お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第24話 仕事ばっかりじゃありません

「ごめんなさい! お待たせしちゃいました?」

「大丈夫よ、今来たところだから」

「それに約束の時間は過ぎてないし、何にも問題ないわ」

 

 駆け足でやってきた綾瀬さ――じゃなかったわね、幸江さんに、私と小鈴さんは優しく声を掛けます。それでも幸江さんは、一番最後だったのが気にくわないのでしょうか? どこか申し訳なさそうな顔をしていました。

 

 今日は非番です。

 いつもなら戦闘の自主訓練か、隊長に稽古を付けて貰っているか、先輩方をマッサージ(まさぐり)しているか、くらいなのですが。

 先日、幸江さんから「たまにはみんなで集まらないか?」と誘われ、こうして三人が集まったわけです。

 もう霊術院を卒業してから三年は過ぎていますからね。二人とも実務を経験している影響からか、院生時代よりもぐっと大人っぽく見えます。

 

「それで、今日は何か予定はあるの?」

「えっ!! 何か予定がないと駄目でしたか!? 私は久しぶりにみんなで集まって遊びたいなぁって思っただけで……」

「え……いやいや、そういうわけじゃないのよ!?」

 

 小鈴さんの言葉に幸江さんがさらに申し訳なさそうになりました。

 無計画は駄目だと怒られたみたいに感じちゃったんでしょうね。少し助け船を出してあげましょう。

 

「まあまあ、無計画でもいいじゃない。それに中央一番区は栄えているから、知らないお店を発掘するのが目的、とかでも面白そうじゃないかしら?」

「そ、そうですよ小鈴さん! そういうのも楽しいと思いますよ!?」

「……それもそうね」

 

 どうやら全員が私の船に乗ってくれたようです。

 

 

 

 

 

 さてさて、中央一番区と聞いて馴染みがある方がどれだけいるでしょうか?

 

 瀞霊廷には護廷十三隊の管轄地区(なわばり)がそれぞれある、というのは以前にもお話したかと思います。

 一番隊の管轄を中央の地区に配し、その周りを囲むようにして残り十二部隊の管轄地域が存在しています。私のいる四番隊は四番区、小鈴さんのいる六番隊なら六番区。といった具合ですね。

 それぞれの地区は、各部隊の特色を反映するかのような施設が多く。特にこの中央一番区――真央区とも呼ばれる――には、一番隊隊舎は元より数多くの行政施設があり、それにあやかろうと多種多様な施設もあります。

 

 他部隊の友人知人と待ち合わせる場合は、一番楽だからという理由で中央一番区が選ばれますが、様々なお店があるので。困ったら真央区というパターンも割とあります。

 

 とはいえ無目的で良さそうなお店を探す、というのは中々骨が折れるもので。

 

「なかなか良いお店ってないですね」

 

 小一時間ほど歩き回った後、私たちは近くにあった茶屋で一服することにしました。

 

「何にも目的がないんだもの、仕方ないわよ」

「こんなことなら六番区に集まれば良かったかも知れませんね。あそこなら良いお店も多いですから」

「ごめんなさい、六番区のお店は私にはちょっと……」

 

 今度は私が申し訳ない表情を見せる番でした。

 

 六番区は六番隊の管轄区です。

 その一角には貴族が住まう地区があり、その貴族たちにあやかろう――いっぱい儲けさせてもらおう――という商売人も多く集まっているので。

 良いお店もたくさんありますが、とにかく高いです。お値段に見合った質と価値はあるんですが、高級店すぎて私には色んな意味で高すぎます。

 

 敷居としても値段としても。

 

「ほら、四番隊はお給料が少ないから……」

「え? そうなの?」

「基本給は多分、三人とも変わらないと思うけれど。でもみんなはもう(ホロウ)と戦ってるんでしょう? 危険手当が出るから、その分だけ手取りも高くなる――……って、ウチ(四番隊)の席官は良くぼやいていたわ」

 

 正当といえば正当な理由なんですけどね。

 危険手当があるのなら、技術手当も欲しいところです。

 

「じゃ、じゃあもう! 目を瞑って適当な場所を選ぶとかしましょうか!? えーと……あそこのお店!!」

 

 幸江さんが当てずっぽうに指をさします。その先には、呉服屋がありました。

 

「あら、良さそうなお店ね。少し覗いてみない?」

「そうですね、行ってみましょう!」

 

 いい加減に選んだ割りには好感触ですね。既に支払いは済ませてあるので、そのまま茶屋を出て呉服屋へと足を運びます。

 

「へぇ、期待していなかったけれども、これは中々……」

「うわぁこれ可愛いですね! いいなぁ……」

 

 実際に商品を見てみると、期待していなかった分だけか好印象です。

 品揃えも豊富ですし、色とりどりで質もいい。名店ですよこれは。

 

「確かに、どれも素敵ね……ただ、私には多分、入らないのよね」

「……」

「…………ぁ」

 

 あ、いけない! せっかくテンション上がっていたのに、また空気を読まずに下がることを言っちゃった!!

 でもでも仕方ないんですよ! 着る物はまずサイズから! デザインよりもまずサイズがあるかどうか!!

 ……言ってて悲しくなってきますね。

 

「あ! これなんてどうですか!?」

 

 そう言って幸江さんが手にしたのは、髪結い用の手絡(てがら)――リボンみたいなものです。

 

「これなら、藍俚(あいり)さんにも問題ないと思います!」

「え……うん、確かに……これなら」

 

 受け取って自分でも確かめてみますが、良品です。これならサイズは問いませんし、貧困に喘ぐ死神にもお手頃なお値段です。

 

「そうね、でももう少し……こっちの色の方が似合うんじゃないかしら?」

「そ、そう?」

 

 小鈴さんが差し出したのは、同じデザインで真っ赤な色をしたリボンです。それを自分の髪へ確かめるように軽く当ててみます。

 

「似合うかしら?」

「うん! こっちの方が良いですね!! 流石です小鈴さん!」

「ふふふ、まあこのくらいはね」

 

 褒められて上機嫌になってますね。

 

「じゃあこれをお会計……」

「あっ! 駄目ですよ。これは私たちがお金を出します!」

「え……!? でも……」

「このくらいなら平気よ。お手当も貰ってるんだから、今くらいは。ね? せっかくだし、記念の贈り物とでも思って頂戴」

 

 まさかプレゼントして貰えるとは思ってもみませんでした。

 

「じゃあ、お言葉に甘えて……でも、勿体なくて付けられそうにないわね……」

 

 改めて手にしたリボンを見つめます。

 本当に良い品物で、普段身に付けるのには勿体ないと思ってしまうのは私が貧乏性だからでしょうか?

 

「駄目です! ちゃんと身に付けてください!!」

 

 その呟きを幸江さんに耳聡く聞かれ、有無を言わさんと強引に髪へ結ばれました。まあ、良いんですけどね。

 

 

 翌日、新しいリボンは同僚たちに好評でした。

 




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