お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第231話 お兄ちゃん怒る

 回廊を抜けたところで、白哉は一旦足を止めた。

 続いて意識を集中し直し、各人各所の霊圧と状態を探り直す。

 

「近くに一人。この霊圧は、志波海燕殿か。だが、かなり弱っている……」

 

 とある方角――海燕の霊圧が感じ取れた方向へ視線を向けながら、誰に向けるでもなく呟いた。

 多少距離はあるものの、瞬歩(しゅんぽ)を使えばそれほど時間も掛からずに到着出来る位置に、海燕がいる。

 激戦があったのだろう霊圧の感じから弱ってはいるものの、虚圏(ウェコムンド)には四番隊の隊士が数名来ていることや、事前に薬を渡されていることから、即座に救出に向かわなくても問題ないだろう――と、判断する。

 

 とはいえこの判断は、白哉が薄情者というわけでは決してない。

 

「ああ、丁度良かった」

「……ルキア、か?」

 

 海燕とはまた別に、よく知った霊圧が近づいており、その対応を優先したからだ。

 彼女は、白哉が来たのとは真逆の方角――虚夜宮(ラス・ノーチェス)の内部から外へと向かうルートでやって来たかと思えば、白哉の姿を確認して足を止める。

 その動きと言葉遣いに、白哉は強烈な違和感を憶える。

 

「ええ、ルキアです。それよりも、どうしてこちらに?」

「……海燕殿の霊圧を感じたのでな」

「私もです。霊圧を感じたので」

「…………」

 

 ――おかしい。絶対におかしい。

 

 簡単な応対をしながら、心の中でそう断言する。

 まるでオウム返しのような会話内容に、義妹らしさがまるで感じられないよそよそしい言葉遣い。加えて感情の起伏というものが極端に少ない。

 これで騙そうとしているのであれば、無能以下だろう。

 そう思いつつも、白哉はもう少しだけ会話を続ける。

 判断に足るだけの材料を探すために。

 

「ところでルキア、その額はどうした?」

「これですか? 少し怪我をしてしまって。大丈夫、もう血は止まっています」

 

 軽く髪を捲り上げて額を見せながら、ルキアは何でも無いとばかりに言う。

 白哉が口にしたように、彼女の額は血に染まっていた。

 血液がべっとりと髪や額に張り付いており、まるで赤い塗料を塗布されたかのようだ。

 

 ただ、血が止まっているというのは本当なのだろう。

 付着した血液は既に乾燥しはじめてカサカサになっており、どこか頭に傷を負っているようにも見えない。

 その事実には、少しだけ安堵できた。

 

「そうか……その血の下に、何かあるのだな?」

「……なんのことです? これは怪我を……」

「惚けるな」

 

 血のことを言われて一瞬驚きの表情を見せるものの、なおも下手な演技で食い下がろうとするルキアへ、白哉は斬魄刀を向ける。

 

「その程度の演技で私を騙せると本気で思っていたのか? 貴様はルキア――我が義妹などでは断じてない」

「ふふ、そう言われては仕方ありません」

 

 変わらず表情の抜け落ちたまま、口元に微かな笑みを浮かべながらルキアもまた斬魄刀を引き抜くと、白哉へ向けて斬り掛かる。

 

「最初に出会った相手が兄とは不運でした。その様な親しい者が相手では、騙せないのも道理ですね」

「……そうか」

 

 その攻撃を受け止めながら「本気で言っているのならば大したものだ」とどこか感心していた。最初に出会ったのが白哉以外の者であっても、虚圏(ウェコムンド)に来ている者ならば誰であろうと見抜いていた。

 むしろ「最初に出会えたのが自分で良かった」と考えている。

 

 ――擬態か? それとも操られているのか?

 

 今の白哉は、その判断に迷っていた。

 

 これが擬態……つまりルキアの姿へ変化しているだけの偽物であれば悩むことなく切り捨てていた。だが万が一にも本物が操られている可能性がある以上は、下手な手出しは出来ない。

 先ほどの"額の血"の件から、操られているのだろうとアタリはつけているものの、もう少しだけ決め手となるだけの確証が欲しい。

 

「ですがあなたには、私を斬ることは出来ない。なぜなら大切な妹が死ぬことになりますから」

「そうか」

 

 腕の振り方、足の運び一つとっても死神の物とは異なる。そんな戦い方で、ルキアは白哉へと斬魄刀を叩き付ける。

 白夜の目からすれば乱暴に映るそれを冷静に観察しながら、彼は溜息を吐き出した。

 

「もう茶番は結構だ……縛道の六十一、六杖光牢」

「っ!?」

 

 何度目かの攻撃を捌いたところで、詠唱を破棄した縛道をルキアへと放つ。

 六本の光の帯が突き刺されば彼女は一切の動きを封じられた。

 

「ルキア、すまんが少しだけ堪えてくれ」

 

 動きの止まったルキアの額に指を当て、軽く擦る。血糊が剥がれ落ちてゆくその下からは、黒い文様が浮かび上がっていた。

 

「なるほど、これが……助かったぞ袖白雪」

 

 ルキアの手の中で、斬魄刀がカタッと音を立てたような気がした。それが礼に対する返事のようで、白哉は引き締めていた口元を一瞬だけ緩める。

 

 ――斬魄刀本体と交流していた経験が、こんなところで役に立つとは思わなかった……

 

 目の前のルキアを本物だと断じられたのは、言動もそうなのだが、何より斬魄刀が知らせてくれたからだ。

 袖白雪が千本桜へ斬魄刀を通じて状況を伝え、それを千本桜から白哉へと伝える。

 その結果、白哉はルキアの現在の様子を正しく知ることができた。

 

「さて……そこの者、出てこい」

 

 ルキアへと向けていた瞳から一転、厳しい表情で建物の影を睨みつける。

 

「貴様がそこに隠れていることは既に分かっている。それとも、よもや出られぬというのであれば、私手ずから引きずり出してやろうか?」

「それは困りますね」

 

 その言葉と共に、帰刃(レスレクシオン)状態のゾマリが姿を見せる。

 

「初めまして、名も無き死神。私は――」

「ゾマリ・ルルー。十刃(エスパーダ)の一人にして、他者を操る能力を持つ……か」

 

 自己紹介を遮るように白哉が口を開いた。

 その行動、そして名前をピタリと言い当てられたことでゾマリは思わず目を丸くする。

 

「――驚きました。どうやってそれを?」

「それを知る必要は無い」

 

 袖白雪から聞きました。

 などとは言わないし、そもそも説明する義理もない。

 

成程(なるほど)、確かにその通りですね。ですが、一つだけ間違っています」

 

 納得しつつも、僅かな違いに気付いたゾマリはニヤリと笑う。同時に、彼の全身に浮かぶ瞳――その一つが怪しく輝いた。

 

「我が"呪眼僧伽(ブルヘリア)"の能力は、その目で見つめたものの"支配権"を奪う能力。よって、そこの死神は操っているのではなく、既に私のものとなりました」

「支配か……なるほど、道理で。操れていれば、もう少しマシな演技も出来たであろう」

「ええ全く、貴方の仰る通り。ですが、良い経験となりました。次は貴方を支配することで、この教訓といたしましょう」

「……この私を? 笑えぬ冗談だ」

生憎(あいにく)と、冗談を言う趣味は持ち合わせてはおりません」

「ッ!?」

 

 突如、白哉の左腕が跳ね上がった。

 彼の意思を無視して動くと、自らの首へと手を掛け渾身の力にて締め上げる。その手の甲には、ルキアの額に刻まれいたのと同じ文様が浮かんでいた。

 

「この通り、我が"(アモール)"の前には無力です。理解しましたか?」

「愛、か……ならばもう一度言わせて貰おう。笑えぬ冗談だ、と」

 

 自らの腕で喉を締め上げながらも、白哉はなんとか声を絞り出す。

 だがやはり苦しいことには違いないのだろう。その手から斬魄刀がこぼれ落ち、ゾマリは笑みを一層強くした。

 

 それが白哉の狙いだとも知らず。

 

「卍解、千本桜景厳」

 

 斬魄刀が吸い込まれ、地の底から千本もの巨大な刀が桜並木のように立ち並ぶ。

 周囲には無数と評して尚足りぬほどの刃が、桜吹雪のように舞い散る。そのあまりの数の多さは日を陰らせ、夜が訪れたとではないかと錯覚させるほど。

 薄暗い中、光を反射して煌めく花びらには幻想的とも言える美しさがあった。

 

「な、なんだこれは……! これが、まさかこれが全て……!!」

吭景(ごうけい)千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)

 

 白哉の命に従い、その全ての花びらがゾマリを覆い尽くすと全方位から襲いかかる。

 

「お、おおおお……おおおおおおおおぉぉぉっっ!! あっ、藍染様あああぁぁぁぁっ!!」

 

 視界の全てが桜の刃に覆い尽くされた中、断末魔の悲鳴が響く。

 同時に白夜の左腕から力が抜ける。文様は跡形もなく消失していた。

 

「愛、か……」

 

 桜吹雪もやがて散り、微かに残る肉片だけがそこにゾマリがいたことを告げる。

 湯が蒸発するように消えていく肉片を目で追いながら、白夜は言葉を投げ掛けていた。

 

「私にも愛はある。妻や子、妹を人質に取られれば、このような目にも会うのだ……愛と語っておきながら、貴様は何一つ理解していなかった……それだけのことだ」

 

 やがて、完全に肉片が消えたことを確認すると斬魄刀を鞘へと戻す。

 

「……お前は遠慮がちだったのだと、今少しだけ思ったぞ……千本桜よ……」

 

 斬魄刀が、僅かに鍔鳴りを立てた。

 




(退場が)十刃で最速

●吭景で倒すの?
別に問題ないし。強くなって攻撃力が上がってたのよきっと。

●ゾマリの愛の能力について
冷静に考えると、どこまで出来るのか不明な事に気付く。

例えば
(原作でも)ルキアの頭(脳)の支配権を奪ったが、喋り方や戦い方などは再現出来るのか? と言う疑問にぶつかりました。

だって支配権を奪っても、結局はゾマリの意思が絡んでるはずなので。

命令されているので、無意識的にそのまま元の人格で動くのか?
命令しているから、(戦法や喋り方は)ゾマリ流で動くのか?
 
 
前者だったら、獅子身中の虫として潜り込ませられる。
(喋り方やクセなんかもそのまま再現できる)

後者だったら、完全な操り人形でしかない。
(始解させるにも「脳を支配する ⇒ 斬魄刀の名前を言えと命令する ⇒ (名前を知ったので)その名前を口にして始解しろと命令する」みたいな面倒なことになる)

結局、拙作中では後者にしました。なんといいますか、機械に命令するように無機質で融通がきかないイメージがあったので。

他にも
・愛の能力は解放前でも使えるのか?
・一度愛で支配したら解放前の姿に戻っても支配は継続しているのか?
・支配後の命令は毎回個別に出さないと駄目なのか?
・支配後に対象が見えなくなっても命令は出せるのか?
・目で見るだけなら1kmくらい離れていても支配出来るのか?

とかの疑問が出まして……

あ、内臓を支配して「余計な栄養は吸収するな」って命令すればダイエットに使えそう。
 
 
……と、後書き中にて妄言を垂れ流しまくっていたところで
「(本文中のルキアを怪しいと気付いた段階で)本物でも偽物でも、とりあえず縛道で縛ればええやん……」
とか
「頭を見て脳を支配できるなら、胸を見て心臓を支配すればイチコロなのでは?」
とか、気付く。

なんで書き終えてから気付くのかしら……
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