かなきゃ駄目よね? 村正が「破壊できるかも」って言ってるし。
『万が一のためにも仕方ないでござるよ』
「つまり……もうここで斬り合いは起きねえってことだよな?」
「ええ、そうなりますね。私は肉雫唼を迎えに行きますが、剣八はどうします?」
「……帰って寝るわ」
「じゃーねー、みんなー! またあしたー!!」
戦いの気配がないことを察して、更木副隊長は帰っていきました。
本当に、マイペースなんだから。
「それじゃ、
「あ、すみません。今すぐにやります!」
「……てかもの凄い堅いんだけど……何コレ?」
コンコンと軽く叩いて硬度を確認してます。
……これ、思いっきり堅くしちゃったから、壊すのに時間掛かりそうだわ……
「――っしゃあ!! 俺の勝ちだ!!」
「「むぎゅううぅ……」」
「おおっ! いいぞ恋次!」
「まあ、そのくらいはしていただきませんと」
私が壁を解除しているその一方、阿散井君が斬魄刀相手に勝利していました。
●悩む者たち
??「梅……飛……やはり梅。桃だから梅……うん、合う」
??「侘は名前に使えないから……助で……」
??「雀でなんとか……うーん……」
??「凍……雲……うう……」
●洗脳解除
基本的には「持ち主が斬魄刀を倒して再度屈服させる」が解除条件でした。
ですが真相を知った斬魄刀が、村正に攻撃してるシーンがあったので。
つまり、騙されていたと自覚すれば大体解除されるのだと思います。
(なお最終的には、マユリ様が洗脳解除の技術を確立して全部解決させていた)
●ここまでの斬魄刀異聞録の流れ(原作)
封印された響河を助けようと、村正が山本を襲う。
響河封印の際の情報は全て破棄されており、山本以外は誰も知らない。
なので山本の記憶を読もうと(斬魄刀を介して記憶を読み取ろうと)したが、失敗。
山本は当時のことを知っているので、心を閉ざして結界を張る。
目覚めさせようとするが駄目だったので、ニセの反乱計画で時間を稼ぐ。
ルキア、必死で現世に行って一護に知らせる(一護らも参戦する)
紆余曲折あって死神たちは山本を見つけて結界を破壊する。
だが封印破壊こそが村正の目的だった。
(虚化した一護の月牙天衝を利用して結界を破壊した)
村正、覚醒した山本の記憶を読み取り、響河の封印を解きにいく。
(お茶会でコンロ代わりに使われてプンプンの流刃若火が敵に回る)