朝靄が周囲を白く染め上げて、どこか幻想的な雰囲気を漂わせています。数メートル先も見えない――とまではいいませんが、視界の悪い森。
そんな中を私と白哉、そして千本桜の三人は並んで歩きます。
「この街に、こんな場所があったのね……行楽で来ることが出来れば、気楽だったんだけど……」
周囲は林のように木が生い茂り、小動物や昆虫の気配がうっすらと感じ取れます。
さながら自然公園のような景観に、思わず感心して呟いてしまいました。
「もうしわけありません。元を正せば当家の問題だというのに……」
「いえいえ、気にしないで下さい。それよりほら、見えてきましたよ」
面目なさそうに瞳を伏せる白哉を励ましつつ、先を指さします。
先にあるのは大きな湖――その中心に浮かぶ小島が、目的地です。島には、狭い大地に不釣り合いなほどに幹の太い樹がそびえ立っていました。
「あの場所に、朽木響河が……」
「……そのようですね………」
ということで、総隊長からの命令通りに朽木響河の回収に来ました。
しかし……夜中に総隊長を救出したと思ったら、そのまま早朝に現世に行くことになるとか……忙しない話よね……
驚かされたのは、こんな広くて自然溢れる場所があったってこと……さっきも言ったけれど、ハイキングとかで来られたら楽しそう……
でも今はお仕事お仕事、さっさと終わらせて――って、あら……?
「あれ……あの小島……まさか……!?」
「……あの、何か?」
思わず目を擦り、二度三度瞬きをしてから再度凝視します。
……うん、やっぱりそうだわ。
「あの大木、結界ですね」
「あれが結界……!?」
「なん……だと……!」
白哉と千本桜が驚いていますが、私だって驚いています。
湖に浮かぶ小島、そこに生えた大樹そのものが幻影……まやかしです。
霊力の無い人間では疑問に思わないように、霊力がある者が触れてもそれと分からないような細工が施されているみたいですね。
こうして近寄って見ても、事前に知っていなければ気づけたかどうか……
幹に軽く手を当ててみたのですが、これはちょっと分かりませんね。流石は総隊長、といったところでしょうか。
「では、この大樹……いや、結界を……」
「朽木隊長、ここから先はお願いします。私は一応、周囲を見ておきますで」
「俺も警護に付こう」
「わかりました。そちらはお任せします」
白哉が少し緊張したような面持ちで大樹の前に立ちました。
空座町は重霊地なのに加えて、これだけ大きな結界を解除するわけですから、なにやら良くないモノが呼び寄せられる可能性も高いわけです。
「黒き天より来る……――封印の怨霊に……――太古より……――」
私と千本桜が周囲を警戒する中、白哉はゆっくりと詠唱を始めました。
やがて詠唱が終われば空間に無数の亀裂が走り、そして砕け散りました。
まるでガラスが割れたようにして大樹は姿を消し、代わりに黒い祠のような物がそこにはありました。
いえ、これは棺ですね。
人間三人は閉じ込められそうなほど大きな棺に、四本の槍が刺さっています。
「これが、封印……この中に、朽木響河が……」
白哉が複雑な視線を向けています。
まあ、お家の恥みたいな相手でもあるので、色々と思うところはありますよね。蒼純さんも銀嶺さんも苦労していましたから。
「朽木隊長、お気持ちは分かりますが堪えてください」
「あ、ああ……もうしわけありません」
「いえいえ。さあ、邪魔が入らないうちに運んでしまいましょう!」
遠くの方から
やって来た
『イモ山殿……頑張って下され!!』
え、そんな名前の隊士なんていたかしら……?
無事に封印の棺を持ち帰ることが出来た後は、急ピッチで作業が進みました。瞬く間に準備が終わり、朽木響河の解放の用意が整いました。
「響河……この時をどんなに待ちわびたか……感じる、響河の霊圧を……!!」
――双殛の丘。
先日村正に呼び出されたこの場所に、私たちは再び集まりました。
とはいえ今回はこちらが待ち受ける側。
周囲には既に結界を十重二十重に張り巡らせており、術者は全員が鬼道衆の中でも高位であったり、上位席官の中でも鬼道を得意とする者ばかり。
加えて万一にも結界を破壊された時に備えて、各隊の隊長や十一番隊の腕っこきがスタンバイ済みです。
そして結界の中にいるのは、まず当然のように村正。
続いて当事者なので総隊長と白哉が。
万一の荒事に備えて卯ノ花隊長。
最後に、回復役として私です。
……なんで……?
『ですが、そんな
卯ノ花隊長は、割と後ろに下げられていたのに……
『あの方は最前線で回復役をさせておいても、気がつくと斬魄刀を片手に戦場に躍り込むので仕方ないでござる!! 全員斬れば回復の手間も省けるって考えが根底でござるからな!! 扱いやすい
うう……今日も救急箱代わりの生活が始まるわ……
「では、始めるぞ。村正よ、準備は良いな?」
「ああ、いつでも構わない! 響河よ、ついに……ついに……」
「
そんな私の心情など知らず、残った封印が解除されました。
総隊長が開封詠唱を唱え上げれば棺を覆う枷や鎖が外れていき、続いて棺そのものが吹き飛びます。
刺さっていた四本の槍が地に刺さり砂煙が舞う中、朽木響河が姿を現しました。
「響河……!!」
村正が歓喜の声を上げますが……朽木響河、随分印象が変わりましたね……
長年の封印で肉体的に衰弱したらしく、肉体には骨と皮が目立つ――というよりも、まるで老人のような姿になっています。
しばらく瞳を伏せたままでしたが、やがてゆっくりと目を開けました。
「む……っ!」
「この霊圧……!」
目が開くと同時に、強烈な霊圧が吹き付けてきました。
これはまた、大した霊圧ですね。弱っていたとは思えないくらい強烈です。
具体的に言うと、十一番隊の隊長副隊長が目を爛々と輝かせるくらいに。
……更木副隊長? その結界壊して乱入とか絶対に駄目ですからね!
「響河……私はどれだけこの時を……いや、違う! 響河よ! やり直そう! あの時の私は……いや、我々は間違っていたのだ! 朽木銀嶺が語っていたように、耐えるべきだったのだ! 私はあの時の愚かさを教えられた! 死神たちは、愚かだった我々にこうしてやり直しの機会をくれたのだ!!」
「村……正……」
今にも抱きつかんばかりに近寄っていく村正。
そんなかつての相棒の声が届いたのでしょう。響河は低く呟くと――
「えっ!?」
「なんと……っ!?」
「貴様……っ!!」
「……あら」
――彼が手にしていたのは、半ばから折れた斬魄刀。それを村正の腹部へ深々と突き刺しました。
「が……ああぁ……っ!! な、なぜ……!? なぜだ……!」
腹を穿たれた痛みもあるでしょうが、それ以上に主に刺された事が何よりも衝撃的だったのでしょう。
今にも泣き出しそうな表情を浮かべて崩れ落ちかけながら、それでも村正は響河へ向けて懸命に手を伸ばしました。
「……お前、応えなかったろう?」
……? 何が?
「封印されそうになった時、お前を呼んだのに。お前は応えなかった」
「呼ん、だ……私、を……? その声は、届かなかった……嘘ではない! お前の声は無かった! 私は、お前に呼ばれるのをずっと……お前に呼ばれれば私は……いついかなるときだろうと……全身全霊……」
なんだか二人の間で食い違いが起きてますね。
「……やはり、か」
「朽木隊長、何かご存じで?」
「朽木響河封印の際、彼奴は確かに斬魄刀の名を呼んでおった。じゃが、どういうわけか村正は現れなかった。あの時に村正が加勢に来ておれば、はてさてどうなっていたことやら……」
「自分も祖父より、その時の話は聞いていました。村正を使えなかった。まるで、斬魄刀から見放されたようだったと……」
総隊長と白哉が補完してくれました。
なるほど、封印の際にそんなことがあったんですね。その時のことを響河は根に持っていた、と? ずーっと??
というか第一声がこれって、もう響河を仲間に引き込むとか無理よね……
「はっ! 俺が必要な時にいなきゃ、意味がねえんだよッ!!」
響河は斬魄刀を握る手に力を込めて――って、いい加減見ている場合じゃないわよね!!
「お前の力を呼んだのは、死神であるこの俺だ! お前は俺の言うとおりにさえ動いていれば、それでいいんだ!! それが言うに事欠いて、やりなおせだと!? 俺と対等――いや、俺の上に立ったつもりか!? 道具ごときが自惚れるな!!」
「ぐあああぁっ!!」
「村正!!」
刀を引き抜くと同時に村正を蹴り飛ばしました。
それを大急ぎで駆けつけ、受け止めます。くっ、刀を抜いたから出血が激しい……しかも条件が悪すぎるわよコレ……!!
「ん……? お前、どこかで……ああ、思い出した。あの時、四番隊にいたな」
「……覚えていてくださって、光栄です。知り合いの縁で、ついでに大人しく降伏していただけるとありがたいんですが」
「降伏……?」
私の言葉に視線を一周させると、響河は――
「よく見りゃ、大層なお出迎えの準備だな? 俺の復活を死神総出で祝ってくれてるってワケか!? ひゃははははははっ!! コイツはいい!! しかもだ! 山本元柳斎! まさかお前までいたとはな!! 俺を封印してくれた礼をしなきゃならねえな……!!」」
上機嫌に笑い出しました。まるで狂気を帯びたように。
「どうやら……長き年月を経ても反省することは無かったようじゃな……」
「ええ、仕方ありませんね。では、処分を……」
「ま、待て……まだ、私は……響河を……!」
「喋らないで!!」
総隊長と卯ノ花隊長がやる気を見せたのに反応して、村正が暴れ出します。
やめて! 今のあなたの状態は危険なんだから!! 怪我を忘れてでも説得を続けたいって気持ちはわかるけど!!
「朽木響河よ。過去に積み重ねた大罪。そして今、己が分身とも言うべき斬魄刀を切り捨てるという死神にあるまじき行為……その罪、重いと知れ! 卯ノ花、行くぞ!」
「無論」
「お待ち下さい!」
斬魄刀に手を掛けた二人の動きを遮るように、白哉が前に出て来ました。
「此度の出来事、元を正せば当家の問題。響河の相手、どうか私に」
「総隊長……どうなさいますか?」
「よかろう。銀嶺の苦悩、そなたの手でしかと晴らして見せよ! じゃが、苦戦と判断すれば儂らは躊躇うことなく手を出すぞ……それでよいな、卯ノ花?」
「まあ、仕方ありませんね……」
二人とも仕方ないといった様子で下がりました。
とはいえこれは仕方ないですよね。朽木家の恥ですから、朽木家の者が始末を付けたいというのもよく分かります。
……というか、白哉。その腹づもりならさっさと名乗り出ておきなさい。
総隊長と卯ノ花隊長がやる気になったら、響河も十秒持たないから。
「貴様、朽木家の者か……」
「朽木家二十八代当主、朽木白哉。響河よ……これに見覚えがあるか?」
そう言いながら白哉は懐から何かを取り出しました。
あれって、
上流貴族しか着用が許されない髪留めで、アレ一つでお屋敷が買えるほどお高い。
……でもアレ、どこかで見たような覚えがあるんだけど?
「我が祖父から貴様に贈られ、そして貴様が捨てた物だ……!!」
ああっ! だから見覚えがあったのね!!
以前、六番隊の三席だった頃の響河は髪の左側に牽星箝を付けていたっけ。
「それがどうかしたか?」
「伯母はお前が変わってしまったことを嘆き続けた……祖父はお前を正しく導けなかったことを悔いていた……朽木家の誇りを穢し、死神の誇りを穢し、自らの斬魄刀まで穢した……もはや看過出来ぬ! 貴様を斬る!!」
手にした牽星箝を強く握り締めながら、白哉は叫びました。
家族を、当時の朽木家に暗雲を齎した相手が許せないんでしょう。おそらくは銀嶺さんから「いざというときはお前が斬れ」程度のことは伝えられていたかもしれません。
「はっ! その傲岸不遜な物言い、間違いなく朽木家の者だな! だが、貴様程度が俺に勝てると思っているのか!?」
……仮に白哉を倒しても、このメンツに勝てるの?
総隊長も卯ノ花隊長も、勿論私も容赦しないわよ? 仮に勝ててもまだ更木剣八が控えてるのよ??
――っとと、いけないいけない。
あっちばっかり見ているわけにも行かないのよね。
こっちはこっちで暴れる村正を押さえつけながら、必死で治療に続けます。
「放せ、死神……! 私は、まだ……響河……!!」
「動かないで! ただでさえ斬魄刀の治療なんて経験が少ないことをやってるんだから!! ましてや
「……ッ! 死神、お前気付いて……」
「当たり前でしょう?」
村正の中には、
おそらく、主が不在の状態でも長時間活動するために
それが現在は逆効果になっているというか、なんというか……
傷とショックで今にも
ただ霊圧を垂れ流がすだけで済むのか、
「悪いんだけど、当初の約束通りに響河は処刑させてもらうわ。あなたもそれで納得したはずでしょう? 何より、今の響河はあなたを拒絶した……それでも声を届けようとするその姿勢はとても立派よ……」
「何故だ……どうして……もう、私の声は届かないのか……私はお前の声を聞くことができないのか……」
私の言葉が聞こえたのか、多少なりとも村正の動きが落ち着いてきました。
よかった、これで治療に専念出来そう――
「こんな不安定な刀など、もはや邪魔なだけ。貴様を殺すのは、俺の力だけで十分だ」
――と思ったら、響河が手にしていた斬魄刀を邪魔だとばかりに叩き折りました。
なにやってんの!?!? そんなことしたら……!!
「があああああぁぁっ!!!!」
「村正、しっかりして!! 総隊長、卯ノ花隊長! 砕けた斬魄刀をこちらに運べますか!? なんとか復元させてみます!!」
本体でもある斬魄刀を破壊されたことで、村正の暴走度合いが一気に高まりました。
いえこれは、今までで最も強烈な拒絶を受けた衝撃が引き金ですね。
霊圧がコントロール出来ず、今にも破裂してしまいそうなほどです。必死で押さえ込みますが、これは……一瞬も気が抜けそうにない……
「はっはっはっ! 苦しめ苦しめ! お前のような出来損ない、代わりはいくらでもいるんだよ!! それに復元だと? そんなこと、させるかよォ!!」
「愚かな……行くぞ、千本桜!!」
「御意!」
千本桜が斬魄刀へと戻り、白哉の手の中に収まりました。
一方の響河は、近くに突き刺さっていた封印の四槍――その一本を掴むと、迎え撃つように構えます。
「何のつもりだ?」
「言ったはずだ! 斬魄刀など不要、俺の力だけで十分なんだよ!!」
白哉と響河、二人の戦いが始まりました。
刀と槍というリーチの異なる武器同士の戦いですが、白哉にしてみればその差はあまり意味を持ちません。
なにしろ死神が持つ斬魄刀は千差万別、槍はおろか鎖付き鉄球や鞭剣なんて物にまで変わります。
リーチ差を物ともせずに斬り掛かる白哉に対して、使い慣れてはいないであろう槍で渡り合う響河を褒めるべきかもしれません。
刀と槍が高速で繰り出され、二人はめまぐるしく位置を変えながら、結界内を縦横無尽に飛び回り戦い続けています。
それは当人たちよりもむしろ、周囲で見ている後詰めの死神や結界を張っている者たちの方が圧倒される程の激戦でした。
これでは砕かれた村正の破片を拾いに行くのは難儀しますね。不可能ではありませんが、白哉の戦いの邪魔をしてしまう。
それが分かってしまうから二人とも手を出しあぐねており、私も催促はできませんでした。ただ、村正の霊圧を必死になって押さえつけ続けるだけです。
やがて――
「もらった!」
「いかん!」
白哉が響河の後ろを取った瞬間、総隊長が叫びます。
本来は決定打となるはずの背後からの一撃。
けれどもそれは相手の遙か手前で放たれ、むなしく空を斬りました。
空振りという大きな隙を突いて反撃しますが、白哉はそれを受け止めると一旦仕切り直しとばかりに距離を取ります。
「目測を間違えた……? それにしては様子がおかしいような……」
「あれは、響河の持つ能力だ……相手に霊圧を送り込み、その五感を狂わせることが出来る……その能力を持っているから、私が産まれたとも言えるだろう……」
卯ノ花隊長の疑問に村正が答えます。
そんな能力まであるのね……相手の五感を支配する……
逆撫や鏡花水月と似てるけれど、斬魄刀に頼らないのは便利よね。
……ちょっとだけ、練習してみようかな……
『
「村正ァ!! テメエはどこまで俺の邪魔をすれば済むんだッ!!
「縛道の八十一、断空」
アドバイスすら苛立つらしく、響河は無数の光線を放ち黙らせようとするものの、卯ノ花隊長が庇ってくれたおかげで無傷で済みました。
「チッ、まあいい……まずは朽木の当主、お前からだ! 既にお前の全身の感覚は俺の手の中。目の前にいる俺の姿すら、まともに認識することはできん! 尤も、銀嶺のように心を閉ざして戦えれば、この技は通用しなかったがな! 自らの未熟さを恨め!! フハハハハハッ!!」
「心を閉ざせぬのではない。心を閉ざさぬのだ」
「……ハァ!?」
「心を閉ざせば封印することは出来ても、倒すことは出来ぬ。私は心を開き、貴様を斬る!」
「この状況で良くもそんなことを……だったらやってみろォッ! もはやお前の目も耳も鼻も、全ては俺の思うがままだ!!」
心を閉ざすことなく戦い、勝利する。
その物言いが癪に障ったらしく、響河はもう一本の槍を手に取り二刀流――二槍流……?――で白哉に襲いかかります。
「主よ! 俺が目となり手足となって戦おう!」
「……千本桜!」
実体化した千本桜が僅かに顔を覗かせたかと思えば、始解しました。
刀身が無数の花弁のように分裂し、響河へと襲いかかります。
響河も五感を狂わせているのでしょうが、今は千本桜が戦っているためそれらは全て徒労でしかありません。
「……羨ましいな」
そんな戦いの最中、村正が呟きました。
ああ、なるほど。
本来ならば死神自身と斬魄刀、その両方をそれぞれが操ることで容易に打開出来たはずなのに、今はそれが出来ない。
死神と共に戦える千本桜の姿が、どうしようもなく羨ましいのでしょうね。
「チッ、邪魔だ!
「ぐ……ッ!?」
無数に舞い散る桜の花びらに業を煮やしたのでしょう。
冷気の渦を放つと千本桜と白哉もろとも氷漬けにしました。
「いいザマだな朽木の当主! 貰った――ぐおあっ!?」
動きを封じた所を確実に仕留めようと一歩、盛大にスッ転びました。
それも、戦闘中とは思えないほどに。
「な、なんだ……俺の足が……何故だ、何故動かん……ハッ!? これは……!!」
全く動かなくなった己の足を睨み付けていたかと思えば、やがて何かに気付いたかのように私のことを睨み付けると激怒しました。
「結構、簡単にできたわね」
「四番隊の!! テメエエエェェッ!!」
響河の操る五感支配の技術、つい使っちゃいました。
突然真似されて横やりまで入れられれば、そりゃ怒りますよね。
『……
だって、やっていることはいつもと大差ないんだもの。
回道で相手に霊圧を送って回復させる。
相手の霊圧を送り込んで五感を支配する。
どちらも基本は同じ。
これ多分四番隊の隊士なら、基本はすぐにマスターできるはずよ。
どこまで影響を及ぼせるかまでは、各人の努力次第だろうけど。
『頑張れば相手の行動を封じられると?』
相手の霊圧に上手く同調させて、流れを操ればそのくらいはね。結局のところ、五感を操るのだってその延長線上でしかないもの。
とはいえ無粋な手出しはこれ以上は不要。
仕切り直しとばかりに五感支配を解除します。
「ごめんなさい、朽木隊長。つい余計な手出しを……」
「ええ、まったく……手出しは無用と言ったはずです。なにより、私には無用でした。」
「減らず口もそこまで……――ッ!?」
立ち上がり構え直す響河でしたが、その言葉は最後まで紡げませんでした。
千本桜を封じ込めていた氷塊に細かな亀裂が無数に走ったかと思えば、粉々に。当然、白哉も自由を取り戻します。
「卍解……
「く……お、おのれええッ!!」
周辺全てを、空間全てをも支配せんとする舞い散るのは無数の桜の花びら。その全てが突如として突風でも吹いたかのように舞い上がり、白哉の手元に集まります。
億をも超える千本桜の刃たち。その全てを圧し固め、一振りの刀とする。
白哉の持つ最も強力な攻撃手段です。
千本桜景厳の美しさに見とれ、そこに秘められた殺傷力を恐れたのでしょう。
響河は二本の槍を手にしたまま、全力で襲いかかってきました。
「勝負!」
「がはあァァッ!!」
交錯はほんの一瞬。
白帝剣は二本の槍ごと響河の身体を切り裂きました。
胴体に深々とした裂傷を負い力なく倒れる相手へと、白哉はさらに刀を向けます。
「ま、待て! 待て待て待てッ!!」
「終わりだ」
大きく振りかぶる白哉でしたが、ですがそれは振り下ろされませんでした。
振り下ろすそうとしたその矢先、村正が響河を庇うようにして白哉の前へと立ち塞がっています。
傷は塞いだし、霊圧も落ち着かせましたから現在は安静を保っているものの、殺し合いの現場に割り込めるような余力なんて残っていないはずなんですが……
「村正よ……何の真似だ?」
「は、ハハハハハッ! そうだ村正! それでこそ俺の道具だ! 俺を守れ! それでこそ道具の――ガフッ……!?」
白哉の問いかけには答えることなく、かといって今更になって調子の良いことを並べる響河に文句を言うわけでもない。
村正は無言のままに響河を抱きしめると、その身体に手刀を突き刺しました。
「むら……まさ……テメェ……!」
「響河……すまない。あの時、本来ならば私はお前を諫めるべきだった……間違っているのは自分たちだと教えられた……お前に刺され、不要だと捨てられても……声が聞こえなくなっても……それでもお前を見捨てられなかった……だが、これ以上お前を暴れさせるわけにもいかぬ……」
口から血を吐き出しながら射殺すような目で睨み付ける響河でしたが、白帝剣のダメージは大きく、身体はまともに動かせないようです。
「朽木白哉! 私もろとも響河を斬れ!」
「……承知した!」
「ふざ、け……」
「はあああぁぁっ!!」
振り上げたままの刃が、漸く振り下ろされました。
「ありがとう、朽木白哉……千本桜よ、主と仲良くな……そして響河……全てを清算して、初めからやり直そう……そして出来れば……また、お前の斬魄刀……今度こそ……間違、え……ず……」
村正は優しく、諭すように語っていました。
血に塗れ、愛しい相手を抱きしめながら、ゆっくりと目を閉じました。
あまりにもあっけない、というべきでしょうか? それとも、すれ違ってしまった斬魄刀と死神との悲壮な結末、とでもいうべきでしょうか?
白哉も私も、そして周囲に備えていた全ての者達も、何も言うことができませんでした。ただ無言のまま時が過ぎ――
「……見事じゃ、朽木白哉! 千本桜! そして……村正よ!!」
――総隊長がそう叫んだ瞬間、私たちは思わず拍手をしていました。
■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□
こうして。
斬魄刀実体化事件は、首謀者たる村正の死を以て終焉を迎えた――
「奥方様、初めまして。俺は千本桜と申します。主共々、お世話になっております」
「初めまして。ルキア様の斬魄刀の、袖白雪と申します。ルキア様のお姉様であれば、
「ああ、それと
――はずだったんだけどなぁ……
やっと次回から、斬魄刀とキャッキャウフフができます。
●朽木響河(復活時)
がっつりと拗らせており、もはや性格矯正は不可能。
本編でも村正に「お前は俺の道具なんだから言うことを聞いてろ! 道具風情が!!」とか言っちゃう人。
ただし強さは前評判通り。
復活した直後の衰弱した状態でも強大な霊圧でルキアをビビらせ、白哉を苦戦させた。
(アニオリDVDの初回特典ドラマCDで、若い頃の響河の内面描写があるらしいのですが。
流石にそこまでは手が出せませんでした)
●村正
持ち主不在で行動していたので、エネルギーを補うために虚を喰っていた。
主に捨てられたショックで虚を抑えきれずに暴走する。
・始解:囁け(ささやけ) 村正(むらまさ)
・卍解:無鉤条誅村正(むこうじょうちゅうむらまさ)
・能力:始解で斬魄刀を操る
卍解すると斬魄刀の中の人を実体化させる
(無鉤条虫という寄生虫がいるけど、元ネタなのかしら?)
●五感支配
響河が使う能力。白哉相手に使用し、苦しめた。
それをサラッとコピーしちゃうどっかの人。
(年中回復で相手に霊圧を送り込んでいるから、仕方ないのだ)