お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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※ ネタの性質上、同日2話更新(19時と19時半)しています。
  19時半以降に「最新話」から見に来てくださった方は、
  お手数ですが1話前にお戻り下さい。


第244話 243話は絶対に振り返る

皇鮫后(ティブロン)

「……それが、ハリベルの解放なのね」

 

 来た来た来たっ!! これが、これがハリベルの解放した姿なのね!!

 解放するのは覚えていたけれど、こんな破廉恥な姿だったなんて全然覚えてなかったわ! ありがとう!! 新鮮な感動をありがとう!!

 

 とりあえず、穴が開くくらいじーっと見つめさせて貰うわよ!!

 

 まさにビキニアーマーの女戦士そのもの! って感じよね!!

 その肩とか腕とかは鎧を着けているのに、その胸は何!? お腹は何!? 太腿は何!? ぜーんぶ丸出しじゃない!!

 

 しかもミニスカートよミスカート!! あれ、何枚ものプレートを重ねてプリーツスカートみたいに見えるけれど、大丈夫なの!?

 私、今からアレと戦うのよ!? あの隙間からハリベルの見えちゃいけない部分がチラッと見えちゃうんじゃないかしら!?

 ドキドキとワクワクで胸がいっぱいだわ!!

 

 こんなの絶対におかしいわよ! ありがとう!! 帰刃(レスレクシオン)してくれて本当にありがとう!!

 

『やったでござるよ藍俚(あいり)殿!! これでもう虚圏(ウェコムンド)来ただけのモトは取ったでござるよ!! ぐふふふふふふ!!』

 

 モトどころかお釣りだけで億万長者になれるくらいよ!!

 

 しかも射干玉、さっきの見た!? 帰刃(レスレクシオン)の時の演出!!

 水が貝みたいにハリベルを包み込んだかと思ったら、その中から真の姿で登場!!

 憎い! 演出が神秘的で憎いわぁ!!

 

『ご心配なく!! 拙者も瞬き一切せずにこの目に焼き付けておきました!! 貝の中から現れるは、褐色巨乳の金髪美人!! これが! これこそが人魚姫の最も正しい姿!! アンデルセンの童話なんてクソ食らえでござるよ!! 今すぐ全ての絵本を置き換えるべきでござる!!』

 

 そんなことしたら絵本を読んだ小さな男の子の性癖がぶっ壊れちゃうじゃない!!

 

「これは……壊れる、わね……」

 

藍俚(あいり)殿!! 口、口に出てるでござるよ!! 自重を! ご自愛をお願いいたしますぞ!!』

 

 あらいけない。

 このやり取りだけは外に出さないように頑張ってたのに……

 

『仕方ありませぬな……あとはハリベル殿を屈服させるだけ! そう考えれば我慢も仕切れないでござるよ!!』

 

 そうよね! 絶対にそうよね!!

 

 ……落ち着いて、警戒はしておきましょう。

 舞い上がりすぎてここでミスなんてした日には、全部ご破算なんだから。

 

 見てよ、あの大剣。

 鮫の頭部を模してるけれど、漂ってくる雰囲気だけでもかなりの物よ? そもそも霊圧だって解放前とは比べものにならないくらい上がってる。

 油断してると、一撃で殺されちゃいそうね……

 

「……だが、私にこの姿を取らせたのはお前だ。今更後悔をしても遅いぞ!」

 

 え、何が!? なんでハリベルちょっと怒ってるの!?

 

断瀑(カスケーダ)

「……っと!」

「逃すか!」

「また!?」

 

 突然放たれた激流を、瞬歩(しゅんぽ)で躱します。

 ですが躱したかと思えば即座に二発目が放たれました。それも、移動先を予測した狙い撃ち。基本に忠実だけど、実に良い攻撃ね。

 でも、こっちにはまだまだ余裕があるわよ?

 

戦雫(ラ・ゴータ)

 

 二度目の瞬歩(しゅんぽ)を使おうとしたタイミングで、そうはさせじとばかりに今度は水の塊が放たれました。

 なるほどね、さっきの断瀑(カスケーダ)の激流との合わせ技か。

 どちらかを対処すれば、もう片方の対処が遅れる――そんな狙いかしら?

 

「なんの!」

 

 ――虚閃(セロ)

 

 掌から無言で虚閃(セロ)を放って戦雫(ラ・ゴータ)の一撃を相殺しつつ、瞬歩(しゅんぽ)断瀑(カスケーダ)から逃れます。

 今の虚閃(セロ)は目眩ましも兼ねた一撃だったんだけど、でもハリベルはしっかり目で追ってきていました。

 

 気が、抜けないわね……それに……

 

「水を操る能力……驚いたわ。まさかこんな、砂漠みたいな水気(みずけ)が一切感じられない場所でこれほどの激流を撃てるなんて……」

 

 虚圏(ウェコムンド)の砂漠に湿気なんて無いでしょうに、よくもまぁ……

 砂地が削り取られた痕跡を見ただけで、ハリベルの技の威力がよくわかります。

 

『水の無い所でこのレベルの水遁を!?』

 

 はいはい、わかったから。

 忍者を相手にしているのとは違うのよ。けれど、それはそれで真理なのよね。

 

「言ったはずだ、後悔をしても遅いと。それと、貴様は一つ勘違いをしている」

 

 勘違い? 一体何が――

 

「きゃ……っ!?」

 

 ――これは予想外ね! 足下からの攻撃だなんて!!

 

 水の竜巻、といったところかしら!? 高水圧で内側の全てを破壊する技みたいね。

 

『早い話が洗濯機でござるか?』

 

 それは……うん、そう言われると身も蓋もないわね……

 

蒼海支配(オセアノ・ゴベルナンテ)――水を操るではなく、支配しているのだ」

 

 なんだか竜巻の外からハリベルの声が聞こえてきたわよ!! しかも気のせいか、ちょっと怒ってるみたい!!

 家電製品と一緒にされたら、そりゃ怒るわよね!!

 

 水の出所(でどころ)は……そっか! さっきの激流!! アレを砂の下に潜ませてから、放ったわけね!!

 これだけの大技をこうもあっさり使うなんて……上位十刃(エスパーダ)、恐るべしってところかしら!?

 

 よし、だったらこっちも! やるわよ射干玉!!

 

『お任せあれ!!』

 

「卍解、射干玉三科!」

 

 卍解を発動させて、まずは刀を手に握ります。続いて能力にて壁を作り出し、水の竜巻から身を守ります。

 竜巻の勢いが完全に消えたタイミングを見計らって外に出れば、ハリベルが驚いた表情でこっちを見ていました。

 

「な、に……っ!?」

罔象女命(みずはのめの)玉鋼(たまはがね)。少しだけ危なそうだったから、使わせて貰ったわ」

 

 ――とはいえ、少し濡れちゃったけどね。

 

 ほら、袖とか胸元とか。

 

『サラシが! サラシが張り付いているでござるよ!! か、形が丸見えでござる!! 濡れ透けは偉大な文化……!!』

 

「……それが、お前の卍解か」

 

 そうよ、この濡れ透けが……じゃなかった。

 

「ええ、そうよ。射干玉三科(ぬたばまさんか)って言うの。可愛いでしょう?」

 

 ほら、見なさい。穴が開くほどよく見なさい。これがウチの子よ!

 

『て、照れるでござるよ……ああっ! ですがハリベル殿に睨まれるというのも……!! ハァハァ、この胸の高鳴りをどうやって表現すれば……!!』

 

 はいはい、その辺は戦闘中に機会があったらね。

 

 ……あ、機会があったらといえば……

 

「それにしても残念ね……水のない所でこれだけ強いんだったら、是非とも海の上で戦ってみたかったんだけど……そこまで贅沢は言えない、か……」

 

 水使い――いえ、水の支配者と戦うんだったらいっそ、そのくらいの舞台を用意してあげたいわね……

 水の無い所で放たれた水遁を突破するのではなく、水場の水遁を突破してみせる。

 そのくらいやってこそ、初めて相手を屈服させられるんじゃないかしら?

 

「…………」

 

 思わせぶりに尋ねてみたんだけれど、返事は無し。

 いえ、一瞬背筋を震わせた? 隠していたつもりなんだけど、気配が漏れ出ちゃったかしらね?

 

断瀑(カスケーダ)!」

 

 あらら、ちょっと焦った様子で激流を放ってきたわね。

 それもさっきまでよりも威力が高い……つまり、警戒して無意識に威力を高めてるってことかしら?

 だったらその動揺、利用させて貰うわよ! 

 

断瀑(カスケーダ)現身(うつしみ)

 

 刀の先から、ハリベルが放った激流そっくりの技を放ちます。

 ただ、色は黒だけどね。

 

 これは射干玉の能力で相手と同じ攻撃を放つというものです。

 けれど今回の場合、水ではなく召喚した射干玉の本体を放ちました。ほら、ネバネバでヌルヌルしてるでしょう? これをハリベルの激流にぶつけて相殺する……と。

 水同士が絡み合って、勢いがなくなって、砂に吸い込まれていく――ように見せかけて、こちらも砂の下でこっそりと準備を始めます。

 

 ハリベル、あなたの水を有効利用させて貰うわよ。

 

「ほう……」

「別に物真似が得意ってわけじゃないのよ? ただ、少しやってみたかっただけ。こういうこともできるんだぞ――ってね」

 

 この反応、まだハリベルは気付いていないみたいね。

 だったらもう少し派手に動けるかしら?

 

 今度は粘液の塊をハリベル目掛けて直接放ちます。

 とはいえ、こんな馬鹿正直な攻撃なんて普通は当たりません。だから、一工夫。

 

「く……っ!?」

 

 ハリベルが身を躱したところで、粘液の塊を爆発させます。

 ですがダメージ狙いではなく、粘液の拡散が目的。ついでに、ハリベルに射干玉を貼り付けてマーキングも兼ねていますよ。

 

『ハァハァ……せ、拙者の身体が……あの豊満な恵体の上を……ああっ! ねっとりと! ねっとりとしてるでござるよ!! ちょっと焦っているから、ハリベル殿が汗を掻いているでござる!! 拙者の身体に汗が! 汗が!!』

 

 ぬ、射干玉……!? 落ち着いてね……?

 

 まあ実際、広範囲に付着したからねぇ……頬とか、胸の谷間なんかにもへばり付いていますから……あ、谷間にくっついてるのがちょっとずつ動いてる。

 

 ……羨ましい。

 じゃないわ! ご、誤魔化さないと!!

 

蒼海支配(オセアノ・ゴベルナンテ)――ハリベルの能力が水を支配するのなら、私の場合はそうね……地相侵食(ちそうしんしょく)、とでも呼ぼうかしら? 意味は……自分で考えて!!」

 

藍俚(あいり)殿藍俚(あいり)殿? 地相侵食(ちそうしんしょく)ってなんでござるか?』

 

 さあ? 私も今思いついただけだし。

 でも、そのくらいのことは平気でやるでしょ?

 

螺旋水陣(ピラー・トルナド)!!」

罔象女命(みずはのめの)玉鋼(たまはがね)!」

 

 斬り掛かろうと思ったんだけど、先手を取られたわね。

 けれどさっきと同じ攻撃だったら、同じ手で防げるはず。それともう一つ、防ぎつつ仕込みの様子を確認しておきましょう。

 

戦鞭(ラ・ラティーゴ)

「うそっ!?」

 

 少し目を離した隙に、壁が打ち破られました。

 上から襲いかかってきたのは、水で出来た鞭――かしらアレは?

 チラッとハリベルを見ればなるほど、斬魄刀から水が伸びているわね。粘性を高めることで斬魄刀を蛇腹剣のように操って攻撃する。しかも斬魄刀と直結しているから、込められる霊圧は下手な遠距離技よりもずっと強い。

 

 これじゃあ、玉鋼の壁も破られるわけだ。

 

 けれどタネさえ分かれば、やりようはいくらだって――

 

灼海流(イルビエンド)

「えっ!? (あつ)っ!!」

 

 水の鞭を切断しようと意気込んでいたところ、鞭が突然バラバラになりました。無数の水滴へと変わったかと思えば、降り注ぐそれらは全て熱湯のように熱い液体。

 

 ちょ、ちょっと! これは聞いてないわよ!? ひょっとしてさっきの意趣返しのつもりかしら!?

 熱ッ! あっつぃ!! ああもう、死覇装まで染みこんでくる!! こういう熱湯の火傷って普通に火で焼かれるよりも厄介なのよ!!

 とりあえずこの熱湯の雨だけは避けないと!

  

「水を支配する、貴様も認めたはずだ……掃射豪雨(チュバスコ・ペネトラール)!」

「……っ! 木の葉落とし!!」

 

 今度は水滴の機銃掃射!? でもこれだったら対処は可能!!

 手に持った刀を瞬時に振るって、水の銃弾を全てたたき落としました。

 

 ……水を斬れる様になるまで、何年かかったかしらね……?

 

「ふぅ、危なかった……さっきの熱湯は、驚かされたわ……」

「……」

「それに」

 

 ハリベルが驚いているみたいだけど、このくらい出来ないと卯ノ花隊長にとっくに殺されてたのよ私……

 

 さて、相手が驚いている隙に砂の下の様子を一瞬だけ確認します。

 さっきの水の鞭も水の銃弾も、全部水を生み出してから放っていた。少しずつ少しずつ、周囲に水を増やしていってるわね。

 

 ということは、水気が満ちる時を狙っている。大量の水を利用した大技で一気に仕留めようって算段ね。

 その狙いを悟らせないように遠距離攻撃を主体にしながら、けれど私に隙があればいつでも仕留められる様に気を配っている……ってところかしらね。

 

 中々に巧みだわ……でもね!

 

山津波(やまつなみ)

「!?」

 

 片手を振り下ろすのを合図にして、凄まじい土石流を放ちます。

 

 ほらほら、水を増やしてあげたわよ? 有効活用してね。 

 

「くっ!」

 

 砂地を削り取りながら襲いかかる土石流に対して、ハリベルは空中へと逃げることで躱しました。それと同時に私の放った水を支配下におくことも忘れてはいません。

 忘れてはいませんが、ちょっと雑だったわね。そんなやり方じゃ、気付かれるわよ!

 

 それともう一つ。

 相手の狙いを逸らすには、このくらいしなきゃ駄目なの!!

 後を追うように私も霊子にて空中に足場を作り、ハリベルと同じ位置まで移動しながら、追撃の技を放ちます。

 

擬態技(ぎたいぎ)武奈伎(むなぎ)!」

 

 射干玉の能力にて何匹もの(ウナギ)を生み出しました。鰻たちは空中を自在に泳ぎながら、ハリベル目掛けて殺到していきます。

 これは本来は鷹とか獅子とか、強い生き物を生み出すんだけど今回は特別。色んな意味を込めて、鰻を生み出しました。

 

「これは……!? くっ! 気色の悪い真似を……っ!!」

「嫌がるなんて余裕ね」

 

 手足に絡みついて動きを止めようとするのもいれば、手甲や鎧の隙間から潜り込もうとする個体もいます。

 極めつけは、胸の谷間やスカートの中に潜り込もうとする個体まで!

 

 個性、出てるわねぇ……

 

 鰻のヌルヌルとした粘液がハリベルの肌に絡みついていきます。

 白濁した粘液が大きなお山を覆い、ぬらぬらとした輝きを放っていました。二つのお山の間にはねっとりとした橋が架けられ――

 

『おおっ! おおおっっ!!』

 

 ――って、そういう描写はマッサージまで取っておくわよ!!

 

「ぐあ……っ!! 卑劣な真似を……!!」

「あら、私はいたって真面目よ? あなたを相手に虚を突くんだから、このくらいはやらないとね」

 

 さっきも言ったけれど、今回の狙いはあくまで嫌がらせ。

 このぐらいすれば、私がハリベルを後押ししているなんて考えもしないでしょう? 狙いを逸らすっていうのは、ここまで徹底的にしなきゃ駄目なのよ。

 

 さらに本命を隠すべく、嫌悪感でいっぱいのハリベル目掛けて刀で一撃を加えました。肩当てごと肉体を切り裂きます。

 さらにもう一撃を放ちましたが、残念。今度は受け止められてしまいました。

 

「言ったな!? ならば、後悔はするなよ!!」

 

 ふふ、怒ってる怒ってる。

 さて次はどんなことを――

 

「はあっ!!」

「きゃっ……!!」

 

 思わず悲鳴を上げてしまいました。

 なんだハリベルったら、そういうこともできるのね。

 

 刀身に水を纏わせて私の持つ刀と接着させたかと思えば、そのまま刀を奪い取られました。力尽くで強引に武器を手放させられた、とでもいうのかしら。

 水を飴のように粘らせて絡め取るなんて、中々洒落ているじゃない。

 

『こういう強引なところもハリベル殿の魅力でござるな!!』

 

 けど、この使い方は"らしさ"に欠けますね。

 頭に血が上っている証拠、動きが荒くなってきています。

 自然体を崩した力任せの戦い方じゃ、長くは持たないわよ?

 

皇鮫后の牙(エストカーダ)!!」

 

 今度は突き技ですね。

 とはいえあの大剣では、ただ突きを放つだけでもかなりの破壊力でしょう。

 

 なのに刀身へ再び水を纏わせて、鮫を模した形状となっています。

 水の鞭を更に発展させて、攻撃力だけを突き詰めた技。みたいな位置づけかしら? 見ただけで強力だって分かるわ。

 

「そのくらいなら……!!」

「逃さん!!」

 

 飛び退いて躱せば、水の鮫が私を追うように放たれました。

 切り離して飛び道具としても使えるのね! いい技じゃないの!! それに鮫としての特性も持っているみたいで、今にも私を噛み千切らんとやる気に満ち溢れています。

 

 ……あ、口の奥に奪い取られた刀があったわ。

 

 ………………ええぃ! ままよ!!

 

「ぐ……あああっ!」

 

 回収のために口の中へと手を突っ込めば、当然噛まれました。鋭い牙が腕に食い込み、激痛が走ります。

 ここまでする必要はなかったかもしれないけれど、やっちゃった物は仕方ないわね。これも目眩ましに利用させて貰いましょうか。

 

 突っ込んだ手を喉奥目掛けて突き刺して、刀を掴み取ります。

 と同時に再度射干玉の本体を大量に呼び出します。許容量を超えた異物が体内で膨れ上がり、水の鮫は形を失ってあっさりと崩れ落ちました。

 

 あーあ、隊首羽織と死覇装に合わせて歯形が付いちゃったわ。尸魂界(ソウルソサエティ)に戻ったら新調しないと。

 

「返して、もらったわよ」

「難儀なことだな」

 

 こっちが回収作業をしている間に、ハリベルも何かしていたみたいね。

 だって、身体に纏わり付いていた鰻が一匹残らずいなくなっているもの。

 とはいえ身体中に鰻を絡ませていたら、どんな状況だろうと滑稽そのもの。出来の悪い喜劇以外の何でも無いから仕方ないわよね。

 

 斬魄刀にまた水の鮫が絡みついているところを見るに、纏めてアレの餌にされちゃったかしら?

 ま、鰻だもの。鮫の餌になるのも当然といえば当然。

 

 

 

 でもねハリベル、知ってるかしら? 鰻の血には毒があるのよ。

 

 

 

皇鮫后の牙(エストカーダ)!」

山津波(やまつなみ)!」

 

 再び放たれた水の鮫を、今度は私も土石流で相殺します。

 鮫が朽ちたように崩れていくのを見ながら、ハリベルは唇を緩ませて微笑を浮かべました。ということは、そろそろかしら?

 

「その技は失敗だったな」

「何が?」

「こういうことだ」

 

 何が起こるのかと思えば、大気が震え始めました。

 砂の下へと密かに集められていた大量の水が一斉に湧き上がり、砂漠を一瞬にして飲み込んでいきます。

 この周囲だけを見れば、海のど真ん中にいるといわれても納得するほどですね。

 

「周囲は水で満ちた……お前が水の技を使ってくれたおかげだ……」

「なるほど、鮫だけに鼻が利くみたいね」

 

 私が生み出した水を利用するところまでは、気づけたみたいね。

 けれどそれ、本当に使って大丈夫?

 

「戯れ言を! 皇鮫后の極牙(グラン・エストカーダ)!!」

 

 海の底から、巨大な水の鮫が私目掛けて飛びかかってきました。

 

 さっきまでの鮫が鰯か鯖に見えるほどの巨体を誇る鮫。なるほど、これがハリベルの奥の手ね。

 これだけ大きいのに今までで一番早く襲いかかって来ているところを見るに、霊圧もかなりの量が込められているわね。

 

 下手な回避や防御は下策――ハリベルを屈服させるにはこれを正面から打ち破ってみせるわよ!!

 

「さあ、来なさい!!」

 

 剣のように巨大な牙、その一本に刀を当てながら口の中へと身体を滑り込ませます。

 こういう巨大生物は内側からの攻撃で仕留めるのがお約束よね。

 

 けど、そう簡単には事が運ばなかったみたい。

 鮫の体内は、先ほどの水の竜巻を更に強くしたもので暴れ狂っていました。

 こんな所に長居は無用、とっとと破壊してしまいましょう。

 

「はあああっ!!」

 

 先ほど鮫に噛みつかれた際に流れ出た血は、既に刀身へと塗ってあります。あとはそこへ虚閃(セロ)を混ぜ込み、大鮫の身体目掛けて思い切り斬りつけます!

 

 (えら)を少し通り過ぎた程度でしょうか? 

 その辺りから外に向かって刀を振り下ろせば、手応えは皆無のまますーっと刃が通り過ぎていきました。

 切り裂かれた瞬間大穴が開き、行き場を失った大量の水が溢れ出ていきます。

 

 うわぁ、びちょびちょになっちゃった……

 死覇装が肌に張り付いて、すっごく気持ち悪いわ……

 

閃光虚斬(せんこうこざん)……ご自慢の鮫さんも、内側からの攻撃には弱かったみたいね」

「馬鹿な……ッ! こんな、こんなことが……ッ!!」

「残念だけど……私の勝ちね!!」

「ぐっ!!」

 

 腹を切り裂いて、内側から出てくるのまでは想定外だったのでしょう。

 呆然としているハリベル目掛けて一気に近づくと、まずは一撃。頭部に峰打ちを叩き込んで、意識を刈り取ってやります。

 

 この一撃では気絶まではいかなったものの、集中は一気に途切れたみたいですね。霊子の制御が乱れて、足場が一瞬にして消え去りました。

 自由落下していくハリベル、その下には先ほど叩き切った大量の水の残骸がぷかぷかと浮いています。

 

 あら?

 足場も維持出来ないくらいハリベルは弱っているはずなのに、どうしてまだ水が残っているのかしら?

 砂に吸い込まれるんじゃないの? どうしてかしらね?

 

「まだだ……まだ、私は……!!」

 

 ハリベルが一矢報いようと水へ支配の手を伸ばしましたが、もはや命令に従う者はいません。

 まるで身投げのように水中へと沈んでいきました。

 

「なっ、なぜだ!?」

 

 答えは簡単、あなたの水に射干玉の本体を染みこませたからよ。

 ハリベルが全ての水を支配するのなら、私はその水の性質全てを塗り潰して、支配不可能な全く別の水へと変えてやるだけ。

 水位を上昇させて行く最中、水面下でゆっくりと少しずつ侵食させ、支配の手を広げていく。

 気付いた時には全て手遅れ。

 

 水の支配者が、その支配権を全て奪われる――これほど屈辱的なこともないでしょう?

 だから言ったのよ……鰻の血には毒がある、って……

 

 答えの分からぬまま、それでもハリベルは必死で藻掻き水中から身体を起こします。ですがそこにはもはや、鮫の女王たる毅然としたなど微塵もありませんでした。

 波濤に怯え、戸惑いながら右往左往する稚魚。そんなところでしょうか。

 

「そして鮫の女王様も、住むところが変われば実力を発揮出来ない……」

 

 鮫がその実力を発揮出来るのは、たっぷりの海水と広い広い大海原を自由に泳ぎ回れるからこそ。

 狭く黒い濁った沼の中では、無敵を誇る鮫といえども溺れて死ぬだけよ。

 

 戸惑い続けるハリベルの眼前へと回り込むと、胸に左手を当てながら右手を引き、突きの溜めを作ります。

 

「私の、負けか……」

 

 ハリベルの言葉を合図にして、私は刃を放ちました。

 




ハリベルにウナギを絡ませようなんて発想をするのは、世界に何人くらいいるんでしょうか?

……結構いそうですね


●オマケ

もしも突っ込んだ先にいたのが、ハリベルじゃなくてバラガンだったら。


バラガン「全ての物には、老いが存在する!!」

藍俚「卍解! 射干玉三科! 囲んで塗り潰せ!!」

バラガン「その程度で……なっ、なんだこれは!? 何故だ、何故朽ちぬ!? 何故滅びぬ!?」

藍俚「バクテリアって御存じ? 単細胞生物って基本的に老化しないのよ。老いて死ぬのは、世代交代を確実に行って種全体を進化させるためのシステム。なら逆に、種として進化が必要無い存在だったら? あなたの老いと射干玉の生、はてさてどっちが上かしらね」

バラガン「が……ぐあ……っ!!」(髑髏の全身を真っ黒に塗り固められる)

藍俚「無駄な時間だったわ……(ハリベルは! ハリベルはどこ!?)」


みたい展開になると思います。
(なんなら5000字くらいで部下も含めて全部片付けます)

(射干玉ちゃんが老いで滅びる姿が想像出来ませんでした。
 でもハリベル相手に大喜びで張り切りすぎて、カラカラに干からびて滅びる姿は容易に想像できました。

 ふしぎですね)
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