お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第204話 ママとパパと斬魄刀と

「グラブジャムン……話には聞いたことがあったけれど、こんな感じで作るのね……」

 

 レシピ本と睨めっこの最中、思わず見つけた内容に声に出して唸ってしまいました。

 まさかシロップに漬け込むなんて……しかもシロップ自体も砂糖が多すぎるわよ。カップ1杯って……何コレ……?

 世界一甘いとは聞いたことあるけれど、想像以上だわ。そりゃ甘くなる筈よ。

 これならもう練乳を直接舐めるとかでもいいんじゃ……?

 

「……あ、こっちは良いかも。へえ、サツマイモで作るのね。甘さ控えめで美味しそう。コレは試しに作ってみようかな?」

 

 ちょっと前に織姫さんたちが尸魂界(ソウルソサエティ)に来ていたのは、まだ記憶に新しいと思います。

 その時にちょっと無理を言って、現世からお菓子のレシピ本を持ってきて貰いました。

 雀部副隊長の定例お茶会でも新作を出したいし、何かヒントにならないかと思って。

 

 なのでこうして、せっせと情報収集の最中です。

 場所も調理室ですから、すぐに試作も出来て便利なんですよ。今は人もいませんので、使い放題です。

 それにしても、織姫さんの感性に任せれば、きっと面白い本を選んでくれると思いましたが……ある意味で期待通りの本を買ってきてくれましたね。

 グラブジャブンどころかバクラヴァまで載ってるんだもの。

 

「名前は、えっと……カノム――」

「あ、隊長!」

「――え? ああ、勇音」

 

 声が掛けられ本から顔を上げれば、勇音の姿がありました。

 続いて顔を下に向けると、しゃがみ込みます。

 

「それと、凍雲もいらっしゃい」

「……うん」

 

 勇音の隣にいる凍雲――実体化した斬魄刀にも、忘れずに挨拶をしておきます。

 

 凍雲ですが、見た目は幼女です。

 ええ、そうです。少女を通り越して、幼女まで行っています。黒髪の可愛らしい幼女とでも表現すれば、良いでしょうか?

 長い黒髪に道士服のような格好をしていて、凄く可愛らしいんですよ。

 

 しかも背が低くて、なんと三尺三寸(約1メートル)程しかありません。

 全死神と比較しても最も低くて、勇音と並ぶと半分くらい。丁度勇音の腰の辺りに、凍雲の頭が来る感じ。

 二人で並ぶと、まるで母親と子供みたいに見えます。

 

「……何よんでたの?」

「ちょっと織姫さんに持ってきて貰ったお菓子の本をね」

 

 そして口調は見た目通りの、幼い喋り方をしています。

 性格も勇音に似たのか、恥ずかしがり屋で引っ込み思案。他隊の死神は勿論、四番隊でもよっぽど仲が良い相手じゃないと、恥ずかしがっちゃって勇音の後ろに隠れてしまいます。

 なので凍雲の声を聞いたこともないって死神も結構いるんですよ。

 

 ……あ、清音さんだけは別ね。

 勇音と姉妹だからか、凍雲も顔を真っ赤にしながら一生懸命にお喋りしてました。

 

「おかし! 食べたい!! パパ(・・)作って! ママも食べたいでしょ?」

「ええっ!? そ、それはそうだけど……っていうか、凍雲! その呼び方は止めてっていつも言ってるでしょう!?」

「どうして? ママはママだし、パパはパパだよ?」

「あはは……」

 

 どういうわけか凍雲は勇音のことを"ママ"と呼び、私のことを"パパ"と呼びます。

 初対面の時にも「パパ」「ママ」呼びだったおかげで、ちょっとだけ騒動になりました。ついに勇音に隠し子が!? みたいに盛り上がっていましたよ。

 その時の影響からか、勇音はママと呼ばれるのが恥ずかしいみたいです。凍雲が呼ぶ度に指摘しています。

 

『ですが勇音殿は顔を真っ赤にしつつも、まんざらでもない表情なのでござるよ!! 口では文句を言いつつも内心では「いいぞいいぞ! もっと言え!!」と思ってるに間違いなしでござる!!』

 

 え、私ですか? もう慣れましたよ……

 二人のやり取りに、乾いた笑いしか出せません。

 

 それにパパっていうのも、あながち間違っているわけでもないから。

 

『なんと! やはり勇音殿に"いや~ん!!"なことをして、凍雲が出来たのでござるか!? 素直に吐くでござる! そして実演するでござるよ!!』

 

 いやいや、そんなことしてないからね!?

 

『(時々騙されてお酒を飲まされてぶっ倒れてから、介抱という名目でまさぐられているでござるが……まあ、それは拙者の心の中のドスケベ小箱にしまっておくでござるよ)』

 

「まあまあ勇音も、そんなに怒ることはないでしょう? ほら、凍雲が怖がってるわ」

 

 勇音は背が高いですからね。

 口調は柔らかくても、上から言われているためか凍雲がちょっと萎縮しています。

 なので私は彼女を抱っこして、勇音と大体同じ目線にしてあげました。

 

 ……これでもまだ勇音の方がちょっとだけ視線が上なんですけどね。

 

「斬魄刀なんだし、仲良くしないと駄目よ」

「うん……パパ、すき……」

「あ、凍雲! もう……ずるい……私だって……」

 

 抱きかかえるなり凍雲は、まるで勇音の視線から逃げるように私の胸元に顔を埋めてきました。

 ぎゅうっと抱きついたまま、離れようとしません。

 

「パパのおっぱい……ふかふか……」

「ん、そうなの? 勇音に抱っこしてもらったことってないのかしら? 勇音もずいぶん大きいと思うけれど」

「え……あ、た、隊長……!?」

「うん、ママもおっぱいおおきいの……でも、パパもおっきくてすき」

「凍雲っ!」

 

 ちなみに抱っこしているわけですから、凍雲の体温がダイレクトに伝わってきます。

 子供特有のプニプニ感と高めの体温が! 胸は平らだし、お尻も太腿も全然お肉なんてついてないのに! ちょっとぽっこりしたイカ腹の感触が!!

 

「やぁ……パパ、くすぐったい……」

「あ、ごめんね」

 

 抱きかかえ直すふりをして、そっとお腹やお尻に手を伸ばします。凍雲は触られ慣れていないようで、けれども嫌がる素振りも見せることなく、むしろもっと抱きついてきました。

 も、もうちょっと触っても良いわよね……?

 

『……藍俚(あいり)殿? 流石に凍雲殿にそれ以上手を出すと犯罪でござるよ?』

 

 はっ!? ……法ってどこまで及ぶのかしらね?

 

「そういえば、勇音も凍雲を抱っこする? それとも私を抱っこしたい? なんて――」

「良いんですか!?」

「――冗談……のつもりだったんだけど……」

 

 話題逸らしのように尋ねてみたところ、思った以上の反応で食いつかれました。

 

「あ……あう……その……」

「よしよし、泣かないの。じゃあ凍雲、ちょっと降りてね。これから勇音――ママを抱っこするから」

「うん……」

 

 言ってから後悔したのでしょうね。

 顔を真っ赤にして涙ぐむ勇音を慰めつつ、凍雲を下ろします。

 

「ほら、おいで」

「あ……ああ……っ! し、失礼しますっ!!」

 

 軽く両手を広げてポーズを決めれば、勇音は数秒の躊躇の後に抱きついてきました。

 背丈は大体同じだから「私の胸に飛び込んでおいで」って出来ないのが少し残念。その代わり、首筋に頬をこすりつけるようにして甘えてきています。

 

「はぁ……はぁ……隊長の、隊長の匂い……」

「ふふ、勇音は甘えん坊さんね……」

 

 力一杯抱きしめられているので、勇音のおっぱいが押しつけられています。

 私のおっぱいに。

 

『おっぱいがおっぱいで潰されているでござるよ!! なんという有り難い光景!! これは永久保存版でござる!! 死覇装なのが惜しいでござるが、それはそれ!! 窮屈なおっぱい同士が今にもこぼれて飛び出しそうで……!! 藍俚(あいり)殿、次は布面積の少ない水着でお願いするでござる!! いや、バニーガール姿……いやいやここはやはりワイシャツ一枚だけで抱きしめ合うのが正義!?』

 

 射干玉が暴走していますが、仕方ありませんね。

 

 勇音の柔らかい身体と隙間無く密着しているので、どこもかしこも勇音の感触がたっぷりです。

 お肌が触れ合う部分からは彼女の温もりが流れ込んできて、甘い匂いが漂ってきます。

 私もかなり心臓がドキドキ鳴っていますが、同時に勇音の心臓が早鐘を慣らしているのも伝わって来ちゃって……

 きっとお互いに緊張してるのがバレてますね。

 

「うぅ……(あった)かい……私、寂しかったんですよ……すん……隊長ってば、あの藍染の事件からずっと忙しそうで……ぐすっ……すん……」

「よしよし」

 

 出番、無かったからねぇ。

 そっと頭を撫でてあげると、勇音が私の首筋を嗅いでいるのに気付きました。

 どさくさに紛れて凄いことしてるわねこの子……

 

『案外抜け目ねえでござるな』

 

「それと、あの……その……」

「ママ、がんばって……!」

 

 匂いは遠慮無く嗅いでいるのに、どうして言い淀むのかしら?

 凍雲の応援を背中に受けて、勇音は漸く口を開きました。

 

「さ、三番隊の新隊長に好意を寄せられているって聞きました! ほ、本当なんですか?」

「それ? ええ、まあね……ちょっと手助けして、その縁でちょっとだけ……」

「嫌ですっ!」

「え……? 勇音……!?」

 

 さらに力強く抱きしめられています。

 

「それに私、聞いたんですよ! 吉良君も雛森さんも、隊長に気持ちを伝えたんだって……!!」

 

 み、耳が早いわねぇ……

 ……あれ? 桃もだっけ? 飛梅を揉んでアピールしてきた覚えはあるんだけど。

 

「ズルいです! 隊長のことは私が一番最初に慕っているんです!! 私が、一番、最初なんです!!」

「えと、その……」

「変な気持ちなんだってことは、自分が一番よく分かっています! でも、この気持ちは誰にも負けたくありません!」

 

 あ、これガチのやつだわ。

 

「凍雲に"ママ"って呼んでもらって、隊長のことを"パパ"って言ってて、本当の夫婦になれたみたいでウキウキしてて……でも、隊長に迷惑なんじゃないかって心配で……そしたら凍雲からみんなの話を聞いて……私、どうしたら……うわああぁぁんっ!!」

「あ、勇音……!?」

 

 感情が昂ぶりすぎたようで、とうとう泣き出してしまいました。

 どうしたものかと戸惑う私の横で、袖の(たもと)がぐいぐいと引っ張られます。

 

「パパ、ママを泣かせるのは、めっ! だよ?」

「その、ごめんなさい」

「ママも、パパのこと、もっと信じて……ね?」

「うん……ごめんね凍雲……」

 

 凍雲に怒られました。

 かと思えばさらには勇音の袂も引っ張り、同じようにして慰めています。

 

 ……凍雲、幼いけれど予想以上に良い子ね。

 

「隊長、申し訳ありませんでした……」

「ごめんね、パパ」

 

 慰められたことで冷静さを取り戻したのか、まだ鼻を啜りつつも勇音は頭を下げてきました。

 その隣では勇音のまねっこをするように凍雲も頭を下げています。

 

 こうして見ると、本当に親子みたいよね。

 

『となると藍俚(あいり)殿もパパとしての責任を取るべきでござるよ?』

 

 それ、案外本当のことなのよね……

 

『ほらほら、もう堪忍してパパになるでござるよ!! 以前にルドマン(虎徹勇音)ルートと言いましたが、現実味を帯びてきたでござるよ?』

 

 そうよねぇ……勇音って、ずっと私のことを支えてくれたとっても良い子だし……

 いや! イヅル君や桃も良い子なんだけど……

 

 ……あれ? 射干玉はあの時にゲレゲレ(砕蜂)ルートについても言ってたわよね?

 

『そういえば、その様なことも言ったような……』

 

 まだ残ってるってこと!? いやいや、あの子は夜一さんでしょう!? 何のために捕獲して副隊長に据え付けていたのよ!? まだ満足してなかったの!?

 

『恋する乙女はワガママなのでござるよ……あっちもこっちも欲しくなってしまうでござる……』

 

 しみじみ言わないで!

 

『そのワガママを押し通すだけの力! 鍛え上げたのは誰だ!? なんとビックリ藍俚(あいり)殿でござるよ!? 責任は取らないと駄目でござる!!』

 

 そう言われると……

 

「……パパ、どうしたの?」

「ううん、なんでもないの」

 

 心配そうに見上げられてしまったので、安心させるように凍雲を抱き上げます。

 

「それと……あのね、勇音」

「は、はいっ!」

「もうちょっとだけ、待って貰えるかしら……? 色々と気持ちの整理がね、出来なくて……ただ、勇音のことは前向きに考える――」

「本当ですか!!」

 

 再び勇音に抱きつかれました。

 

「ママ、くるしぃよぉ……」

「えへへ……ごめんね、凍雲……」

 

 勢いそのままにくっついてきたので、二人で凍雲を挟んでいる状態です。

 より正確には、私と勇音、二人分のおっぱいに挟まれている状態。

 だからでしょうか? 苦しいと言いつつも、嫌そうな素振りは全然見せていません。むしろにっこりと微笑みながら、勇音に抱きつかれています。

 

『いやぁ、眼福眼福。こうして見ると本当に家族のようでござるな……てか凍雲殿が羨ましいでござるよ!! その場所、代わって下され!! 三百円、いやいや千円払いますので!! 延長料金も出すでござるよ!?』

 

「……ござる?」

 

 ……ッ!?

 

『……ッ!?』

 

「え? どうしたの凍雲?」

「うん……声が、聞こえたの……ござるって……」

「ござる……? 別に誰もいない――」

「凍雲! お菓子、食べたいでしょ? 作ってあげるわね!」

「うん!」

「私もお手伝いします!!」

 

 ……ビックリしたわ。子供って感受性が強いのね。

 




●凍雲(実体化)
※ アニメ斬魄刀異聞録編には実体化した凍雲は登場しないためオリジナルです。
  (なんかこう、頑張って考えました)

黒髪の幼女。髪は背中に掛かる程度の長髪。
立ち振る舞いや性格は丁寧だが、口下手で恥ずかしがり屋。
(黒と白を基調とした)道士服のような格好をしている。

身長は99cmなので、やちるより小さい。勇音と並ぶとほぼ倍の差がある。
ちっちゃいため斬魄刀を持つと振り回されてしまい、戦闘面での貢献は難しい。
(呪符みたいなのを投げて、それに当たると動きが遅くなる。みたいな援護はしそう)

基本的に性格は持ち主に似るので、控えめな子に。
勇音の「もう背丈はいらない」という影響を受けて、ちっちゃい子に。
勇音が入隊したばかりの頃の大手術(探蜂さんを治療したアレ)の経験から藍俚への強烈な憧れと慕う気持ちの影響されており、彼女のことをパパと呼ぶ。

●グラブジャムン
インドのお菓子。世界一甘いと言われる。
揚げたドーナツを砂糖たっぷりのシロップに30分くらい漬ける。

●バクラヴァ
中近東のお菓子。これもめちゃ甘い。
焼き菓子だがバターと砂糖を大量に含んでいて、濃厚に甘い。

●カノム・カイ・ノッククラター
タイのお菓子。屋台とかで売っている。
サツマイモの揚げドーナッツ。
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