「ア、アハハ……」
誤魔化すように後ろ頭を掻きながら、灰猫がゆっくりと姿を現しました。
実は十番隊に行く際、彼女と一緒に来ていました。
乱菊さんに十番隊まで来て欲しいという連絡を受けた際、灰猫にも「一緒に行く?」と尋ねたところ「……うん」と、素直に頷いていましたからね。
口ではなんだかんだ言いつつも、心の底から嫌というわけではありません。
ただ直前になって「やっぱり怖い!」と言い出し、姿を隠してしまったわけです。
「なーんだ、気付かれてたんだぁ……」
姿を隠していたのに乱菊さんにはバレバレだった挙げ句、それどころか気遣われてしまったことで、感情のやり場に困っているのでしょう。
いつになく灰猫の元気がありません。
「良い方に考えれば、姿を隠していた灰猫にもちゃんと気付いていたんだし、それに事情もちゃんと説明してくれたんだから。だったらもう意地は張らなくても良いんじゃない?」
「あー、それはそうなんだけど……さ……やっぱりなんていうか、今更のこのこ顔を出しづらいって言うか……その……」
気持ちが煮え切らないのか、両手の指をツンツンさせています。
結局、乱菊さんが構ってくれなくて拗ねてるだけなのよね。
……さて、どうしたものかしら?
「別にそうやって黙っていても構わないけれど、どうするの? 私は四番隊まで戻るんだけど、一緒に来る? それとも
「ええっ!? あ、ちょ……待って! 置いていかないで! 行く、アタシも一緒に行くから!!」
決断を促すように背中を向けて二、三歩足を進めたところ、灰猫が慌てて後から着いて来ました。
やれやれ……どうやらまだ前途多難みたいね……
「とりあえず、灰猫だけでも健診します」
「……え?」
四番隊に戻るなり灰猫を診察室へと引っ張り込むと、開口一番にそう告げてやりました。
突然一方的に告げられたことで、目を白黒させながら聞き返してきます。
「ちょ、ちょっと待ってよ! それって持ち主が一緒じゃないと駄目なんじゃ……!?」
「基本はそうなんだけどね。でも乱菊さんが手一杯みたいだし、なによりこれ以上予定を崩されると困るのよ。だから――」
「きゃあぁっ!?」
「――だから、いつでも戻れるように要件は片付けておくべきでしょう?」
ほとんど押し倒すようにして、灰猫を布団の上へと寝かしつけます。
「あら、これ耳じゃなくて髪の毛だったのね……」
「ん……ッ! やっ、ちょっと……だめ……っ……」
まずは、ある意味で最も気になっていた猫耳の部分を撫でます。
とはいえ残念なことに、これはただの髪の毛――膨らみ加減で猫耳のように見えていただけの髪型の一種だったわけですが。
「へえ、でもモフモフしてる。癖になりそう……」
「ふぁぁっ……!」
それでも触り心地は絶品。
まるで本物の猫の耳のように毛が柔らかくて、指を突っ込んでも全然引っかかりません。ふわふわもふもふの感触は、いつまでも触っていられそう。
猫耳を撫でつつ時々頭も撫でていけば、灰猫は可愛らしい声を上げました。
「それでこっちに本物の耳がある、と……なるほどなるほど……」
「ほん、と……やめて……って、ばぁ……ひゃ……っ……!」
ならばと顔の横に手を伸ばせば、そこには普通の耳が。
形の良い耳を象る指先でそっとなぞると、こそばゆいのか抵抗の声がどんどん弱々しい物になっていきます。
「でもこっちは毛皮なのね」
「ん……」
続いて二の腕、そして首元へと触れていきます。
そこには猫耳に負けずにもふもふとした毛皮が生えており、それらを撫でているとまるで本物の猫を撫でているような錯覚を覚えますね。
「……ちょっとだけ」
「んんっ! あ……ん……やぁ……っ……!」
ふとイタズラ心が芽生えてしまい、灰猫の喉元から顎の下を軽く撫でてみました。
するとなんだか嬉しそうな声を上げながら、ゴロゴロと小さく喉を鳴らしています。
「ふふ、気持ちいい?」
「べ、別……に……ぃぃぃっ!!」
「隠さなくてもいいのに」
そのまま顎の下から首回りを撫でつつ、開いた手では頭の天辺を撫でます。
筋肉の凝りをほぐすようにゆっくりじっくりと揉んでいけば、我慢しきれなくなった嬌声がとうとう口からはっきりと漏れました。
……この反応、本当に猫よね。
それと、直接触れていくうちに分かったのですが。
灰猫はあちこち飛び回る活発な性格だったみたいですね。筋肉の付き具合からそれがよく分かります。
ですが昨日今日と怠惰な生活を続けていたことが災いしてか、運動不足になっています。身体が動きたがっているって感じですね。
「身体中が随分と凝ってるみたいよ? 診断なんだから当然、これも解消してあげないといけないの。ね、わかるでしょう?」
「う、うぅ……ん……」
指で首元をなぞりながら耳元で囁くと、顔を真っ赤にしながら頷きました。
「うんうん、素直な良い子ね。それじゃあ、さっそく……」
「な、何する気よ……!?」
当惑する灰猫の背後に回ると、首の後ろから肩。肩甲骨から腕の付け根までを指先で軽く押していきます。
「ん……っ……あ、なに、これ……すっごい……」
「そう? ならよかったわ」
首から肩を優しく指圧するようにして刺激を与えていき、背中は腰まで流れと整えるようにして軽く撫でてあげれば灰猫の目元がとろんと夢見心地に微睡みました。
「そうそう、力を抜いて……心に素直にしたがって……気持ちを楽にして……私の言うことをちゃんと聞いて……」
「う……ん……あ……ふ……ぅぅ……」
意識が散漫になったところで耳元で囁けば、小さく頷き手足をだらんとさせました。全身からはすっかり力が抜けており、とても良い傾向ですね。
と言っても軽く暗示を掛けて意識を誘導しただけなのですが。
落ち着いてきた頃合いを見計らい、背中を優しくさすってあげると、その振動が灰猫の身体を伝わりおっぱいがぷるぷると小さく震えます。
背中から覗き込んでいるので、その動きは私には丸見えでした。
「それじゃ次は腕周りをほぐすわね」
「ん……」
しっかり聞いているのかいないのか、虚ろな返事を耳にしながら今度は二の腕から指先までをさすり下ろすようにしてマッサージしていきます。
何度か往復させたところで、そのまま脇の下へと指を当てます。
「んっ……!」
脇の下から横腹を揉みほぐしつつ、そっと胸元に――外側の部分へ指を当てます。
そのボリューム感は、さすがは乱菊さんの斬魄刀と言ったところでしょうか。灰猫もまた彼女に負けず劣らずに立派な
軽く触れただけでも弾き飛ばされそうなほど弾力があるのに、たぷんたぷんと音を立てそうなくらいに揺れています。
その迫力は、視線を逸らすのが難しくなるほどでした。
「このままお腹から胸回りをほぐすわよ?」
「あ……う……っ……」
まずは脇腹からお腹周りをまさぐっていきます。
腰からお腹には無駄な脂肪がまるでなくて、実にすらりとしていました。
スッと縦に刻まれたおへそがまた色気を誘います。
「あ……にゃ……あぁ……」
下腹部を少し押し込んでやると、焦れたような催促するような声が漏れてきました。
背中から手を伸ばす私に灰猫は身体をくねらせ、背中からお尻をこすりつけながら「もっともっと」と無言のアピールをしてきました。
「ん? ここが気持ちいいの?」
「…………」
「そう。ちゃんとアピールできて偉いわよ」
「…………っ!」
無言で頷くのを確認すると、彼女のリクエスト通り下腹部へのマッサージを続けます。
「は……っ……や……だめっ……あ……っ……!」
絶妙な力加減で指先を押し込み、指圧の要領で何度も刺激を与えていくと、甘く蕩けるような嬌声が何度も響いてきました。
むずむずとした感覚に襲われたように灰猫は身体を小刻みに痙攣させながら、もどかしそうに私に身体を擦りつけてきます。
その様子は、私に何かを訴えかけているようでした。
「次は胸よ」
「ふああっ……! ちょ、ちょっと待って……!!」
やがて、十分に下腹部へ刺激を与えたところでゆるゆると両手を這い上がらせ、巨大な膨らみを掬い上げます。
すると流石に刺激が強すぎたのか、身体を大きく仰け反らせつつ全身を緊張させました。
警戒するような眼差しで肩越しに私の方を睨んできます。
「どうかしたの?」
「だ、だって……む、胸……!!」
「ああ、そのこと? ちょっと形を整えるだけよ」
「かたち……ええっ!?」
「普通のことよ? 女性死神だったらみんな経験してるんだから」
「み、みんなって……嘘ッ、そうなの!?」
「それよりほらほら、全身に力が入ってるわよ……力を抜いて……大きく息を吸って、吐いて……」
「ふ、普通のこと……すう……はぁ……これは普通のこと……」
予想外に素直に深呼吸をしてくれました。
力が込められていたはずの四肢はゆっくりと脱力していき、先ほどの問答が嘘のように静かになっていきます。
ひょっとして、少し前に掛けた暗示が続いていたのかしらね?
「それじゃあ再開するわよ」
「うん……あ……っ!!」
それでいて手の中ではぷるぷると可愛らしく震え、指の隙間からそっと逃げだそうとしています。
「乱菊さんもだけど、灰猫も随分大きいわよね」
「え……んっ! そ、そう……かな……くぅん……っ!!」
手の平を押し当てると、柔らかな感触が両手いっぱいに広がっていきますね。
脇の下のお肉を集めてもっと大きくなるようにと指を動かし、下から上へと刺激を集中させていけば、灰猫の吐息がみるみる弾んでいきます。
「ええ、勿論。相手なんてよりどりみどりでしょう?」
「べ……べつに……ひゃんっ! そ、んなの……あ、いやぁ……っ……!」
刺激と振動が頂点に集まっていく気持ち良さと、褒められたことの嬉しさが相まって感じているらしく、顔を真っ赤にしながら甘い鳴き声を漏らしています。
背中が弓なりに反らしながら、それでも拒絶することなく私の指の動きを受け入れてくれました。
「だめっ……そこ、だめな……とこ……~~~っ!!」
両方の人差し指で天辺の尖ったところを軽く擦ると、切なそうな声が上がります。
せっかく脱力して消えていたはずの緊張の糸が再び身体を走り、ぞくぞくと背筋をびくつかせながら言葉を失いました。
形の良い唇は半開きで震えており、ほんの僅かに飛び出た舌先が艶めかしく蠢きます。
「気持ちよかった? でも、もうちょっとだけ我慢してね」
「はぁ……はぁ……」
ぐったりとした様子で深く呼吸を続ける灰猫に声を掛けながら、最後の一押しとばかりに片手を放すと腰の辺り――いわゆる尻尾の付け根辺りに指を這わせました。
「はぁ……ぁぁぁっ!! ひゃ、んんん~~~~ッ!! 」
尾の付け根から尾の根元の辺りを少し強めに、トントンと叩くように触れていけば、一番の嬌声が上がりました。
猫はこの辺りが神経が一番集まっている部分なので、もしやと思ったのですが……どうやら正解だったみたいです。
まあ、背中を撫でていたときに軽く反応確認はしていましたけれど。
「やっ……だめ、う……んッ! あ……はぁ……ッ! く……っ……!! んんんんッ!!」
尾てい骨の辺りを指圧されつつ、豊胸マッサージをされる。
二つの強烈な刺激に灰猫は絶叫を上げつつ、とうとう意識を手放しました。
「あら、灰猫?」
日番谷と氷輪丸の意地の張り合いという大暴れもようやく終わり、十番隊敷地内の後片付けをしていたときのことだ。
作業の最中乱菊はふと気配を感じて、顔を上げる。
そこには彼女の感じたとおり、実体化した灰猫が立ちつくしていた。
両手を後ろ手にして、バツの悪そうに頬を染めて視線を逸らしながらも、決して逃げだそうとはせずに乱菊の視線を受け止めていた。
「どうしたのアンタ、四番隊で待ってろって言ったでしょう?」
「い、いいでしょ別に!!」
「はっはーん、さては迷惑掛けすぎて追い出されたんでしょう? それで仕方なく戻ってきたってところかしら?」
「違うってば!! ただ……その……」
意地悪そうに薄く笑いながらそう告げる乱菊の言葉を強く否定すると、灰猫は乱菊へそっと身体をこすりつけた。
「……は? 何してんの」
「な、何って……それは……て……」
「て?」
「手伝いに来たの! あんた一人じゃ大変だと思って……!! それと……」
「それと?」
「……勝手にスネて逃げちゃって、ごめん……」
そこまで必死に言い終えると、灰猫は耐えきれなくなったように乱菊から顔を背ける。
とはいえ背けたのは顔だけだ。
身体は未だに擦りつけており、それどころか先ほどよりもより強く密着させてくる。
「……あー、なるほどなるほど。そういうことね」
「……ッ!!」
しばらく戸惑っていた乱菊であったが、やがて得心がいったとばかりニヤリと笑う。
灰猫の行動。
それは猫が飼い主にすりすりと身体を擦りつけるのと同じ。
口では恥ずかしくて言えない「親愛」や「甘えたい」「寂しいからもっと傍にいて欲しい」といった感情を精一杯に訴えかけていたのだ。
そんな内なる本心を見抜かれたことに気付き、「恥ずかしい」と思うと同時に「気付いて貰えて嬉しい」というごちゃ混ぜの感情で灰猫は顔を真っ赤にする。
「ほら、早く早く!! まだやること残ってるんでしょ!? アタシが手伝ってあげるから、ぱぱっと終わらせちゃおうよ!!」
「あ、コラ! 背中を押すんじゃないの!」
「良いじゃん別に!」
そして好意と羞恥の入り交じった名状しがたい感情を隠すかのように、灰猫は急いで乱菊の後ろへ回りこむと急かすように背中を押す。
押される乱菊も、嘆息しつつもまんざらでもないといった表情で笑みを浮かべていた。
「まったく、素直じゃないんだから……」
そんな二人の姿を、
健診終了後、まだ残っていた暗示を利用して灰猫へ「もう少し素直になるように」と促したのだが、効き目は想像以上だったようだ。
乱菊と灰猫の二人が仲良く歩いている姿に、ようやく一仕事終わったと胸を撫で下ろす。
さて、次は――
「――灰猫が占領していた病室の掃除、かしらね……はぁ……」
あの荒れた部屋を思い出し、重々しい溜息を吐き出していた。
今回のコンセプトは「にゃんこを撫でる」ような感じです。
灰猫は猫耳じゃなくて、普通に耳があってアレは髪型でいいのよね……?