お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第207話 斬魄刀の立場、斬魄刀の考え

 昨日のお団子事件も終わりまして、今日は健康診断の日です。海燕さんの番です。

 なので四番隊までご足労頂いています。現世から来ているので、本当に遠いところをわざわざすみません。

 ということで海燕さんの斬魄刀――金剛を診るはずだったのですが……

 

「健康診断を始めたいんですが……」

「既に主には申し上げましたが、改めて宣言させていただきます。それはきっぱりと、遠慮させていただきます」

「すまねえな湯川隊長……金剛のヤツ、夕べからこの調子なんだわ……」

 

 診察室にて診断を開始しようとしたところ、開口一番きっぱりと断られました。

 そのあまりに一方的な突き放すような言動に、むしろ付き添いの海燕さんの方が申し訳なさそうに頭を下げるほどです。

 

 そうそう、実体化した金剛ですが。

 見た目は女性、それも都さんのように凜とした芯の強そうな女性でした。

 尼僧、といえば良いのでしょうか? 法衣(ほうえ)のような衣服を身に纏い、頭に帽子(もうす)を巻いているため髪型は分かりません。

 全身を緩やかに覆う法衣(ほうえ)は身体の線を隠しており、傍目にはどのような体型をしていることやらまったく窺えません。

 

 入室の際の立ち振る舞いや足の運びから察するに、戦闘能力はかなり高そうではありますが……

 

『戦闘能力も大事でござるが!! 皆様が知りたいのはその衣の下のおっぱいでござるよ!! 一部の性癖にぶっささりまくりの女性僧侶!! ふぇてぃしずむがたまんねえでござるよ!!』

 

 そ、そうね……

 

藍俚(あいり)殿! なんとかして説得を!! 拙者は金剛殿の意思を尊重するでござるが、皆様が待っているでござるよ!! だから仕方ないでござる!! その衣を一枚一枚ねっとりと脱がしていくでござるよ!!』

 

 まあ……やるだけやってみるけれど、意思は硬そうよ……

 

「その、金剛……? 理由を聞いても良いかしら?」

「構いません」

 

 眉間に皺を寄せるくらいの真面目な表情をしたまま、彼女は頷きました。

 

「そもそも(わたくし)は斬魄刀です。本来は表に出る筈のない存在、偶然にも村正の能力にて実体化する機会を得ることが出来ましたが、それは代わりません」

「ええ、そうね。でもせっかくの機会なんだから、少しでも長く実体化したいと思うんじゃないの?」

「その考えが間違っております」

 

 ぴしゃり、と言い放ちました。

 

「間違ってる、だと……? どういうことだよ金剛!? お前、俺や都と一緒にいたくねえのかよ!? お前を都たちと会わせた時だって、あんなに喜んでいたじゃねえか! あれは嘘だっていうのかよ!?」

「いえ、そういうわけではございません」

「じゃあ、どういうわけだ!?」

「海燕さん、落ち着いて!」

 

 言葉に出している内に感情が高まってしまったのでしょう。

 海燕さんは立ち上がり、今にも金剛の胸ぐらを掴んで捻り上げんばかりの勢いで問い詰め始めました。

 咄嗟に肩を掴み止めましたが、もう少し遅ければ間違いなく実行していたでしょうね。

 

「あ……すまねえな……」

「いえ、構いません。お怒りはご尤もですので」

 

 冷静になった海燕さんが両手を降参のように上げながら座り直します。

 金剛は感情を動かす事はありませんでした。

 

「落ち着いたところで改めて聞くけれど、どういうことなの? 都さんや海燕さんと会えて嬉しい。でも実体化の時間は延長はしたくない、ってことでいいの?」

「ええ、その通りです」

 

 ……????

 

「どういうことだよ?」

「都様や海燕様とお会い出来て、氷翠(ひすい)様ともお話が出来ました。それだけで(わたくし)はもう満たされています。それ以上を望むというのは、野暮というもの……実体化出来るようになったとて、それは泡沫の夢のようなものなのです……夢はいつか覚めるもの。いずれ夢から覚めたときに、(わたくし)は自らの存在を皆様の重荷にしたくはないのです」

「そんなことは……!!」

 

 海燕さんが反論しようとしますが、金剛はゆっくりと首を横に振ります。

 

「海燕様。金剛のことを誠に想って下さるのでしたら、どうか都様や氷翠(ひすい)様との時間を大切になさって下さい。皆様が同じ時間を共有なさるお姿が、(わたくし)にとっても至福の時間なのです」

「……ッ!!」

「金剛……」

 

 とても強烈な意思を瞳に宿しながら、金剛は海燕さんへそう告げました。

 

 これは……説得は無理そうね……

 

『そんな!! 藍俚(あいり)殿!! 藍俚(あいり)殿のお立場ならばなんとかなるのでは!?』

 

「そして湯川様。湯川様には感謝の気持ちしかありません。湯川様があの場にいらっしゃらねば、都様とは今生の別れとなったことでしょう。湯川様のおかげで(わたくし)は、都様と海燕様……お二人の斬魄刀という、特別な存在になることができました」

 

 あ、これはもう無理。

 

『そんな!!』

 

 いや無理よ。だってもう私、ちょっとウルって来てるもの! 海燕さんなんかもう、とっくに涙が一筋流れているわよ!!

 

「くそっ! 金剛、お前……良い子すぎんだろ!!」

「そうよ……もう少しくらい主張したって……いえ、それがあなたの選択なのよね?」

「はい。我が儘を言ってしまい、申し訳ございません」

「そう、わかりました。それならば、私からは何も言いません」

「お前の気持ち、確かに受け取ったぜ!! ちょいと都の所まで行ってくるとすらぁ! なーに、現世に戻るのは明日の予定だからな! 何にも問題はねえよ!!」

「ええ、お供いたします」

 

 海燕さんの言葉を聞き、金剛は初めて笑顔を見せてくれました。

 実体化を解除すると斬魄刀へと戻ります。

 

「湯川もすまねえな! なんだか巻き込んじまったみたいで……」

「いえいえ、それよりも早く都さんのところへ行ってあげて下さい。じゃないと金剛が拗ねますよ?」

「おっと、そうだった。それじゃあな!!」

 

 斬魄刀片手に、慌ただしく駆け出していく海燕さんでした。

 

 斬魄刀は所有者の魂の精髄が浸透し、やがて進化していくもの。

 都さんと海燕さんという二人の持ち主に恵まれて、その持ち主の近くにずっといて影響を受け続けたからこそ、ああいう考えに至ったのかもしれないわね……

 

 持ち主のことを常に立てて、持ち主の心に寄り添う……か……

 

 ……ああいう考えの斬魄刀もいるのね。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 ……ああいう考えの斬魄刀もいるのに。

 

「ああ、湯川隊長。わざわざ悪いわねぇ」

「いえいえ。元々はこちらの都合ですので、出向くのは全く問題ないんですけれど……」

 

 金剛の健康診断がキャンセルになったので、次の予定だった氷輪丸のところへ――こちらの都合なので事前連絡をして、十番隊まで出向きました。

 

 昨日、乱菊さんが「明日まで灰猫を預かってくれ」と言っていたのを了承したのは、こういう理由もあったわけですね。

 明日健診に来るわけだから、受け渡すのはその時でも問題ないという判断からです。

 まあ結果的には十番隊まで出向いたわけなのですが……その……

 

「いい加減に認めやがれ!!」

「笑わせるな!!」

 

 出迎えにやってきた乱菊さん。

 その後ろでは、二人の男が戦っている真っ最中でした。

 

 一人はみんな大好きシロちゃん。

 そしてもう一人は――

 

「氷輪丸ぅぅっ!!」

「今のお前を我が主など認められるか!!」

 

 氷輪丸でした。

 

 実体化した氷輪丸はシロちゃんよりもずっと背が高く、緑色の長髪に薄紫の着物を纏った二枚目の男性です。

 顔には×(バツ)印の傷跡が刻まれており、それが元々の風貌と相まって彼をより謎めいた存在に昇華しているかのようでした。

 とはいえ今の彼は斬魄刀を片手にシロちゃんと全力戦闘を繰り広げていますが。

 

「もしかして、まだ……?」

「ええ、そうなのよ。ウチの隊長ってばずっと氷輪丸に掛かりっきりで……」

 

 乱菊さんが嘆息しました。

 

 そうそう、氷輪丸ですが。

 どうやら彼はシロちゃんのことを持ち主と認めていないようなのです。

 彼曰く「あんな簡単に騙されて醜態を晒し続けているのが私の主のわけがない!」と言い張り、言うことを聞きません。

 村正事件が終わってからというもの、シロちゃんは自分を認めさせようとし続けて。氷輪丸はそれをつっぱね続けており、今や瀞霊廷のちょっとした名物になっています。

 

 一応は「十番隊隊長が自分を追い込み鍛えている」という説明はされていますが、誰も信じていません。

 なんだったら「この争いは何時まで掛かるか?」と、ちょっとした賭けの対象になっているくらいです。

 

『なお一番人気は「このままタイムアップ」でござる!!』

 

 まあ、シロちゃんの稽古にはなるからそれで良いんじゃない?

 

「しかもここ最近、特に激しくなってきて……おかげでこっちは隊長の分の仕事やら隊長の後始末やらに追われて、おちおちサボることも出来やしない……」

「ああ、だから昨日連絡したとき……」

「そうなのよ……」

 

 なるほど……いやいや、だからってサボっちゃ駄目よ!?

 

「となると健診は……どうします?」

「当日までには決着が付くだろうと思ってたんだけど、どうやらあたしの読みが甘かったみたいね……あーもう! 外れちゃったじゃない!!」

 

 ……賭けてたのね。

 

「そういうわけだから、隊長の分は今日は中止でお願い」

「わかりました。あ、一応怪我人が出たら四番隊までご連絡くださいね」

「もちろん、そっちの方は頼りにさせてもらうわね。それから、はぁ……――」

 

 そういうと彼女は再度溜息を吐き出しました。

 

「――『もうちょっと時間が掛かりそうだから、まだ構ってやれそうにないわ。そっちだって状況は分かってるんだから、ワガママ言わずにもうちょっとだけ大人しくしておきなさい』――それじゃ湯川隊長、またね」

 

 誰に向けるでもなくそう口にしたかと思えば、乱菊さんは背を向けてシロちゃんたちの方へと向かいます。

 

「……だそうよ?」

「ッ!!」

 

 彼女に倣って私も声を掛けると、建物の影から動揺したような気配が感じられました。

 




●他人の斬魄刀を持つ場合
公式で「基本的には上書きされるが混在する場合もある」と回答された模様。

つまりは
・剣八:拾った斬魄刀で、やちるが上書きして完全に個人の物になった
・東仙:歌匡の斬魄刀に、東仙の能力が混在している
という感じの認識でいいはず。

●金剛(実体化)
上記の内容を踏まえて考えたところ。
金剛は、都さんと海燕さんの両方のことを気遣うようになりました。

元々の持ち主は都さんなので、お姉さん。
ショートヘアの美人さんで、法衣を身に纏っている。
厳格な性格で、二人(都と海燕)のことを第一に考え常に二人を立てようとする。

実体化した自分の存在が志波さん家の輪を乱すと考えているので、霊圧補充を拒否する。
(刃禅で会えればそれでいいと考えている)
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