お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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※ 今話も30分後に一人称視点版を更新します。



第241話 ハリベルとの戦い

「ハリベル様!」

「あたしらは、まだ……まだやれます!!」

「駄目だ、下がっていろ」

 

 少し離れた場所から藍俚(あいり)とアパッチたちとの戦いを見守っていたハリベルであったが、彼女はようやく動いた。

 藍俚(あいり)の視線から隠すように前に立ち、背中で庇ってみせる。

 

 一方、驚いたのはアパッチたちだ。

 藍俚(あいり)と戦ったのも、元々は彼女たちから「やらせてください」と頼み込んだから。不遜な死神の魔の手からハリベルを守らんとするための行動だ。

 

 言い出しっぺが、守られる側に回されてしまう。そんな悔しいことがあるだろうか。

 アヨンを一方的に打ち倒され、心はとっくに折れていた。

 それでも彼女たちはハリベルの事を第一に考え、己を必死で奮い立たせて戦意をアピールするものの、だがハリベルは首を横に振る。

 

「そんな……!!」

「三人とも、よく闘った。だがこいつは格が違う……私はまだ、お前たちを失いたくはない」

「ハリベル……様……」

「お前たちが私の身を案じていたように、私もまたお前たちの身を案じている……だから、今は下がれ。悔しければ、もっと力をつけろ」

「……っ、く……っ……」

「は、い……」

「申し訳……ありません……」

 

 そう言われてしまっては、もはやアパッチたちは言葉が無かった。

 ハリベルもまた自分たちと同じ考えだったことや、身を案じてくれたことに対する喜び。

 ハリベルを守り切れなかったことと、何よりも自分たちの力不足に対する悔しさ。

 

 悲しみと喜びの感情が胸の中でごちゃ混ぜになって、それ以上何も言えなかった。

 ただ肩を落とし、落胆したように返事をしながら、それでもせめて戦いの邪魔にだけはならぬように。三人はその場から離れていく。

 

「……今回のことを気に病むなとは言わぬ。だが、気にしすぎるな。割って入ったのは、私のワガママでしかないのだからな」

「「「……はっ……! はいっ!!」」」

 

 離れていく部下たちへ、振り返ることはしないまでもハリベルは優しく声を掛ける。

 その言葉に、アパッチたちは大きく返事をしていた。

 

 

 

 

 

「生きてるか、ミラ・ローズ?」

「あの程度で……くたばるもんかよ……ぐっ! 痛っ……――」

「……無理すんな……」

「――くねぇな、こんな怪我! 死神にやられた傷なんざ、痛くも痒くもねえ!!」

 

 ハリベルたちから距離を取るために移動している最中、肩を貸しつつアパッチが尋ねれば、ミラ・ローズは痛みに顔を歪めながらも精一杯の強がりを見せていた。

 隻腕に加えて、彼女だけは藍俚(あいり)に斬られている。

 少し青くなった顔色とフラついた様子を見せながらも、それでも認めないとばかりに虚勢を張り続けている。

 

「……大人しく横になって休んでおきなさいな。その怪我が原因で死なれては寝覚めが悪いですし、なにより"失いたくない"というハリベル様のお言葉に反しますわよ?」

「……チッ! 仕方ねえな。今はその言葉に騙されておいてやるよ」

「……」

 

 なんだかんだ言いつつも、かなり辛かったのだろう。

 スンスンが溜息を吐きつつ苦言を呈すれば、ミラ・ローズは素直に聞き入れて身体を横にする。

 そんな二人の言動を、アパッチは少しだけ感心しつつ眺めた時だった。

 

「はぁっ……はぁっ……! や、やっと……やっと追い付いた、わ……なんで、あんなに足速いの、よ……っ……藍俚(あいり)のヤツ……っ!!」

 

 それぞれ身を休めようとしていたアパッチらの隣に、見慣れぬ一人の破面(アランカル)が並んだ。

 よほど無理をして、しかも長距離を駆け抜けてきたのだろう。彼女は「ぜいぜい」と肩で息をしつつ、額からは何本もの汗を流している。

 アパッチら三人の存在に気付くことなく必死で呼吸を整えようとしていることから、今の彼女がどれだけキツい状態なのかは容易に窺える。

 

「――って、何よあの仮面! アイツ、あんなことまで出来たの!?」

「……は?」

「え……?」

「……あら……?」

「……ん?」

 

 だがすぐに、乱れた呼吸でも構わぬままに大声を上げる。

 

 その大声が引き金となって、彼女とアパッチら三人の目が合った。

 互いに顔を見合わせると気の抜けた声を上げ、数秒ほど見つめ合っていたが、やがてアパッチが口を開く。

 

「……て、テメエは確か! えーっと……名前は知らねえけれど、3桁(トレス・シフラス)の! チラッと見たことあるぞ!!」

「はぁっ!? これでもアンタらの先輩よ、先輩! チルッチ・サンダーウィッチ!! 覚えておきなさい!!」

「何が先輩だ! 弱いから十刃(エスパーダ)から落ちただけだろうが!!」

「ええそうよ! けどね、それは十刃(エスパーダ)に求められる実力が無かっただけ! ここにいるってことはアンタたち、どこぞの十刃(エスパーダ)従属官(フラシオン)でしょう!? その程度の相手に負けるほど弱くはないわよ!!」

「なんだとテメエ!!」

「だったら今からでもやり合って証明してやろうか!?」

「……二人とも元気ですこと」

 

 チルッチ、アパッチ、ミラ・ローズの三人が一触即発な雰囲気を醸し出す。なお、スンスンだけは我関せずとばかりに口元を手で覆い隠していたが。

 そんな最中、ギラリと刃のように鋭い視線でやる気満々な二人を一瞥すると、そこで興味を失ったように視線を戻す。

 

「……いいえ、やらないわ」

「なんだと!」

「ビビったか!?」

「あんたたち三人とも、怪我してるじゃない。全員片腕がないし、そっちの色黒のは斬られてる。そんな相手に勝ったところで、自慢にもなりゃしない。何より、あたしはあたしで別の用事があってここまで来たの。だから、あんたたちの相手なんてしてられないのよ」

 

 片手をバタバタと振り「さっさと帰れ」と意思表示を見せる。

 そして、ついでとばかりに「ま、完全な状態でやっても負けないけれどね」と口にすることで、アパッチたちを煽ることも忘れない。

 その言い方に二人が再び機嫌を悪くするものの、何かを言い出すよりも前にスンスンが何かに気付いたようにハッとした様子を見せた。

 

「……そういえばあなた、先ほど"藍俚(あいり)"と口にしていましたわよね? 私の記憶が確かなら、それはあの死神の名だったはずですが……?」

「ええ、そうよ。あの死神に、少し借りがあるの」

「借りだと?」

「まさかテメエ、あの死神の仲間になったとかじゃねえだろうな……」

 

 あっさりと肯定するチルッチに訝しげな表情を浮かべる三人であったが、彼女は我関せずとばかりにハリベルと藍俚(あいり)が並ぶ場所を指さす。

 

「そんなことよりも。あっちの肌が黒いのが、あなたたちの主人かしら?」

「……ああ、そうだよ。ハリベル様だ」

「ふーん……彼女、まだ解放していないみたいだけど……でも、強いわね……腹立たしいけれど、あたしよりもずっと……」

 

 自分との実力差から、チルッチはハリベルのことを強いと素直に認める。

 

「はっ! 少しは身の程ってもんをわかってるじゃネエか! そうだよ! あの死神がどれだけ強かろうと――」

「でも、アイツには勝てないでしょうね」

「――んだとぉ!?」

「あんたたち、アイツの卍解をまだ見てないんでしょう?」

 

 続く文句をアパッチが言うよりも早く、チルッチが口を開いた。

 

「卍解……?」

「そういや、まだだった、よな……?」

 

 卍解という言葉に三人は思わず顔を見合わせる。

 始解で、自分たちの切り札をほぼ封殺されたのだ。

 ならば卍解を出されれば自分たちの主(ハリベル)すら危ないのではないか? そう危惧してしまうのも自然なことだった。

 

「つまりあなたは、その卍解に敗れたということかしら?」

「いいえ、私はアイツとは戦ってすらいない」

「戦ってないだぁ!? なんでそれで"勝てねえ"なんてことが言えんだよ!!」

「……見たら、分かるわよ」

 

 戦ってもいないのに、なぜそう言いきれるのか。

 理解が追い付かずにいるアパッチたちであったが、もはや話は済んだとばかりにチルッチは視線を藍俚(あいり)たちへと向ける。

 

 たしかに彼女は、藍俚(あいり)とは戦ってすらいない。

 だがそれでも"卍解の一端"には触れたのだ。

 死の淵にいた自分を、万全以上の状態へと回帰させるほどの力――その力が戦いに回されればどうなるかなど、見ていなくとも容易に想像が付く。

 

藍俚(あいり)……人のこと巻き込んだかと思えば一人で勝手に突っ走って……これで負けたら一生笑ってやるわ……」

 

 ――だから、負けんじゃないわよ。

 

 チルッチは最後の言葉を飲み込んだ。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「……お話はもう終わり、で良いのよね?」

「ああ、待たせてすまんな」

 

 アパッチら三名の従属官(フラシオン)たちが離れていくのを見送りながら、藍俚(あいり)は改めて口を開く。

 ハリベルらが会話をしている最中、割り込んで攻撃をしようとすれば、いつでもできただろう。

 それをせず――仮にそうなっても対応出来るように気を張ってはいたが――ただ黙って待っていた藍俚(あいり)に、ハリベルは少しだけ感謝の念を送る。

 

「ふふ……いいのよ、別に。この程度の時間なんて、待ったうちに入らないから。それに、待つ時間っていうのも案外良いものなのよ?」

「そうか」

 

 だが、勝負については話が別だ。

 彼女は背負にした斬魄刀の鍔に指を掛け、一気に引き抜くと切っ先を藍俚(あいり)に向けて構える。

 

 その斬魄刀は、特異な形状をしていた。

 刀身は短く身幅の分厚いその形状は、山刀や鉈・段平(だんびら)といった刃物を連想させる。

 それでいて刃の内側はごっそりとくり抜かれており、(しのぎ)に相当する部分が見当たらない。

 取り回しだけを考えれば扱いやすそうだが、強度を考えれば不安になる――といったところだろうか。

 

 そんな不可思議な刀を構えたハリベルの姿に、藍俚(あいり)は仮面の下から覗く瞳に歓喜の色を輝かせていた。

 

「ほぉら、待った甲斐があった。さっそく面白そうな物が出てきたわ。それでどう戦うのかしら……ふふ、考えただけでもワクワクしちゃう」

「随分と……余裕だな……」

 

 ――見られている。

 

 藍俚(あいり)の言葉を聞きながら、ハリベルはそう直感する。

 

 対峙した瞬間から――いや、それよりももっと前。藍俚(あいり)ハリベル(じぶん)らの元へ移動していると感じた瞬間から――ハリベルは、はっきりとそう感じていた。

 まるで頬に触れられ、喉を撫でられ、全身をなめ回されているような感覚が止まらない。

 当然、藍俚(あいり)はまだ一歩たりとも動いていない。対峙した時からずっと、二人の間の距離は変わらぬままだ。

 手が届くはずもない。何かをしているわけでもない。

 

 錯覚だ。感覚が誤認しているだけだ。

 (ホロウ)化した死神の霊圧に、ただ慣れていないだけだ。

 

 わかっている、わかっているはずなのに。

 自分の身体の上を指が、舌が、這いずり回っている。無遠慮に身体を撫で回され、ねばねばとした何かが全身に絡みついているような――そんな感覚がずっと止まらない。

 

「さっきはあなたの部下たちに先手を譲ったし、今度はこっちの番から……よね!」

 

 そんなハリベルの内心の(おぞ)ましさを看過してか、藍俚(あいり)が先んじて動いた。

 お互いの匂いすら届くほど近くまで瞬時に寄ると、斬魄刀にて斬りつける。

 ハリベルはその一撃を斬魄刀にて受け止めると、一気に離れて距離を取った。

 

「あら、逃げられちゃった」

「その斬魄刀、能力は先ほど見せて貰った。長く組み合うのは危険と判断しただけだ」

 

 先ほどのアヨンとの戦いにて、藍俚(あいり)が持つ斬魄刀の能力は大凡とはいえど割れている。

 完全には分からぬ物の、それでも何度か斬りつけたことから、能力の発動に時間か回数か、何らかの条件が必要となる(たぐ)いだと、ハリベルは判断していた。

 

「まあ、さっき見せちゃったからね。バレるのも当然か……でも、どうするの? これから全ての攻撃を躱すのかしら?」

「それも良いが、少し戦い方を変えるだけだ」

 

 くすくすと喉の奥で笑いながら、藍俚(あいり)は少し離れた場所のハリベルに視線を向ける。

 その視線が、己の一挙手一投足を油断なくされているようで、彼女は軽く冷や汗を流しつつも、斬魄刀に霊圧を込めた。

 空洞であったはずの刀身に霊圧が流れ込み、まるで光が補充されたかのように眩い輝きを放ち始める。

 

「あら?」

波蒼砲(オーラ・アズール)

 

 ハリベルが突きを放つ。

 と同時に、刀身に溜まった霊圧が凄まじい勢いで撃ち出される。まるで刀身そのものを放った様に見えるが、それは霊圧が刀身と同じ形をしているだけのこと。

 その本質は、刀身サイズにまで圧縮された霊圧を放つ技だ。

 

「これ、結構厄介ね」

 

 隊長格でも容易には躱せぬほどの速度で放たれたその一撃を、藍俚(あいり)は身を捻って躱しながら軽く弱音を吐いた。

 例えるならば虚閃(セロ)虚弾(バラ)の速度で放つ、そんな所だろうか。しかも圧縮されている関係上、全身を焼くのではなく一点だけを鋭く貫く技――虚閃(セロ)よりもずっと厄介だろう。

 故に下手に受けることは危険と判断する。

 

 そう分析すると同時に、ハリベルが手にする斬魄刀へ一瞬だけ視線を走らせる。

 

 始解状態の射干玉の能力は、熱に弱い。

 波蒼砲(オーラ・アズール)が刀身を介して放つ技である以上、せっかく貼り付けた粘菌も先ほどの一撃で跡形もなく焼き尽くされている。

 (ホロウ)化状態ということを差し引いても、中々どうして相性が悪いようだ。

 

「まだだ」

 

 再び波蒼砲(オーラ・アズール)が放たれる。

 先ほど刀身をチラリと見たとき、既にハリベルが第二撃目の発射態勢へ入っているのは確認できた。

 己の身体を貫かんと迫り来る黄色の刃を、藍俚(あいり)は飛び退き避ける。

 

「もう一撃」

「三発目……!」

 

 その回避を狙い済ましたように、三度めの波蒼砲(オーラ・アズール)が放たれた。一瞥しただけで、込められた霊圧量が前の二発よりも明らかに多い。

 先ほどの二発はただのフェイント――攻撃を回避させることで隙を生み出し、本命の一撃を直撃させるための囮でしかない。

 だが最も驚くべきは、虚閃(セロ)以上の攻撃を容易く連射するハリベルの実力か。

 

「それで――」

 

 だがハリベルが如何に強者であっても、藍俚(あいり)はそれ以上の実力者に嫌と言うほど仕込まれている。

 再び迫る黄色の刃を己の斬魄刀にて受け流すと、油断なく正面を睨む。

 

「――次が本当の本命、よね?」

「ッ!」

 

 藍俚(あいり)の視線の先には、今まさに剣を振り下ろそうとするハリベルの姿があった。

 放った刃の影に隠れて近寄り、斬撃を直接叩き込む腹づもりだったようだ。三本目の刃が避けられても次の攻撃に続く――直撃すればそのまま追い打ちに繋がる――中々見事な攻撃の組み立てと言えるだろう。

 まさか看過されるとは思わずに微かな動揺を見せるものの、それでもハリベルは迷うことなく刃を振り下ろした。

 藍俚(あいり)は再び刃を受け流そうとして――

 

「あ」

 

 ――小さく呻く。

 

 次の瞬間、その声をかき消さんばかりの爆発が巻き起こった。

 

破裂蒼(ルプトゥラ・アズール)……ここまでは読めなかったようだな」

 

 霊圧によって巻き起こされた爆煙に包まれながら、ハリベルが呟く。

 波蒼砲(オーラ・アズール)が遠距離用の技とすれば、破裂蒼(ルプトゥラ・アズール)は近距離用。刀身に充填した霊圧を、放つのではなく衝突の瞬間に解放することで爆発現象を起こし相手を攻撃する技だ。

 ハリベルの刃を不用意に受けることは、この爆発の餌食になることを意味する。

 

「一応、気付いたわよ? 少し、ギリギリだったけれどね」

 

 爆煙の向こうから不意に声が聞こえた。

 

「でもちゃんと気付けたから、こうして反撃できるの」

「くっ……!」

 

 煙を切り裂きながら藍俚(あいり)が現れ、ハリベルへと斬り掛かる。

 その姿はなるほど本人が口にする通り無傷。多少煤けた様な傷が散見できる程度だ。

 仕留めたと思うほど自惚れてはいなかったが、まさかこうも効果が無いとも思っておらず、ハリベルの動きが一瞬遅れる。

 振るわれた刃は彼女の前髪、その一房を半分にしながら、額に傷跡を刻んだ。

 

「ちょっと浅かったかしら? なら――」

「ぐっ……が……ぁ……!」

 

 掠めた一撃に納得が出来ないのか、そのまま次々と流れるような動きで藍俚(あいり)は斬魄刀を振るい続ける。

 斬り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い。途切れることなく繰り出される攻撃を、ハリベルは必死で防ぐものの、完全には避けきれなかった。

 肩や腕、腹や胸などがじわじわと傷つき、少しずつ出血量が増えていく。

 

「このままで終わりかしら?」

「舐めるな!」

 

 実力差を見せつけるかのように、余裕を持ちながらハリベルの頭部目掛けて藍俚(あいり)は突きを放った。

 その突きを身を捻って避けつつ、お返しとばかりにハリベルも突きを放つが、これもまた藍俚(あいり)が横に避けて躱す。

 互いが互いに突きを放つ、まるでダンスか何かと見まごうような光景の中で、ハリベルは藍俚(あいり)を睨むように視線を横へ向ける。 

 

「甘い」

 

 彼女の握る斬魄刀、その刀身が再び爆発を巻き起こした。

 それも、爆風全てが真横へ――まるで逃げた藍俚(あいり)を追い詰めるかのように放たれる。

 爆発といえど、ハリベルの霊圧にて生み出されるもの。この程度の応用、出来て当然なのだろう。

 

「誰が?」

 

 だが藍俚(あいり)はその上を行く。

 そもそも、あの余裕ぶった突きそのものが罠だった。相手の突きを避け、わざと側面に身を晒すことで、再びの爆発を誘う。

 ハリベルの思考と行動を操れれば、対応することもまた容易い。

 

 爆発が起こるより前に大きく身を潜めることでやり過ごし、低い姿勢のまま水面蹴り――地を這うような足払い――を放つ。

 流石に反応しきれず、ハリベルは大きく足下をすくわれる。

 

「ぐ……っ……ぐああああっ!!」

 

 ぐらりと姿勢を崩したところで、藍俚(あいり)はハリベルの太腿目掛けて斬魄刀を突き刺した。

 刃が深々と、腿の半ばまで突き刺さり、そこから鮮血が溢れ出す。

 同時にハリベルの口から悲鳴が上がった。

 

「これで、機動力が大幅に失われたんだけど……」

「……ッ!」

 

 突き刺した斬魄刀を即座に引き抜きながら、藍俚(あいり)はどこか詰まらなさそうな雰囲気で口を開いた。

 

「ハリベル、帰刃(レスレクシオン)はしないのかしら? このままだと確実に押し負けるってことくらい、分かるでしょう?」

「…………」

 

 痛みと出血で僅かに顔を顰めながら、ハリベルは少しの間無言だった。

 藍俚(あいり)もまた特に攻撃などを行うことなく、彼女の返事を待つ。

 数秒の睨み合いの後、根負けしたようにハリベルが口を開いた。

 

「……第4十刃(クアトロ)以上の十刃(エスパーダ)は、天蓋の下での解放は禁じられている。強大過ぎて、虚夜宮(ラス・ノーチェス)そのものを破壊しかねないという理由でな。私は、それに従っているに過ぎない」

「あら、そうだったの? ……だったら」

 

 藍俚(あいり)が片手を天に向けて勢いよく上げた。

 その掌には圧縮した霊圧が込められ、今にも天蓋を貫かんと吹き上がる火山のように……少なくともハリベルに目にはそう見えた。

 

「っ!! 止め――」

虚閃(セロ)

 

 狙いに気付き反射的に叫ぼうとするが、遅かった。

 天蓋目掛けて、巨大な虚閃(セロ)が放たれる。

 先ほどの、アヨンを消し飛ばしたのと遜色のない一撃。打ち上げられた霊圧の閃光は、一瞬にして天蓋に円を描くように削り取っていく。

 

 やがて光が収まったそこには、巨大な穴があった。

 二人の周囲をすっぽり包み込んでなお十分な余裕がある程の巨大な空洞。そこから真っ暗な夜空が顔を覗かせている。

 まるで青空の一部分にだけ夜が訪れたような、歪な光景。

 

「ほら、これでこの辺りに天蓋は無くなった――天蓋の下じゃなくなったわよ? それとも、まだ足りないかしら?」

「……一つ、聞かせろ。なぜこんなことをする? 死神である貴様が私に全力を出させたところで、利など無いだろう……?」

 

 戦いに勝つだけならば、相手を倒すだけで良いならば、解放など不要。真の実力を出せぬ相手を一方的に打ち倒す方がよっぽど容易い。

 ハリベルからすれば当然の疑問に、藍俚(あいり)はさも当然のことのように言った。

 

「ただ勝つだけじゃ、意味なんてないのよ。こっちからお願いしている以上、全力のあなたを打ち倒して屈服させる……それが最低限の礼儀でしょう?」

「……貴様、正気か……?」

「勿論、正気よ。それともハリベルは、我慢できるの? 今からでも納得して、私の言うことを聞いてくれる? 自分よりも弱いかもしれない相手の言うことを、素直に従ってくれるのかしら? どうせ言うことを聞くのなら、せめて本気の自分よりも上の相手がいい……それってそんなにワガママかしら?」

「…………フッ。なんとも傲慢な理由だな」

 

 念を押すような問いかけに、ハリベルは鼻で笑って答える。

 

「藍染様、申し訳ありません。このティア・ハリベル、虚夜宮(ラス・ノーチェス)を破壊せんと暴れる死神を倒すべく、禁を破らせていただきます」

 

 何か覚悟を決めたように、上着のファスナーを勢いよく下ろすと胸元を一気に開け放つ。

 その下にあったのは、(ホロウ)だった頃を示す仮面の名残――口元から胸上部辺りまでを白い鎧のように覆い尽くしている。

 

「――討て」

 




●ハリベル(解放前)
解放前だと、水は操れないって事で良いんですよね?

波蒼砲(オーラ・アズール)
ハリベルが解放前に使っていた技。
(卍解シロちゃん相手に「隊長ってこの程度か……」と落胆時などで使用)

刀身の空洞に霊圧を溜めて、そこから刀身と同じ形状の霊圧を放つ。
多分やってることは「形を変えた強い虚閃(セロ)」なんじゃないかなと解釈。

ただ「蒼」が入ってるのに黄色なのはやっぱりおかしいと思う。

破裂蒼(ルプトゥラ・アズール)(オリジナル)
霊圧を溜めて放つのがアリなら。
霊圧を溜めて斬る(と同時に)爆発してダメージを与える。
そんな技(近距離用の技)があっても良いんじゃないかなと妄想。

破裂や断絶を意味するスペイン語、ルプトゥラより。

●天蓋
・海燕さんが王虚の閃光(グラン・レイ・セロ)を弾いて大穴開けた
藍俚(あいり)が霊圧放って大穴開けた
(・もう少し先で、ウルキオラも原作通りに穴開ける予定)

もう天蓋さんの身体はボロボロだよ……
大帝の「空の全てが屋根」理論は正しかったんだ。
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