「ハリベル様!」
「あたしらは、まだ……まだやれます!!」
「駄目だ、下がっていろ」
少し離れた場所から
一方、驚いたのはアパッチたちだ。
言い出しっぺが、守られる側に回されてしまう。そんな悔しいことがあるだろうか。
アヨンを一方的に打ち倒され、心はとっくに折れていた。
それでも彼女たちはハリベルの事を第一に考え、己を必死で奮い立たせて戦意をアピールするものの、だがハリベルは首を横に振る。
「そんな……!!」
「三人とも、よく闘った。だがこいつは格が違う……私はまだ、お前たちを失いたくはない」
「ハリベル……様……」
「お前たちが私の身を案じていたように、私もまたお前たちの身を案じている……だから、今は下がれ。悔しければ、もっと力をつけろ」
「……っ、く……っ……」
「は、い……」
「申し訳……ありません……」
そう言われてしまっては、もはやアパッチたちは言葉が無かった。
ハリベルもまた自分たちと同じ考えだったことや、身を案じてくれたことに対する喜び。
ハリベルを守り切れなかったことと、何よりも自分たちの力不足に対する悔しさ。
悲しみと喜びの感情が胸の中でごちゃ混ぜになって、それ以上何も言えなかった。
ただ肩を落とし、落胆したように返事をしながら、それでもせめて戦いの邪魔にだけはならぬように。三人はその場から離れていく。
「……今回のことを気に病むなとは言わぬ。だが、気にしすぎるな。割って入ったのは、私のワガママでしかないのだからな」
「「「……はっ……! はいっ!!」」」
離れていく部下たちへ、振り返ることはしないまでもハリベルは優しく声を掛ける。
その言葉に、アパッチたちは大きく返事をしていた。
「生きてるか、ミラ・ローズ?」
「あの程度で……くたばるもんかよ……ぐっ! 痛っ……――」
「……無理すんな……」
「――くねぇな、こんな怪我! 死神にやられた傷なんざ、痛くも痒くもねえ!!」
ハリベルたちから距離を取るために移動している最中、肩を貸しつつアパッチが尋ねれば、ミラ・ローズは痛みに顔を歪めながらも精一杯の強がりを見せていた。
隻腕に加えて、彼女だけは
少し青くなった顔色とフラついた様子を見せながらも、それでも認めないとばかりに虚勢を張り続けている。
「……大人しく横になって休んでおきなさいな。その怪我が原因で死なれては寝覚めが悪いですし、なにより"失いたくない"というハリベル様のお言葉に反しますわよ?」
「……チッ! 仕方ねえな。今はその言葉に騙されておいてやるよ」
「……」
なんだかんだ言いつつも、かなり辛かったのだろう。
スンスンが溜息を吐きつつ苦言を呈すれば、ミラ・ローズは素直に聞き入れて身体を横にする。
そんな二人の言動を、アパッチは少しだけ感心しつつ眺めた時だった。
「はぁっ……はぁっ……! や、やっと……やっと追い付いた、わ……なんで、あんなに足速いの、よ……っ……
それぞれ身を休めようとしていたアパッチらの隣に、見慣れぬ一人の
よほど無理をして、しかも長距離を駆け抜けてきたのだろう。彼女は「ぜいぜい」と肩で息をしつつ、額からは何本もの汗を流している。
アパッチら三人の存在に気付くことなく必死で呼吸を整えようとしていることから、今の彼女がどれだけキツい状態なのかは容易に窺える。
「――って、何よあの仮面! アイツ、あんなことまで出来たの!?」
「……は?」
「え……?」
「……あら……?」
「……ん?」
だがすぐに、乱れた呼吸でも構わぬままに大声を上げる。
その大声が引き金となって、彼女とアパッチら三人の目が合った。
互いに顔を見合わせると気の抜けた声を上げ、数秒ほど見つめ合っていたが、やがてアパッチが口を開く。
「……て、テメエは確か! えーっと……名前は知らねえけれど、
「はぁっ!? これでもアンタらの先輩よ、先輩! チルッチ・サンダーウィッチ!! 覚えておきなさい!!」
「何が先輩だ! 弱いから
「ええそうよ! けどね、それは
「なんだとテメエ!!」
「だったら今からでもやり合って証明してやろうか!?」
「……二人とも元気ですこと」
チルッチ、アパッチ、ミラ・ローズの三人が一触即発な雰囲気を醸し出す。なお、スンスンだけは我関せずとばかりに口元を手で覆い隠していたが。
そんな最中、ギラリと刃のように鋭い視線でやる気満々な二人を一瞥すると、そこで興味を失ったように視線を戻す。
「……いいえ、やらないわ」
「なんだと!」
「ビビったか!?」
「あんたたち三人とも、怪我してるじゃない。全員片腕がないし、そっちの色黒のは斬られてる。そんな相手に勝ったところで、自慢にもなりゃしない。何より、あたしはあたしで別の用事があってここまで来たの。だから、あんたたちの相手なんてしてられないのよ」
片手をバタバタと振り「さっさと帰れ」と意思表示を見せる。
そして、ついでとばかりに「ま、完全な状態でやっても負けないけれどね」と口にすることで、アパッチたちを煽ることも忘れない。
その言い方に二人が再び機嫌を悪くするものの、何かを言い出すよりも前にスンスンが何かに気付いたようにハッとした様子を見せた。
「……そういえばあなた、先ほど"
「ええ、そうよ。あの死神に、少し借りがあるの」
「借りだと?」
「まさかテメエ、あの死神の仲間になったとかじゃねえだろうな……」
あっさりと肯定するチルッチに訝しげな表情を浮かべる三人であったが、彼女は我関せずとばかりにハリベルと
「そんなことよりも。あっちの肌が黒いのが、あなたたちの主人かしら?」
「……ああ、そうだよ。ハリベル様だ」
「ふーん……彼女、まだ解放していないみたいだけど……でも、強いわね……腹立たしいけれど、あたしよりもずっと……」
自分との実力差から、チルッチはハリベルのことを強いと素直に認める。
「はっ! 少しは身の程ってもんをわかってるじゃネエか! そうだよ! あの死神がどれだけ強かろうと――」
「でも、アイツには勝てないでしょうね」
「――んだとぉ!?」
「あんたたち、アイツの卍解をまだ見てないんでしょう?」
続く文句をアパッチが言うよりも早く、チルッチが口を開いた。
「卍解……?」
「そういや、まだだった、よな……?」
卍解という言葉に三人は思わず顔を見合わせる。
始解で、自分たちの切り札をほぼ封殺されたのだ。
ならば卍解を出されれば
「つまりあなたは、その卍解に敗れたということかしら?」
「いいえ、私はアイツとは戦ってすらいない」
「戦ってないだぁ!? なんでそれで"勝てねえ"なんてことが言えんだよ!!」
「……見たら、分かるわよ」
戦ってもいないのに、なぜそう言いきれるのか。
理解が追い付かずにいるアパッチたちであったが、もはや話は済んだとばかりにチルッチは視線を
たしかに彼女は、
だがそれでも"卍解の一端"には触れたのだ。
死の淵にいた自分を、万全以上の状態へと回帰させるほどの力――その力が戦いに回されればどうなるかなど、見ていなくとも容易に想像が付く。
「
――だから、負けんじゃないわよ。
チルッチは最後の言葉を飲み込んだ。
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「……お話はもう終わり、で良いのよね?」
「ああ、待たせてすまんな」
アパッチら三名の
ハリベルらが会話をしている最中、割り込んで攻撃をしようとすれば、いつでもできただろう。
それをせず――仮にそうなっても対応出来るように気を張ってはいたが――ただ黙って待っていた
「ふふ……いいのよ、別に。この程度の時間なんて、待ったうちに入らないから。それに、待つ時間っていうのも案外良いものなのよ?」
「そうか」
だが、勝負については話が別だ。
彼女は背負にした斬魄刀の鍔に指を掛け、一気に引き抜くと切っ先を
その斬魄刀は、特異な形状をしていた。
刀身は短く身幅の分厚いその形状は、山刀や鉈・
それでいて刃の内側はごっそりとくり抜かれており、
取り回しだけを考えれば扱いやすそうだが、強度を考えれば不安になる――といったところだろうか。
そんな不可思議な刀を構えたハリベルの姿に、
「ほぉら、待った甲斐があった。さっそく面白そうな物が出てきたわ。それでどう戦うのかしら……ふふ、考えただけでもワクワクしちゃう」
「随分と……余裕だな……」
――見られている。
対峙した瞬間から――いや、それよりももっと前。
まるで頬に触れられ、喉を撫でられ、全身をなめ回されているような感覚が止まらない。
当然、
手が届くはずもない。何かをしているわけでもない。
錯覚だ。感覚が誤認しているだけだ。
わかっている、わかっているはずなのに。
自分の身体の上を指が、舌が、這いずり回っている。無遠慮に身体を撫で回され、ねばねばとした何かが全身に絡みついているような――そんな感覚がずっと止まらない。
「さっきはあなたの部下たちに先手を譲ったし、今度はこっちの番から……よね!」
そんなハリベルの内心の
お互いの匂いすら届くほど近くまで瞬時に寄ると、斬魄刀にて斬りつける。
ハリベルはその一撃を斬魄刀にて受け止めると、一気に離れて距離を取った。
「あら、逃げられちゃった」
「その斬魄刀、能力は先ほど見せて貰った。長く組み合うのは危険と判断しただけだ」
先ほどのアヨンとの戦いにて、
完全には分からぬ物の、それでも何度か斬りつけたことから、能力の発動に時間か回数か、何らかの条件が必要となる
「まあ、さっき見せちゃったからね。バレるのも当然か……でも、どうするの? これから全ての攻撃を躱すのかしら?」
「それも良いが、少し戦い方を変えるだけだ」
くすくすと喉の奥で笑いながら、
その視線が、己の一挙手一投足を油断なくされているようで、彼女は軽く冷や汗を流しつつも、斬魄刀に霊圧を込めた。
空洞であったはずの刀身に霊圧が流れ込み、まるで光が補充されたかのように眩い輝きを放ち始める。
「あら?」
「
ハリベルが突きを放つ。
と同時に、刀身に溜まった霊圧が凄まじい勢いで撃ち出される。まるで刀身そのものを放った様に見えるが、それは霊圧が刀身と同じ形をしているだけのこと。
その本質は、刀身サイズにまで圧縮された霊圧を放つ技だ。
「これ、結構厄介ね」
隊長格でも容易には躱せぬほどの速度で放たれたその一撃を、
例えるならば
故に下手に受けることは危険と判断する。
そう分析すると同時に、ハリベルが手にする斬魄刀へ一瞬だけ視線を走らせる。
始解状態の射干玉の能力は、熱に弱い。
「まだだ」
再び
先ほど刀身をチラリと見たとき、既にハリベルが第二撃目の発射態勢へ入っているのは確認できた。
己の身体を貫かんと迫り来る黄色の刃を、
「もう一撃」
「三発目……!」
その回避を狙い済ましたように、三度めの
先ほどの二発はただのフェイント――攻撃を回避させることで隙を生み出し、本命の一撃を直撃させるための囮でしかない。
だが最も驚くべきは、
「それで――」
だがハリベルが如何に強者であっても、
再び迫る黄色の刃を己の斬魄刀にて受け流すと、油断なく正面を睨む。
「――次が本当の本命、よね?」
「ッ!」
放った刃の影に隠れて近寄り、斬撃を直接叩き込む腹づもりだったようだ。三本目の刃が避けられても次の攻撃に続く――直撃すればそのまま追い打ちに繋がる――中々見事な攻撃の組み立てと言えるだろう。
まさか看過されるとは思わずに微かな動揺を見せるものの、それでもハリベルは迷うことなく刃を振り下ろした。
「あ」
――小さく呻く。
次の瞬間、その声をかき消さんばかりの爆発が巻き起こった。
「
霊圧によって巻き起こされた爆煙に包まれながら、ハリベルが呟く。
ハリベルの刃を不用意に受けることは、この爆発の餌食になることを意味する。
「一応、気付いたわよ? 少し、ギリギリだったけれどね」
爆煙の向こうから不意に声が聞こえた。
「でもちゃんと気付けたから、こうして反撃できるの」
「くっ……!」
煙を切り裂きながら
その姿はなるほど本人が口にする通り無傷。多少煤けた様な傷が散見できる程度だ。
仕留めたと思うほど自惚れてはいなかったが、まさかこうも効果が無いとも思っておらず、ハリベルの動きが一瞬遅れる。
振るわれた刃は彼女の前髪、その一房を半分にしながら、額に傷跡を刻んだ。
「ちょっと浅かったかしら? なら――」
「ぐっ……が……ぁ……!」
掠めた一撃に納得が出来ないのか、そのまま次々と流れるような動きで
斬り下ろし、斬り上げ、薙ぎ払い。途切れることなく繰り出される攻撃を、ハリベルは必死で防ぐものの、完全には避けきれなかった。
肩や腕、腹や胸などがじわじわと傷つき、少しずつ出血量が増えていく。
「このままで終わりかしら?」
「舐めるな!」
実力差を見せつけるかのように、余裕を持ちながらハリベルの頭部目掛けて
その突きを身を捻って避けつつ、お返しとばかりにハリベルも突きを放つが、これもまた
互いが互いに突きを放つ、まるでダンスか何かと見まごうような光景の中で、ハリベルは
「甘い」
彼女の握る斬魄刀、その刀身が再び爆発を巻き起こした。
それも、爆風全てが真横へ――まるで逃げた
爆発といえど、ハリベルの霊圧にて生み出されるもの。この程度の応用、出来て当然なのだろう。
「誰が?」
だが
そもそも、あの余裕ぶった突きそのものが罠だった。相手の突きを避け、わざと側面に身を晒すことで、再びの爆発を誘う。
ハリベルの思考と行動を操れれば、対応することもまた容易い。
爆発が起こるより前に大きく身を潜めることでやり過ごし、低い姿勢のまま水面蹴り――地を這うような足払い――を放つ。
流石に反応しきれず、ハリベルは大きく足下をすくわれる。
「ぐ……っ……ぐああああっ!!」
ぐらりと姿勢を崩したところで、
刃が深々と、腿の半ばまで突き刺さり、そこから鮮血が溢れ出す。
同時にハリベルの口から悲鳴が上がった。
「これで、機動力が大幅に失われたんだけど……」
「……ッ!」
突き刺した斬魄刀を即座に引き抜きながら、
「ハリベル、
「…………」
痛みと出血で僅かに顔を顰めながら、ハリベルは少しの間無言だった。
数秒の睨み合いの後、根負けしたようにハリベルが口を開いた。
「……
「あら、そうだったの? ……だったら」
その掌には圧縮した霊圧が込められ、今にも天蓋を貫かんと吹き上がる火山のように……少なくともハリベルに目にはそう見えた。
「っ!! 止め――」
「
狙いに気付き反射的に叫ぼうとするが、遅かった。
天蓋目掛けて、巨大な
先ほどの、アヨンを消し飛ばしたのと遜色のない一撃。打ち上げられた霊圧の閃光は、一瞬にして天蓋に円を描くように削り取っていく。
やがて光が収まったそこには、巨大な穴があった。
二人の周囲をすっぽり包み込んでなお十分な余裕がある程の巨大な空洞。そこから真っ暗な夜空が顔を覗かせている。
まるで青空の一部分にだけ夜が訪れたような、歪な光景。
「ほら、これでこの辺りに天蓋は無くなった――天蓋の下じゃなくなったわよ? それとも、まだ足りないかしら?」
「……一つ、聞かせろ。なぜこんなことをする? 死神である貴様が私に全力を出させたところで、利など無いだろう……?」
戦いに勝つだけならば、相手を倒すだけで良いならば、解放など不要。真の実力を出せぬ相手を一方的に打ち倒す方がよっぽど容易い。
ハリベルからすれば当然の疑問に、
「ただ勝つだけじゃ、意味なんてないのよ。こっちからお願いしている以上、全力のあなたを打ち倒して屈服させる……それが最低限の礼儀でしょう?」
「……貴様、正気か……?」
「勿論、正気よ。それともハリベルは、我慢できるの? 今からでも納得して、私の言うことを聞いてくれる? 自分よりも弱いかもしれない相手の言うことを、素直に従ってくれるのかしら? どうせ言うことを聞くのなら、せめて本気の自分よりも上の相手がいい……それってそんなにワガママかしら?」
「…………フッ。なんとも傲慢な理由だな」
念を押すような問いかけに、ハリベルは鼻で笑って答える。
「藍染様、申し訳ありません。このティア・ハリベル、
何か覚悟を決めたように、上着のファスナーを勢いよく下ろすと胸元を一気に開け放つ。
その下にあったのは、
「――討て」
●ハリベル(解放前)
解放前だと、水は操れないって事で良いんですよね?
●
ハリベルが解放前に使っていた技。
(卍解シロちゃん相手に「隊長ってこの程度か……」と落胆時などで使用)
刀身の空洞に霊圧を溜めて、そこから刀身と同じ形状の霊圧を放つ。
多分やってることは「形を変えた強い
ただ「蒼」が入ってるのに黄色なのはやっぱりおかしいと思う。
●
霊圧を溜めて放つのがアリなら。
霊圧を溜めて斬る(と同時に)爆発してダメージを与える。
そんな技(近距離用の技)があっても良いんじゃないかなと妄想。
破裂や断絶を意味するスペイン語、ルプトゥラより。
●天蓋
・海燕さんが
・
(・もう少し先で、ウルキオラも原作通りに穴開ける予定)
もう天蓋さんの身体はボロボロだよ……
大帝の「空の全てが屋根」理論は正しかったんだ。