お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第23話 自分だけの手段の一つくらいはあって当然

「おはようございます」

「おはよ――ど、どうしたのそれ!?」

 

 今はまだ、始業の鐘が鳴るのに三十分くらい前でしょうか? 少し早めに綜合救護詰所に出勤し、死覇装縫製室へと顔を出します。

 すでに先輩方が数名おり、始業時刻よりも早くなにやら作業を始めていましたが、顔を出した私を見るなり驚きの声を上げます。

 

 正確には私ではなく、私が手にしている物を見るなり、ですが。

 

「あの、実はコレをなんとか出来ないかと思いまして……」

 

 そう言いながら掲げたのは、ズタズタになった死覇装です。昨日の卯ノ花隊長との修行の結果、見るも無惨な姿へと変貌を遂げました。

 でもまだ希望はあるはず。何とか直せないかな? と考え、こうして専門部署に持ってきたわけです。

 

「ま、まさかイジメで破られたとか!? ……あれ、でもあなたって確か先日ウチ(四番隊)に来たばっかりの新人だから、そんな対象にされるのは早すぎる……そもそもウチ(四番隊)は全員忙しいから、そんな非生産的な行動するくらいなら仕事を押しつけた方がよっぽどマシ……」

「いえ、そうではなく――」

 

 聞いてて悲しくなってくるような言葉を耳にしながら、私はこのボロキレがどうやって生まれたのか、その経緯を説明しました。

 

「……つまり、戦闘訓練の結果……で、いいのよね?」

「は、はい」

「なんというか湯川さん、あなた……変わってるのね」

 

 うう、なんだか可哀想な子を見るような目で見られました。

 

 やはり四番隊では、ここまで戦闘訓練に本気で取り込む人はいないですね。

 基本的に四番隊の隊士が戦場に立つというのは、他の部隊が戦っている場所に後から合流して治療をすることを指します。

 矢面に立って剣を振るうというのは、相当稀です。治療役が倒れたら、共倒れですからね。危なくなったら逃げる! 仲間の援護に徹する! というのも立派な戦術です。

 ゲームだってヒーラー(回復職)バッファー(支援職)は重要ですから。

 

 先日、先輩について仕事を覚えている最中に出動の機会があって、そこで実際に体験してきました!

 ……なのにどうして文句言うのかなぁ……他の部隊の死神たちは……

 

「それと、この死覇装だけど……これは直すよりも買い直した方が早いわよ」

「やっぱり駄目ですか?」

「手間とかを考えるとね。できなくはないけれど、これを直して修繕の跡を隠すようにするくらいなら……」

 

 話は戻って、私の死覇装についてですが、やはりどう考えても直すのは絶望的ですか。

 まだ支給されたばっかりなのに、もう一着駄目になっちゃった……

 

「ま、まあまあ! 元気出してよ! ウチ(四番隊)の隊士なんだし、特別割引価格で仕立ててあげるから!!」

「本当ですか!? 是非! 是非お願いします!! できれば何着か!!」

 

 新人ですからお給料も安いんです。

 特別割引価格!! ああ、なんて素敵な響きなんでしょうか!! 

 なにより、隊長に修行を付けて貰う日はきっと毎回こんな風にズタズタになると多分思うので複数購入しておきましょう!

 

「それとそのボロボロな死覇装も、簡単に直しておこうか? 戦闘訓練の時にだけで、駄目にしても良い――つまり、人前に出ないような時だけ着るって前提なら、それでも問題はないだろうし……?」

「そっちも是非!」

 

 ご自分の仕事もあるだろうに、そんなことまで言ってくれました。

 やっぱり皆さん、いい人ですね。

 

 お礼代わりに縫製室の作業を手伝いました。

 

 待ち針の抜き忘れがないかチェックして、火熨斗(ひのし)もちゃんとかけて。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 四番隊の業務は毎日が大忙しです。

 何度か言っていますが、通常業務に加えて他の部隊から押しつけられ――回された業務まであるので。

 

 本心を言えば、業務なんて無視して修行だけしていたいんですけどね。

 ですが色々と無理ですので。

 

「ふう、お掃除終わり」

 

 今やっているのは綜合救護詰所内のお掃除です。

 なんだかんだ言って、医療用の施設ですから。内部はいつも綺麗で清潔にしていないといけません。

 ただでさえ怪我した隊士が担ぎ込まれて来て、血とか雑菌が辺りに撒き散らされたりするので。感染症とかが起きた日には目も当てられません。

 (ほうき)(はた)きで汚れを落として、雑巾で隅々まで綺麗に拭き掃除をしていきます。

 

 こうして一通り掃除を終え、綺麗になったことを確認すると――

 

「蝦蟹蠍」

 

 ――最後の仕上げとばかりに、鬼道を唱えます。

 

 これは破道にも縛道にも属さない、独自に開発した私だけの鬼道です。

 

 すごい! とお思いかもしれませんが、基本的鬼道は言霊の詠唱を用いるものなので、術式さえ出来てしまえば誰でも出来ます。

 勿論ピンキリなので、強力な効果を持つ術は作るのに専門的な知識や技術が必要です。

 が、とりあえず鬼道を自作するだけならば、そう難しいことではありません。

 

 問題はそれに価値があるかどうか、ということです。

 

 オリジナルの攻撃用鬼道を作りました! でもそれ、赤火砲(しゃっかほう)とどこが違うの? 完成度も利便性も赤火砲の方がずっと上だよ?

 

 なんてことは、誰しもが一度は通る道です。

 千年以上もの時間を掛けて、色んな死神が研究・研鑽してきたものを個人が簡単にひっくり返すのは難しいということですね。

 それに、戦術とかは画一化している方が組織としても管理とか楽ですし。

 

 閑話休題。

 先程私が唱えた鬼道の話に戻りますね。

 

 名前は蝦蟹蠍――読めますか、これ?

 

 それぞれの漢字は、えび・かに・さそり です。

 それらの生き物に共通する部位といえば……そう、ハサミです!

 ハサミといえば……じょきんじょきん――除菌。

 

蝦蟹蠍(じょきん)

 

 唱えると周囲の雑菌を一気に消し飛ばす鬼道なのです。

 

「よし、これで完璧ね」

 

 医療現場が消毒されていないなんて、元現代人からすればありえません。

 

 

 

 

 

「お疲れ様です」

「あ、湯川さん。お疲れ様」

 

 一仕事を終えて戻ってくると、同期だった子がいました。彼女は霊術院時代にも一緒だった子です。

 他にも女性隊士が数名、座って休んでいます。

 激務の間の小休止、というやつですね。

 

「ねえ、湯川さん。久しぶりにアレ、お願いしてもいいかしら?」

「ええ勿論、構いませんよ。簡単なのになっちゃいますけれど」

「全然問題ないわよ! お願い!!」

 

 特に反対する理由もないので。

 請われるままに彼女の肩に手を掛け、ぐっと力を入れて揉みほぐしていきます。

 

「あぁ……きくわぁ……」

「ずいぶん肩が凝ってたみたいね。これじゃあ大変だったでしょう?」

「そぉ……なのよ……んっ! そこ、そこもっと、もっと強く……っ!!」

「はいはい、ここね?」

 

 霊術院時代から何度も行っているマッサージです。

 願わくば、全身にきっちりと余すところなく堪能……もとい施術を施してあげたいのですが。さすがに場所が場所なので無理です。

 肩と腰くらい――それと意地でお尻周りくらいにしておきますか。

 

「ふわぁ……いいわぁ……もうこのまま寝てしまいたい……」

「ほらほら、まだ業務中なんですから。寝ちゃ駄目ですよ?」

 

 施術を終えると、夢見心地になっていますね。

 まだ就業時間だから……って、ん?

 

「あの、湯川さん。さっきの、私にもお願いしていいかしら?」

「それが終わったら私! 二番目予約したわよ!!」

「あっ! ズルい!! 二番は私の筈だったのに!!」

 

 よほど気持ちよさそうに見えて、そして疲れも溜まっていたのでしょう。

 近くにいた女性隊士たちが殺到してきました。すごい高評価です。

 それどころか――霊術院時代の噂を聞きつけたのでしょう。こんな短時間じゃなくて、休日にでも時間を掛けてじっくり全身を頼めないかともお願いされました。

 まあ、趣味と実益を兼ねられるから断る理由もありません。

 

 先輩たちの色んなところをたっぷりと揉みました。

 




●火熨斗(ひのし)
フライパンもどきに炭火を入れて、熱で服のシワを伸ばす。
早い話がアイロン。
日本には平安時代辺りからある。
(中国だと三国志の頃にはもうある)

●自分で編み出した鬼道
破道と縛道あわせて198個しかない。
(裏破道とかは考えない)
しかも席官でないと上位鬼道は教えて貰えない。

種類足らない! 不便!
自力で編み出している奴もきっといるはず!

ハッチ(有昭田鉢玄)も「ワタシが独自に創り出した術」と言っています。
なので各死神が個人での自作鬼道はきっとアリ。

じょきんじょきん……
戦闘には使えなくても、四番隊としてはすごく役立つ。
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