お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第211話 斬魄刀とキャッキャウフフするのもこれで終わりです

『三話ほど拙者の出番がなかったでござるよ……』

 

 仕方がないでしょ、基本的にマッサージ話の時には射干玉の出番は無しのスタンスなの。

 ……あくまで、基本的にはね。

 

『ときどき我慢出来なくなって暴走してしまうでござるよ!! いやはやまったく、藍俚(あいり)殿は我慢出来ずにすぐおねだりしてしまうでござるからな……』

 

 ところで、誰が良かった?

 

『うーん……やはり花天狂骨殿でござるよ!! あんなスケベな肉体を好き放題できるなどと! 京楽殿も大変でござるな!!』

 

 ああ、確かに……凄い斬魄刀だったわね……

 

『いやもう本当に! あの二人は色々と(・・・)凄い斬魄刀なのでござるよ!!』

 

 …………色々と?

 

『ああっ! ですが袖白雪殿も捨てがたいでござるな!! 最も美しい斬魄刀と評判の相手を拙者の色に染め上げる!! 洗い立ての真っ白なシーツを泥で汚すような背徳的な快感!! とってもとっても綺麗で透き通るようなお水であっても、一滴の泥水が混ざればそれはもうただの泥水として捨てられる!! ……って誰が泥水でござるか!?』

 

 なんだか怪しいわね……強引に話題転換しようとしていない?

 

『なんのことでござるか? 拙者は別に藍俚(あいり)殿の知らぬことなど何にも言っていないでござるよ』

 

 うん、京楽隊長の斬魄刀は何か訳ありなのはわかったわ。

 その辺りも含めて、ゆっくり問い質したいところなんだけれど……

 

 

 

 残念ながら、もうお別れの時間なんです。

 

『なんと!!』

 

 と言っても「斬魄刀の実体化が期限切れ間近」という訳なんですけどね。

 予め実体化限界までの大凡の期日は各々に伝えていますし、斬魄刀の皆さんも「明日くらいが実体化の限界だな」というのは、感覚的に分かるんです。

 

 つまり、実体化した斬魄刀と同じ体験が出来るのは、今日まで。

 最終日――最後の時間をどう過ごすかは、それぞれの斬魄刀と死神の自由です。

 

 斬魄刀のワガママを聞くのもよし。

 普段と変わらずに過ごすのもよし。

 一緒に修行するのもよし。

 喧嘩し続けるのもよし。

 刃禅すれば会えるのだからと、ゆったり構えるのもよし。

 

『セクハラするのもよし! でござるな!!』

 

 ……重ねて言いますが、その辺は斬魄刀と死神の問題ですので。何をやるかは各人にお任せです。

 そして、ウチの場合はですね――

 

「っうわああああぁぁっ! かっっっっっっっわいいいぃぃっ!!」

「……っ!!」

「い、井上……その辺にしておけ……」

 

 実体化した凍雲を見るなり、織姫さんが喜色満面の感極まったような悲鳴を上げました。

 並んでいた茶渡君が引き攣った表情を浮かべながら諫めようとしていますが、はてさてその言葉は聞いているのかいないのか。

 

 凍雲はといえば完全に怯えてしまい、勇音の後ろに隠れてしまいました。

 

「駄目ですよ、織姫さん。凍雲ちゃんは人見知りなんですから」

「ええ、そうです。私だって同じ斬魄刀なのに、最初は全然……懐くどころか目も合わせて貰えなかったんですから……」

「俺は……まだ逃げられる……」

「あ、あはは……侘助、そう落ち込まないで……」

 

 ――ウチの場合は、最後の思い出作りをしようということになったの。

 斬魄刀実体化事件のことを知っている織姫さんたちを呼んで、先遣隊の桃とイヅル君らと一緒に送迎会みたいなことをすることになったんだけど。

 

 織姫さんが凍雲を見た途端にああなりまして……

 

「パパ……ママ……」

「よしよし、織姫さんは怖くないから」

「そうですよ。だからちゃんと、御挨拶しましょうね」

 

 凍雲は凍雲で、私たちの後ろで怯えながら今にも泣き出しそうになっています。

 とはいえこのまま隠れたまま挨拶もしないのは失礼すぎるので。私は凍雲の気持ちを落ち着かせるように背中をさすり、勇音はゆっくり前へと促します。

 私たちのそんな行動を、織姫さんが目を丸くしながら見ていました。

 

「うわぁ……なんだか湯川さんと虎徹さん、ご夫婦みたいですね……」

「えっ……!? わ、私と隊長が……ふぅ……そんな、えへへ……」

「…………」

 

 夫婦と呼ばれたことがそんなに嬉しいのか、勇音は自分で自分を抱きしめながらくねくねと動いています。

 ただまあ、その様子に機嫌を悪くした子もいるんですが。

 

「まあまあ……隊長と副隊長だからね、女房役とでも言えば良いのかしら? 勇音とも長いし……あ!」

「………………」

 

 そこまで言って気付きました。

 さらに機嫌が悪くなってます。

 

『具体的には三点リーダーが増えてるでござるよ!!』

 

 フォローじゃなくて、これじゃ逆効果じゃない!! 惚気てるのと代わらないわよこれ!

 うわぁ……どうしよう……

 

 心の中で頭を抱えていると、凍雲が自分から前に出て行きました。

 織姫さんじゃなくて、茶渡君の前に。

 

「……ム? な、なんだ……?」

「あのね、凍雲っていうの……」

「そうか……俺は茶渡泰虎だ。よろしく」

「うんっ」

 

 なんだか茶渡君には懐いているわね。

 

「うう……茶渡君、いいなぁ……」

 

 織姫さんの様子はもう、見なかったことにしようかしら。

 

「あのね、パパとママと一緒に、いっぱいおかし作ったの。だから、いっしょに食べよ」

「む、いやその、すまんが……この後は……」

「実は茶渡君、狛村隊長にも呼ばれているんです。約束した時間の関係で、四番隊(ウチ)に先に顔を出したんですけど……その、そろそろ時間で……」

 

 本当に申し訳なさそうに頭を下げる茶渡君を庇うかのように、イヅル君が事情を説明してくれます。

 しかしまあ、七番隊(あっち)にも呼ばれていたなんて……本当に気に入ってるのね。

 

『人気者でござるな!!』

 

「だめ、なの……?」

「……すまない」

「まあまあ凍雲、そういうことなら仕方ないわよ。その代わり――と言ったら何だけれど、はいこれ。持って行って」

 

 瞳の端に涙を潤ませながら不安そうに見上げる凍雲に向けて、再度茶渡君は頭を深々と下げます。

 私はそんな二人の前に割って入ると懐から大きめの包みを二つ取り出し、押しつけるように渡します。

 

「……これは?」

「本当はお土産に渡す予定だったんだけどね。中身は凍雲が一生懸命に作ったクッキーよ。あっちで狛村隊長と一緒にでも食べて。凍雲も、それで良いでしょ?」

「うんっ」

 

 よかった、なんとか笑ってくれたわ。

 

『泣く子と泣く幼女と、泣く少女と泣く美女には勝てんでござるよ』

 

「それでは、すまないが……」

「あっ、僕も一緒に行くよ。まだ茶渡君はこの辺りの地理に不慣れだろう?」

「いいのか……? いや、すまない。助かった」

「そういうわけで隊長、申し訳ありませんが……」

「わかったわ。ちゃんと案内してあげてね」

 

 名残惜しそうに四番隊を去ろうとする茶渡君にイヅル君が付き添い、二人は四番隊を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 その後、茶渡君たち抜きの送迎会――実態はお茶会みたいなものだけどね――を始めました。

 送迎会と言っても、大したことはしていません。

 ただお菓子を食べてお茶を飲んで、他愛もないお喋りを続けただけです。

 

 そうやって、しばらく時間が経過した頃でしょうか。

 

「……っ!!  凍雲さん、そろそろ……」

「うん……」

 

 何かに気付いたように飛梅と凍雲は顔を見合わせ、どちらともなく頷き合いました。

 その様子に、この場の全員が気付きます。

 

 ……もうタイムリミットなのだと。

 

「皆さん、お世話になりました」

「パパ、ママ……ありがとう。とっても楽しかった」

「飛梅……ううん、私の方こそあなたにいっぱい助けて貰って……」

「凍雲……!」

 

 斬魄刀と、その持ち主の二人はまるで今生の別れのようにお互いに手を握り合い、別れを惜しんでいます。

 なんでかしらね……ちょっとだけ疎外感を感じるわ。

 

藍俚(あいり)殿には拙者がいるでござるよ!! 拙者なら手と言わず全身を余すところなく抱きしめてあげられるでござる!!』

 

 ……そうね。

 

「それと湯川さん。桃さんはとっても良い子なんです。だから是非、お願いしますね」

「パパ……ママのこと、きらいになっちゃだめだよ。めっ、なんだからね!」

「ええ、わかったわ」

 

 ええっ!?

 まさか最後の最後に、斬魄刀たちからこんなことを言われるなんて思わなかったわ。

 い、一応頷いてはおいたけれど……

 

『こうでも言っておかねえと、死んでも死にきれねえ!! って感じでござるな』

 

「ああ、もう本当に……時間、みた……い……」

「さよ……う……な……」

 

 私たちの目の前で、二人の姿がゆっくりと消えていきました。

 まるで春の淡雪のように、僅かな余韻だけを残しながら……

 

 

 

 今頃はきっと、他の斬魄刀たちも実体化が解けている頃でしょう。

 

 

 

 朽木響河から端を発した今回の事件も、これで完全に終息を迎えました。

 

 

 

 

 

 

「本日はお招き頂き、ありがとうございました。今日は本当に楽しかったです」

 

 織姫さんは笑顔でお礼の言葉を口にしています。

 その隣には桃が並んで立っていて、二人の後ろには穿界門(せんかいもん)がぽっかりと口を開けていました。

 

 送迎会も終わり、二人とも現世に帰ることとなりました。

 本当ならば一晩くらい泊めてあげたいのですが、織姫さんはまだ学生ですからね。日の高いうちに帰してあげないと。

 何か手違いがあった日にはこちらの責任問題にもなりかねません。

 

 なので四番隊の穿界門(せんかいもん)で現世へと送り返すこととなりました。

 勿論、付き添いは桃です。彼女の現世任務もまだ終わってませんから。

 きっと今頃は、七番隊で同じようなことになっているんでしょうね。狛村隊長が茶渡君と握手してたり、それを見て困った表情をしているイヅル君や射場さんの様子が目に浮かぶようだわ。

 

「それじゃあ、失礼します」

「隊長、行ってきます」

「ええ、それじゃあまたね」

 

 私たちが見送る中、二人は門の向こうへと消えていきました。

 

 

 

 織姫さんが姿を消したという知らせを受けたのは、そのしばらく後のことでした。

 




名残惜しいですが。
次からは虚圏突入編に、イクゾー! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ! デッデッデデデデ!(カーン)デデデデ!
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