お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第245話 出血大サービス

「ハリベル様!!」

「てっ、テメエ死神いいぃぃっ!! よくも、よくもハリベル様を!!」

「敵わないことは思い知らされましたが、それとこれとは話が別です!」

「……」

 

 刀を突き刺し鮮血が宙に舞った途端、それまで離れた場所で戦いを見守っていた従属官(フラシオン)の三人たちが一斉にいきり立ち、飛びかかってきました。

 

 まあ、その反応も尤もよね。

 どうやっても、自分たちが仕えている主が刺し殺されたとしか見えないんだもの。

 

藍俚(あいり)殿? なんでこんな勿体ないことをしたのでござるか!! ハリベル殿の珠のお肌に傷が!! キズモノになってしまったでござるよ!! こ、これはもう拙者が責任を持って買い取るしかないでござるよ!! そうなると、今住んでいる場所は手狭なのでお引っ越しを……』

 

 お引っ越し!? それって私の中から出て行くの?

 駄目よそんなの駄目っ! 大家権限で認めません!! あと責任は私が取るから!! 四番隊の隊首室なら広いからもう一人くらい問題なくねじ込めるわ!! 隊長だから一軒家だって支給されてるのよ!!

 

『いえいえ、ここは拙者が!! 拙者こそが!!』

 

「やめろ! お前たち!!」

 

 ハリベルが声を張り上げました。

 

「なっ……!?」

「こ、この声は!!」

「ハリベル様……生きて、おられるのですか……!?」

 

 この一喝に驚いて、飛びかかってきた三人が揃って動きを止めます。

 というか三人とも……まさか私がハリベルを殺したって思ってたの!? し、失礼しちゃうわ! そもそも発端は説得と協力をお願いしてたのよ!? なんで殺さなくちゃならないのよ!!

 

「ああ……いや、生き恥を晒している。というべきかもしれんが……」

「血! 血がそんなにいっぱい!!」

「今すぐに私が止血を!! あ、ミラ・ローズ。あなたはまだ寝ていなさい。アパッチはミラ・ローズの介助を。ハリベル様の傷の手当ては私がしますので」

「「スンスン!!」」

 

 ……あの子、傷の手当てを装ってハリベルのおっぱいを揉む気だわ。私には分かる。

 しかも邪魔な二人をサラッと押しのけるセンスまで持ってる……抗議の声を無視して隣までやって来ました。

 

「いや、構わない」

「ですがそんなに血塗れでは……」

 

 今のハリベルは、開放状態の姿のまま。

 けれども左胸から胸の谷間、お腹からおへそにまで血に濡れています。特に胸元は血の色が濃くて、一見すれば確かに大怪我です。

 一見すれば。

 

「これは私の血ではない。あの死神の血だ」

「は……? はぁ!?」

「死神の刃は私を貫いてなどいない、ということだ……忌々しいことだがな」

 

 そういうことです。

 ハリベルを貫く直前、覚えていますか?

 左手は照準を合わせるように前に出して、胸元に当てている――って言いましたよね? その状態で、引いた右手を前に出して切っ先を突き刺しました。

 

 ……自分の左手の甲に。

 

 掌まで貫いて、勢い余ってハリベルの胸にもちょっとだけ刺さりましたけどね。でも、針の先で突いた程度です。掠り傷みたいなものですよ。

 彼女の胸元を汚しているのは、全部私の血です。

 

『……なんでそんなことしたでござるか?』

 

 本当はね! 本当は寸止めのはずだったの!! それがつい、テンションが上がっちゃって……やっちゃった……えへへ。

 やっぱりこう、血の一つも流れた方が良いかなって思って……

 

藍俚(あいり)殿、本当のことを言うでござるよ……お上にも、慈悲はあるでござる……』

 

 ごめんなさい!

 左手で照準を合わせるフリをして、ハリベルのおっぱいを触りました! そうしたら力加減の調整をミスしました!!

 だって大きくて柔らかかったんだもん!! 弾力がすごったの!!

 

『まったく藍俚(あいり)殿ときたら、油断も隙もないでござるよ……いくらハリベル殿が! あんな破廉恥な格好で戦っていたとしても! 戦闘中にチラチラ見えたとしても!! 素敵なミニスカートの中身がチラッと見えてしまったとしても!! 我慢するべきでござるよ!!』

 

 うそっ! 見えたのアレ!?

 私戦闘に集中してたからそこまで気が回らなかったのに……

 

『何を仰るのやら分かりませぬな。こう見えても見た目通りに真面目な射干玉ちゃんは、そんなスカートの中なんて気にしてないでござるよ』

 

 ……ハリベルを水中にたたき落として溺れさせた瞬間について。

 

『アレは素晴らしかったでござるよ!! "濡れてもいいように"という理由であれだけの露出していたハリベル殿であれば、いっそトコトン濡らすべきでござる!! どうして原作はシロちゃん殿なんて氷使いを相手にさせてしまったのか!! 長年抱え続けていた不満が一気に解消された瞬間でござりました!! 水の上をぷかぷかと浮かぶハリベル殿の小麦色をした二つのお山は、眼福そのもの!! まさにフローティングベストならぬフローティングバスト!! しかも隣にはべちょべちょの藍俚(あいり)殿も! 濡れて張り付き身体の線が丸見えの着物姿と濡れてもなお誇らしげな水着姿!! ぬっはぁ!! なんという背徳的な組み合わせ!!』

 

 そ、そう……

 

 ちょっと突いたら、予想外の山盛りなお返事がやってきたわ。

 もうこれ以上は触れないでおきましょう。

 

「死神……いや、湯川藍俚(あいり)、だったな……最後、私は水を支配することができなかった。アレは、お前の仕業だな?」

「ええ、そうよ」

 

 取り乱して溺れかけてたのに、いつの間にか冷静になってるわ。

 部下たちの前ではそんな姿は見せられない、みたいな矜持かしら?

 

「やはり、か……冷静になった今ならば分かる。いや、何をやったのかまでは分からないが、それだけは分かった。こっそりと水を足し、最大技の手助けをした上でそれを破る。水の支配権まで密かに奪い取る。これ以上無い程の敗北だ……しかも、それらを気付かせぬようにわざと巫山戯た技で怒らせ冷静さを失わせるという念の入れよう……完敗だ……」

「さて、なんのことかしら……?」

「知らぬフリ、か……だが、今の私にはそれを責める資格もない……命まで庇われたとあってはな……」

 

 巫山戯(ふざけ)た技って……ウナギのこと、よね……絶対に……

 判断力を鈍らせるのが目的だったけれど、ごめんなさい。アレには趣味もちょっとだけ入ってるのよ……

 

藍俚(あいり)殿……拙者が言うのも筋違いかと思いますが……アレ、訴えられたら完全に負けでござるよ?』

 

 ……知ってる。

 

 というかハリベル、負けた途端にもの凄い理解力ね……

 しかもお山(おっぱい)に手を置いて刺したのを、命を庇うための行動だって思っているし……聞いてるこっちが心苦しくなってくる……

 

「湯川、戦闘前のお前の提案だが……完全に飲むことはできない。だが敗者として、前向きに検討はしよう。それと、今この虚圏(ウェコムンド)にいる死神たちにも、最低限の協力だけはすると誓おう。アパッチ、ミラ・ローズ、スンスンも良いな?」

「…………」

 

 感情的には納得できないようですが、鶴の一声のように黙りました。

 あら? なんだかスンスンがすっごい顔してるわね?

 

「……はっ! そ、そうですわ! 死神!! アレは何――」

「死神ではなく湯川、もしくは藍俚(あいり)だスンスン。その程度の敬意は払え」

「――っ~~~~!!! 湯川藍俚(あいり)!!」

 

 ハリベル、部下にまで徹底させなくていいから……

 

「あの技はなんですか! いくら相手の虚を付くためとはいえ、やって良いことと悪いことがあります!!」

「そうよねぇ、あたしもそう思うわ」

 

 スンスンの意見を肯定するようにチルッチが現れました。

 いつの間にか来ていたのね。全然気付かなかったわ。彼女はなんだか、もの凄く腹立たしいって表情をしながらさらに続きを口にしました。

 

「でもね、どれだけムカついても負けは負け。命まで救われたんじゃ、文句は言えないわよ! 本当に、本当に腹が立つんだけど!!」

「お前は……確か、チルッチ・サンダーウィッチだったな」

「あら、あたしのことを知ってるの? 自分で言うのも何だけれど、3桁に落ちてんのよ? 現十刃(エスパーダ)サマってのは暇なの?」

「だが元とはいえど十刃(エスパーダ)だ。先達のことを知っておいても損はないだろう?」

「ふーん……ま、確かに。そう考えてる分だけ、アンタは従属官(フラシオン)たちよりずっと立派みたいね」

 

 チルッチ、一体どうしたのかしら?

 顔に「私もちょっと前にヌルヌルの汁に滑らされてもの凄い屈辱を受けたから気持ちはよくわかる!」とか「"あの卍解の相手をしなくてよかった"って言葉は間違ってもこういう意味じゃない!」って書いてあるわ。

 

『もの凄い具体的でござるなぁ……それよりも、ハリベル殿がチルッチ殿を御存じな部分の方が大事なのでは?』

 

 そっちも考えたんだけどね。

 でも、今の言葉で凄く納得しちゃったの。ハリベルの性格だったら"さもありなん"って感じなのよ。

 

「知ってるみたいだから自己紹介は省くけれど、あたしも一応そこの藍俚(あいり)……し、死神!!」

「どうした? 名前で呼ぶことに、特段問題など無いと思うのだが……?」

「死! 神! に!! 無理矢理協力させられた立場なの!! っていうか藍俚(あいり)ィ! アンタもアンタよ!! 協力しろって言って外に出た途端、あたしを置いて走って行くってのはどう考えても失礼でしょうが!! ここまで来るのにどれだけ大変だったと思ってんのよ!!」

「ご、ごめんねチルッチ……ハリベルの霊圧を感じたから、つい……」

「ハァ!? そうよね、3桁に落ちたのよりも現十刃(エスパーダ)の方がず~~~っと頼りになるものね! ふーんだっ!!」

 

 腕を組んで、ほっぺたを膨らませながら「ツン!」とそっぽを向かれてしまいました。

 かわいい!

 

 ……じゃなくて!!

 

「ごめんなさい! 本当にごめんなさい!! 協力者は多い方が良いと思って……」

「それとそこの従属官(フラシオン)から聞いたけれど、ハリベルには『藍染様がいなくなってからの虚圏(ウェコムンド)の面倒を見ろ』とか依頼したそうじゃない? なんであたしには言わないのよ!!」

「えっと、それは……その……あの時はまだ、そこまで言う暇が無かったって言うか……勿論、チルッチにもちゃんと依頼するつもりだったんだけれど、あの時のチルッチはまだ病み上がりだったし……」

 

 しどろもどろに説明する私を見ながら、ハリベルが「プッ」と吹き出しました。

 

「……くっ、ククク……アハハハハ!! 私を完膚なきまでに打ち倒し、敗北を叩き付けた死神がこうも手玉に取られるとはな。決して下に見ていたわけではないが、見直したぞチルッチ」

「ハリベル、あんたはもう少し文句言っても良いと思うわよ?」

 

 なんだか二人が仲良くなってるわね。

 そう思っていたところで。

 

 

 

 ――聞こえるかい? 侵入者諸君

 

 

 

 頭の中に声が響きました。

 




●フローティングベスト
救命胴衣(ライフジャケット)のこと。

これを「フローティングバスト」とボケたかったんです。
なので「どうにかしてハリベルを沼の底に沈めなきゃ!」と頭を捻った結果がアレです。

白状しますと今話は「これが言いたかっただけ」です。
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