お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第233話 決戦! グリムジョー!

「ってててて!! ったく、アーロニーロの野郎! やっぱりまだ殴り足りねぇ!! もう二・三発くらい殴っときゃよかったぜ!」

 

 アーロニーロの宮の中。

 闇の濃い広間にて気絶から目覚めた志波海燕は、ぶつぶつと文句を言いながら傷の手当てを行っていた。

 

「ってか、こういうのは四番隊がやるもんじゃねえのか……? 怪我人に薬やら包帯やら渡して『手当はご自分でどうぞ』ってのは、絶対(ぜってぇ)間違ってるよな……」

 

 手当をしようと身体を動かせば、それだけで痛みが全身に走る。それでも手当をしなければ待っているのは確実な死だ。

 それを理解しているからこそ、不平不満を零しながらも手渡された薬を患部へと塗り込み、器用に包帯を巻いて止血、治療をしていく。

 ぶつぶつと文句を言っているのも、自身に対する気付けのようなものだ。こんな風に小言を口にしながら、痛みや疲労で萎えてしまいそうな意識を繋ぎ止める。

 

「それにしてもまぁ……我ながらよく生きていたモンだぜ……」

 

 首を軽く捻って後ろに視線を投げ掛けながら、感心するように吐き出す。

 視線の先には、小さな水たまりのように血が広がっていた。いうまでもなく、海燕が流した血だ。

 

 アーロニーロに腹を貫かれ、重傷を負いながらも戦い抜いて勝利した証――といえば聞こえは良いかもしれないが、どんな理由があろうとも大怪我をしたことには違いない。

 明らかな出血多量。

 腹に穴を開けた状態で動き回り、止血もせずに気絶したのだ。意識を取り戻せたのを含めて奇跡に近い。

 改めてそれを理解して、思わず身震いする。

 

「早いとこ傷を治して最低限戦えるくらいにはしねぇと……やっぱ、もっとちゃんと回道を習っとくべきだったか……?」

 

 四番隊(ほんしょく)程ではないにせよ、こういった傷の手当の経験くらいある。

 とはいえその経験は、それほど大層な怪我ではない――俗に言う「ツバでも付けとけ」で括れるような範疇がほとんどのため、これだけの大怪我の治療は初めての経験である。

 回道にて治療が出来ればもう少しスムーズに戦線復帰できただろうかと考えながら、ふと思い出す。

 

「そういや、回道は朽木のヤツが結構上手かったな……無事に戻れたら、アイツにでも習うとすっか……」

 

 そこは四番隊(ほんしょく)に教えを請うべきなのでは?

 ――と思われるかもしれないが、海燕が最後に別れたのはルキアである。そのため今この場においては、回道から彼女のことを連想してしまうのも自然なことだ。

 

「てかアイツ、無事なのか……? いや、確かに"ついてくんなよ"って言ったのは俺だけどよ……律儀に守ってんじゃねえよ、こんだけ怪我してんだから気付くだろ……!! まさか、他の十刃(エスパーダ)に襲われたりしてねえよな……!?」

 

 一度気になり出すと、その不安は止まるところを知らない。

 ましてや虚夜宮(ラス・ノーチェス)は敵地、敵の懐のど真ん中だ。ルキアの腕前は知っているが、それでも悩みの種は尽きない。

 

「ちっ……俺、大怪我してんだぞ……!!」

 

 乱暴に治療を終えると、近くにあった斬魄刀――金剛を掴み立ち上がろうとしたところで――

 

「なっ、なんだっ!?」

 

 ――広間の壁、その一面が轟音を上げながら崩れた。

 

 暗い室内へ外から強烈に光が差し込む。

 逆光を背にして現れた人影に、海燕は思わず舌打ちする。

 

「……よぉ」

「グリムジョー……」

 

 通算三度目の対峙ともなれば、辟易もするというものだ。

 間違いなく顔に出ていたのだが、グリムジョーは気にした様子もない。

 

「……何の用だ?」

「説明が必要か? ケリを付けに来たんだよ」

「ケリだぁ? んなもん、前回俺が負けて一護が――」

「あんなもんが決着であってたまるか!!」

 

 叫び声が全てをかき消した。

 

「ああ、確かに黒崎一護ともケリを付ける! だがその前に志波海燕、テメエが先だ! この俺をおちょくって二度も引っかき回しやがったテメエは! まずは真っ先に潰す!!」

「おーおー、おっかねぇなぁ……んで、俺が大怪我してんの知って急いできたのか? 怪我人相手なら絶対に勝てるもんなぁ?」

「あぁん!? 舐めたことぬかしてんじゃねえよ!!」

 

 グリムジョーは肩に担いでいた白い布包みを乱暴に投げ捨てる。

 

「おっ、織姫ちゃん!?」

 

 海燕は目を丸くした。

 その包みの中から出てきたのは、囚われていたはずの井上織姫だった。

 猿轡(さるぐつわ)をはめられ声は上げられず、両腕も手首を布で拘束された上から飼い犬のように鎖で繋がれている。

 

「治せ」

 

 猿轡を引き剥がすと、全てのことは終えたとばかりにグリムジョーは近くの瓦礫に腰掛ける。

 けれど海燕たちはそれどころではなかった。

 

「織姫ちゃんがなんでここに……いや、それよりも逃げろ! 一護たちがすぐ近くに――」

「海燕さん! その怪我、大丈夫なんですか……!? お腹を刺されて、あんな戦いまで――」

「うるせぇ!!」

 

 互いが互いを気遣うように叫ぶ中、グリムジョーの一喝に二人は言葉を失った。

 

「女、もう一度言うぞ。さっさとそいつを治せ。んで志波、テメエは黙って治されてろ」

「黙って治されてろ、ね……つまりはアレか? 完全な状態の俺を倒さねえと意味がねえって、そんなところか? だから織姫ちゃんを連れてきたんだろ?」

「えっ、ええっ!! グリムジョー! あなたそんな事のために……!!」

「はっ! よくわかってんじゃねえか!!」

 

 嬉々として叫ぶグリムジョーの姿に、海燕は再び溜息を吐いた。

 

「はぁ……織姫ちゃん、すまねえが治しちゃくれねえか?」

「え……でも……!!」

「いいから! ……さっきもチラッと言ったが、一護たちが来ている。もう少しすりゃ、隊長たちだって来る。俺がグリムジョー相手に時間を稼ぐから、逃げちまえ。んで、誰かに保護して貰え。囚われのお姫様ってのも大変だろ? ……だからさ! 頼んだぜ!!」

「は……はい……」

 

 グリムジョーに聞こえないように小声で伝えながら、見た目だけは回復を急かすように演技する。どこまで効果があるかは不明だが、やらないよりはマシだと思いながら。

 そこまで伝えることで、織姫はやっと、のろのろとではあるが回復を始めた。

 だがやはり迷っているのだろう。

 全力で戦うために治すということとも、自分を逃がすための足止め役として治すというのも、織姫にとって気持ちの良いものではない。

 加えて――

 

「で、でも海燕さん……その、大丈夫だったんですか……? お腹の傷もそうなんですが、あとその……都さんのこととか……」

「……は? なっ、なんで織姫ちゃんそのこと知ってんだ……!?」

「え、いえ……あの……な、なんでもありません! 海燕さんは優しい人です!! わ、私は素敵だと思いました! 月9のドラマみたいで!!」

 

 ――必死に気遣う織姫の姿に絶句する。思い当たるのは一つしかない。

 

 まさかと思いながら、グリムジョーを睨む。

 

「おいグリムジョー!! まさかテメエも知ってんのか!?」

「あぁん? 何が……あぁ、アーロニーロのくだらねえ小細工に騙されたことか? あれにはガッカリしたぜ」

 

 ニヤリと、挑発するように笑う姿に海燕は全てを悟った。

 

「アーロニーロのヤツにゃ、認識同期って能力があんだよ。アイツが知った情報は仲間全員に伝わんだ」

「認識、同期……」

 

 思わず愕然としてしまう。

 詳しい説明をされなくとも、その名前だけで十分に想像はついた。

 アレが全ての者たち――おそらくは十刃(エスパーダ)全員は当然、織姫が知っているのだから藍染らまでも――に伝わってしまったのだと。

 

「んなどうでもいいことグチグチと気にしてんじゃねえよ! 急いで治せ! 治されてろ!! いずれ気付いたウルキオラがここに来る! その前に――」

 

 その言葉は、さながら予言の言葉だった。

 唐突に現れた巨大な霊圧に、その場の三人が一斉に言葉を失う。

 グリムジョーは背後で膨れ上がった気配に目を大きく見開くと、即座に振り返ると身構える。

 織姫は不安そうに身を竦ませ、海燕は治療の最中にも関わらず立ち上がると即座に織姫を庇う位置へと移動して見せる。

 

「ウルキオラ……」

「……何をしている? グリムジョー……」

 

 視線を交錯させたまま、二人の破面(アランカル)が口を開いた。

 

 

 

 

 

 

「その死神を治そうと知ったことではないが、その女は俺が愛染様から預けて戴いたものだ」

 

 ――けっ! 知ったことじゃねえと来たか……

 

 ウルキオラの言葉に海燕は心の中で舌打ちする。

 副隊長の身分ゆえに低く見られるのも仕方ないと理解しているが、それでも気持ちの良いものではない。

 だが、そんな個人的な感情は今この場では別だ。

 二人の言動――それどころか一挙手一投足にまで気を配りながら、やり取りを注視する。

 

「渡せ」

「断るぜ」

「……何だと?」

「……どうしたよ? 今日はえらく喋るじゃねえかウルキオラ!!」

 

 先に仕掛けたのはグリムジョーだ。

 顔面を握り潰さんとばかりに伸ばした腕の動きを、ウルキオラは反応して受け止める。

 

「……わかってるぜウルキオラ……てめえは俺と()るのが怖えぇんだ……俺と潰し合うのがな!!」

「……ッ!」

「うおっ!!」

「キャアアアッ!!」

 

 片手を受け止められた体勢のまま、グリムジョーが虚閃(セロ)を放とうとする。それに気付いたウルキオラは受け止めたままの片手に霊力を集中して防御膜を張る。

 衝突は一瞬のことだった。

 密着状態で放たれた霊圧の奔流はウルキオラの手に衝突し、防御膜に弾かれて反射する。さながら水面に光が乱反射したかのようだ。

 暴走する破壊的な霊圧は室内をさらに破壊していき、海燕は己の怪我をも忘れて織姫を必死で庇う。

 

「はっ! 弾いたかよ! さすがに一撃じゃ――」 

 

 虚閃(セロ)を受け止めた衝撃で吹き飛ばされるウルキオラを目で追いながら、追撃を放とうとした時だ。

 グリムジョーの視界からウルキオラの姿が消える。

 

「――ッ!!」

 

 響転(ソニード)にて瞬時にグリムジョーの上を取ると、指を一本だけ、相手の脳天目掛けて向ける。その指の先には、先ほどグリムジョーが放ったとの遜色ないほどの霊圧が一瞬にして凝縮している。

 だがその頃にはグリムジョーもウルキオラの姿を捉えていた。

 感じ取った気配と霊圧に従い上を向くと、指先目掛けて掌底を叩き込む。

 

「ッ!!」

 

 ウルキオラとグリムジョー、二人の息を呑む声が重なった。

 指先一点へと集中して虚閃(セロ)を放とうとしたウルキオラに対して、グリムジョーは再び掌から虚閃(セロ)を放つことで迎撃する。

 破面(アランカル)二人の――それも十刃(エスパーダ)同士の霊圧によって放たれた虚閃(セロ)がゼロ距離で衝突し、大規模な破壊の嵐を生み出す。

 

「きゃあああああ!!」

「だあああっ!! くそっ、織姫ちゃんちょっとガマンしてくれ! しっかり掴まってろよ!!」

 

 その余波に、織姫と海燕も巻き込まれていた。

 重ねて言うが、ここはアーロニーロの宮の中である。四方を壁に囲まれた、堅牢な広間。

 海燕の戦いの余波であちこちがかなり痛み、グリムジョーがその四方の内の一面を破壊して入ってきたことで、崩壊寸前まで痛んでいる。

 

 そんな脆くなった建物の中で、二人の虚閃(セロ)がぶつかり合えばどうなるかなど、想像に難くないだろう。

 大量の土砂や瓦礫が降り注ぎ粉塵舞い上がる中を、海燕は織姫を抱き上げると大急ぎで避難する。

 

「…………」

 

 そうやって避難していく二人の姿を、ウルキオラは粉塵踊り瓦礫の舞う中で視界の端に捉えていた。

 逃げ出した織姫を、いつでも追いかけられるように。

 

 そしてもう一つ。

 この目眩ましに乗じて仕掛けてくるであろうグリムジョーを迎え撃つために。

 

「……くそっ」

 

 集中して気配を探る中、グリムジョーの腕が粉塵を切り裂くようにして現れる。

 胸ぐらを掴み捻り上げようとするその動きに、真っ向勝負が望みかと対応したところで、ウルキオラは己の判断を間違ったことを悟る。

 捻り上げると思っていたその腕は、紫色をした小さな正方形の物体を握り込んでいた。襟を掴む振りをしながら、喉元へと開いた孔へとそれを押し込む。

 紫色の閃光が帯状に伸びてウルキオラを包み込んでいく中、彼は小さく舌打ちする。

 

 光が消えた後に、ウルキオラの姿はなかった。

 

「い、今のは……」

反膜の匪(カハ・ネガシオン)だ」

「か、かは……?」

「どっかに幽閉する道具、ってところか?」

 

 わからないと疑問符を上げる織姫に代わり、海燕が口にする。

 

「勘が良いな。だが元々十刃(エスパーダ)用に作られた道具じゃねえ。ヤツの霊圧を考えると閉じ込めても精々二時間くらいってとこだろう」

「その怖い怖いお兄さんがいない間に、俺と一護にケリをつけようってわけか」

「……はっ! 何が怖いだ!? 俺がいつ、ウルキオラが怖えェなんつったよ!! ただ邪魔だから閉じ込めただけだ!!」

「わーった、わーったよ!!」

 

 威勢良く吼えるグリムジョーの姿に降参したように手を上げると、海燕は織姫の肩へそっと手を置いた。

 

「すまねえな、織姫ちゃん。俺の怪我、治しちゃくれねえか?」

「え……で、でも……」

「本当なら、とっとと織姫ちゃんを担いで逃げ出しゃよかったんだよ。けどよ、そうやって中途半端なことしてっと、あんにゃろはどこまでも追いかけて来るタイプだ。だからよ、一発キッチリとケリを付けなきゃならねえんだ……んで、戦いが始まったら――」

 

 そこまで言うと、気付いてくれとばかりに軽くウィンクで合図を送る。

 

「さっきも言ったろ? 上手いことやってくれよ」

「そ、そんな……!!」

「気にすんなって。アイツなら上手くやってくれらぁ! それに俺だって、伊達に副隊長やってるわけじゃねえんだからよ! 引き際くらい心得てんだから心配すんな」

 

 これ以上織姫を気遣わせぬように、わざとらしく軽い調子を演じる。

 気楽でひょうひょうとした態度を取りながら、申し訳なさそうに両手を合わせ、グリムジョーへ視線を向けた。

 

「んで、だ。あとついでで悪いんだが……そっちも治してやっちゃくれねえか?」

「……止めろ。てめえに情けをかけられる覚えはねえ」

 

 その視線の意味に気付き、苛立ち混じりに言うものの海燕の弁舌は止まらない。

 

「はっ! 情けと来たか。敵は万全じゃねえと嫌だけど、自分は不調だろうと構わねえのか? そんなんじゃ、勝ってもちっとも嬉しくねえんだよ」

「聞き間違いかぁ志波ァ!! 今の俺になら勝てるって聞こえたぞ!!」

「そう言ってんだよグリムジョー!! それとも後で言い訳できるように負け筋を残しておくかぁ!?」

 

 互いに一触即発にまで興奮して睨み合い、やがてグリムジョーはどっかと腰を下ろす。

 

「女ぁ! さっさと治しやがれ!!」

「はっ! はいぃっ!!」

 

 そんな剣呑な雰囲気に飲まれ、織姫は大慌てで治療を始めた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「っおおおりゃああ!!」

「はっ!」

 

 織姫の治療も終わり。

 互いに万全な体調となった海燕とグリムジョーは、どちらともなく戦いを始めた。

 

 海燕が始解にて金剛を薙刀へと変化させて斬り掛かるのを、グリムジョーもまた己の斬魄刀にて易々と受け止める。

 二人の霊圧がぶつかり合い、周囲の空気がまるでビリビリと音を立てているような緊張感が走った。

 

「ははははっ!! 万全状態でこの程度かよ!!」

「うるせぇっ!!」

「やっぱり俺の傷は残して置いた方がよかったんじゃねえのか!? そうすりゃ負けても言い訳が出来たぜ!!」

「黙れってんだよ!!」

 

 薙刀と刀、リーチの違う二つの武器が激突する度に、僅かずつではあるが海燕は気圧されていた。

 受け止める度に少しずつ体勢が崩れ、それをカバーしようと攻撃を仕掛けることで、また別の無理が出る。そうやって海燕の動きが少しずつ乱れ、金剛の刃が空や地を切り始めていく。

 

「しまっ……!」

 

 何度目かの攻撃のところで、金剛が大きく打ち払われた。

 地面へと縫い付けるようにたたき落とされ、海燕の足が一瞬止まる。

 

(しま)いだ!」

 

 その隙をグリムジョーは見逃さない。

 斬魄刀を腰だめに構え、鋭い突きを繰り出そうとしたところで彼は見た。

 海燕の表情――口の端が、僅かに歪んでいる。

 

「……なんてな! おらぁっ!!」

「くっ……!!」

 

 嫌や予感を感じ取り慌てて横に飛ぶのと、海燕が足を蹴り上げるのはほぼ同時だった。一瞬前までグリムジョーの頭があった位置へ、小石が吹き飛んでいく。

 その小石は何もない空を進み、やがて別の離れた位置の瓦礫と衝突するとそのまま突き刺さり、大きなヒビを走らせる。

 

「……く、くくく……」

 

 視界の端にそれを納め、グリムジョーは歓喜を隠し切れなかった。

 

 グリムジョーは知らないが、あの小石は元々は一抱えほどの大きさの瓦礫だった。

 攻撃が外れたように見せかけながら、金剛の能力にてじわじわと圧縮して作り出したものだ。石塊を小石サイズまで圧縮した物となれば、その質量たるや並大抵ではない。

 それを知らず、ただの小石だと舐めたまま攻撃を敢行していれば、今頃はどうなっていたことか……

 

「くははははっ!! そうだ! てめえのその小細工だけは、俺は認めてんだ!!」

「褒めてねえんだ……よっ!!」

 

 とっさの機転に上機嫌を見せるものの、海燕からすれば嬉しいものではない。

 単純に霊圧だけで圧倒して勝てるならば、まよわずそうしている。

 小細工に頼るのは、真っ向勝負では分が悪いと本能で感じているからだ。

 

 足の止まったところへ追い打ちを仕掛けようとした海燕であったが、グリムジョーは斬魄刀を投げ捨てると鬼道を放つように両手を掲げる。

 その掌に霊圧が集中しているのを確認し、海燕は大急ぎで防御態勢を取った。

 

虚閃(セロ)!!」

「うおおおっ……!!」

 

 両手から放たれる虚閃(セロ)の奔流に吹き飛ばされる。

 全身が焼かれるような感覚と激痛を再び味わいながら、海燕は宮の残骸へと叩き込まれていた。

 

「はははっ! どうした志波海燕、小細工はもう終わりか!? どんな手でも使ってこいよ! その全てを、俺が喰らい尽くしてやる!! それでやっと、俺はテメエに勝てるんだからよ!!」

「勝手なことばっか、言いやがって……」

 

 愉悦するグリムジョーの姿を、海燕は恨めしそうな目で見上げて呟いた。

 身体の大半は瓦礫に埋もれており、虚閃(セロ)と衝突のダメージとを合わせて再び全身が傷だらけだ。

 

「いちちち……くそっ、けど、どうすっか……」

 

 痛む腕を動かし、瓦礫を押しのけながらなんとか立ち上がろうとする。

 

 

 

 ――あーあー、ったく……まーたボロボロになってやんの……ホント、馬鹿だなお前。ひょっとして趣味か? 趣味なのか!?

 

「な、なんだ!?」

 

 瓦礫の上に手を着いた途端、周囲の景色が違って見えた。

 いや、景色そのものは変わっていないが、動いていない。まるで時間が停止したかのように、一切合切が微動だにしていなかった。

 

「まさか、これは……」

「よぉ、薄情者の死神サマ」

 

 どこからともなく現れたのは、黒く長い髪を一つに纏めた、精悍そうな顔つきの美丈夫だった。身に纏ったゆったりとした着流しがよく似合い、軽薄そうにも真面目そうにも、どちらの印象も受ける。

 

「捩花かよ……」

 

 ということはここは精神世界――いわゆる斬魄刀の本体が死神の精神に呼びかけているのだろうと気付く。

 

「捩花かよ、はねえだろうが。せっかく呼んでやったってのに」

 

 一方、捩花は不機嫌そうな態度を隠そうともせずに、ジト目で海燕へと抗議する。

 

「こんな態度を取られちゃあよ、やっぱり呼ぶんじゃなかったかな」

「お、おい待て! 呼ぶって……お前、どこにいんだよ!? 俺は別に……」

 

 問いかける海燕へ向けて、捩花は無言で下を指さした。

 

「……下?」

「そうだよ。お前が瓦礫の中から起きあがろうとしただろ? そんとき、瓦礫に埋もれてた俺を触ってんだよ」

「はぁ!? 本当かよ!?」

「本当だよ! じゃなきゃこんな風に呼びかけられねえだろうが!!」

 

 そんな接触の仕方で良いのかと思わず疑問が浮かぶが、他ならぬ斬魄刀本体がそう言っているのだ。ならばそうなのだろう。

 

「あのアーロニーロってのに良いように使われて、やっと解放されたと思ったら忘れられて、そんで今は瓦礫の下……しかも持ち主にゃ疑われて……助けるんじゃなかったかな……」

「まったく……素直じゃないですね」

「いい……っ! そ、その声は……!!」

 

 ふてくされた態度を見せる捩花を諫めるように、一人の女性が姿を現す。

 その女性の姿も、海燕は知っている。

 

「本当に嫌っていたら、ようやく触れてくれた機会に呼びかけるようなことはしないでしょう?」

「へーへー。けどよ、海燕だって悪いだろうが。あまりにも礼儀知らず過ぎんだろ?」

「や、やっぱり金剛かよ……!! でも、なんでだ……!? 別々の斬魄刀だろ、そんで今は捩花が呼びかけてるはず――うぶっ!?」

 

 海燕の口へ、金剛が指を押しつけて物理的に閉じる。

 

「それは置いておいて……今は意地っ張りな斬魄刀を迎え上げてください」

「い、いひっぱり(いじっぱり)って……ぶはっ! 捩花……もう一度、俺に力を貸してくれるのか……?」

「ん……まあ、な……」

「勿論、私も一緒ですよ」

 

 

 

 捩花と金剛、二人が頷いた瞬間から世界は再び動き始めた。

 それを認識した海燕は、自身が精神世界から解放されたことを認識すると瓦礫の中に手を突っ込むと、その下から伝わってくる手に馴染んだ感触に思わずにんまり笑みを浮かべる。

 

「よっしゃ捩花! もう一度一緒に頼まぁ!!」

 

 瓦礫の下から斬魄刀を引っ張り上げながら自身も立ち上がり、上空のグリムジョーを睨み付ける。

 

「悪いな、グリムジョー! こっからは、小細工抜きで行くぜ!!」

 




●認識同期
あの三文芝居が織姫まで拡散してたでござる。

反膜の匪(カハ・ネガシオン)
封印は、虚の孔に突っ込まないとダメなんでしょうかね?
だとすると、ザエルアポロに対して封印発動させるとかじゃなくて本当に良かったと思います。
(ザエルアポロの孔はカメさんの頭
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