お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第217話 虚圏に殴り込みたい人 この指とーまれっ!

 もう外はすっかり陽が落ちて、暗くなっています。窓の外も闇しか見えず、扉の外からは夜勤の隊士たちの気配が伝わってきます。

 夕方に桃の大怪我(あんなこと)があったからでしょうか、今日のみんなは少し緊張しているみたい。まだ明確に命令は出ていないというのに、決戦の日が近いと雰囲気で察しているのかしら。

 

「普段からこの程度は緊張しててもいいかもね……」

 

 電灯の明かりに包まれた病室の中でそんなことを考えていると、目の前の桃がゆっくりと目を覚ましました。

 

「あれ……ここ……は……?」

「気がついた?」

 

 (とこ)に伏したままの呟く桃の顔を上から覗き込むと、彼女は驚いたように数回瞬きを繰り返したかと思えば勢いよく身体を起こしました。

 

 ……麻酔はとっくに切れていたはずなんだけど、意識を取り戻すのに私の予想からさらに三時間かぁ……

 痛がらずに起き上がったってことは、施術も傷跡の治療も含めて問題なさそうね。

 ただやっぱり顔色が少し悪いし、動きも若干キレが悪い。麻酔は抜けているはずだから、疲労と出血多量に伴う体力低下、なにより精神的に弱ってるのもあるわね。

 

「……? ……ぇ! 先生!? ここは!? あれ、私たしか……? なんで……??」

「落ち着いて。自分の身に何があったかは思い出せる?」

「え、えっと……そうです! 破面(アランカル)に傷を……あれ……傷が……」

 

 まず最初に思い出すのがそこなのね。

 彼女は患者衣を乱暴に捲り上げると、自分のお腹を確認し始めました。

 必死で記憶を思い出そうとしているのか、はたまた記憶と実際の身体との齟齬に違和感があるのか、ゆっくりと傷口の辺りを撫で回しています。

 

『おおっ! 無防備に捲っているので雛森殿の可愛いおっぱいが丸見えでござるよ!! 患者衣なのでノーブラ! 丸見え! 見放題でござる!! 入院着というのも良い物でござるな!! この地味な格好がそそりまくりでござるよ!!』

 

「治したわよ。ああでも、まだ触っちゃ駄目よ」

「先生が、治してくれたんですか……? でも、どうして……私、あの場所で……そうだ! 織姫さん! 私、織姫さんのことを守り切れなくって……あ、ああっ!!」

「落ち着いて」

 

 撫で回している間に記憶が蘇ったのか、顔を真っ青にしながら頭を抱え始めました。なので、まずは落ち着けるように優しく抱きしめます。

 

「あ……っ……」

「何があったか、現場から大体察しは付いているわ。でもね、もう一度。桃の口からちゃんと聞きたいの。だから、ゆっくりでいいの。なにがあったか教えて貰える?」

「は、はい……実は……」

 

 胸の中で優しく抱きしめながら耳元で囁けば、桃は顔を真っ赤にしながら教えてくれました。

 

『まーた藍俚(あいり)殿が誑かしてるでござるよ』

 

 ということで桃への事情聴取は終わりです。

 

『もう終わりでござるか!?』

 

 現場検証で分かった事に加えて、原作知識もあるので。勝手知ったるなんとやら。

 何より、もうみんな分かってることだもの。

 今更「ウルキオラが現れて拉致しました。桃は頑張ったけれど負けて、それでも知らせようとしてくれた」なんて部分を長々描写してもねぇ……

 

『おや、名前を思い出したでござるか?』

 

 ……そう言われればそうね。アレ、ウルキオラって名前だったのね。よし、覚えたわ。三日くらいは忘れない。

 

「そう……桃、よく頑張ったわね」

「でも先生……私、私……織姫さんを……せっかく、せっかくお友達になれたのに……!!」

「よしよし」

 

 私の胸に顔を埋めながら涙を流し嗚咽を漏らす桃の頭を、ゆっくりと撫でます。

 

「その悔しい気持ちを、雪辱を果たしたいって思う?」

「ふぇ……? そ、それは当然です! でも、私……」

「だったら、今は身体を休めなさい」

「どういう意味……なんでしょうか……?」

 

 上目遣いで聞いてきますが、今はまだ詳細は教えられません。

 

「まだ確約は出来ないけれど、その機会は確実にあるわ。今のあなたに出来ることは一日でも……一分でも多く休んで、心身共に完調させること。できる?」

「はいっ! よくわかりませんけれど、分かりました!!」

「それじゃあ、今日はもうおやすみなさい。あ、これはお薬だから。ちゃんと飲んで休むこと」

 

 言えないわよねぇ……

 

 ――もういっそ虚圏(ウェコムンド)突入時の一護に仲間として阿散井君たちを加えちゃおうって考えてるなんて。しかもその時のメンバーは、海燕さんら先遣隊から選抜するのが一番確実。そこにねじ込むから完全回復しておけ――と考えてるなんてことは……

 

『やっぱりそうなるでござるな』

 

 人数余ってるんだし、いいじゃない。

 

『別に余ってるわけではないと思いますが……』

 

 

 

 

 

 

「おい湯川!! 雛森が大怪我したって、そりゃ一体どういうことだ!!」

「落ち着かんか日番谷!!」

 

 明けて翌日です。

 前日の取り決め通り朝から隊首会の開催――となるはずだったんですが。総隊長が開催の宣言をするよりも早く、シロちゃんが突っかかってきました。

 

 やっぱりこうなりましたか。

 おかしいわね……こうならないように、四番隊(ウチ)の子には翌日まで箝口令を敷いたのに……

 

『もう陽が明けてるから、誰かが喋ったのでは?』

 

 ……二十四時間って言うべきだったか……

 

「止めんな! コイツが……この女がもっとしっかりしてりゃ……!!」

「此度の議題は、まさにそのことについてじゃ。加えて渦中の雛森は昨日の深夜に意識を取り戻し、湯川が事情の聴取をしたと報告を受けておる。湯川よ、まずは説明せい」

「はい――」

 

 ということで、全員への現在の状況説明と、昨日総隊長と話した内容が共有されました。

 

「相変わらず藍俚(あいり)ちゃんは大胆なことを考えるねぇ……」

「はは、また随分と凄いんですね藍俚(あいり)さん」

 

 一通りの説明が終わると、そんな感想が出てきました。

 

「なるほど、湯川の考えはわかった。ということは、一護君たちと一緒に行く死神を選定したい――ということで良いんですか?」

「うむ。じゃがそれは先遣隊の面子からで問題なかろう。腕も立ち、人柄も互いに知っておる。連携も取りやすかろうて」

 

 浮竹隊長の言葉に総隊長は頷きました。

 

「なら、海燕たちに早速……」

「ちょい待った浮竹、その事情を説明するのは先遣隊を引き上げてからって話の筈だよ」

「あ……ああ、そうだったな。すまない」

 

 どこに目や耳があるか、分かりませんからね。

 こういった情報はできるだけ伏せて、極秘裏かつ少人数にだけ伝えるのが基本です。

 ……藍染相手に効果の程はともかくとして。

 

「部下たちを思うその心意気は評価しよう。じゃが議題はもう一つある。むしろ、それが本題と言って良かろう」

「もう一つ……元柳斎殿、それは一体……?」

「決まっておる。此度の黒崎一護の援護には、隊長格も送り込むということじゃ」

「「「「ッ!?」」」」

 

 ほぼ全ての隊長が、口には出さないものの息を呑むのが感じられました。

 

「それはつまり……」

「我々が虚圏(ウェコムンド)まで行く、ということですか……」

「ホホウ、それはそれは……面白そうだネ」

 

 卯ノ花隊長と涅隊長が、実にウキウキしています。

 

「その通り。敵地に乗り込む以上、現世での任務以上に危険が予想されるのでな。隊長格を出すのもやむなし、といったところじゃ」

「ではまさか本題と仰ったのは、その人選……ですか?」

「うむ」

 

 苦々しい顔で総隊長が頷きました。

 

 ……無理も無いわよねぇ……卯ノ花隊長とか更木副隊長とか、卯ノ花隊長とか更木副隊長とか、嬉々として「俺が、私が、行く!」って言い出すに決まってるもの。

 考えただけで頭が痛くなるわ……

 

「あのー、全員で向かって、そのまま敵の親玉まで倒しちゃう……っていうのは……」

「魅力的な案ではあるが、それはありえん。尸魂界(ソウルソサエティ)を空にすれば、その間に藍染らに襲われるやもしれぬ。同じ理由で重霊地である空座町にも睨みを効かせねばならぬ」

「それに以前、藍俚(あいり)様――もとい、湯川隊長を囮として十一番隊がおびき出された事があったのでな。今回もまた同じ事が起こらんとも限らん」

「ああ、そういえば……しかし、そんなことがあったんですね……」

 

 天貝隊長はあの場にはいませんでしたからね。知らなくても無理はありません。

 

『全戦力で仕留めに行くっていうのも、間違いではないでござるよ!!』

 

「砕蜂の言う通りじゃな。これもまた陽動と言う可能性も有り得るが……いずれにせよ看過することは出来ぬ。そのための隊長の選出じゃ。当然、尸魂界(ソウルソサエティ)の守りも考えねば――」

「では私が参りましょう」

 

 総隊長の言葉を遮って卯ノ花隊長が口を挟みました。

 

「十一番隊である以上、ましてその隊長ともなれば先陣を切るのは当然――」

「それは許可できぬ」

「――な……っ!!」

 

 お返しとばかりに、今度は総隊長が口を挟みます。

 

「卯ノ花よ、お主には守りに就いてもらう。これは決定事項じゃ」

「そんな……何故ですか!!」

「昨日、湯川は儂に『絶対に行く』と啖呵を切りおった。じゃがそれは問題ない。未知の敵地である以上、何か起こるか予測ができん。医療班の長である湯川が行くのは、当然のことじゃ」

「ならば私も……!!」

「四番隊の隊長と同じ程度の回道の腕前を持ち、加えて剣の腕も立つ。その様な者を両名とも虚圏(ウェコムンド)へ送り込むことは許可出来ぬ。万が一ということもあるのでな」

「くっ……」

 

『早い話が「回復役を二人とも手放せない!」ということでござるな!!』

 

 至極真っ当な理由なのよね。

 回復役を残しておきたいという総隊長の判断は、当然と言えば当然。

 

 だから卯ノ花隊長、そんな親の仇を見るような目で私を見ないで……怖いから。

 

「な、ならば十一番隊からは剣八を出しましょう!」

「ふむ、それは許可しよう」

「…………」

 

 まだちょっと納得出来ない、って顔してるわ。

 

「湯川よ、更木の手綱はお主が握るように」

「……え?」

 

 なにそれ、初耳なんだけど!?

 

「私も行かせてもらうとするヨ。言い方を借りれば、未知の素材の宝庫でもある。技術開発局として、是非とも足を運ぶ必要があるのだからネ」

「それも許可しよう。何が起こるか分からぬ場所じゃ、涅の知識が必要にもなろう」

「何があるのか、どのような標本を採取できるのか……ああ、考えただけで笑いが止まらんネ!! 脳内麻薬が溢れ出しそうだヨ!!」

 

『恐ろしい笑顔でござるな……』

 

 で、でもまあ、これほど頼りになる人もいないから……

 

「私も名乗りを上げさせて貰おう」

「むっ、待たれよ朽木隊長! もしやそなた、義妹が心配なだけではあるまいな?」

「失礼な。私はただ、未知の虚圏(ウェコムンド)へと行く者たちの身を案じているだけのこと……」

「ならば儂も名乗りを上げさせて貰うぞ!!」

 

 うわぁ……なんというか、その……

 

『魂胆丸わかりでござるな!!』

 

 二人の顔に「ルキアさんが心配!」「茶渡君が心配!」って書いてあるわね。

 

藍俚(あいり)様が行かれるのでしたら、自分も共に向かいたく思います」

 

 砕蜂、あなたもなの……!?

 

「隠密機動として、井上織姫の奪還を見事果たしてご覧にいれます!」

「何言ってやがる! 敵地に乗り込むのに違いはねえんだ! だったら、腕っ節の方が重要だろうが!! 俺が行く!! 俺が行って、藍染と雛森を傷つけた野郎を――ッ!!」

「俺も立候補していいですかね? ほら、三番隊としてはできるだけ汚名を返上したいので」

 

 シロちゃんと天貝隊長ね。

 

『どっちもちょっとだけ下心があるでござるな!!』

 

「……京楽、浮竹。お主らはどうじゃ?」

「え……?」

「俺たち、ですか……?」

 

 それまで黙っていたからでしょう。

 急に水を向けられて、二人は目を丸くしています。

 

「うーん……そうだねぇ……勘でしかないんだけど、残っておいた方が良さそうかなって……いや、どっちも大変そうではあるんだけどさ」

「俺も残りたいと思っています。何かあったとしても湯川、涅両隊長と更木がいれば、大抵のことには対応出来るはずだし、引き際を誤ることもないでしょう。守りを固めておく方が重要ではないかと」

「ふむ……」

 

 流石にこの二人は良い勘をしていますね。

 特に浮竹隊長の意見は尤もですね。

 慎重すぎる、といえなくもないですが。でもこのくらい慎重さも必要です。

 

 二人の意見に、顎へ手をやりながら総隊長は思案しています。

 場が沈黙に包まれる中、ふと電子音が鳴り響きました。

 

「おや、どうやら霊波障害が解除されたようだネ」

 

 涅隊長が懐から何やら機械を取り出しました。

 アレで計測していたんでしょうか……? それとも技術開発局から連絡が来たんでしょうかね?

 

「丁度良いというべきか。隊首会は一時休止とし、これより現世への連絡と決定事項の通達を行う。浮竹、湯川の両隊長は儂について参れ。他の者は再開の報あるまで待機とする」

「「「「「はっ!!」」」」」

 

 あらら、一時中断ですか。

 でもなんで私も呼ばれたのかしら? 通達だけなら総隊長一人で十分なのに……

 

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