お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

249 / 406
第247話 憧れの隊首羽織

「確か、霊圧はこの辺りで感じたはず……」

 

 前回も言いましたが、まず藍染の「現世に侵攻するよ」宣言があります。

 その後、虚圏(ウェコムンド)に来た死神たちを集め直すことにしました。なので今は、チルッチもハリベルも従属官(フラシオン)たちも一緒に行動しています。

 

 多分みんな十刃(エスパーダ)と戦って怪我してるはずだから、そっちの治療もしないといけないでしょうし。

 

 私だって怪我したんだから、きっとみんなだって傷ついているはず。

 

『自分で自分の手の甲に刀をブッ刺した藍俚(あいり)殿には負けるでござるよ……』

 

 あ、アレは違うから!! あとハリベルの水の鮫の技でちゃんとダメージを受けてるから! 片腕を怪我しているから!!

 それも含めてもう全部治したから!!

 

 ……でも、アパッチたちの傷は治せませんでした。

 というより、治させてもらえませんでした。

 

 私が「その怪我を治します」って言ったのに、やんわりと丁重に断られました。

 なんだか怯えられていたみたいで……どうしてかしら?

 

 治療にかこつけて身体中を触るとか、そんなことは全く一切考えていません。

 

『本当でござるか?』

 

 当たり前でしょう!?

 あの子たち三人揃って片腕無くしているのよ!? 一人は私が斬っちゃったし、その辺含めて全部治療するのは当然のことでしょう!!

 

 まだ信頼度が足らないのかしらね……?

 

 でも、びしょびしょだったのはハリベルがなんとかしてくれました。こう、水を操る能力の応用って感じで、一瞬にして脱水してくれました。脱水後はちゃんと蝦蟹蠍(じょきん)しておきましたので、変な匂いもしません。ハリベルとの初の共同作業です。

 こんなコトしてくれるってことは、ハリベルとの信頼度は高いと考えて良いのかしら……?

 

「この霊圧……いたわ、桃!!」

 

 そんなことを考えながら捜索を続けて、ようやく一人見つけました。

 四番隊(ウチ)の桃です。

 霊圧がずいぶんと弱っているみたいだけれど、何があったのかしら……?

 

 それに桃の隣にいるこの霊圧って……誰かしら? 破面(アランカル)っぽいのだけは分かるんだけど……

 

「ん? この霊圧……どこかで覚えがあるような……」

「チルッチが?」

「んー……どこだっけ……?」

 

 並んで移動していたチルッチが何やら首を捻っています。

 彼女が覚えのある霊圧――当然、桃のことじゃないでしょうね。桃だったらまだ覚えているはずでしょうし。

 ということは、彼女が知っている可能性のある破面(アランカル)の誰かが、桃の隣にいるってことかしら……?

 

 ……それって、下手したら桃が大ピンチなんじゃないの!? チルッチの時みたいに、処刑部隊が迫ってるかもしれないってことよね!?

 

「ごめんねチルッチ、ハリベル! ちょっと先に行くわ!!」

「え、ちょっと藍俚(あいり)またぁ!?」

「桃が! 部下が危険かもしれないの!!」

 

 返事を待たずに、再び全力で駆け出しました。

 霊圧の感じから察するに、桃にトドメを刺そうとか、そういう気配は感じられないんだけどね。それでも何かがあってからでは遅いので。

 

 また置いていく事になるけれど、今回は十分視界に届く範囲だから。だから許してね、チルッチ。

 瞬歩(しゅんぽ)で一瞬にして間合いを詰め、桃のすぐ近くに着地します。

 

「いたっ! 桃、無事!? 生きてる!?」

「どわあぁぁっ! なっ、なんスかなんなんスか!? 急に空から振ってきたりスて!! あんた誰っスか!?」

 

 声を掛けつつ、いつでも抜刀出来るように気を配りながら確認したところ。

 桃の隣にいたのは小さな破面(アランカル)の少女でした。

 緑色の髪をしていて、頭に髑髏を被っていて、ローブみたいなのを身に纏っていて、訛った喋り方をしていて、今は何故か桃を庇うように立っている……

 

 ――ってこれ、ネリエルじゃないの!! なんで、なんで桃と一緒にいるの!?

 

「あ……せ、先生……!!」

「えええっ? 桃ちゃんの知り合いっスかぁ!?」

 

 地面に寝そべっていた桃が、ゆっくりと上体を起こしながら呟きました。その際、痛そうに少しだけ顔を顰めていました。

 隠そうとしていたみたいですが、私の目にはお見通しです。

 あちこちボロボロになっていることから、何らかの激戦を繰り広げたんでしょう。霊圧がかなり弱っています。

 傷の手当だけは済んでいるようなので、もう少し休んでいれば自力で完治もできるようになるでしょうね。

 

 ですが――

 

「ええ、そうよ。私は桃が所属している部隊の隊長なの」

「ああっ! そういえば桃ちゃんネルに話スてくれたっスよ! えーとたスか……湯川さんだったっス!! ネルは破面(アランカル)のネル・トゥと申スまス。隊長さんのことは桃ちゃんから聞いてるスよ」

「そう、ネルちゃんね。こちらこそよろしく。それといきなりで悪いんだけど、桃の治療をしたいの。いいかしら?」

「はい! どーぞっス!」

 

 ――そんな悠長な事は言っていられません。

 なので、さっさと治療と霊圧補充を済ませてしまいましょう。

 

「ほら桃、動いちゃ駄目よ。身体を楽にして、力を抜いて……」

「先生……」

 

 場所をどいてくれたので、桃への治療を開始します。

 開始しました。それは良いんです、何の問題もありません。ありませんが……

 

 ……おかしいわね? この子の名前って、ネリエルじゃなかったっけ……? 私の記憶違いかしら……?

 

『(あぁ、これは……微妙に勘違いしたままでござるな……)藍俚(あいり)殿藍俚(あいり)殿』

 

 なぁに、射干玉?

 

『間違ってはおりませぬぞ。今のところは、ネル・トゥ殿でござるよ』

 

 ……今のところ?

 

 今のところ……ってことは――

 

 

 

 そっか、ご兄弟が揃わないと駄目なのね!!

 ペッシェ・ガティーシェと……ド、ドン……ドンドチャッカ……? がいないと!!

 三人揃ってなんとやら、って言うし!!

 

『……そうでござるな……(というか、何故片方はフルネームで覚えているでござるか……???)』

 

 

 

「うん、このくらい霊圧を補充すれば問題ないでしょう。ほら桃、立てる?」

「はい……あの、先生……」

「ん? どうし……桃!?」

 

 治療も済んで立ち上がらせたところで、桃が抱きついてきました。

 

「先生……先生、私……私……!!」

「桃ちゃん、どうスたんスか!? お腹痛いんスか!?」

 

 私の胸元に顔を埋めながら、肩を小刻みに震わせています。表情は見えませんが、おそらく泣いているんでしょう。

 背中から漂ってくる気配はなんともか弱く儚げで、力加減を僅かにでも誤ったらその瞬間に砕け散ってしまいそうな――そんな印象です。

 

 ……桃に一体何があったのかしら?

 

「桃、何があったの……?」

「私……私、ウルキオラに……また……負け……っ!! 黒崎、さん……守れ……大怪我……ううう……うわああああぁぁぁぁっ!!」

 

 優しく尋ねたところ、桃は声を絞り出しながら教えてくれました。

 胸の辺りが、じんわりと温かくなりました。どうやら大粒の涙を流しているみたいです。

 途切れ途切れな、単語だけの言葉。それだけでも、この子に何があったのかはなんとなく想像がつきます。

 

 そっか……そういうことかぁ……

 

「よしよし、桃。よく頑張ったわね」

「……ひっ! ……ひっ……く……!!」

 

 彼女の頭を優しく抱きしめ、そっと撫でます。

 涙でしゃくり上げる桃の声を耳にしながら、私は言葉を続けます。

 

「黒崎君が無事なのは、霊圧でわかる。でも今の桃の言葉から、彼は随分と危険な状態だったんでしょう? あなたが頑張って治療してくれたのよね?」

「……」

 

 声はありませんでしたが、小さくコクンと首肯しました。

 

「だったら、胸を張りなさい。四番隊の隊士として、あなたはしっかりと怪我人を治療した。それは誇って良いことよ」

「でも……わた、し……また同じ……ウルキオラ……役に、立て……っ!!」

 

 ああ、そういうことか。

 一度目は織姫さんを連れて行かれて、そして今回は黒崎君。

 同じ相手に二度も屈辱を味わう羽目になったら、こうも泣くわよね。

 

 でもウルキオラ相手だとねぇ……

 下手すれば隊長クラスでも負ける相手だし、そもそも雪辱を果たせるほど鍛えられてもいない。

 機会があるって言ったのは確かに私だけど、まさかこんなに早くなんて……

 

 忘れているかもしれないけれど、この子まだ病み上がりで本調子じゃないのよ?

 ウルキオラに勝てる要素なんて皆無……一護がいても、無理よね。

 

 ……あれ? でも一護ってウルキオラを倒してるわよね? あれ、順番ってどうだったかしら……??

 ……まあいいわ! それよりも今は桃!!

 

「そんなことは気にしないの。今は何も考えないで、身体を休めなさい」

「そうっスよ! 桃ちゃんがいなかったら、一護は……一護がどうなっていたことか……う、うう……うわあああぁぁぁっ!!」 

「ネ、ネルちゃん!?」

 

 あらら。

 桃に感化されたのか、今度はネルちゃんが泣き出しました。

 これはどうやら、緊張の糸が切れちゃったみたいね。

 私が来て、安心した桃。安心した桃を見て、安堵したネルちゃん。二人とも感情が爆発しちゃった――そんなところかしら?

 

 ネルちゃんの鳴き声を聞いて驚いたのか、桃が顔を跳ね上げました。

 

「どうしたのネルちゃん……?」

「だ、だって……桃ちゃんがいなかったら、ネルだけだったら、一護は助けられねかったっスよ……んだからホントは、ネルが……ネルが一番役立たずっス!!」

「そんなことないよ……だって、ネルちゃんがいなかったら私も……う、うわああぁぁぁんっ!!」

 

 あらら、両方とも泣き出しちゃったわね。

 

 ……仕方ないか。

 私は今まで袖を通していた隊首羽織を脱ぐと、そっと桃の肩に掛けました。

 

「ほら、桃。悔しいのは分かるけれど、いつまでも泣いていないの。可愛い顔が台無しよ?」

「……え?」

「それに、いつまでもそんなボロボロの格好だったら他の子の目にも毒よ。ちゃんと隠さないと」

 

 今の桃は別に大きく肌を露出しているとか、そういうわけではありません。なんだったら露出度はハリベル以下ですから。

 ただ死覇装がボロボロになっているから、それを隠すために。

 それともう一つ。

 こんな風にそっと羽織とかを掛けて貰えると、なんとなく嬉しいでしょ?

 

 私だって一応隊長だし「心配して貰えてる」とか「元気づけようとしてくれているんだ」みたいな気持ちはきっと伝わるはず!

 ……伝わるわよね?

 

「あの、これ……先生の隊首羽織……」

 

 肩に掛けられたそれを、桃はビックリしながらもぎゅっと大事そうに抱きしめました。

 

 当たり前だけど、この羽織は桃には大きすぎるわね。

 私だと丁度良いサイズだけど、桃が着るとぶかぶかです。肩に掛けただけで裾が(ふく)(はぎ)にまで届いていて、このまま歩くと踏んづけて転んでしまいそう。

 袖は通していないけれど、もしも通していたら手が完全に隠れちゃうでしょうね。

 

『いわゆる"萌え袖"というヤツでござるな!!』

 

「……あ、ここ……破れてる……」

 

 羽織を抱きしめたまま、桃が袖の穴を目聡く見つけました。

 

「ええ、そうよ。私も十刃(エスパーダ)の一人と戦ったの。それはその時に開けられた穴。隊首羽織を傷つけられるような強敵だったわ」

「そんな……! 先生が怪我を……?」

 

 なんだか驚いていますけれど、私そこまで強くは無いわよ?

 それとも桃の中の私は、常に無傷で敵を倒すってイメージとかなのかしら?

 と、とにかく!

 

「そんな強敵を相手に、桃は本当によくやってくれたわ。だから、次は私の番」

「先生の番、ですか……?」

「ええ! そのウルキオラを殴ってでも連れてきて、謝らせるから。だから、その隊首羽織を私だと思ってもう少しだけ待っててくれる?」

「……え……え……っ……?」

 

 ぽかーんとした表情を桃が見せています。

 それはそうですよね。連れてきて謝らせるとか、そんなこと言い出すなんて普通は予想できませんから。

 

尸魂界(ソウルソサエティ)で約束したでしょう? 雪辱を果たす機会はあるって。でもこれじゃあ私、約束を破っちゃったのと同じだから……だからせめてもの罪滅ぼし、ね?」

「ぐすっ……よかったスね、桃ちゃん」

「ネルちゃん……うんっ!」

 

 二人ともようやく笑ってくれました。

 

 

 

 

 

 

 

「……あの、先生。この隊首羽織、私が繕ってもいいでしょうか?」

「ああ、それ? そろそろ新調しようかと思って――」

「だったら私にください!!」

「え、ええ……」

「えへへ……着ちゃおうっと……」

 

 今日一番の笑顔を見せてくれました。

 




●三人揃って
・Perfumeになるかもしれない(某歌手)
・世界最強の化物になるかもしれない(某漫画)

(なおパフュームだったらもういる(アパッチたちのモデル的な意味で))

●メンタルケア
スポーツ選手のユニフォームとかを額に入れて飾るような、そんな感じ。
これで雛森も元気になる、はず……大丈夫、よね……?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。