お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第242話 241話こそ振り返るべき

「ハリベル様!」

「あたしらは、まだ……まだやれます!!」

「駄目だ、下がっていろ」

 

 なおも食い下がろうとする従属官(フラシオン)たちを、ハリベルが上から強引に押さえつけて下がらせました。

 勿論、立場が上だからというのもありますが、それ以上にちゃんと部下の三人を気遣った上で、ちゃんと理由を説明して下がらせていますね。

 

 それにしても「私はまだ、お前たちを失いたくはない」なんて殺し文句よね……

 やだ、私……そんなこと言われたら惚れちゃいそう……

 

藍俚(あいり)殿はもはや言う側の立場でござるからなぁ』

 

 そうなのよね。

 勇音とか相手に言う機会が……来て欲しいような欲しくないような……

 

 あっ、でも! 虚圏(ウェコムンド)に来ているイヅル君と桃の二人相手になら、言う機会がありそうよね。

 あの二人、今どこにいるのかしら……??

 ちょっと霊圧を探って、居場所だけでも確認しておきましょう。

 

 でもまずはハリベルを屈服させてからよね!

 

 えっと、あの二人の霊圧は……あら、いけない。

 もうハリベルたちのお話が終わっちゃったわ。

 

「……お話はもう終わり、で良いのよね?」

「ああ、待たせてすまんな」

 

 私の前に、ハリベルが立ち塞がっています。

 三人の従属官(フラシオン)が離れていくのを、まるで背中で守っているみたい。

 まかり間違っても「あの三人を追撃などさせない」という強い意思の表れ……かしら? 別にそんなことしないのに……

 

『下手には倒せない、重くて複雑な事情がありますからな』

 

 そうなのよね。

 どう考えても、ハリベルの説得にはあの三人は必要だろうし。

 

『拙者的には、今の「待たせてすまない」という言葉も素敵でござるよ!!』

 

 あ、それ私も賛成!!

 こんなカッコいい声でそんなこと言われたら、仮に二時間待たされても「平気」って言っちゃうわよね!!

 

「ふふ……いいのよ、別に。この程度の時間なんて、待ったうちに入らないから。それに、待つ時間っていうのも案外良いものなのよ?」

「そうか」

 

 でも、あんまり待ちすぎるのも問題なのよね。

 料理だって、熱を加えすぎると硬くなったりするから。

 向こうもそう思ったみたいで、剣を抜きました。

 そろそろ戦闘開始――

 

 ――ええっ!?

 

 ハ、ハリベルの斬魄刀ってこんな形していたの……!?

 うわぁ……全然覚えてないわ……

 

 肉厚のナイフみたいな形で、刀身の内側がスッカスカになってる。

 プラモデルとかの肉抜き、って言うんだっけ? アレされたみたいね。

 

 軽くなったろうし目も引くんだろうけれど、でもその剣って本当に実戦で使えるのかしら……?

 攻撃したらポッキリ折れちゃわない!? 折れても私、責任取れないわよ!?

 

藍俚(あいり)殿! そちらが気になるのも分かります! 分かりますが……もっと、もっともっと、最も気にすべき部分があるでござるよ!!』

 

 あ……っ! そ、そうよね!! 今この場で一番に見るべきは、ハリベルよね!!

 

 ふわぁ……すっごい……

 

 さっきのミラ・ローズと比べるとちょっと弱々しいけれど、それでも鍛え上げられて均整の取れた肉体。

 背は私より三寸(10cm)程低いけれど、その堂々とした態度のおかげか、同じくらいの背丈に感じちゃう。

 今は剣を構えているから、さっきまでの腕組み姿とまた違って、胸元の見える角度が……コレ大丈夫!? 見えちゃうわよ!? 絶対にチラ見しちゃうってば!!

 下だって袴みたいなのを履いているくせに、脇が大きく開いているから太腿が丸見えになってるし!!

 

「ほぉら、待った甲斐があった。さっそく面白そうな物が出てきたわ。それでどう戦うのかしら……ふふ、考えただけでもワクワクしちゃう」

「随分と……余裕だな……」

 

 余裕なんて全然無いってば!!

 

 もう、戦闘とか止めてしまいたい……このまま全部カットしてしまいたい……

 全部無かったことにしてマッサージ話をしてしまいたいわ……

 

『せ、拙者もでござるよ……激しく同意! でござる!!』

 

 あの下半球を鷲づかみにしたい!

 あの無防備な隙間から手を差し込んで、太腿をマッサージしたい!!

 

 上から下まで、どこを見ても一瞬たりとも見逃せないわよ!!

 

『拙者は首筋とかうなじでござる!! あの上着のファスナーを一気に下ろして、鎖骨の辺りを重点的に!! あと脇の下も良いでござるよ!! ああっ! 藍俚(あいり)殿!! これが、これが待つのも良いという言葉の真骨頂でござるな!! 拙者は今! 全身全霊で理解したでござる!!』

 

 うん……そうよね……

 でも、やらなきゃいけないのが、隊長の辛いところなのよね……

 だから!!

 

「さっきはあなたの部下たちに先手を譲ったし、今度はこっちの番から……よね!」

 

 先手必勝、というわけではありませんが。

 斬魄刀の一撃を繰り出しましたが、上手く躱されてしまいましたね。

 刃同士を打ち鳴らしながらスッと下がって、ハリベルは攻撃の勢いを巧みに受け流しつつ距離を取りました。

 

「あら、逃げられちゃった」

「その斬魄刀、能力は先ほど見せて貰った。長く組み合うのは危険と判断しただけだ」

「まあ、さっき見せちゃったからね。バレるのも当然か……でも、どうするの? これから全ての攻撃を躱すのかしら?」

「それも良いが、少し戦い方を変えるだけだ」

 

 あぁ……

 ま、さっきあれだけ手の内を晒したんだし、この程度の用心は当然よね。

 

 けど、それにしても残念。

 組み合ってる隙に、上手く射干玉の粘菌を身体に付けてあげようと思ったのに。

 

『あ、藍俚(あいり)殿! でしたら脇を! いや、太腿……いえいえここは、やはりあの腹筋に! 出来ればおへその辺りを!!』

 

 善処はするわ。

 でも上手く行くかは……

 

「あら?」

波蒼砲(オーラ・アズール)

 

 ちょっと待って! なんだかハリベルの剣にエネルギーが溜まってる!

 パワーが充填されていく、みたいな感じになってるわよ!!

 

 あ、何か撃ってきた。

 刀身を飛ばしている……? じゃないわね、これは刀身の形をした霊圧を飛ばしているんだわ! 

 虚閃(セロ)に近い……ううん、虚閃(セロ)を自分なりに変化させた技、って感じかしら?

 速度は虚弾(バラ)と遜色ないし、一点集中型だから威力も相対的に上がってる。

 

 直感的に回避したけれど、避けて正解だったわ。下手に受ければ、止めきれなくて吹き飛ばされるか弾かれるかしてたかも。

 

 しかも刀身を使って放つってことは、射干玉の粘菌を貼り付けても焼かれちゃうわね。総合的に判断しても――

 

「これ、結構厄介ね」

「まだだ」

 

 もう二発目!?

 

 連射の可能性も想定していたけれど、こんなに早いなんて!! 虚閃(セロ)を基準に考えるのはこの際捨てるべきかしら?

 でもこのくらいだったら、まだまだ反応して回避は可能!

 

「もう一撃」

「三発目……!」

 

 うっ! さっきよりも刀身に込められた霊圧が多い!!

 読み違えた! 今までのが虚弾(バラ)で、こっちが虚閃(セロ)だったわ!!

 

 ……よし、認識修正完了!

 

 虚閃(セロ)だと考えれば、そこまで怖いものじゃない!! それに今のハリベルの動き! とすると、この一撃は刀で受け流して――

 

「――次が本当の本命、よね?」

「ッ!」

 

 来たっ!

 

 しかも技の影に隠れて真っ正面から!

 なるほど、だから三発目は霊圧を多く込めたのね! これなら身を隠すのも霊圧を誤魔化すのも簡単だもの!

 遠距離攻撃に意識を向けさせてからの接近戦、そういう戦い方って嫌いじゃないわ!

 

 隙を突くように繰り出された剣を、まずは受け流して――

 

「あ」

 

 この霊圧! 受け流しは間違いだったわ!!

 大急ぎでこの場から飛び退きたいんだけど、一瞬だけ間に合わないみたい!

 

 まず刀身同士が衝突した感触が指に伝わって来て、次に金属音が打ち鳴らされたのが耳に届きます。

 その刺激を合図にしたように、ハリベルの手にした斬魄刀――その刀身から爆発が起こり、爆風が私目掛けて襲いかかってきました。

 

破裂蒼(ルプトゥラ・アズール)……ここまでは読めなかったようだな」

「一応、気付いたわよ? 少し、ギリギリだったけれどね」

 

 爆煙の向こうから聞こえた声に、返事をします。

 

 それにしても、驚いたわ。

 霊圧を破裂させて攻撃してくるなんて。直前で気づけて回避したから良かったものの、まともに受けたら隊長クラスでもあっさり沈みかねないわよこれ!?

 しかも自分が操る霊圧だから爆破させたところで余波を受けることもない。

 

 射撃と斬撃に注意を払わせてからコレとか、本当に巧みよね。

 

「でもちゃんと気付けたから、こうして反撃できるの」

「くっ……!」

 

 爆風を煙幕代わりに奇襲して斬り掛かったんだけど、効果はあったみたい。

 前髪を一房、それとおでこにちょっとだけ傷を付けられたわ。

 

『その前髪! お持ち帰りはできますかな!? 家宝にするでござるよ!! あと藍俚(あいり)殿!! どうして額を斬ったでござるか!! 女性の顔を傷つけるなど最低でござるよ!!』

 

 今は戦闘中よ!

 それに考えてもみなさい。額を斬ったってことは、戦闘後に……?

 

『……はっ! 合法的におでこが触れるでござるよ!! いえ、合法的に触れる! これは言わば、マーキングのようなもの!? ……藍俚(あいり)殿! 拙者、藍俚(あいり)殿を全力で応援するでござるよ!!』

 

 まかせなさい!!

 

「ちょっと浅かったかしら? なら――」

「ぐっ……が……ぁ……!」

 

 自信のあった攻撃を避けられたのが原因か、ハリベルの動きが少し乱れていますね。

 その隙を遠慮なくついて、連続して攻撃を叩き込んでいきます。肩・腕・腹・胸と順番に少しずつ、刃の先を掠める程度に抑えながら。

 速度を重視した攻撃ですが、身体をゆっくりと切り刻まれていくようでハリベルからすれば恐怖と苛立ちを同時に感じるでしょうね。

 

 そこで最後に……射干玉! 準備はいい!?

 

『いつでもバッチコイ!! でござるよ!!』

 

「このままで終わりかしら?」

「舐めるな!」

 

 わざと速度を緩めて、彼女の顔目掛けて突きを放ちます。

 眉間に刃物――それも切っ先が襲いかかってくる恐怖というのは、どれだけ訓練しても根源的な物に近いから……ほら、避けた。

 

 しかも私が突きを放って少し攻撃の手が止んだものだから……やっぱり、お返しみたいに突きを放ってきた。

 この攻撃を横に避けて――

 

「甘い」

 

 ――当然、そう来るよね。

 

 先ほどと同じく、破裂蒼(ルプトゥラ・アズール)の爆発が襲いかかってきます。

 いえ、どっちかっていうと、刀身の穴から真横に向けて虚閃(セロ)を放った。って感じかしら?

 

「誰が?」

「ぐ……っ……」

 

 なので予め大きくしゃがんで、それを回避します。

 その体勢のまま足払いをして……硬いわね、足腰がしっかりしてる!! 最悪、足首が折れるんじゃないかってくらい強く放ったのに、転ばないなんて!!

 

 でもそこまで体勢を崩したら、どの道変わらないわよね。

 さて……射干玉、お待たせ。

 

『おまたされたでござるよ!!』

 

「ぐああああっ!!」

 

 姿勢を崩したハリベル、その太腿目掛けて斬魄刀を突き刺しました。

 血が流れ出して、彼女の口からは悲鳴も上がった……わけなんだけど。射干玉、ご感想は?

 

『太腿、すっごく鍛えられているでござるよ。でもそれを感じさせぬムチムチでござる! たわわ、たわわなふともも!! ああ、この褐色肌に拙者の粘液が塗り込まれていく……流れる血液と混ざり合っていくでござる……生きてるって感じがするでござるよ!!』

 

 生きてるって……まあ、言いたいことは分かるわ。

 

 さて、このまま押し切っちゃっても良いんだけど……

 

「これで、機動力が大幅に失われたんだけど……」

「……ッ!」

「ハリベル、帰刃(レスレクシオン)はしないのかしら? このままだと確実に押し負けるってことくらい、分かるでしょう?」

「…………」

 

 今の姿も良いんだけど、解放した姿も見たいでしょ!?

 それを見て、描写して! それを屈服させるのが一番の醍醐味でしょう!?

 だからお願い! 真の姿を白日の下に晒して!!

 

「……第4十刃(クアトロ)以上の十刃(エスパーダ)は、天蓋の下での解放は禁じられている。強大過ぎて、虚夜宮(ラス・ノーチェス)そのものを破壊しかねないという理由でな。私は、それに従っているに過ぎない」

「あら、そうだったの?」

 

 私も隊長だし、護廷十三隊にもルールはある。

 だから、それを破りたくないって気持ちは分かるわ。

 

「……だったら」

 

 でもそれって、緊急事態には適応外よね!?

 

「っ!! 止め――」

虚閃(セロ)

 

 ということで、一気に天蓋を吹き飛ばしました。

 

 我ながら、ぽっかりと綺麗な穴が開けられたわ。

 この天井って青空が描かれているから、穴を開けた部分だけ夜になっててちょっと不思議な光景ね……

 

 まるで夜の妖精が昼の世界に迷い込んだみたい!

 

『……藍俚(あいり)殿? 突然不思議ちゃんになったでござるか?』

 

「ほら、これでこの辺りに天蓋は無くなったわよ? それとも、まだ足りないかしら?」

「……一つ、聞かせろ。なぜこんなことをする? 死神である貴様が私に全力を出させたところで、利など無いだろう……?」

「ただ勝つだけじゃ、意味なんてないのよ。こっちからお願いしている以上、全力のあなたを打ち倒して屈服させる……それが最低限の礼儀でしょう?」

「……貴様、正気か……?」

「勿論、正気よ。それともハリベルは、我慢できるの? 今からでも納得して、私の言うことを聞いてくれる? 自分よりも弱いかもしれない相手の言うことを、素直に従ってくれるのかしら? どうせ言うことを聞くのなら、せめて本気の自分よりも上の相手がいい……それってそんなにワガママかしら?」

「…………フッ。なんとも傲慢な理由だな」

 

 傲慢結構!

 それでハリベルの本当の姿を見られるなら安い物よ!!

 何のためにここまで耐え難きを耐えてきたと思ってるの!?

 

「藍染様、申し訳ありません。このティア・ハリベル、虚夜宮(ラス・ノーチェス)を破壊せんと暴れる死神を倒すべく、禁を破らせていただきます」

 

 何か覚悟を決めたように、ハリベルは上着のファスナーを――

 

 えっ、ええええっ!! いいの、いいのそれ!? 見えちゃう! 見えちゃうわよ!?

 そんなに勢いよく下ろしたら、お山(おっぱい)(てっぺん)が見えちゃうわよ!! そうなったら描写するわよ!? ちゃんと描写するために穴が開くくらい凝視する――

 

「――討て」

 

 下にあったのは、(ホロウ)自体の名残の仮面でした。

 それが口元から胸の半分くらいまで、鎧みたいに覆ってました……

 

 

 

 ……くすん。




心配して追ってきてくれたチルッチに気付かないクズ。

(本当はこの話では、解放したハリベルと水遊び(意訳)の予定だったんです。
 ハリベル戦を終えてから、一人称視点を出す予定だったんです。

 でも書けなかったので、泣く泣く先に出しました。
 
 ・まともに書きたい
 ・ボケたい
 ・セクハラ描写したい
 ・射干玉ちゃんとふざけたい
 
 という気持ちがせめぎ合って、脳内が大変なことになってます)
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