「始解、かよ……」
「……ッ」
「……」
え……?
始解しただけでもの凄く恐れられているんだけど……なんで?
『それは勿論、拙者のこの真っ黒ヌルテカぼでぃが視線を独り占めしてしまうからでござるよ!! ほら
……どっちかって言うと、この真っ黒な刀身が怖いだけなんじゃ?
『むむむ……そう言うこともあるかも知れないでござるな……』
というかどう考えてもそれでしょう?
私も少しだけ本気になっているから、それもあるだろうけれど……
『不思議でござるなぁ……拙者はただ、アパッチ殿の毛皮に絡みついてテカテカにしたり! ミラ・ローズ殿の鎧の隙間に潜り込んでからウゾウゾと蠢くことで必死でガマンさせたり! スンスン殿の真っ白な爬虫類ボディを真っ黒に染め上げたり! そういったことを全身全霊で考えているだけというのに……』
あ、多分それが原因だわ。
あの子たち三人揃ってドン引きしてるじゃないの!! 大汗かいてるわよ!!
「オ、オオ……ッ!!」
「……っ!? ア、アヨン!?」
「おおおおおおおおおオオオオオオッ!!」
「叫んでいる、だと……?」
「な、何もしていませんのよ!?」
あの大きな獣、アヨンって名前なのね。
……まさか射干玉! あの獣にまで破廉恥な計画を!?
『いえいえいえいえ! 流石にそこまで考えている余裕はなかったでござるよ!! そこまで考える余裕があるなら、まずハリベル殿と姫騎士プレイが出来ないか考えるでござる!!』
それもそうね。
でもあのアヨンってのが暴れ出した原因が他にあるとすれば……私、かしら……?
まだあんな風な反応を見せるほどの霊圧は見せていない、つもりなんだけれど……
『キメラの名を冠しているだけあって、内なる野生に反応したとか、その様な理由では?』
いやいやそんな……あっ! まさか!!
更木副隊長と斬り合いをした時の残り香で恐慌状態になったとか、そういう感じじゃないでしょうね!?
『……それ、一番有り得そうでござるな』
「ふふ、どうしたの……私が怖い?」
「オアアアアァァッ!!」
「あら、言葉が通じないのかしら?」
……くすん、返事してくれなかったわ。
でも返事無しってことは、私を通して更木副隊長とか卯ノ花隊長を恐れてるって判断していいわよね!?
ねっ!?
……って、なんで襲いかかってくるの!?
ああもう! やるならやってやるわよ!!
「不本意だけどね、あなたみたいなのを相手にするのは慣れてるのよ……不本意だけどね!!」
更木副隊長とか更木副隊長とか更木副隊長とかで!!
このアヨン。
動きそのものかなり早いけれど、戦い方は単調ね。ただ、肉体のスペックで圧倒しているだけみたい。
これくらいの攻撃だったら、受け止めて相手がどれくらいの強さか計っても……
――やっぱり止めたわ!
そう思わせておいて、実は面倒な能力持ちとか有り得るもの!!
とりあえずその腕、一本貰うわよ!
結果的にギリギリまで引きつけてから最小限の動きで攻撃を避けると、躱しざまに手首を斬りつけてやりました。
斬りつけてやったんですけど……
「あらら、硬いわね」
予想以上に硬かったです。
少なくともあの体毛で覆われた部分以外を、じっくり腰を据えて斬れば大丈夫だろうけれど、普通の手段じゃダメージを与えることすら難しそう。
一応刀身に触れたから射干玉の能力の影響は与えられたけれど、でも有効利用するにはちょっと時間が掛かるでしょうね。
と、私がちょっと苦戦したことに気をよくしたのか、アパッチたちが突然盛り上がり始めました。
あっちは気楽で良いわねぇ……
というかあの子たち、ハリベルが出番を譲ってくれたって理解してる?
そんな内輪揉めみたいなことして、後で怒られても知らないわよ?
「ご主人様はああ言ってるみたいだけれど、どうする?」
「オオオッ!! ブオオオオオオッッ!!」
「まあ、そうよね」
返事の代わりに、今度は両手で殴られました。
「残念……おっと」
毛皮に覆われていない場所――首筋でも斬ってやろうと飛び跳ねて躱し、斬魄刀を振るおうとしましたが、そこに割り込むようにして尻尾の大蛇が襲いかかってきました。
マズいわね!
なんとか躱したけれどちょっと体勢が崩れてる!
これ、下手すると三人の追撃が……
……あれ? ……こない?
なんであの子たち、動かないの……? さっきからずっと霊圧を探って様子を確認しているのに、動く気配すらない。
何か一発逆転の秘策でも狙っているのかしら……?
「便利よね……尻尾って!!」
まあ、今はこのアヨンです。
首筋は無理だったものの、その代わり角を切り落としてあげましょう!
鹿の角って漢方にもなるし、
「えっ……!?」
力一杯斬りつけたものの、切断出来ませんでした。
不安定な体勢からの一撃だったとはいえ、刃を少し食い込ませるのが限界とか……
我ながら情けないわ。
「ブオオオオッ!!」
「ちっ!」
攻撃を受けたのにも構わず、蝿や蚊を両手で叩き潰すみたいに反撃してきました。
この攻撃、油断したら一発でペチャンコにされたかもしれません。
タフネスぶりと合わせて、更木副隊長と良い勝負ですね。機会があったら戦わせてみたいかも。
でもこれは迂闊過ぎる攻撃です。
押しつぶされそうになるのを上手く避けながら、ついでに斬魄刀を振るって射干玉の油を両手に飛ばします。
……うん、よし! ちゃんと射干玉塗れになったわね。
『なんだか照れる表現でござるなぁ』
「……なるほどなるほど。大体、分かったわ」
ついでに斬魄刀で触れたことで、アヨンの攻撃に"変な特殊能力"がないことも分かりました。本当にこの子は、野生の獣みたいに身体能力だけで大暴れするだけなのね。
余計なことを一切考えずに本能のままで暴れてるみたいだから、色々と使い難い場面もありそうだけど。
「ガオオオッ!! オオッ! オオオオッ!!」
「その心意気だけは認めるけれど――でもね、次に繋がらない攻撃だったらしない方がマシよ?」
地面に逃れても、アヨンは追撃の手を止めません。
両手を握るとそのまま鉄槌の様に、しかも身体ごと振り下ろしてきました。
そこまでしなくても良いんじゃない?
だって――
「こうなるから」
軽くバックステップで攻撃を避ければ、アヨンが目の前で身体を横たえたような状況になりました。
こうなったらもうコッチのものです。
速度重視で何度も斬魄刀を振り回してダメージを与えると同時に、射干玉の粘液を腕全体へまんべんなく塗ってやります。
「ほらね? ……と言っても、聞こえてはいないでしょうけれど。でも、一応言わせて貰うわ」
「バモオオオオッゥ!!」
「もう、その攻撃は無意味なの」
「バボオオオオオオオォォォォォゥッ!?」
仕込みは完璧!
両掌はもう射干玉の粘液塗れですからね。踏ん張りなんて全く効きません!
そうとは知らないアヨンが倒れた身体を起こそうと手を付けば、そのまま一気に滑って顔面を強打しました。
それだけならまだ良かったんですが……
「あーあ、だから言ったのに」
「オオオオオォォォォッ!!!!」
足場の全体が脆くなってたのよね。
滑った勢いで塔が崩れて、そのまま雪崩みたいに巻き込まれて落ちていきました。
それはもう、思わず落下していく様子を「じーっ」と凝視しちゃうくらいに見事な落ちっぷりでした。
でもこれは、アヨンの自己責任ってことで。恨むなら自分かご主人様を恨みなさい。
私は射干玉を褒めるから。
「流石、射干玉よね」
『照れるでござるなぁ……』
なでなで。
『あっ……そこ、その耳の後ろを……』
ここ?
『そっ、そこはお尻でござるよ!!
『そういえば!!』
「そして、このくらいじゃ死なないのも想定通り」
「ブモオオオオオッッ!! バブォッ!?」
「言ったでしょう? その攻撃は無意味だって」
ビルから落下したくらいで倒せれば、死神なんていらないのよね。
重ねての説明になるけれど、アヨンの両手は射干玉の粘液塗れです。掌も、拳も、ベットベトのヌッルヌルです。
たとえ千回殴られたって、もう掠り傷一つ与えられません。
まあ、このアヨンにもう少し知恵があれば、射干玉の能力の上から攻撃してきたんでしょうけれどね……
残念だけどあなたじゃ、卯ノ花隊長にも更木副隊長にも遠く及ばないわ。
知恵の無い獣じゃ、私には勝てないの。
『おおっ!
いってらっしゃい。
「……ねえ、あなたたち」
さて。
アヨンが無力化されたので、今度は
本当に、あなたたちなんで攻撃してこないの!?
私があのアヨンの攻撃を躱している時とか、割り込んでくるタイミングなんていくらでもあったでしょう!!
片腕になった程度で諦めて観戦モードに入ってるんじゃないわよ!!
私なんて片腕斬られたら即くっつけて闘えって叩き込まれたのよ!!
「そもそもアヨンはあたしらの言うことなんか……」
「
「……へぇ」
言うこと聞かないの?
……ううん。というよりも連携が出来ないって判断すべきね。
私に襲いかかっている時点で、敵味方の区別はできるみたいだし。
それなら、私のやることは一つ! 立ってるものは藍染でも使え!!
「だったら、こっちから行くわよ!」
「オオオオオオオオオオッッ!!」
「や、やめろアヨン! 来るな来るなァッ!!」
「ブアアアアアアアアアアッッ!!」
「ひいっ……!!」
「ほらほら、こっちよこっち!」
「ちょ! てめ――死神ィ! 何言ってんのよ!!」
離れたところにいる三人を、乱戦に巻き込むように動き回り、場をかき回します。
一瞬アヨンが私を見失ったようなので声を出して教えてあげれば、
「ああ、それもそっか」
「キャアアアアアアァッ!!」
今までずっと肉体攻撃ばっかりだったけれど、
戦い方が単調すぎたから、警戒度合いがちょっと下がってたみたいね。
心の中で反省しつつ、
ついでにスンスンのお尻を触って――もとい、蹴り飛ばして無理矢理射線から外します。この威力だと、たとえ解放状態であっても大ダメージでしょうからね。サービスです。
お礼を言ってくれてもいいのよ。
決して、せっかく接近したのにおっぱいに手を出せなかった腹いせではありません。
「うう……あ、あの死神ィ!」
「ちょ、ちょっと待て!! く……っ!!」
「ほら、隙あり」
またしても
スンスンの時以上に距離があるので、
「ぐあああああっっ!!」
「ミラ・ローズ!!」
油断してるから、そうなるの。
刺されて一見大怪我に見えるかもだけど、これでも内臓は一切傷つけないように気を遣って刺してるのよ。
それにあなた、一番頑丈そうだしこのくらいは平気でしょう?
『おおっ! 力強い女性というのもたまりませぬな!! このガチガチの腹筋に拙者も身体を擦りつけたいでござる!! はぁはぁ……はぁはぁ……!!』
……………………
さて、続いて二人目。
仲間がやられて動揺しているアパッチを刺して――
「アオギョオオオオオオオオッ!!」
「チッ……!」
――って、またあなたなのアヨン!! 今は空気読んで黙っててよ!!
ああもう! だったら黙らせてやるわよ!!
私と
――狙うは脇の下!
ここを斬れば流石に黙る……ええっ! まだ駄目なの!?
「仕方ない。もう一枚、手札を使いましょう」
はぁ……せっかく、
ここで
……あら?
「その反応……まさか、知らなかったのかしら……? 変ねぇ、藍染の目の前でも変身して斬り合いもしたのに……ひょっとして、情報規制でもされてるの? あなたたちが竦み上がらないように――」
藍染!? 教えてあげなさいよ!!
信頼っていうのはね、そういうところから崩れていくのよ!!
……あっ、やっぱり今の無し!
もっとどんどん不審と不和の種を撒いて頂戴!! 私はそれを利用してハリベルと親密になるから!! なんなら今すぐ
「ギャオオオオオオオオオオオオオオッッ!!」
――って、アヨン!! いい加減、五月蠅いのよ!!!!
怒り任せに四肢を切断してから、胴体を
……やってから気付きました。
これ、引かれないかしら? 逃げられたらどうしましょう……
「……なるほど、よくわかった」
「あら、認めてくれたの?」
「貴様は確かに強い……だが、それでも藍染様にはまだ届かぬ! そして、藍染様の障害になる貴様は、私が確実に倒す!」
よかった! なんとかなったわ!!
よしっ! 次はハリベルが相手よね!!
ここからが本番!!
ここからが真の
……なんだこれ?
(236~240話は、本来は2話(それぞれ1話ずつ)の予定でした)
(最初の2話は3日くらいで、後半2話は3時間くらいで書けました)