「確か、霊圧はこの辺りで感じたはず……」
前回も言いましたが、まず藍染の「現世に侵攻するよ」宣言があります。
その後、
多分みんな
私だって怪我したんだから、きっとみんなだって傷ついているはず。
『自分で自分の手の甲に刀をブッ刺した
あ、アレは違うから!! あとハリベルの水の鮫の技でちゃんとダメージを受けてるから! 片腕を怪我しているから!!
それも含めてもう全部治したから!!
……でも、アパッチたちの傷は治せませんでした。
というより、治させてもらえませんでした。
私が「その怪我を治します」って言ったのに、やんわりと丁重に断られました。
なんだか怯えられていたみたいで……どうしてかしら?
治療にかこつけて身体中を触るとか、そんなことは全く一切考えていません。
『本当でござるか?』
当たり前でしょう!?
あの子たち三人揃って片腕無くしているのよ!? 一人は私が斬っちゃったし、その辺含めて全部治療するのは当然のことでしょう!!
まだ信頼度が足らないのかしらね……?
でも、びしょびしょだったのはハリベルがなんとかしてくれました。こう、水を操る能力の応用って感じで、一瞬にして脱水してくれました。脱水後はちゃんと
こんなコトしてくれるってことは、ハリベルとの信頼度は高いと考えて良いのかしら……?
「この霊圧……いたわ、桃!!」
そんなことを考えながら捜索を続けて、ようやく一人見つけました。
霊圧がずいぶんと弱っているみたいだけれど、何があったのかしら……?
それに桃の隣にいるこの霊圧って……誰かしら?
「ん? この霊圧……どこかで覚えがあるような……」
「チルッチが?」
「んー……どこだっけ……?」
並んで移動していたチルッチが何やら首を捻っています。
彼女が覚えのある霊圧――当然、桃のことじゃないでしょうね。桃だったらまだ覚えているはずでしょうし。
ということは、彼女が知っている可能性のある
……それって、下手したら桃が大ピンチなんじゃないの!? チルッチの時みたいに、処刑部隊が迫ってるかもしれないってことよね!?
「ごめんねチルッチ、ハリベル! ちょっと先に行くわ!!」
「え、ちょっと
「桃が! 部下が危険かもしれないの!!」
返事を待たずに、再び全力で駆け出しました。
霊圧の感じから察するに、桃にトドメを刺そうとか、そういう気配は感じられないんだけどね。それでも何かがあってからでは遅いので。
また置いていく事になるけれど、今回は十分視界に届く範囲だから。だから許してね、チルッチ。
「いたっ! 桃、無事!? 生きてる!?」
「どわあぁぁっ! なっ、なんスかなんなんスか!? 急に空から振ってきたりスて!! あんた誰っスか!?」
声を掛けつつ、いつでも抜刀出来るように気を配りながら確認したところ。
桃の隣にいたのは小さな
緑色の髪をしていて、頭に髑髏を被っていて、ローブみたいなのを身に纏っていて、訛った喋り方をしていて、今は何故か桃を庇うように立っている……
――ってこれ、ネリエルじゃないの!! なんで、なんで桃と一緒にいるの!?
「あ……せ、先生……!!」
「えええっ? 桃ちゃんの知り合いっスかぁ!?」
地面に寝そべっていた桃が、ゆっくりと上体を起こしながら呟きました。その際、痛そうに少しだけ顔を顰めていました。
隠そうとしていたみたいですが、私の目にはお見通しです。
あちこちボロボロになっていることから、何らかの激戦を繰り広げたんでしょう。霊圧がかなり弱っています。
傷の手当だけは済んでいるようなので、もう少し休んでいれば自力で完治もできるようになるでしょうね。
ですが――
「ええ、そうよ。私は桃が所属している部隊の隊長なの」
「ああっ! そういえば桃ちゃんネルに話スてくれたっスよ! えーとたスか……湯川さんだったっス!! ネルは
「そう、ネルちゃんね。こちらこそよろしく。それといきなりで悪いんだけど、桃の治療をしたいの。いいかしら?」
「はい! どーぞっス!」
――そんな悠長な事は言っていられません。
なので、さっさと治療と霊圧補充を済ませてしまいましょう。
「ほら桃、動いちゃ駄目よ。身体を楽にして、力を抜いて……」
「先生……」
場所をどいてくれたので、桃への治療を開始します。
開始しました。それは良いんです、何の問題もありません。ありませんが……
……おかしいわね? この子の名前って、ネリエルじゃなかったっけ……? 私の記憶違いかしら……?
『(あぁ、これは……微妙に勘違いしたままでござるな……)
なぁに、射干玉?
『間違ってはおりませぬぞ。今のところは、ネル・トゥ殿でござるよ』
……今のところ?
今のところ……ってことは――
そっか、ご兄弟が揃わないと駄目なのね!!
ペッシェ・ガティーシェと……ド、ドン……ドンドチャッカ……? がいないと!!
三人揃ってなんとやら、って言うし!!
『……そうでござるな……(というか、何故片方はフルネームで覚えているでござるか……???)』
「うん、このくらい霊圧を補充すれば問題ないでしょう。ほら桃、立てる?」
「はい……あの、先生……」
「ん? どうし……桃!?」
治療も済んで立ち上がらせたところで、桃が抱きついてきました。
「先生……先生、私……私……!!」
「桃ちゃん、どうスたんスか!? お腹痛いんスか!?」
私の胸元に顔を埋めながら、肩を小刻みに震わせています。表情は見えませんが、おそらく泣いているんでしょう。
背中から漂ってくる気配はなんともか弱く儚げで、力加減を僅かにでも誤ったらその瞬間に砕け散ってしまいそうな――そんな印象です。
……桃に一体何があったのかしら?
「桃、何があったの……?」
「私……私、ウルキオラに……また……負け……っ!! 黒崎、さん……守れ……大怪我……ううう……うわああああぁぁぁぁっ!!」
優しく尋ねたところ、桃は声を絞り出しながら教えてくれました。
胸の辺りが、じんわりと温かくなりました。どうやら大粒の涙を流しているみたいです。
途切れ途切れな、単語だけの言葉。それだけでも、この子に何があったのかはなんとなく想像がつきます。
そっか……そういうことかぁ……
「よしよし、桃。よく頑張ったわね」
「……ひっ! ……ひっ……く……!!」
彼女の頭を優しく抱きしめ、そっと撫でます。
涙でしゃくり上げる桃の声を耳にしながら、私は言葉を続けます。
「黒崎君が無事なのは、霊圧でわかる。でも今の桃の言葉から、彼は随分と危険な状態だったんでしょう? あなたが頑張って治療してくれたのよね?」
「……」
声はありませんでしたが、小さくコクンと首肯しました。
「だったら、胸を張りなさい。四番隊の隊士として、あなたはしっかりと怪我人を治療した。それは誇って良いことよ」
「でも……わた、し……また同じ……ウルキオラ……役に、立て……っ!!」
ああ、そういうことか。
一度目は織姫さんを連れて行かれて、そして今回は黒崎君。
同じ相手に二度も屈辱を味わう羽目になったら、こうも泣くわよね。
でもウルキオラ相手だとねぇ……
下手すれば隊長クラスでも負ける相手だし、そもそも雪辱を果たせるほど鍛えられてもいない。
機会があるって言ったのは確かに私だけど、まさかこんなに早くなんて……
忘れているかもしれないけれど、この子まだ病み上がりで本調子じゃないのよ?
ウルキオラに勝てる要素なんて皆無……一護がいても、無理よね。
……あれ? でも一護ってウルキオラを倒してるわよね? あれ、順番ってどうだったかしら……??
……まあいいわ! それよりも今は桃!!
「そんなことは気にしないの。今は何も考えないで、身体を休めなさい」
「そうっスよ! 桃ちゃんがいなかったら、一護は……一護がどうなっていたことか……う、うう……うわあああぁぁぁっ!!」
「ネ、ネルちゃん!?」
あらら。
桃に感化されたのか、今度はネルちゃんが泣き出しました。
これはどうやら、緊張の糸が切れちゃったみたいね。
私が来て、安心した桃。安心した桃を見て、安堵したネルちゃん。二人とも感情が爆発しちゃった――そんなところかしら?
ネルちゃんの鳴き声を聞いて驚いたのか、桃が顔を跳ね上げました。
「どうしたのネルちゃん……?」
「だ、だって……桃ちゃんがいなかったら、ネルだけだったら、一護は助けられねかったっスよ……んだからホントは、ネルが……ネルが一番役立たずっス!!」
「そんなことないよ……だって、ネルちゃんがいなかったら私も……う、うわああぁぁぁんっ!!」
あらら、両方とも泣き出しちゃったわね。
……仕方ないか。
私は今まで袖を通していた隊首羽織を脱ぐと、そっと桃の肩に掛けました。
「ほら、桃。悔しいのは分かるけれど、いつまでも泣いていないの。可愛い顔が台無しよ?」
「……え?」
「それに、いつまでもそんなボロボロの格好だったら他の子の目にも毒よ。ちゃんと隠さないと」
今の桃は別に大きく肌を露出しているとか、そういうわけではありません。なんだったら露出度はハリベル以下ですから。
ただ死覇装がボロボロになっているから、それを隠すために。
それともう一つ。
こんな風にそっと羽織とかを掛けて貰えると、なんとなく嬉しいでしょ?
私だって一応隊長だし「心配して貰えてる」とか「元気づけようとしてくれているんだ」みたいな気持ちはきっと伝わるはず!
……伝わるわよね?
「あの、これ……先生の隊首羽織……」
肩に掛けられたそれを、桃はビックリしながらもぎゅっと大事そうに抱きしめました。
当たり前だけど、この羽織は桃には大きすぎるわね。
私だと丁度良いサイズだけど、桃が着るとぶかぶかです。肩に掛けただけで裾が
袖は通していないけれど、もしも通していたら手が完全に隠れちゃうでしょうね。
『いわゆる"萌え袖"というヤツでござるな!!』
「……あ、ここ……破れてる……」
羽織を抱きしめたまま、桃が袖の穴を目聡く見つけました。
「ええ、そうよ。私も
「そんな……! 先生が怪我を……?」
なんだか驚いていますけれど、私そこまで強くは無いわよ?
それとも桃の中の私は、常に無傷で敵を倒すってイメージとかなのかしら?
と、とにかく!
「そんな強敵を相手に、桃は本当によくやってくれたわ。だから、次は私の番」
「先生の番、ですか……?」
「ええ! そのウルキオラを殴ってでも連れてきて、謝らせるから。だから、その隊首羽織を私だと思ってもう少しだけ待っててくれる?」
「……え……え……っ……?」
ぽかーんとした表情を桃が見せています。
それはそうですよね。連れてきて謝らせるとか、そんなこと言い出すなんて普通は予想できませんから。
「
「ぐすっ……よかったスね、桃ちゃん」
「ネルちゃん……うんっ!」
二人ともようやく笑ってくれました。
「……あの、先生。この隊首羽織、私が繕ってもいいでしょうか?」
「ああ、それ? そろそろ新調しようかと思って――」
「だったら私にください!!」
「え、ええ……」
「えへへ……着ちゃおうっと……」
今日一番の笑顔を見せてくれました。
●三人揃って
・Perfumeになるかもしれない(某歌手)
・世界最強の化物になるかもしれない(某漫画)
(なおパフュームだったらもういる(アパッチたちのモデル的な意味で))
●メンタルケア
スポーツ選手のユニフォームとかを額に入れて飾るような、そんな感じ。
これで雛森も元気になる、はず……大丈夫、よね……?