お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第232話 素数なんて数えても落ち着かない

 桃の両手に集中した霊圧が一護の体内へと染みこみ、全身へと周りながら刻まれた傷を癒やしていく。

 傷ついた肉体は術によって瞬く間に修復され、そこへ不足していた霊力が充填されていくことで万全の状態を取り戻していく。

 

「ふぅ……」

 

 そこまで確認すると、桃は額の汗を拭う。

 手の甲を見れば、そこにはねっとりとした汗が大量にへばりついていた。それだけで、自分がどれだけ疲弊しているのか、嫌というほど理解できた。

 もしもこの場に鏡があれば、桃は自分の疲弊具合をよりはっきりと理解しただろう。傷と疲労と霊圧不足で顔色は蒼白を超えており、可愛らしい素顔が今では重病人のようだ。

 

「アンタ、大丈夫っスか……?」

「うん……心配してくれてありがとうね、ネルちゃん……でも、もう少し、もう少しだから……」

 

 ウルキオラの攻撃にて意識不明となるほどの重傷を負った一護と、連れ帰るのに便利だからという理由だけで見逃された桃。

 桃にしてみれば二度目の苦渋ということもあってか、心が壊れてしまいそうなほどの屈辱だった。

 だが四番隊の隊士としての誇りと、ネルの「一護を助けて欲しい」という言葉が、ギリギリで彼女を踏みとどまらせる。

 

 自らもいつ倒れてもおかしくないほどの傷を受けながらも、桃はまず一護の治療を優先させた。回道にて一護を完治するまで回復させるべく、霊圧補充の薬品と気付け薬を噛み千切る様にして飲み込んだ。

 薬品大量摂取(オーバードーズ)なんてクソ食らえな行動である。

 

「そ、その薬……そんな風に飲んで大丈夫なんスか……?」

「……まだ、大丈夫、だから……」

 

 身体に悪いと分かっていても、飲まなければ霊力不足か気力不足で動けなくなりそうで。

 だから桃は無理矢理にも笑顔を作ると、心配してくれるネルへ優しく微笑み掛けた。

 

「もう少し……黒崎、さん……」

「う……く……っ……ぅぅ……」

「あっ! 一護!!」

 

 気合いと根性を入れ直して回道を再開させると、程なくして一護の口から声が漏れ出てきた。瞼がゆっくりと開くと、眼球が横に動いて――

 

「……どわあああぁぁっ!! なん、なんでだ雛森さん! なんでそんな格好……!」

「……え、あ……っ!! きゃ、きゃあああああああああああぁぁっ!! 見ないで、見ないで下さい!!」

「一護ッ! ダメっすよ、レデーの肌を勝手に見ちゃ! それは男として失格(すっかく)っス!!」

 

 ――大惨事になった。

 

 おさらいしましょう。

 先ほども述べたようにウルキオラに負け、一護は意識不明の重体に。桃もかなりの重傷を負わされた。

 桃は一護の回復を行うが、このままでは自分も気絶して最悪共倒れになってしまう。

 そんな最悪を回避するためには、一護を治療しつつ自分も治すしかないと考えた。

 けれど悲しいかな、二人の重症患者を同時に治療できるほどの腕前は、桃にはない。

 

 そこで代案として"桃が一護を治療しながら、ネルが桃を治療する"ことにした。

 

 幸いにも彼女ら死神は、藍俚(あいり)特製の"本人にだけやたら効果が高い傷薬"を所持している。この薬をネルに渡して桃を治療させることで、ドミノのように連携した治療を行うことが目的だった。

 ちなみにその薬はいわゆる軟膏の類いなので、患部へ直接塗りつける必要がある。

 そして桃は傷の治療のために死覇装を脱ぎ、肌を露わにしていた。

 

 ――ここまで言えば後は蛇足かもしれませんが、一応言っておきましょう。

 

 上半身裸の桃が治療していた最中に一護は意識を取り戻し、バッチリ目撃しました。

 慌てて両手で隠したものの、白くて肌と細くくびれた腰回りは未だ白日の下に晒されています。

 

「だああああぁっ! わ、わりぃ! まさかそんな格好で――」

「い、いいから目を閉じて! 見ないで下さいよおっ!!」

「――おおおおおおう! こ、こうでいいか!?」

 

 両手でお目々を隠す……それ本当に隠してる? 指の隙間からこっそり見てない? 

 

「ダメっスよ! 一護は(うス)ろ向いてるっス! まだ桃ちゃんの手当もスんでねえんスから!!」

「お、おう!!」

 

 ネルが大慌てで割って入り、身体全体を使って桃を視線から遮りました。

 ちっちゃくても女の子ですね。

 

「さて、一護は(うス)ろ向いたっスから、このまま治療を再開スるっスよ」

「うん! ありがとうね、ネルちゃん……あ、でももう黒崎さんは意識を取り戻したんだし、あとは自分で……」

「ダメっス! これはネルが頼まれた仕事(スごと)なんスから!」

「ひゃんっ!」

「でへへへへ……桃ちゃんの肌、スベスベで良いっスね……ずーっと触っていたいっス……」

「そ、そう……?」

「それにこのお薬も、なんだかヌルヌル()てて病みつきになりそうで……ネル()ってるっスよ! これ、大人のお風呂屋さんにあるやつっスよね!?」

「え……ええっ!! ち、違うよこれは……や……っ……!」

 

「……………………2、3、5、7――73――953――6011――55661――125311――!」

 

 一護は数字の世界に没頭していた。

 それからしばらくして――

 

「もう大丈夫っスよ」

「お、おう……」

 

 ようやく出たお許しに、一護はどこかやつれた印象の顔で振り返る。

 見ればなるほど確かにネルの言う通り、処置は完了していた。顔色や血色も先ほどよりかはずっと良さそうだ。

 傷つきあちこち破れた死覇装、その襟元や空いた穴の下からは包帯が覗いていて「あの衣擦れの音はこれか」と数字の世界へ没頭していた時のことを思い出して納得しつつ、一護はまず桃へ頭を下げた。

 

「すまねえ雛森さん! せっかく治療してくれたってのに! どんな事情があってもありゃダメだったよな……!!」

「そんな……私の方こそ、気付かなくって……本当にごめんなさい!」

「いや、だとしても悪いのは俺だ!」

 

 互いに思うところがあるようで、頭を下げあってしまう。

 

「二人とも……何を、やっているんだい……?」

 

 その光景を、遅れてやってきた浮竹が不思議そうな顔で眺めていた。

 

 

 

 

 

 

「何にせよ、一護君たちが無事でホッとしたよ。間に合わなかったらどうしようかと不安だったんだ。只でさえ俺たちは遅れてきているし、なのに好き勝手に動いて……」

 

 簡潔ではあるものの"何があったのか"を二人から事情を聞き終えると、浮竹は胸を撫で下ろした。

 後発の援軍として来たのはよいものの、その半分以上が自分のことを優先している現状なのだ。これで「手遅れでした」となっていては、立つ瀬が無い。

 気を取り直して霊圧を探り直せば、どうにかまだ全員無事だったこともあってか、思わず愚痴を零す。

 

「いや、浮竹さんが来てくれて本当に心強えんだって! だから、そう落ち込まないでくれって!!」

「ははは、そうだね……ここからが俺たちの仕事だ」

 

 思わず口から出た一護の気遣いの言葉に、浮竹は顔を上げる。

 

「ところで一護君、これからどうするつもりだい?」

「決まってる! 井上を助け出すんだ!」

「やっぱりかい……? 俺としては、少し大人しくしていて欲しいんだけどね……」

 

 ――海燕のこともあるし。

 

 という言葉を口に出すべきか、少しだけ悩んだ。

 感じられる霊圧の中で、一番危険な状態なのが彼だ。道順の選択がマズかったのか、不幸にも浮竹が今から向かうには少々距離がある。

 近くに一護たちがいたので真っ先に向かったが、誰かの反応を感じられなければ海燕のところへ向かっていただろう。

 ……幸いにも近くには白哉の霊圧が感じられるので、救出に向かってくれるはずだと判断を下す。

 

「……よし、わかった! ここからは俺も一緒に行こう!」

「え……浮竹さんが……!?」

「そうそう一護君を危険な目には会わせられないからな……不満かい?」

「いやいやいや! それは全然!!」

 

 大慌てで首を横に振る。

 尸魂界(ソウルソサエティ)にて"手合わせ"をした経験があり、隊長ということもあってその腕前は下手な相手よりもずっと信頼できる。

 むしろ心強いことこの上ないくらいだ。

 

「よし! なら決まりだ。よろしく頼むよ」

「ああ、こっちこそ。よろしくお願いします」

「だったら、私も――」

 

 一緒に行く、と口にしようとしたところで、桃は膝から崩れ落ちた。

 

「――あっ、あれ……?」

 

 慌てて立ち上がろうとするも、足が言うことを聞かない。砂地の地面にぺたりと座り込んでしまったまま、満足に動けなくなっていた。

 

「雛森三席、無理はしない方が良い」

「でもっ! でも私……」

「俺は四番隊の隊士じゃないが、体調不良なんかについては人よりも詳しいと自負しているつもりだ。そんな素人に毛が生えた程度の俺の目で見ても……雛森三席、無理をしすぎている」

「そんなっ! 私、私……このままじゃ……!!」

「悔しい気持ちは分かる。でも、無理をしてもどうにもならないんだ」

 

 へたり込んだまま、それでも食い下がろうとする桃を浮竹はゆっくりと諭していく。

 

「どこかに隠れて少し休んで、動けるようになったら……そうだな、仲間たちの治療を頼めるかい?」

「治療を……」

「ああ、そうだ。湯川も今、怪我人を治して回っているみたいだ。なら、丁度良いだろう?」

「先生が……はいっ! わかりました!!」

「うん、良い返事だ」

 

 そこまで決まったところで、ネルがおずおずと手を上げる。

 

「あの~……ネルは、どうスたらいいんスかね……?」

「おや? 君は一体……」

「ああ、コイツは破面(アランカル)のネルって言うんですよ。俺たちの……仲間、っスかねぇ……」

 

 関係性を、はたしてどう語ったら良いものか。

 首を捻りながら一護はなんとか言葉を絞り出した。

 

破面(アランカル)がかい?」

ひゃ()ひゃい(はい)そうっス! ネル、一護のことが心配になって、ついてきたんスよ!!」

「はははは、そうなのか。一護君を護ってくれたんだね。ありがとう」

 

 敵であると思っていた死神の、それも隊長と真っ正面からの対面である。

 緊張しながらもネルがコクコクと頷けば、浮竹は人受けする優しげな笑顔でネルの頭をそっと撫でた。

 

「けど、これ以上先に進むのは危険なんだ。どこかに身を隠した方がいいだろう。大丈夫、一護君の面倒は俺が見るよ」

「そ、そっスか……残念だけど仕方(スかた)ねえっスね……」

 

 少しだけ俯きつつもそう言うと、ネルは桃の隣にちょこんと腰掛ける。

 

「だったらネルは、これからは桃ちゃんを守るっス! 桃ちゃん、イイ人っスからね! だから一護……絶対、絶対に戻ってきて欲しいっス!」

「ああ、約束だ。だからネル、雛森さんのことは任せたぜ」

「んだス!!」

 

 一護とネル、二人は小指同士を絡めて指切りをすると、それぞれ別々に動き出した。

 




●薬をいっぱい飲む雛森
この子、こういう行動も似合うと思う。
(原作四番隊もヤク漬けだって言ってましたし)

●ラッキースケベ的な部分
プロットにはですね。

部屋に入った途端、慌てた様子で息を切らせながらも出迎えてくれた。
何でも無い風を装いながらも、頬は上気したように朱色に染まり、服の乱れをそそくさと直している。
いつもは清楚で凜とした印象の彼女が、今日は別人のようだ。
見慣れているはずの格好も、なんだかとても似つかわしくないように見えた。

みたいなラッキースケベくらい攻めても良いかもしれない。
と書いていたのですが(何をしたかったんだ当時の私……)
シチュエーションとしては、学生姿のシロちゃんと雛森。シロちゃんが雛森の部屋に入った瞬間でお願いするでござるよ(雛森の隣に誰がいるかはお任せするでござる!!)

●で、率直に言って何色でしたか?
??「ハァッ!? べ、べべべっべべ別にぃ!? 何にも見てねえしぃ!!」

●でも素数を数えてましたよね?
??「あれは煩悩を払おうとしただけだしぃ!!! 全然ピンク色とか、まったく気にしてねえしぃ!!」
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