「――手を打っておいて良かった」
総隊長のその言葉と同時に
以前、薬を届けに現世へ行った時に見た――
『薬を届けにというよりも、アレは学校の生徒を揉みに行ったのでは?』
――いいの! 薬を届けに行ったの!!
とにかく以前現世へ行った時に見たのと同じ、賃貸のお部屋ですね。
お部屋の中には海燕さんら先遣隊の面々と一護がいます。
私と一緒に浮竹隊長も登場しています。
現世の光景なんて久しぶりなんでしょうか? 平静を装っていますが、少しだけ物珍しそうに部屋の中を見ていますね。
……あ、急にこんなこと言っても分かりませんよね。
隊首会の途中で霊波障害が除去されたことは覚えていると思います。
なので丁度良い機会だからと、隊首会を一時中断して現世への通信を先に片付けることにしました。
その際に私と浮竹隊長も呼ばれました。
総隊長に「現世と通信をするから、
言われて思い出しましたが、コレって原作では白哉と剣八がやって来ていた気がします。アレの少しだけ変化球版とでも言いましょうか……
『つまりは良い警官と悪い警官! 浮竹殿が冷静かつ理知的に説得する後ろでは、
きっとそうよね! 今回の私は暴力担当!!
伊達に何年も霊術院の特別講師として新入生をボコボコにしてきてない……って誰が大暴れするゴリラよ!?
先遣隊の責任者が海燕さんだから上司の浮竹隊長が! 先遣隊の面々全員に顔が利くから私が! それぞれ選ばれたの!! 多分だけど!!
『壊すも治すも自由自在……いえ、そういうことにしておきましょう』
「隊長……!!」
突然現れた私たちに一護やらルキアさんやらは目を白黒させています。
「元柳斎先生から説明はあっただろう? 全員戻るんだ」
「限定解除は済んでいるし、力尽くでも連れ戻せって厳命を受けているの……だから、素直に従って貰えるかしら?」
一応、待機中に総隊長と現世との通信内容は私も把握しています。
織姫さんが
しかも一護にお別れの挨拶を言いに来ているなんて、捕まっていたら絶対に無理。だから裏切ったに違いない。
同時に
――という一方的な説明ですね。
「湯川さん! あんた、井上を色々教えて面倒見てくれたじゃねえか!! しかも雛森ってあんたの部下だろ!? こんな決定、本当に納得できるのかよ!?」
「……もう一度だけ言うわ。素直に従って貰えるかしら? それとも、無理矢理にでも従わせられたい?」
一護の必死の訴えを、私は努めて感情を表に出さず冷酷になるよう意識して答えます。
納得出来るわけないでしょうが!!
ウチの桃が傷つけられてるのよ!? 一発くらいは殴る! 絶対に殴る!!
でも今は駄目なの!! これは演技なの!! 少しでも
どうせこの通信も傍受とかされてるはずなんだから、だったら囮は派手なくらいにしないと!!
「……そう、かよ……あんたも結局は……くっ!!」
吐き捨てられました。
『でも今は組織の犬を演じるでござるよ! わんわん!! ハッハッハッハッ!! クゥ~ン!! ペロペロ!! でござる!!』
私の通告が効いたわけでないでしょうが、こうして
去り際、
ルキアさんを連れ帰るときも似たような演技をやってるんだけど……阿散井君も一護も気付かないものなのかしら?
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「さて、この中なら良いでしょう……って、前にもこんなこと言ったわね」
そして門が完全に閉じ、外部との繋がりが絶たれたことを確認してから、私はホッと息を一つ吐きました。
「え、あの……それはどういう……ん? んんっ!?」
「なんかこんな台詞、前にもどっかで聞いたことがあるような……」
「そういえば湯川は以前、
既視感を感じてか疑問符を頭の上に沢山浮かべるルキアさんと阿散井君。その横では浮竹隊長がクククと笑いを堪えています。
「え……!? ま、まさか……」
「先生……またですか!?」
「浮竹隊長、そこまで言うのは答えと変わりませんよ?」
「なんだなんだ? こりゃ一体どういうことなんですか!? 隊長! 説明してくださいよ!」
「おい
経験者の二人は察しが良いわね。
それに引き換え未経験者たちは「どういうことだ?」と思い思いに問い詰めてきます。
「はいはい、そう焦らないで。
「俺がか!? いやまあ、構わないが……」
急に話を振られて驚きつつも、浮竹隊長はちゃんと説明してくれました。
『案外
だって、どっちが説明しても大して変わらないし。
『ですがここは発案者の責任として、
――と、射干玉とそんな楽しいお喋りをしている間に説明は終了しました。
『ああっ!!』
「……つまりは、演技……?」
「そういうことだ。一護君の性格からして、一人でも井上さんを助けに行こうとすることは間違いないだろう。なにしろ
「おお、なるほど!」
「朽木ィ!!」
心底納得したように手をポンと叩くルキアさんに、強烈な突っ込みが入りました。
「
「そうやって油断しているところに精鋭戦力で攻め込んで、引っかき回せるだけ引っかき回すってこと。その時には先遣隊の皆にも協力してもらうわよ? 黒崎君たちと一番息が合うのはあなたたちなんだから」
「っしゃあ!! そういうことか!! 腕が鳴るぜ!!」
暴れられると聞いてか、一角が拳を鳴らしました。
……まさか、さっきまでの浮竹隊長の説明、理解してなかったんじゃ……
「あー……その、なんだ斑目……やる気になっているところに水を差すようで悪いんだが……」
「十一番隊からはもう、参加する死神は決定しちゃってるのよね……」
「ああぁん! なんだと!? 誰だソイツは!?」
「更木剣八副隊長よ」
「……!!」
名前を聞いた途端、表情がスッと真顔に戻りましたね。
さっきまで「誰が相手だろうと殴ってでもその権利を奪い取ってやる」みたいな態度を取ってたのに。
「
「卯ノ花隊長も残って指揮を執る、はず……だから……」
『なんできっぱりと言い切らないでござるか?』
指揮を……うん、取ってくれるはずよ……
自己判断で行動しろ、戦うなら勝て、負けるなら死ね。とか言った後で単機突撃とかしないわよね……隊長なんだし……
「だから、十一番隊は待機なの。これ以上は戦力を削れないわ」
「そ、そういうことなら仕方ねえか……」
よかった、納得してもらえたみたい。
「しかしまさか、隊長クラスまで送り込むなんて……なんというか、大胆な……」
「イヅル君も頑張ってね。桃も選抜はされているんだけど、まだ傷が残っているから……もしかするとイヅル君一人に支援が集中することになるかもしれないの」
本人も「絶対に行く!」って聞かないのよね。
強めのお薬で無理矢理間に合うように調整してるんだけど、できればあと二日くらいは欲しい。明後日まで我慢……なんて出来ないわよね一護は……
「だからイヅル君。期待してるわ」
「先生……はいっ! お任せ下さい!!」
「現世での献身的な活躍も再評価されてるし、もう少ししたら隊長に指名とかされちゃうのかしらね?」
「え……ええっ!?」
『まーた
まだ席は残ってるんだし、良いじゃない。言うだけなら只よ。
それに口に出して少しでもやる気を出して貰えれば、侘助だって喜ぶはずだし。
『(ひょっとしてそれは卍解フラグでござるか!?)』
「吉良だけじゃないぞ。一護君の援護に向かう者たちは全員、できるだけ準備はしておけ。すぐに救援に駆けつけられるとは限らないからな」
浮竹隊長が全員に注意喚起をしたところで、
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「……忘れるところだったわ。浦原さんに連絡だけは入れておきましょう」
隊長室から眺める外はもう暗くなり始めていました。
移動と会議だけで一日が終わっちゃったわ。
泣く泣く今日の業務だけでも片付けておこうと思ったところで気付いたので、思わず独白しつつ伝令神機を取り出しました
一護が頼れるのはもう浦原だけですからね。
彼に頼んで
なので一応、浦原に連絡だけはしておきます。
どうせ浦原のことですから、こっちの事情も知っていることでしょう。
なので「一護が早ければ今夜にもそちらに御願いをしに行くだろう」とか「こちらの事情も分かっているだろうからできるだけ協力して欲しい」とか。
そう言った文面で送っておきます。
……これでよし、と。
さて、と……仕事しなきゃ……
………………
…………
……
「おい」
「……え?」
誰もいないはずの隊首室から、私以外の声が聞こえました。
……射干玉かしら?
『呼びましたかな?』
うん、呼んだわ。
『そうでござるか』
あはははは!
……て、そうじゃないわよね。
「突然、音も無く忍び込むのは止めて貰えますか? 夜一さん」
「し、仕方なかろう! どこで砕蜂のやつが潜んでおるか分からん!!」
仕事の手を止めて夜一さんを見てみると、彼女はちょっとだけ落ち着きない様子で周囲を見回していました。
夜一さんはいつもの格好ですが、その上に外套を一枚羽織っています。
どうやらアレで霊圧を遮断しているみたいですね。じゃなければ、幾ら夜一さんが忍び込んできても気配の察知くらいは出来たはずなので。
……まだそんなに苦手なんですか?
「それで、急にやって来てどうしたんです?」
「届け物じゃよ」
小さな風呂敷包みを一つ、手渡してきました。
「これは?」
「以前、お主が喜助に注文しておったじゃろうが――
その言葉に思わず目を見開いて包みを凝視します。
これが……??
急いで結びを解くと、中には小さな機械が一つ入っていました。
具体的言うと、外付けのHDDとかモバイルバッテリーみたいな印象です。
「なんでもそれを伝令神機に取り付けることで、
「なるほど」
外付けバッテリーみたいだと思ったのは、どうやら間違いではなかったみたいですね。
外部装置で増幅させる、とかそんな仕組みなんでしょうか? それに伝令神機という既存のデバイスを利用できるのも高評価です。
「それと、移動手段についてはまだ出来ておらぬそうじゃ。
「なるほど、助かりました」
そういう目端、本当に利きますよねあの男は。
とあれ、通信装置は入手しました。これで少しはなんとかなる……かもしれません。
「それと……じゃ……」
「え……?」
一通りの説明を終えたかと思えば、夜一さんはギロリと鋭い目つきで私を睨んできます。
「
「そんな……!!」
怒れる夜一さんの愚痴に、二時間は付き合わされました。
とほほ……
……あっ!! 現世の仮拠点!! 賃貸契約の解除するの忘れてた!!