お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第202話 猿と蛇と仲良くしよう

「ちぃーっす、来ましたぜ」

「あら、阿散井君。いらっしゃい」

 

 隊首執務室でお仕事をしていたら、阿散井君がやって来ました。

 

 ……え? 阿散井君!?

 

「あれ!? もう約束の時間だっけ!?」

「そうっスよ? しっかりしてくださいよ、先生……」

「まあ、そう責めてやるな。斬魄刀の霊圧補充とかで四番隊全体がバタバタしているという話は、お主も知っておったではないか」

「そうそう、オイラたちみたいに暇じゃねーんだよ。ニシシシ」

「テメエら……!」

 

 猿と蛇にたしなめられて、思わず額に怒りマークを浮かべる阿散井君でした。

 

 ということで。

 四番隊の桃とイヅル君が先遣隊メンバーとして現世に行ったので、交代で阿散井君が戻って来ました。

 元々が「今日戻ってきて、このくらいの時間に来るから斬魄刀を診断してくれ」という予定は聞いていたのですが……

 

 以前にも言いましたが、実体化した斬魄刀たちはそのうち刀へと戻ります。霊圧補充はあくまで延命処置、先延ばしでしかありません。

 ですが「せっかく斬魄刀と一緒に過ごせる珍しい機会だから、もう少しくらい……」と思う人は結構いました。

 そのため、各人が持つ斬魄刀への霊圧補充を四番隊で請け負っているわけです。

 猿が言ってた「バタバタしている」というのは、そういうことです。

 希望者の人数が多くて、回すのが大変なんですよ。

 だから今日みたいに、予定が把握しきれなくなることもあります。

 

 ……勿論反対に「とっとと刀に戻れ!」という人もいますけれどね。

 あと「自分で補充します」という人もいます。

 こっちとしては楽で助かります。

 

『霊圧は体液に溶けやすいので、ベッドの上で接触して補充してるでござるよ!! 間違いねえでござる!!』

 

 そんなことないからね! どこの聖杯の戦争よそれ!?

 

「それじゃ、さっそく診察――と言いたいんだけれど、その前に。阿散井君も蛇尾丸も、ちょっと質問して良いかしら?」

「何スか?」

「なんじゃ?」

「なんだ?」

 

 三人揃って返事されるのって、なんだか不思議な気分。

 

 ……そう。

 初めて見た時から三人揃って(・・・・・)いるのが、ずっと気になってたのよね。

 

「蛇尾丸のことなんだけど、なんで二人いるの?」

「……!」

「ッ!」

「ありゃ? 先生には説明したことは……あー、なかったっスね」

 

 申し訳なさそうに頭を掻く阿散井君でしたが、蛇尾丸の二人は目を見開いて言葉に詰まっていました。

 この反応……ひょっとすると、ひょっとしたりしちゃうの……!?

 

「コイツらは、猿と蛇で別の人格があるんですよ。人格が別なら口も別で、おかげで刃禅した日にゃ五月蠅(うるせ)ぇのなんのって……」

「んだとコラァ!」

「貴様! 我らのことをそんな風に思っておったのか!? それは聞き捨てならんぞ!!」

「まあまあ落ち着いて、喧嘩しないで」

 

 仲良いわねぇ。

 

「例えば京楽隊長の花天狂骨や浮竹隊長の双魚理みたいな、二刀一対の斬魄刀だったら二人いるのはわかるんだけど、阿散井君の蛇尾丸は一刀だけでしょう? そこが気になってたから、つい聞いてみたの」

「あー、確かに。言われてみりゃ、そうっスね。知らなきゃそう思うのも当然か」

「でしょう? だから蛇尾丸もあの二人の斬魄刀みたいに二刀流になるとか、もしくはまた別の可能性があるんじゃないかと思ったの」

「ははは、そりゃないですって……」

 

 苦笑しながら否定する阿散井君でしたが、台詞が途中で止まりました。

 続いてギギギ……という音を立てそうなくらいゆっくりと首を横に動かすと、ジト目で蛇尾丸を睨みます。

 

「……オイ、ねえよな?」

「あ、当たり前じゃ!」

「そーそー、コイツと二刀流になるとかあり得ねえっての!」

 

 猿の方は分かり易く言葉に詰まりましたね。

 蛇はケラケラと笑い飛ばそうとしていますが、言い方が少し不自然に思えます。

 もう少しだけ、突いてみましょうか。

 

「"コイツと二刀流になるのはあり得ない"ってことは、別の形でならあり得るってことかしら?」

「……ッ!!」

 

 あらら、今度は言葉に詰まりました。

 

「オイ、その反応……まさかそうなのか!? 二刀流――かどうかは知らねえけど、まさかまだ何かあんのかよ!?」

「さ、さーなぁ!? なんのことやら! オイラは知らねえな! ってかオイ、診断だかするんだろ!? さっさとやっちまおうぜ!!」

「それで誤魔化せると思ってんのかコラァ!! まずはコッチの話が先だ!! てか、どういうことだ!? こっちは卍解まで会得してんだぞ!!」

「ヘヘン!! 卍解してるから何だって言うんだよ! 言っとくがなぁ、まだ完全に認め……て……」

 

 蛇がそこまで口にしたところで、一瞬だけ時間が止まりました。

 

「ああああッ! なし! 今のなし!! オイラは何も言ってねえからな!!」

「それで通ると思ってんのかコラァ!! どういうことだテメエ!? 俺に屈服させられたんじゃなかったのかよ!?」

「ハァ!? あの程度でオイラたちが屈服したと本気で思ってんのかよ!! ずいぶんとおめでたい頭してんだな!!」

「んだとコラァ!!」

「お主ら……」

 

 阿散井君と蛇の口喧嘩がヒートアップしていきます。

 二人の間に挟まれた猿は、情けないといった表情を浮かべながら頭を抑えました。

 蛇の方は、その否定と肯定を繰り返してる物言いで本当に隠す気があるの……?

 

『そもそもの原因は藍俚(あいり)殿でござるよ?』

 

 だってこんなの、気になっちゃうんだから聞くに決まっているでしょう!?

 それが蓋を開けてみれば自爆して自供してるし!

 私は悪くない!!

 蛇尾丸が全部悪いのよ!! 何が狒狒王蛇尾丸よ!!

 

 ……あ。

 

「そういえば阿散井君の卍解は狒狒王蛇尾丸って名前だったわよね? でも狒狒(ひひ)って猿を表す言葉だから、名前から察するに蛇の方はまだ認めていないって考えることもできるわけね」

「ああ、なるほど……ってことは、やっぱりテメエが悪いんじゃねえか!!」

「んだとコラァ!! ちょっとばかし持ち主だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!! 三流死神が!!」

「アァン!? ならその三流に使われてるテメエはどうなんだよ!?」

「その、なんじゃ……煽るようなことは言わんで貰えるかのぉ……」

「……ごめんね」

 

 うっかり口に出したところ、ますますヒートアップさせてしまいました。

 

「あーもう、頭に来た!! 表に出やがれ!! 泣いて謝るまで屈服させてやる!!」

「泣いて謝るだぁ!? それはコッチの台詞だよ!! 本当に屈服させたかもロクに分からなかったヤツが、オイラに勝てると思ってんのか!?」

「上等だコラアァッッ! 先生、ちょっと訓練場借りますよ!!」

「え、ええ……」

 

 頭に血が上ってても、ここで始めたりはしないのね。

 

『仮に始めてたら、藍俚(あいり)殿に喧嘩両成敗されてそうでござるな』

 

 そんなこと……するわね。

 

「オラ、ついてこい!! 外で決着つけるぞ!!」

「望むところ――」

 

 阿散井君の後を追いかけて、途中でジャラリと鎖が鳴り響きました。

 二人は鎖で繋がってますからね。

 猿が鎖を腰に巻いていて、蛇の方は首枷みたいに繋がっています。

 なので片方だけで動けばそりゃ長さも足りなくなります。

 

「猿の! 猿の! これ、これ外して!!」

「蛇の、お主なぁ……」

 

 呆れつつも蛇の首から鎖を外しました。

 ……というか、それ取れるんだ……

 

「よっしゃ取れた! 待ってろオラァッ!!」

「えっと……なんだかごめんなさい」

「気にするな。どのみち、いつかは気付かねばならなかった問題じゃ」

 

 大急ぎで後を追っていく蛇を見ながら、私は猿に謝罪します。

 

「まあ不満があるとすれば、あやつが自発的に気付くのではなく、他人に気付かされたということが不満じゃがな」

「本当にごめんなさい」

 

 つい言っちゃったことが、こんなことになるなんて……

 

 ……まさか、射干玉も何か隠してたりしないわよね!?

 

『拙者にこれ以上何を晒せと!? もうパンツの中まで披露済みでござるよ!!』

 

 ……大丈夫そうね。

 

 

 

 

 

 

 阿散井君たちに遅れること数分、といったところでしょうか?

 猿と二人で訓練場に足を運んだところ――

 

「はあああぁぁっ!」

「だりゃああああぁぁっ!!」

 

 戦いはとっくに始まっていました。

 二人とも蛇尾丸――始解状態の斬魄刀を操り、激闘を繰り広げています。

 

 上背がある阿散井君の方が一見有利ですが、蛇の小さい身体を活かした戦い方をよく知っているようですね。

 蛇のように身を低くし、下からの攻撃を巧みに繰り出しています。

 

「ちィッ!」

「ヘヘンだ、どうしたよ?」

 

 足下から顔面へ向けて延びる刀身を、なんとか身を捻って直撃を避けました。

 ですが、ちょっとだけ甘かったみたいですね。軽く頬を斬られています。

 流石は斬魄刀本人というべきかしら? 蛇尾丸の扱いは阿散井君よりも一枚上手ね。

 

「舐めんなッ!」

「うわっ!?」

 

 ならばと身体能力で上回る阿散井君は、上から連続攻撃を仕掛けます。

 ですが小柄な身体でちょこまかと動き回り、時には蛇の尾まで利用して立体的な動きをしつつ紙一重で回避していました。

 

「おお、すごいすごい。上手ね」

「ちょっ、先生! 何でコイツの味方してんですか!!」

 

 思わず拍手しながら口に出してしまったところ、阿散井君に怒られました。

 

「別にどっちの味方ってわけじゃないわよ? ただ、今のやり取りだけみれば蛇の方が上手だったってところかしら」

「オイオイ、言われてんぞ二流死神。情けねぇの」

「があああぁっ! 言わせておけばこの野郎!!」

「ここまでおいで~♪」

 

 見え見えの挑発に乗った阿散井君は、斬魄刀を滅茶苦茶に振り回しながら蛇を追いかけています。

 蛇はくねくねと攻撃を躱していますが二人の距離はじわじわと狭まっていき――

 

「ぐあっ!? て、てめえ……!!」

「ひっかかってやんの、バーカ!」

 

 良きところで、頃合いを見計らったように尾を顔面に叩き付けました。

 衝撃と痛みと恥辱で真っ赤に染まった顔を片手で押さえつつも、さらにやる気と怒気は増したみたいです。

 

「もう許さねえ! 泣かす!! テメエだけは絶対に泣かす!!」

「涙目のヤツに言われても、怖くもなんともないね!!」

「んがあああああぁぁっ!!」

 

 なんでそこでさらに挑発に乗っちゃうのかしら……?

 あと、顔面を叩かれたら大体普通は涙目になるから……

 

『ここは「なら、お前も同じ目にあわせてやるってんだよ!!」みたいな台詞を言うべきだったでござるよ!!』

 

 あ、その言い回しは何だかちょっと良い感じね。

 

「……ところで、今更なんだけど」

「なんじゃ?」

「あなたはアレに加わらなくて良いの?」

「好きにやらせておくのが吉じゃな。儂には自ら醜態を晒すような恥ずかしい真似はできんよ」

「そう……」

 

 猿の方はなんだか達観しているわねぇ……

 

 

 

 その後も蛇と阿散井君の……喧嘩? 決闘?? お遊戯??? は続きました。

 優勢なのは蛇の方でしたが、タフなのは阿散井君です。中々決着が付かないままに二人はジリジリと消耗していき、やがて――

 

「ぐわっ!!」

「ぐえっ!?」

 

 ――まるで申し合わせたかのように、二人の攻撃が相手へと同時に当たり、二人とも目を回しながら倒れました。

 引き分けですかね。

 

「やれやれ、ようやく終わったか」

「あらら、相打ちね。それじゃ、助けないと――」

「いや、構わんよ。儂がやる」

 

 二人が倒れたところで救助に動こうとしたところ、猿が私を制するように動きました。

 面倒くさそうな雰囲気を醸し出しつつも、彼女はまず倒れている蛇の所へと向かったかと思えば、ひょいと担ぎ上げました。

 その際に腰の鎖を結び直すのも忘れてはいません。

 

「ほれ、蛇の。多少は不満をぶつけられたか?」

「う、うるへぇ~……オイラはまだ……コイツを……」

「うむうむ、そうじゃな」

 

 全て分かっているとばかりに二・三回頷くと、今度は阿散井君のところへ向かい……あらやだ! 阿散井君を抱き上げましたよ!!

 肩に蛇を担いでいるのに長身の阿散井君まで持ち上げるとか、猿は力が強いのね。

 

「お主も、今日のところはこのくらいにしておけ」

「お、おう……」

 

 聞こえているのかいないのか、目を回しながらも声に対してとりあえず返事はした。そんなところでしょうかね?

 情けない反応に、猿も思わず嘆息しています。

 

「この体たらくでは、儂が完全に認めるのも何時になることやら……」

「……え?」

 

 猿が小さく呟いた今の言葉……

 それが本当なら、まだどっちも完全には認めていなかったってことなの!? 蛇だけでもこんな大騒ぎなのに、この倍の騒ぎになるってこと!?

 

 ……頑張ってね、阿散井君。

 




●双王フラグ
卍解が狒狒王って名前なのに、大蛇しか出てこない。
つまりは「どちらも半分しか認めていない」って認識で良いはず。

でも次話は揉む予定です。
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