お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第214話 覚悟の断界

「凍雲ちゃん、本当に可愛かったなぁ……」

「そうですよね。私も、まさか虎徹副隊長の斬魄刀があんなに可愛いなんて、思わなかったな」

 

 紫色のおどろおどろしい壁に、見ているだけで不安になる足下。

 そんな場所に似つかわしくない、二人の女性の楽しげな声が断界(だんがい)に木霊していた。

 

 話題の内容は、つい先ほどまで行われていた"実体化した斬魄刀へのお別れ会"についてである。

 送別会も無事に終わり、織姫と桃の二人は穿界門(せんかいもん)を通って現世へと戻る最中であった。

 

「だよねだよね! 虎徹さん、背が高くってカッコいいのに。なんであんなに斬魄刀は可愛いのかな?」

「副隊長、背が高いの気にしていたんだ」

「ええっ! そうだったの!?」

「うん、そうだよ。先生――隊長と知り合ってからは平気になったらしいんだけど、斬魄刀はその前から貰ってたから。その頃の影響を受けてあんな姿で実体化したみたい」

 

 あまり死神や斬魄刀に詳しくない織姫へ、桃が知識を補完して説明していく。

 

「湯川さんかぁ……そっか、あの人も背が高いものね……そういえば、湯川さんの斬魄刀ってどんなのなんだっけ?」

「あれ? 織姫さんには説明しなかったっけ? 隊長の斬魄刀は実体化してないよ。隊長は『実体化しなくて良かった……本当に良かった……』って言ってたけれど」

 

 お別れ会をすることも、断界(だんがい)を通って戻ることも、何も落ち度はない。

 もしも落ち度があるとするならば、タイミングだろう。

 

 断界(だんがい)の中という、尸魂界(ソウルソサエティ)との連絡が取りにくい場所の中にいたこと。

 現世へと戻るのを、夕方前の時間に指定したこと。

 そして何よりも。

 

「えっ、そうなの! なんで!?」

「それはね――」

 

 準備が終わり、瞬間を狙う者がいたこと。

 

「なんだ、護衛は一人だけか」

「「……!!」」

 

 桃の言葉を遮るように響いた聞き慣れぬ声に、二人は身体を強ばらせた。

 今いる場所は断界(だんがい)――現世と尸魂界(ソウルソサエティ)との間に存在する空間であり、特殊な方法を用いなければそう易々と侵入できるような場所ではない。

 にもかかわらず、誰かの声が聞こえる。

 それは何らかの異常が起きていることの証明でもあった。

 

「最も危険が高いのは、移動の時だということを知らんらしい」

「誰!?」

「この、声は……」

「ましてや護衛対象とのんびりとお喋りか。こちらから狙った瞬間とはいえ、死神というのは予想以上に無能だな」

 

 聞き覚えのある声に織姫は身を竦ませ、桃が斬魄刀を引き抜いて戦闘態勢に入る。

 互いに警戒しつつ声のする方へと視線を向け、織姫は瞳に恐怖を宿らせた。

 

「だが煩わしい拘流(こうりゅう)の動きが固定されていたのは都合が良かった。話をするのに時間を急ぐのは性に合わんからな」

 

 解空(デスコレール)の向こうから、破面(アランカル)・ウルキオラが無感情な瞳で彼女のことを凝視していたからだ。

 隣にいる桃のことなど歯牙にも掛けずに。

 

「あ、あの時の……」

 

 かつて現世へと現れた破面(アランカル)――名前は、一緒にいたヤミーが口にしていたが覚えていない――の姿に、織姫は心が恐怖で塗り潰されそうになる。

 

「あなた、破面(アランカル)……それも十刃(エスパーダ)ね!!」

 

 桃は、報告としては知っていたがまさか目の前の相手がそうだとは知らず、けれども霊圧の高さから十刃(エスパーダ)ではないかとアタリを付けていた。

 自分よりも格上の霊圧を放つ相手に心を折られそうになりつつ、必死で己を鼓舞しながら叫ぶ。

 

「……」

「まって! 桃さん逃げてええぇぇっ!!」

 

 桃の言葉を耳にしつつも、ウルキオラは無言で片手を振り上げる。

 たったそれだけの動作に猛烈な悪寒を感じ、織姫は叫んだ。

 

「くっ……!! う、うう……」

「桃さん……!! そ、それ……」

 

 叫び声が上がるよりも先に、ウルキオラは片手から虚弾(バラ)を放つ。

 桃を目掛けて放たれたその一撃を、彼女はなんとか察知し身を捻って躱す。だが、完全回避とまではいかなかったようだ。

 圧倒的な速度で放たれた虚弾(バラ)は、彼女の知覚を超えていたらしい。死覇装はズタズタに引き裂かれ、左半身から大量に出血していた。

 

「半身を抉り取るつもりだったが……無能だが無力ではないようだな」

「褒められても……ぜんっぜん! 嬉しくなんて、ない……っ! 弾け、飛梅!! はああぁっ!!」

 

 激痛に苛まれ、倒れ込んでしまいたい気持ちを精神力でねじ伏せながら、桃は斬魄刀を始解させた。

 同時に無数の火球をウルキオラへ向けて放つ。

 

「だが、なまじ力がある分だけ余計に苦しむこととなる」

 

 火球のつぶてが向かう先に、ウルキオラの姿はなかった。

 彼は瞬時に桃の背後へと回り込むと――

 

「……こふっ」

 

 ――手刀で腹を刺し貫いた。

 

「雛森、さん……?」

 

 両腕が力なくだらりと下がり、その手から斬魄刀がこぼれ落ちた。

 床に激突した刀身がガシャンと冷たい金属音を奏でる。

 

「いやあああああああああぁぁっ!!」

 

 織姫の悲鳴が響く中、桃の口から大量の鮮血が溢れ出した。

 

 

 

「騒がしいことだな。この死神はまだ死してなどいないというのに」

「な……!?」

「喋るな。動くな。言葉は『はい』だ。それ以外を喋れば殺す」

 

 生きている――ウルキオラのその言葉に、織姫は僅かに冷静さを取り戻した。

 大切な友人の命を守ろうと盾舜六花の能力を発動させようとするが、ウルキオラの言葉に行動を縫い止められる。

 

「"お前を"じゃない。まずはこの死神を」

「……ぅ」

「……!」

 

 血に濡れた片腕をウルキオラは見せつけるように揺らす。

 激痛が走ったのだろう、虚ろな表情の桃の口から小さく声が響く。生きていたことに安堵して叫ぼうとする織姫であったが、直前に投げ掛けられた言葉を思い出し必死にその言葉を飲み込んだ。

 

「よく我慢したな、叫んでいれば殺すところだった。コイツを……そして"お前の仲間を"」

「……っ!」

 

 空間内に映像が浮かび上がった。

 そこには黒崎一護、志波海燕、斑目一角……破面(アランカル)たちと戦う現世の織姫の知り合いたちの姿が映し出されている。

 

「何も問うな、何も語るな、あらゆる権利はお前に無い。お前がその手に握っているのは仲間の首に据えられたギロチンの紐、それだけだ。理解しろ女。これは交渉じゃない。命令だ。そして命令は一つ、俺と来い。それだけだ」

「ふ、ざけ……な……」

「ッ!!」

 

 一方的に告げられるウルキオラの言葉に、異が唱えられた。

 

「織姫、さ……にげ……」

 

 背中から腹を貫かれてなお、桃は力を振り絞る。

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)まで逃げ切れば、きっと織姫は助かる。

 ならば自分に出来ることは、彼女が逃げきるだけの隙を作ることだ。

 ウルキオラの腕を身体から引き抜き、斬魄刀を拾い上げ、腹の傷を塞ぎ、反撃する。それをするだけ。

 四番隊の業務と、時々行われる戦闘訓練を混ぜたようなものだ。

 普段行っていることと、ほとんど変わらない。

 

 ならば可能だと、自分に必死に言い聞かせながら。

 

「私が……がふっ!!」

「桃さん!! ……あっ!!」

 

 だが気力だけでどうにかできるほど、生半可な怪我ではない。

 口から盛大に血塊を吐き出す桃の様子に耐えきれず、織姫は叫んでしまった。

 慌てて口を押さえるが、もはやどうにもならない。

 

「喋ったな? それがお前の答えか――」

「待って!」

 

 桃の頭でも握り潰すかと、もう片方の手を後頭部へ掛けた時だ。

 織姫は椿鬼を呼び出し孤天斬盾をいつでも発動可能な状態へと持って行くと、それを自らの首筋に当てる。

 

「私を連れて行くつもりなんでしょ!? だったら、私が死んだら困ることになるはず!! だから今すぐに桃さんを放して!! 私はあなたと一緒に行くから!!」

「おり……や、め……」

 

 苦痛に表情を歪めつつも、桃は状況を把握しているのだろう。

 桃は必死で片手を上げて織姫を止めようとする。

 

「……良いだろう」

 

 数秒の思案の後、ウルキオラは頷いた。

 後頭部を掴んでいた手を放し、もう片方の手を乱暴に引き抜き投げ捨てる。

 

「げふぉっ……!!」

「俺にはお前を無傷で連れ帰れと命令を受けている。毛の先ほどの傷であろうとも付ければ、命を達成したことにはならん」

 

 地に叩き付けられ、桃の口から再び苦痛が上がった。

 溢れだした血泡が地面に流れ出して、ゆっくりと広がっていく。

 だがウルキオラの意識がそれらに向かうことは無かった。

 

「来い。お前は一度俺の言葉を破った。それ以外は何一つ認めん」

 

 ウルキオラが誘うように手を伸ばす。

 背後で空間が裂け、解空(デスコレール)が音もなく開いた。

 織姫はゆっくり頷くと、その手を取る。

 

 ――桃さん、治してあげられなくてごめんなさい……

 

 心の中で、そう幾度も謝りながら。

 「それ以外は何一つ認めん」と言った以上、目の前の相手は本当に桃の事を殺すだろう。それこそ「治療させてほしい」と口にしただけでも。

 今の織姫にできることは、ただ黙ってウルキオラに従うことだけ。

 それが、回り回って桃を救うことに繋がるのだと、己に言い聞かせながら。

 

 二人の姿が、空間の向こうへと消えていく。

 

「おり……ひ……さん……」

 

 視線の先で空間がゆっくりと閉じていく。

 桃に出来るのは、地に伏してそれを眺めるだけだ。

 

「だめ、泣いてちゃ……知らせなきゃ……!」

 

 やがて、完全に閉じてから一分ほど経過しただろうか。桃はよろよろと身体を動かし始めた。顔色も幾分かは良くなり、呼吸も落ち着いている。先ほどまでとは雲泥の差だ。

 

 地に叩き付けられた瞬間から、桃は回道を唱えていた。

 意識を必死に繋ぎ止めながら腹に開いた大穴を必死で塞ぎ、織姫を逃がそうと抜け目なく画策していた。

 とはいえその狙いは叶わなかったのだが、彼女にはまだやるべきことがある。

 

 近くに落ちていた己の斬魄刀を掴むと、それを杖代わりに身を起こそうとする。

 

「あぐっ!!」

 

 だが血を流しすぎたのか、おぼつかない足元は容易に取られてしまった。

 自ら生み出した血だまりに顔を突っ込みながら「歩くのは無理か」と悟ると、その場からゆっくりと這い出していく。

 

「知らせなきゃ……今の私に出来るのは……それくらいだから……」

 

 来た時とは真逆の、なんとも重々しい足取りで、桃は尸魂界(ソウルソサエティ)へ向けて懸命に進んでいった。

 




桃は頑張ったよ(現在は「止まるんじゃねえぞ」状態)

●原作のこのシーン
一緒にいたモブ死神二人
(一人は左半身が吹き飛んでる(心臓間違いなく止まってる)
 一人は胸元まるまる吹き飛んでる(心臓もその他内臓も吹き飛んでる))

を治す織姫って本当にチートだと再認識
(普通は即死、治しても出血過多で無理だと思う)

でもあの二人、生きて戻っても、もう戦えないだろうな……
死の恐怖が強すぎて心が病みそう。
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