お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第227話 アモール

「くっ……私は、私は……どうすればいいのだ!?」

 

 海燕と別れ、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の中を一人動いていたルキアであったが、それがここへ来て一気に悩んでいた。

 当初は戦っている者の加勢に行けば良いと考えており、最も早く戦闘時の霊圧を感じ取った泰虎らのところへ行こうとした。

 だがそこから次々と各所で戦闘霊圧が放たれ始めた。早い話が、別れた各人が各所で戦い始めたのだ。

 自身が所属する部隊の副隊長でもある海燕の霊圧が。

 恋次の霊圧や一護らの霊圧が。

 まるで示し合わせたかのように強くなっていく。

 

「この道をまっすぐに戻れば……いや、だが"絶対に来るな"と仰られていた! しかしこの霊圧は……うう、恋次も一護も、吉良までもがとてつもない霊圧の持ち主を相手にしている……」

 

 優先順位をつけようにも霊圧の変化だけで判断が難しく、悩ましいことに距離までもがまちまちだ。それがまたルキアを悩ませる。

 

「選べぬ、選べぬ……!! ああっ……! 私は、私は一体、誰を選べば良いのだ……!!」

 

 忙しなくあちこちに視線を移動させながら、思わず頭を抱える。

 この部分の言動だけを切り取って見れば「食べ放題の店でどれを最初に箸をつけるべきか?」と悩んでいるように思えるかもしれないが、当人としては大問題であった。

 そうこうしている間にも各人の霊圧はめまぐるしく変化していく。

 

「……いや待て私、もう少しすれば各部隊の隊長たちが来る! ならばそれを見越して考えるべきだ!! 見越して……」

 

 と、そこまで口に出して思い出す。

 

「そういえば、途中でバラバラになっていたではないか! ど、どうする!? 霊圧の痕跡を辿れば我々が選んだ道は追えるだろうが、その後がどうなってしまうのか、全く予測が出来ぬ!!」

 

 回廊の途中で分断されたのだ。こうなると到着時間を予測するのも難しい。

 

「考えろ、考えるのだ……おそらくだが、私たちと同じ道を通るところまでは仮定すべきだな。となれば問題はバラバラに別れた際の動き……兄様や隊長たちが到着するのが最も遅くなる相手を選ぶべき……いや、それよりも吉良や雛森たちと連携が取れるように優先すべきだな……」

「なるほど、どちらも確かに合理的ですね。素晴らしい」

 

 親指の爪を噛みながら考えを纏めていたところ、横から声が聞こえた。肯定と賞賛の言葉に気を良くしたルキアは思わず胸を張る。

 

「そうであろう? 隊長たちが迷う可能性もある以上は、堅実な手を打つべき……だっ、誰だ貴様は!?」

「はじめまして」

 

 気分が良くなったところで聞こえるはずのない声の存在に気付き、斬魄刀の柄に手を掛けいつでも抜けるように身構える。

 いつの間にやらルキアの隣にいたのは、浅黒い肌をした禿頭の巨漢だった。

 筋肉質な肉体を誇っており、その霊圧の高さから目の前の相手が十刃(エスパーダ)の一人なのだと窺える。

 

 ――いや、それよりも……いったいいつの間に隣へ来たのだ!? そのような気配など、感じられなかったぞ!?

 

第7十刃(セプティマ・エスパーダ)、ゾマリ・ルルーと申します。貴女の霊圧を感じ取り、隣へとやってきたのは――」

 

 ルキアの不安な心中を読み取ったかのように、やたらと丁寧な口調で語りながら、ゾマリの姿が一瞬にして煙のように掻き消える。

 

「な……!?」

「――つい、数秒前のことです」

「……にぃっ……!?」」

 

 驚愕の声と、回答の言葉がほぼ同時に響く。

 それはつまりルキアの反応以上の速度でゾマリが動けるということだ。

 事実、消えたことに驚いてから、続いて全く別の場所――背後から声が聞こえてきた事に驚かされ、彼女は斬魄刀を迷うことなく引き抜き始解を始める。

 

「舞え! 袖白雪!!」

 

 現世にいた頃――もっと正確に言うならば、ルキアが尸魂界(ソウルソサエティ)に強制送還される直前――に、似たような経験がある。

 あの時も同じように、声を上げた時には一護が斬られていた。全てが終わってからようやくその事に気付けた……感覚としてはアレに近い。

 

 向けられる殺気は桁違いだが。

 

「初の舞・月白!!」

 

 刀で円を描きゾマリを氷漬けにせんとする。

 その目論見通り、円の内側全てをゾマリごと凍り付かせてゆく――

 

「冷却……いえ、氷雪系と呼ぶのでしたか?」

 

 ――その円の内側と外側の両方に、ゾマリがいた。

 

「まさか貴様、複数存在して……? いや、消えた、だと……!?」

「驚くことではありません。ただの響転(ソニード)です」

 

 円の内側にあった姿が掻き消えていく。

 先ほど、ルキアの背後を取ったのと同じ現象だ。

 凍り付かせたように見えたのは、ただの錯覚。高速移動にて生み出した、ただ残像でしかない。

 その残像を「捉えた」と思い込んでしまう。それはつまり、敵の動きを追いきれないということだ。

 

「理解はできましたか? 貴女の氷結速度は、中々のものでした。ですが私の響転(ソニード)の速度は貴女よりもずっと速い、ということです」

「う、く……あああっ!」

 

 破れかぶれに斬魄刀を振るう。

 このままでは速度に翻弄され続け、敗れると感じたからだ。

 攻撃を仕掛け続けることで相手の反撃を封じ、その間になんとか打開策を考える。少なくともこのまま受けに回るよりかはマシだと断じる。

 

「無駄なことです」

 

 けれどもその程度の攻撃では、ゾマリには届かない。

 響転(ソニード)にて一瞬で身を消すと、ルキアへと肉薄する。手にはいつの間にか斬魄刀を握っており、その刃が彼女の首筋へ僅かに食い込んでいる。

 

「そういえば貴女は先ほど、面白いことを仰っていたのを思い出しました。兄や隊長たちがやってくる、と」

「……なっ!」

「このまま首を刎ねるつもりでしたが、予定変更をしましょう」

 

 ルキアから離れ、ゾマリは奇妙なポーズを取った。

 胸の前へ斬魄刀を浮かべ、祈るように両手を合わせる。頸骨が折れたかのように首を真横へ倒すという、なんとも異質な格好。

 

(しず)まれ、呪眼僧伽(ブルヘリア)

 

 解号を唱えた瞬間、刀身は菱形を描くように折れ曲がった。切っ先から粘液が噴出すると全身を覆っていく。

 やがて現れたのは、巨大な南瓜のような下半身から生えるゾマリだった。

 身体中に無数の眼球が蠢いており、それら全てが瞬きをしているところを見るに、全ての瞳がそれぞれ独自に動いているらしい。

 

「あ……っ……な……っ!」

(アモール)

 

 ゾマリが片手を上げ、掌をルキアへと向ける。その掌中にもまた眼球があった。

 彼女の視線と、掌の上の瞳の視線が交錯する。

 

「あ……っ……」

 

 その瞬間、ルキアの意識が途切れた。

 何一つ意思を感じられぬ虚ろな瞳を浮かべながら、彼女はゾマリへ向けて跪く。

 

「さて、出迎えの準備をいたしましょうか。身内であれば、それはそれは丁重に持て成さねば失礼というものですから」

「………………」

 

 動き出すゾマリの後ろを、ルキアは無言のまま付いていく。

 その姿は王に従う忠実なる下僕のようだった。

 




●愛
??「(アモール)と呼んでいます」
??「ミーのために争わないで!」

……愛って偉大……
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