お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第221話 十刃落ち

「どこまで行っても道が続いてやがる」

「先が見えないし、どこまで進んでも薄ぼんやりと明るいままだ……」

「これ、本当にどっかに繋がってるのか?」

「ウルセぇぞテメエら!!」

 

 海燕の一喝が響いた。

 

 八つの中から無作為に選んだ一つの回廊を進んでいく八人であったが、進めど進めど代わり映えのしない光景に対して、暇を持て余したのか。それとも疑問と不安で胸が一杯になったのか。

 思わず口から胸の内が言葉となって溢れ出ていた。

 

「お前らの気持ちもわかるけどよ! ここはもう敵の膝元だって言ってんだろ! もう少し緊張感を――ッ!!」

「海燕殿!」

「海燕さん!!」

「わーってる! 破道の四、白雷!!」

 

 何かに気付いた様に海燕は途中で言葉を切り、視線を上に向ける。

 天井近くには何本もの(はり)が等間隔に並んでおり、まるで梯子を倒したように見える。その梁の上から、姿こそ見えぬものの何らかの気配が漂ってきていた。

 ルキアらが叫んだのはそれに一瞬遅れてのことだ。その時には既に海燕は鬼道を唱え終えると、彼らが感じた何者かの霊圧に向けて放っていた。

 指先から放たれた一筋の光がまだ姿の見えぬ相手へと一直線に伸びて行くが、同時に何者かが梁の上を素早く飛び跳ね続け、移動していく気配が伝わってくる。

 

「避けやがった!」

「逃がすか!!」

「こんな場所にいるってことは破面(アランカル)……まさか、藍染から刺客か?」

「ということは、僕たちの侵入は気付かれてたか。当然だろうけどね」

 

 何者かが鬼道を避けたことは全員が即座に感じ取り、それぞれが武器を構えて戦闘態勢を取りながら後を追う。

 全員が冷静に状況を見守る中、謎の気配はさらに天の梁を飛び跳ね続け――

 

「ぬをっ……!!」

 

 足を踏み外し――

 

「をををををををっっっっ!!!!」

 

 盛大に落下した。

 

「えっと……」

「敵、だよなコレ……?」

「こんな場所にいるんですし、破面(アランカル)なのは間違いないかと……」

 

 そのあまりに情けない落下ぶりに、思わず全員の手が止まった。

 天井から勢いよく落っこち、その衝撃で激しく土煙が巻き上がるその光景は、相手が誰であろうと思わず同情してしまう程に衝撃的だった。

 このまま攻撃してよいものかと互いに顔を見合って思案する中、土煙の向こうの影がゆらりと動く。

 

「ジャーーンッ!! ジャンジャジャン! ジャジャンジャーーン!! ジャジャ……ゲホゲホ! ゲッホ! ジャ……ゲーッホ! ジャ、ハーン……ヘイッ!!」

 

 勢いよく歌っているせいで煙を吸い込み盛大に咳き込み続け、何やら珍妙な踊りのようなことをしながら土煙を払い続ける。

 やがて煙の幕が完全に晴れた場所から現れたのは、奇妙なポーズを決める破面(アランカル)であった。

 

「「「「「「「「………………」」」」」」」」

 

 全員の目が遠くなったのは言うまでもない。

 

「ちょ、ちょっと待てえい! なんだそのリアクションは!」

「イヤだって……」

「なんだそのリアクションは!  なんだそのリアクションはーっ!!」

「ウルセーな何回も言うなよ」

「てか、人に指を向けんな。失礼だろうが」

 

 可哀想な物を見るような生暖かい視線を向けられ、全員を順番に指をさしながら抗議していく破面(アランカル)、その姿はなんとも……残念だった。

 

「このドルドーニ様の華麗な登場シーンを目にして――」

「おーし、わかった。お前、破面(アランカル)だよな? 俺たちを倒しに来た敵だよな?」

「尚! その様な……え?」

「お前ら、やるぞ!!」

 

 海燕の合図と同時に、五人の死神たちが一斉に始解した。

 

 

 

「な……納得出来るかああぁぁっ!!」

「ウルセーな、こっちは急いでんだよ。イチイチ消耗してられねえんだ」

 

 大体二分くらい後。

 

 破面(アランカル)――ドルドーニは、全身血塗れで倒れていた。身体中がボロボロになっており、とても立っていられないほどの大怪我だ。

 それでも彼は痛む身体を……より正確にいうと上半身だけをなんとか起こして、指をさしながら全力でツッコミを入れていた。

 

 その理由は至極簡単、戦いに敗れたのだ。

 

 八対一という数の暴力に加えて、その八人全員が下手な破面(アランカル)よりもよっぽど強いだけの実力を持っている。

 数と質の両方で遅れを取っている状態では、ドルドーニには万に一つの勝ち目もなかった。というかむしろ良く二分くらい耐えたと褒めるべきだ。

 刀剣解放だってしたが、無理なものは無理だった。

 

 当然「多対一の戦いはちょっと……」と忌避する者もいないわけではないのだが、今回に限ってはその様な甘っちょろいことを口にすることもなかった。

 全員が固まって行動しているため、どうしても時間的な遅れが出るのが避けられない。ならば短縮出来る部分は可能な限り短縮すべきなのだ。

 

 全員がそれらを理解しているが故の、この戦い……そしてこの結果であった。

 

「む、無念……」

「あっ、まだ気絶すんな! テメエにゃ聞きたいことがあんだよ! こら、起きろ!!」

「……ぃ」

「ん、なんだこの声? なんかどっかから変な声が聞こえてくるような……」

 

 戦闘は終わり、死神たちは刀を鞘に収めている。

 海燕は気絶したドルドーニを無理矢理起こそうとし、桃とイヅルの二人は全員怪我などしていないかを確認していたときのことだ。

 遠くから微かに妙な声が聞こえた気がして、一護は何の気なしに背後へ振り返る。

 

「~~~い゛っ……い゛い゛っ……い゛ち゛こ゛~~~~っ!!」

「ネッ、ネルっ!?」

 

 そこで彼は見た。

 回廊の分岐点でお別れしたはずのネルが、一護目掛けて猛スピードで突進してくるのを。

 

「お前何しに来たんだ! 帰れっ!!」

「会いたかったっス一護~~~!!」

「聞けよ!! ごぼっ!!」

「会いたかったっス一護! 会いたかったっス~~!」

 

 突進の勢いのままネルは一護へと飛び込む。

 なんとか受け止めようとするものの、それを上回る超加速を見せたネルは一護目掛けて身体まるごと体当たりをするようにして胸の中に飛び込むと、頬を胸元へ擦りつける。

 そのとんでもない様子に、全員の手が止まった。

 

「コイツ、なんでここに……?」

「黒崎がお別れだと言って置いてきたはずだよ……なのにどうして……」

「帰らなかったってことだよな?」

「……あっ! わかった! 黒崎さんの事が気に入ったから着いて来ちゃったんだよきっと! ネルちゃんだって女の子だもんね」

「え、えへへへ……い、いやぁ、改めで口で言われると恥ずかしいっスね……」

「はぁっ!? 何そうなのお前!? そんな理由で着いて来たのか!?!?」

 

 何故だどうしてだと一行が悩む中、桃が思いついたとばかりに言う。

 するとネルは、いかにも恥ずかしそうに両手で顔を隠しながらも、まんざらでもない表情を浮かべていた。

 

「そんな理由って……黒崎さん、ネルちゃんの気持ちも考えてあげて下さい!」

「お、おう……すまねえ……」

「でも、織姫さんを悲しませるようなことだけはしちゃ駄目ですよ?」

「何がだ!! てかこんな子供相手に何をしろってんだよ!?」

 

 桃に注意されて――それもなんだか下衆な勘ぐりにも似た注意をされた気がして、一護が盛大にツッコミを入れた。

 

 

 

「……てか、この人誰っスか?」

「たしか……ドン・パニーニだったか?」

「黒崎、なんだその名前は……ドルドーニだよ。破面(アランカル)No.103と名乗っていたね」

「103番~~? 何を言ってるんスか、数字を持ってるのは二桁までっスよ? 三桁なんて聞いたこともねえっス。コイツ、嘘ついてんでねえっスか?」

 

 倒れ伏すドルドーニの顔をつんつんと突きながら、ネルが声を上げる。

 

「でもなんでっスかね? ネル、この人を見てっと、なんだか不思議な気持ちになってくるっス。ぜんぜん知らねえ相手のはずなんスけど、んだどもどこかでネルと似てるっつうか……うーんうーん……」

 

 目を細め、不満そうな表情を浮かべながらも、彼女の視線はドルドーニへ熱心に注がれたままだ。

 全く知らない、見たこともない相手だと認識しているのだが、ネルの心のどこかで何かが引っかかっている。

 ペシペシとドルドーニの頭を叩きながら懸命に思いだそうと努力し続け、そして――

 

「……そっス!!」

 

 と叫ぶやいなや、ネルは自分の口の中へ勢いよく手を突っ込みのどちんこを捻り上げると盛大に涎を吐き出し、ドルドーニにぶっかけた。

 

「うわっ!」

「きゃあっ!?」

「な、なんだなんだ!?」

「ネル! お前何してんだ!?」

「ネルのヨダレには、ちっとばかりですけども傷を治す効果があるっス! んだから、こうしてのどちんこをこねて……」

「ちんことか言うな!!」

 

 その行動の真意が理解できず全員が悲鳴を上げる中、ネルは再び手を口の中に入れて涎を吐き出すとドルドーニへ大量にぶっかけてみせた。

 

「……む?」

「あっ!」

「目を覚ましたぞ!」

「本当に治癒効果があったのか……」

「だからさっきそう言ったっスよ! 信じてねかったんスか!!」

「我輩は……ってうおおおお!! なんだこれは!? びちゃびちゃになっている!! なんだこれは、我輩が気絶をしている間に何があった!? 死神よ、確かに我々は敵同士かもしれんが、だからといってこれはあんまりな仕打ちではないか!?!?」

 

 覚醒した途端、顔と言わず身体と言わず全身びちゃびちゃの涎塗れになっていれば、ドルドーニでなくても盛大に文句を言うだろう。

 

 それはそれとして。

 

「元十刃(エスパーダ)、か……なるほど、そんな仕組みがあったのか」

「結果的に全員で戦ったのは正解だったわけだ」

 

 意識を取り戻したドルドーニへ「三桁番号ってどういうことっスか!?」と一切臆することなく尋ねたネルの活躍により、彼らは十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の存在を知ることが出来た。

 なにしろ全員で掛かったときはそんなことを聞き出す間もなく倒されてしまったのだから、知らなくても仕方ない。

 

「何にせよ目覚めてくれたのなら都合が良いぜ。聞きたい事もあったからよ」

「な、何をする気だ……!?」

 

 まだマトモに身体を動かせず横たわったままのドルドーニを見下ろしながら、海燕はニヤリと笑う。

 

「教えてくれ、この道は当たりか? それとも外れなのか? 進んだ先は行き止まりか? それとも藍染のところまで通じてんのか?」

「……それを我輩が答えるとでも?」

「チッ、まあそうだよな……素直に答えてくれるとは思ってなかったけどよ」

 

 質問に、ドルドーニはプイッと横を向いて拒絶の意思を示す。

 

 ちなみに先ほどのネルが来る直前、海燕が「聞きたいことがあるから起きろ!」と言っていたのは、これを聞き出したかったからである。

 全員で固まって行動している関係上、問題となるのは時間だ。ならば正誤の判断は早めにできるに越したことはない。

 いざとなれば尋問、拷問してでも聞き出すつもりだった。

 

 ……そんな海燕の思惑の後ろでは「なるほど、その手があったか!」と納得しているオレンジ頭の死神代行がいたりするのだが。

 

「んじゃ、次の質問だ。お前、どうして逃げなかった?」

「どういう、意味かな?」

「そのまんまの意味だよ。八対一だぞ? まともにやりあおうって思えるような数じゃねえ。ましてやお前は十刃(エスパーダ)から落ちてんだ、実力が劣ってるって考えるのは当然のはずだ。なのにお前は俺たちの前に姿を現した。しかも馬鹿正直に正面切って、だ」

 

 正面切って……うん、正面から戦った。

 身を隠してたり、落っこちたりしたけれど、正面から戦った。

 

「どうした? こんくれえなら、答えられるだろ? 別に藍染が不利になるような情報でもねえはずだ」

「……大した理由ではないよ。十刃(エスパーダ)に戻りたかった、ただそれだけのことだ」

 

 海燕の問いかけに、少しの間を置いてからドルドーニは答え始めた。

 

十刃(エスパーダ)は藍染殿の忠実な下僕(しもべ)だ。そして藍染殿はその十刃(エスパーダ)を戦いの道具ほどにも思ってはいないだろう。それはわかっている……だが、一度高みに立った者はその眺めを忘れられぬものだ。あの場所は堪らなく心地よかった……」

「んで、俺らを倒せば藍染に認められて十刃(エスパーダ)に戻れるかも知れねえって考えた。そんなところか?」

「……それもある。我輩は、純粋に己の力を証明したかったのだ……我輩は所詮、古い破面(アランカル)だ。藍染殿が崩玉を手に入れれば、それ以前の十刃(エスパーダ)は用済みでしかない……心得ていたつもりだったのだ……だが、燻っていた我輩の心に火が付いた……もう一度、戦いたい……我輩は劣らぬのだと……」

 

 格好つけているが、ヨダレでびしょびしょである。

 

「……おい吉良。コイツ、少しだけ治療してやれ」

「わかりました」

「なっ……!?」

 

 海燕の言葉にイヅルは素直に従い、むしろドルドーニの方が驚くほどだ。

 

「ま、お前のその気持ちも理解は出来らぁ。意気揚々としてたら八対一ってのは、ちょっと納得出来ねえもんな。だからよ、お前の心はちょいと俺が預かる。傷を癒やしてから、今度は改めてやろうぜ? そうすりゃお前も少しは納得できるだろ」

「……甘いものだな。チョコラテのようだ……貴様(ウステ)もそれでいいのか?」

「僕のことかい?」

 

 なんとも甘いことだと嘆息しながら、続いてドルドーニは自身の治療を始めたイヅルに声を掛ける。

 

「ああ、そうだとも。敵を癒やすというその行動、納得しているのか?」

「僕は四番隊だよ。怪我人であれば、癒やすだけ。それが先生の教えでもあるからね。だから――」

 

 イヅルが突如、斬魄刀を勢いよく床に突き刺した。

 刀身から僅かに離れた位置にはドルドーニの腕があり、その腕の向かう先には彼の斬魄刀があった。

 

「……っ!」 

「――だから、それ以上動くのはやめてくれないか? 腕を落としてしまうと、治療が少し面倒なんだ」

「……見抜いていたのか?」

「先生の教えだよ。甘さはあっても油断はしていない」

こわいこわい(ケ・ミエード)……降参だよ(レンディーセ)……」

 

 寝転んだまま、降伏の証とばかりに両手を挙げると溜息を吐き出した。

 

「君たちのような死神に関わるのはもう御免だよ。とっとと先へ進みたまえ」

「……! ドルドーニ……?」

「私はもう君たちと戦うつもりはない。先に進み、十刃(エスパーダ)にでも藍染殿にでも、倒されてしまえ」

 

 ニヤリと笑いながらドルドーニは語る。

 それは、この道が先に続いているという遠回しな回答だった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「ご報告申し上げます!」

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)の奥、藍染が座する部屋にて、一人の破面(アランカル)が声を上げる。

 報告の内容は、ドルドーニが撃破されたというものであった。

 藍染は特に表情を変えることもなくそれを受け取ると、逆に問い質した。「彼に葬討部隊(エクセキアス)を差し向けたのは誰だ?」と。

 

 報告の破面(アランカル)が震えて言葉に詰まる中、現れたのはザエルアポロだった。

 藍染のことを考えて独断で命令を出した。いかなる罰でも受ける覚悟はある――跪き頭を垂れながらそう述べるザエルアポロへ、藍染は「罪には問わない」と告げた。

 

「――ただ、報告はもう少し正確に頼むよ。ザエルアポロ」

 

 退出していくザエルアポロの背中に向けて藍染は声を掛ける。

 

「ドルドーニから採取した侵入者の霊圧記録は君の研究に役立ちそうかい?」

「……はい」

「そうか、何よりだ」

 

 全てを見透かされている。

 

 内心では苛立ちつつもザエルアポロは感情の一切が抜け落ちたような表情で振り返ると、そう短く告げる。

 部下のその反応に藍染は口の端をほんの僅かだけ釣り上げると、続く言葉を口にした。

 

「ついでだ。回廊操作の権限もあげよう。そうすればもっと役に立つだろう?」

「……よ、よろしいのですか?」

 

 それは彼にとって想定外の言葉だった。

 つい先ほど消し去ったはずの感情が顔に浮かび上がり、隠し切れない歓喜が表情の端から漏れ出ている。

 

「構わないさ」

「ありがとうございます!」

 

 ザエルアポロは再び頭を下げる。

 それは先ほどの、形ばかりの謝罪とは異なる、本心からの言葉だった。

 




●ドルドーニ
無理、勝てない(数と質の両方で)
チョコラテのように甘くなかったよ……

●ドルドーニから何かを感じるネル
元エスパーダだし、ネリエルの性格的に少しくらいは交流があったかもしれないなぁと妄想。

●スペイン語(あってるかは知らない)
・ウステ:貴方・貴女
・ミエード:怖い(関係代名詞のque(ケ)を付けている)
・レンディーセ:降参する

●回廊操作
藍染は一護を観察したい(だから団体行動は止めて欲しい)
ザエルアポロはデータや標本を集めたい(安全に集めたいので散って欲しい)

なら、こうすればバラバラになるよね。
(仮に原作で団体行動してても、こんな感じでバラバラになったと思う)
全員で突入した意味がない・・・
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