お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第226話 黒と黒と白

「……この霊圧!」

「志波副隊長ですよ!」

 

 回廊を駆け抜け続け、出口が見えてきた頃だろうか。突如足を止め、明後日の方向へ向かって一護は勢いよく振り返る。

 それは桃も同じだった。彼女も同じように足を止め、霊覚から海燕が戦い始めたことを感じ取る。

 

「ふぇ、どうしたんスか!?」

「わかんねえのかネル!! 海燕さんが戦い始めたんだよ!」

「海燕って……あの一護みてえな格好した死神のことっスよね?」

「そうだよ! バラバラになっちまったが、その人が戦い始めたんだよ! くそっ……チャドも戦い始めたみたいだしよ……」

 

 海燕の霊圧を感じ取ったのと同じく、泰虎の霊圧も一護は感じ取っていた。

 戦っている相手が誰かまでは分からないものの、強力な霊圧を放っていることまでは感じ取れる。感じ取れてしまう。ゆえに焦燥感を感じてしまう。

 このまま敗れ、殺されてしまうのではないかという最悪の考えが頭を過る。

 

「茶渡さんのところには、吉良君が一緒にいるみたいですよ? だからまだ大丈夫です!」

「けどよ、いくら吉良がいても……」

「絶対に大丈夫です! 吉良君、ちょっと不器用だけど実力は本物ですよ? それに茶渡さんだって、先生や狛村隊長が目を掛けてくれてますから! だから絶対に大丈夫です!!」

「お、おう……」

「そ、そっスか……」

 

 強い口調でそう断じられ、ネルと並んで一護も素直に首を縦に振る。

 

「んじゃ、とっととココを出ちまおうぜ。それから応援に行きゃ間に合う――」

「大した言葉だな。信頼というものか?」

 

 一護の言葉を遮るように、別の声が回廊内に響く。

 

「て、てめえは……」

「……久し振りだ、死神」

 

 出口にいつのまにか、ウルキオラの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

「テメエ……」

「お前ええええっ!」

 

 一護が相手の名を口にするよりも先に、雛森が飛び出した。

 

「な、なんだ! 雛森さん!?」

「お前はっ!! お前がっ!! 弾けっ、飛梅!!」

 

 狂乱したように叫び声を上げつつ斬魄刀を始解させると、凄まじい勢いで火の玉を放つ。

 

「なんだ、これは?」

 

 迫り来る火球に対しウルキオラは片手を向けると、そのまま掴み取り握り潰した。単純に強い霊圧を手に纏うことで火球を包み込み、圧壊させただけのことだ。

 

「どうしたんだ、落ち着け!」

「落ち着いて……落ち着いてなんていられません! だってこの破面(アランカル)は、私が負けた相手……」

「……え?」

「織姫さんを連れ去った相手なんですよ!!」

「なん、だと……!?」

 

 悲痛に叫ぶ桃の言葉に、一護は驚愕の表情を浮かべた。

 

「そうだ、俺がやった」

「テメエが、テメエを井上を……」

 

 事実を知らされ、憤怒の形相でウルキオラを睨み付けるその一方、桃は斬魄刀を構えたまま申し訳なさそうな表情を見せる。

 

「ごめんなさい黒崎さん……私が、私がもっと強かったら、織姫さんを連れ去られるようなことはなかったのに……!」

「雛森さんのせいじゃねえよ……」

「……ああ、思い出したぞ。お前、井上織姫を虚圏(ウェコムンド)に連行する時にいた死神か」

「ッ!!」

 

 歯牙に掛けられなかったどころか、今まで忘れられていた。その言葉を耳にした途端、桃の意識が瞬時に沸騰した。

 挑発の可能性すら忘れて、彼女は全力でウルキオラ目掛けて斬り掛かる。

 

「ふざけ、るなっ!!」

「まさか生きていたとは思わなかった。だが、また大穴を開けられたいのか? 実力の差は理解できたはずだ。それとも今度こそ死にたいのか?」

「うるさい!」

「ああ、そうか。四番隊、だったか? ならば納得だ。死に損ないにはふさわしい」

「うるさいうるさい!!」

 

 だが攻撃を、ウルキオラが素手で受け止めた。

 続いて何度も斬りつけるものの、その全ては余裕を持って受け止められていく。

 そもそも桃の動きは精細さを欠いていた。意図してやったことではないにせよ、ウルキオラの言葉は桃の逆鱗に触れたらしい。怒りに任せて荒い攻撃を繰り出すその様子は、相手から見れば隙だらけでしかなかった。

 攻撃を防ぎつつ、あの時の再現とばかりにウルキオラは片手に霊圧を込める。

 

「雛森さん!!」

 

 その動作に気付いたわけではなかっただろうが、期せずしてタイミングは同じだった。

 乱雑に斬りつける雛森の動きに合わせて飛び込むと、桃を掴まえると仕切り直しとばかりに一護は大きく距離を取る。

 その場に残されたのは攻撃の機会を失ったウルキオラだけだ。

 存外冷静な行動を取って見せた一護の動きを目で追いつつ、出番を失った片手を所在なさげに動かしていた。

 

「く、黒崎さん!?」

「すまねえ、けど落ち着いてくれ!! そんな乱暴な動きじゃ、勝てる戦いも勝てねえんだ!」

 

 少し離れた場所まで移動し終えると桃を少し荒く手放しながら、一護は叫ぶ。

 

「それに、俺だって同じ気持ちなんだぜ……井上を連れてったコイツは、俺だって許せねえ!!」

「う……そ、そうでした……! ごめんなさい」

「謝るこたぁねえよ。下手すりゃ俺が雛森さんの立場になってたかも知れねえんだ。むしろこっちが礼を言いてえくれえだ」

「あ……ありがとうございます! でもその言葉は、私じゃなくて織姫さんに掛けてあげて下さいね?」

「な、なんで井上が……! あ、いや……わかったぜ! なら――」

 

 背負った斬魄刀――斬月を構えながら、小さく礼の言葉を口にする。それが彼女を気遣っての言葉と理解した桃もまた飛梅を構え直すと、小声で軽く打ち合わせを始める。 

 

「話は済んだか?」

「まあな」

 

 事の成り行きを見物していたウルキオラが頃合いかと声を掛ければ、一護と桃の二人は彼を囲むように少しだけ離れた位置に並ぶ。

 

「悪いけどよ、俺たちどっちもお前を倒してぇんだわ。だから、二人掛かりで戦わせて貰うとするぜ?」

「今更卑怯だなんて、言いませんよね?」

「構わない」

 

 正々堂々と二対一を告げる二人へ、ウルキオラは感情を見せぬ瞳で頷いた。

 

 それが合図となったかのように一護は飛んだ。(ホロウ)の仮面を被りながら。動きに惑わされたか、一護の霊圧の変化に気付くのにウルキオラは若干遅れる。

 

「月牙! 天衝!!」

「……!」

 

 (ホロウ)化と同時に斬魄刀へ霊圧を集中させると、一護は全力で月牙天衝を放つ。身体全体から霊圧を絞り出し、真っ黒に染まった一撃を放つ。

 けれどもウルキオラは、先ほど飛梅のつぶてを握り潰したのと同じ要領で両手に霊圧を込めると月牙天衝の霊圧を両手で受け止める。

 

「滲み出す混濁の紋章、不遜なる狂気の器、湧き上がり・否定し・痺れ・瞬き・眠りを妨げる――」

 

 その後ろでは、桃が一心不乱に詠唱を唱え印を結ぶ。己の霊圧を最大限に高めると、今から放つ鬼道へ向けて全力で霊圧を注ぎ込んだ。

 

「破道の九十! 黒棺!!」

「これ、は……!」

 

 月牙天衝を受け止め続けるウルキオラの周囲を、黒い棺が囲む。続けて重力の奔流が、棺の中の全てを圧砕せんと押し寄せる。

 

「……馬鹿な」

 

 黒の波に飲み込まれる直前、白い破面(アランカル)から聞こえたのは、どこか惚けたような、そんな一言だった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「うっし! やったな雛森さん!」

「え、ええ……なんとか、上手く行きましたね」

 

 月牙天衝と黒棺、二つの大技にウルキオラが飲み込まれたのを確認すると(ホロウ)化を解放して一護は叫ぶ。

 桃の方はといえば、九十番台の鬼道を完全詠唱にて放った疲労からか息を切らしているものの、一護と同じく喜んでいる。

 

 戦闘開始直前の簡易打ち合わせ、その内容は「互いの大技を放つ」というものだった。息を合わせ、互いの技の相乗効果にて一撃でカタを付ける。

 奇しくもドルドーニ相手に八対一の戦いを繰り広げたおかげで、タイミングはある程度掴めている。

 ならば後は実行するだけ、簡単な作業だ。

 

「す、すっげえ威力だったっスよ……大丈夫っスか?」

「へへ、まあな」

「ネルちゃんこそ大丈夫?」

「ネルは平気っスよ! でも、天蓋の(スた)でこんなトンでもねえ威力の技を使うなんていいんスか……」

「なんだそりゃ?」

「あり? なんでネルは心配スてるんスかね……?」

 

 二人の技の威力にネルが天を見上げながら、理由も分からずに首を捻っていた。

 

「……驚かされた」

 

 遠くから、声が聞こえた。

 その声に三人の動きが硬直する。

 

「危うく、禁を犯すところだった」

「ば、馬鹿な……」

「嘘……っ!!」

 

 全員の視線を一身に受けながら、ウルキオラが黒の力場の中から姿を見せる。

 それまで腰へ差していた斬魄刀を引き抜き構えていた所を見るに、黒棺と月牙天衝という二つの技を前に、素手で乗り切るのは難しかったようだ。

 そして、そうしてもなお無傷とはいかなかった。末端部分が軽くひしゃげ、身体のあちこちからは血を流してる。

 特に被害が大きいのは服だ。威力に負けて引き千切れ、手足や上半身が露出している。

 

 おかげで、胸に刻まれた、4という数字もよく見える。

 

「知らなかったか? ならば改めて名乗ろう」

 

 視線がどこに注がれているか、気付いたのだろう。

 

「俺の名はウルキオラ・シファー、第4十刃(クワトロ・エスパーダ)だ」

 

 動きの止まった二人の死神を、手にした斬魄刀で切り裂きながら名乗った。

 

 

 

 

 

 

「どうやら、お前の進化は俺の目論見には届かなかった。ここまでだ」

 

 血溜まりに倒れ、聞こえているかいないのかは、判別が付かない。それでも一護目掛けてウルキオラは告げる。

 

「そこの女」

「……っ……は……っ……」

 

 感情の見えない目で桃を見下す。

 見下された桃は荒く息を吐き斬魄刀を強く握り締めるも、そこまでだった。

 元々彼女はウルキオラから受けた負傷から、本調子とは言えない。責任感から気丈にも虚圏(ウェコムンド)までやって来ても、精神的に乗り越えるのはまだもう少しの時間が必要だった。

 そこに、同じ相手に傷を刻まれる。

 屈辱から涙を流し唇を破れそうなくらい強く噛むものの、そこまでが限界だ。大技を防がれ、抗う意思が完全に折れ掛かけている。

 

「黒崎一護を連れて、とっとと去れ。出来なければそのまま死ね。どちらにしても、お前たちはここまでだ」

 

 一方的にそう告げ、ウルキオラは踵を返した。

 

 一護が倒れて動けなくなっているのに対して桃が生かされているのは、単純に彼女が傷を癒やせるからということ。何度傷を治し、再挑戦したとしても絶対に負けることはないという意思の表れなのだろう――彼女はそう解釈した。

 

「ぐ……ううううっっ! また、また私……っ!!」

 

 ウルキオラの姿が完全に見えなくなったところで、桃はようやく口を開く。

 意気込み、無理してここまでやってきたのに、無様なところしか見せられなかった。挙げ句、敵に見逃してもらうことで命を繋いだ。

 悔しくて悔しくて、どうしたらいいのかわからない。

 かんしゃくを起こして斬魄刀を床にたたきつけようとした時だ。

 

「だ、駄目っスよ!!」

 

 桃の腕をネルが掴み止める。

 

「怖くて、戦えなくて隠れてたネルがお願いスんのは、情けねえってわかってるんス!! でもお願いスるっス! 一護を助けて欲しいんス! あんたなら、できるんスよね!? なんとか番隊だって言ってたっス!!」

「あ……」

 

 そう告げられ、熱くなった頭が急激に冷めていった。

 四番隊隊士にとって最も屈辱があるとすれば、それは怪我人を癒やせないということだ。一護は死んでいない。ならば助けられる。

 もう少しすれば隊長たちもやってくるのだ。

 その時に無様な姿は決して見せられない。見せたくない。

 

「うん、わかった。でもネルちゃん……お手伝い、お願いしてもいい……?」

 

 すっかり血の気の失せた顔で無理矢理に笑顔を作りながら、桃はゆっくりと死覇装の帯を緩める。

 無骨な着物の下の柔肌が露わになった。

 




黒いのと黒いので、カッコいいかなって思いました。
たぶん、つよいとおもいます。だってくろいもん。

うっかり天蓋の下で解放させて防がせちゃうところでした

●雛森
意気込んでいても、メンタルはボロボロです。
(どこかでちょっとだけ、慰めてあげたい)
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