お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

254 / 406
(話の順番、前話と逆な気もしますが、まあいいか)


第252話 その動き、光の如し

 絶対の自信を以て繰り出した従属官(フラシオン)たち全てを死神に打ち倒され、バラガン・ルイゼンバーンは業腹だった。

 

 かつては虚圏(ウェコムンド)の神として君臨していたバラガンであり、藍染の配下となった今もその矜持は失っていない。その彼が配下として率いていた者たち全てがこうも容易く――決して容易くとは言いがたいのだが、バラガンの目にはそう映っていた――敗れたとあっては少々……

 

 誠に少々ながら神の沽券に関わるというものだ。

 そして受けた恥は、そそがねばらない。今この場に残っているのはバラガンだけだ。不遜な死神を自らの手で打ち倒すべく、彼は玉座から立ち上がり死神たちの相手を始める。

 

 バラガンの持つ能力は"老い"――触れれば花は枯れ、岩は朽ちて砂となり、肉は腐り溶け落ちて、全ての命は死に絶える。

 ただそこにいるだけで周囲の時間の流れすら鈍くするという、絶対の能力。

 そのはずだった。

 

「はっ!」

「ふんっ!」

 

 砕蜂の攻撃をバラガンは辛うじて防ぐ。

 放った突きが身体に突き刺さるまでは、あとほんの数ミリ。コンマ一秒でも遅れていれば、直撃を受けていただろう。

 

「妙だな……やはり、遅くなる……」

 

 攻撃をしくじったと悟った瞬間、大きく下がって距離を取る。余計な追撃などを受けぬためだ。

 離れた場所で、彼女は自分の手とバラガンとを見比べる。

 既に何度も、絶対の自信を以て放った攻撃があと一歩のところで防がれているのだ。

 相手に近寄った瞬間に自らの身体が遅くなるという強烈な違和感。その正体を看破しきれずにいた。

 

「くっ……死神風情が……」

 

 砕蜂が困惑するその一方で、バラガンは部下が敗れた時以上の苛立ちを感じていた。

 一瞬で、風のように現れ煙のように消える砕蜂の動き。それは老いの能力があってようやく対応できるということの証明。

 それが何よりも腹立たしい。

 

「不遜、じゃな。王たる儂の喉元に刃を向けるなど、あってはならぬこと」

 

 そのような輩は一切合切、灰も残さずに叩き潰さねばならない。

 

「朽ちろ、髑髏大帝(アロガンテ)

 

 自身の斬魄刀たる巨大な戦斧。

 その斧から闇のような霊圧が溢れ出し、バラガンはその身を髑髏へと帰刃(レスレクシオン)させる。

 

「……」

 

 解放した姿を見た砕蜂が僅かに息を呑む。同じ戦場にいる大前田などは、完全に怖じ気づくほどだ。

 王冠を被り荘厳そうなローブを纏った骸骨の姿は、見る者へそれほどまで強烈に"死"の一文字を連想させた。

 だがバラガンの帰刃(レスレクシオン)はこれだけでは終わらない。

 その身を変化させたと同時に、彼の周囲が急激に朽ちていく。一瞬にして数千年、数万年もの時を経たように。崩れ落ちて砂となり、その砂すら磨り潰されて消えていく。

 

「なるほど、これが奴の能力……風化、いや……まさか!」

「フン、ようやく理解したか」

 

 引き起こされた現象、それと我が身に起きた遅くなるという現象とが頭の中で噛み合って一つの答えを導き出した。 

 

「全ての十刃(エスパーダ)には、司る死の形というものがある。儂の司るものは"老い"。あらゆるものは儂の傍から老い、死に絶えてゆく」

「まずいっ!!」

 

 バラガンの霊圧が高まった。

 周囲の景色を老い一色に塗り潰さんとばかりのその恐ろしさを肌で感じ取った砕蜂は、叫ぶと同時にバラガンから更に距離を取る。

 

死の息吹(レスピラ)

 

 髑髏の口から漆黒の吐息が吐き出された。

 黒い息は逃げた砕蜂を追い詰めるように瞬く間に、恐ろしい程の速度で広がっていくものの、その程度は彼女も予測済みだ。

 全速力で動く砕蜂の影すら捉えられない。

 

「避けろ大前田ッ!!」

「え……あ、うぎゃあああああぁぁっ!!」

 

 だが避けられるのは砕蜂だけだ。

 吐息は同じ戦場にいた大前田三席――

 

 ……えーと、三席である。間違ってはいない。副隊長ではない。

 副隊長は夜一さんだと砕蜂の中では決まっている。書類的には許可が降りていないが、そんなことは知らない。今はちょっと逃げられているが、一度はとっ捕まえて約束させたのだから間違いない。ないったらない。

 

 ――その、三席にも襲いかかる。

 

「チイッ!!」

 

 警告の叫びを聞いた大前田は慌てて、それこそ恥も外聞も無く脱兎のごとく逃げ出すことで直撃だけは避けられた。

 予想よりも遙かに低い損害しか与えられず、バラガンが苛立たしげに舌を鳴らすその一方では。

 

「ひ、ひいいいっ! 腕、俺の腕が……!!」

「少し肉が削り取られただけだ、我慢しろ! 減量になって丁度良いだろう!」

 

 ――げ、減量って……!!

 

 声にならない抗議の声を大前田は上げていた。

 

 死の息吹(レスピラ)に触れた瞬間、彼の腕の一部は朽ち果てていた。

 触れた面積がほんの少しだけ、且つ、それに気付いた砕蜂が即座に周囲の肉ごと切り離したおかげで被害は最小限で済んだものの、直撃したり処置が遅れていれば影響はやがて身体中に及び、骨だけとなっていただろう。 

 それを鑑みれば、この程度で済んだのは十分に幸運だ。

 

「その程度の傷、四番隊で即座に治療が可能だ!」

「ですけどもぉっ!!」

「仮に両腕が朽ちたとて藍俚(あいり)様に頼めば一瞬で治療していただける! 片腕を怪我した程度で泣き言を言うな!! 一般隊士まで落とされたいか!!」

「……藍俚(あいり)?」

 

 傷口を乱暴でいて荒々しく縛り上げながら檄を飛ばし続ける砕蜂の言葉に、バラガンが反応した。

 予期せぬ相手の反応に砕蜂の動きが止まった。

 

「あいりアイリ……はて、どこかで聞いたような……」

「貴様、どうしてその名を知っている!?」

「おお、思い出した。藍染が言っておったわ。ハリベルの奴を倒し、自陣へと引きずり込んだ死神が、確かそのような名であったはず」

 

 やがて納得したように独りごちた。

 虚圏(ウェコムンド)にて藍染が死神たちへ演説する少し前、十刃(エスパーダ)たちへ簡易な説明をした際に、その名を口にしていたのを思い出したからだ。

 治療が得意だなどと言っており、ひょっとすれば老いて朽ちた肉体であっても癒やせるのかもしれないが、だがその心配は無用なこととバラガンは結論づける。

 

 しかしバラガンの考えは、全くの的外れだった。

 

「じゃが、そやつは今虚圏(ウェコムンド)にいる。この場におらぬ者を当てにするなど滑稽なことよ」

「ふ、ふふふふふふ……」

「た……隊長……?」

「なるほど。良い話を聞かせて貰ったぞ! ならば私も、これ以上無様は見せられぬ!!」

 

 大恩ある相手が、十刃(エスパーダ)の一人を下していた。それどころか部下にまで引き入れていたのだ。

 ならばその彼女に教えを受けた自分が、こんなところで手間取っているわけにはいかない!!

 キレッキレの思考で、砕蜂のやる気が限界を突破する。

 その声色は、大前田が思わず本気で心配するほど楽しそうなものだった。

 

「卍解! 雀蜂雷公鞭!!」

「卍解か……無駄なことを……」

 

 砕蜂の持つ斬魄刀が、巨大なミサイルのように変わる。

 それを見てもなおバラガンは余裕の態度を変えることはなかった。だがそれは砕蜂も同じだ。

 

「その形状から察するに、矢を放つ類いの力であろう? 残念だが……」

「言われずとも想像はつく! 貴様の老いの力は、向けられた攻撃であっても届く前に朽ちて果てる……そういうことだろう?」

「馬鹿ではないようだ……いや、やはり馬鹿か?」

 

 言動だけを見れば、老いの能力について正しく認識しながらも通用しない攻撃を放とうとしているのだ。馬鹿なのかと疑っても不思議ではない。

 

「馬鹿は貴様の方だ……私は、貴様が思っているよりも何倍も速い!!」

 

 雀蜂雷公鞭が発射態勢に入った。照準がバラガンへと狙いを定め、そしてあれだけ巨大だった砲弾が一瞬にして姿を消す。

 

「雀蜂雷公鞭・(せん)

「――」

 

 砲弾が消えた一秒後、砕蜂の声が聞こえてきた。

 何がしたかったのかと問い質すよりも先に、続いて何かが通り過ぎたような強烈な風切り音が鳴り響き、最後にバラガンの腹に激痛が走る。

 

「ぐがあっ!!」

 

 慌てて下を向き、そして気付く。

 いつの間にか、彼の腹には大穴が開いていた。

 大きさは大人の腕ほどもあるだろうか。身に纏っていたローブは向こう側が見える程に美しく真円が開いている。

 ローブの下には、本来あったはずの肋骨や背骨までもが全て綺麗さっぱり消えている。仮にどれだけ鋭利な刃物を用いたとしても、こうはいかないだろう。空間をまるごと切り取ったのではないか? そう思わせるほどに鮮やかさ。

 

 まさかこれが、攻撃だったのか?

 感知することも出来ぬほどの刹那の攻撃。音が後から聞こえてくるほどの速度で放たれ、能力にて朽ちるよりも速く通り抜けて目標へと穴を開けたのか。

 落下していく視界の中で、バラガンは悟った。

 

「ああぁぁっ!!」

 

 上半身と下半身を繋いでいた背骨が、その中程から消失したのだ。

 支えを失った上半身が崩れ落ち、髑髏が地面に衝突する。それでいて下半身は奇跡的にバランスを保ったまま立ち続け、上半身を見下ろしている。

 そんな異様な光景だった。

 

 雀蜂雷公鞭・閃。

 本来は砲弾を放ち、爆破することで周囲一帯の全てを薙ぎ払うだけであったそれは、長きに渡る鍛錬によって新たな力を身につけていた。

 これはその新たな力の一つ。

 全てを殲滅せんとするほどの破壊力を射出速度へと割り振ったものだ。音すらも置き去りにして、直線上に存在する全てを貫く閃光の一撃。

 

「す、すっげぇ……」

「副隊長の席に戻りたければ、このくらいはやってみせろ」

 

 難点があるとすれば、通常よりも消費が大きいということくらいか。

 全身にびっしりと汗を浮かべながら、それを感じさせぬ気丈さで砕蜂は告げていた。

 

 

 

 

 

 

 

「おのれ……おのれ死神いいぃッ!!」

「いいいいいぃっ! ま、まだ生きてる!?」

「チッ、一撃では沈まぬか……もう少し気張れ雀蜂(すずめばち)

 

 上半身だけの姿となりながらも、バラガンは再び動き出していた。

 匍匐前進のように両手で上半身を引っ張りながら、砕蜂目掛けて進む。怒りと痛みで制御が甘くなっているのか、漆黒の吐息が漏れ出して辺り構わず周囲一帯に死を振り撒く。

 

 部下の悲鳴と敵の生命力。その両方に苛立ちながら、砕蜂は指先で雀蜂雷公鞭を軽く弾いた。

 鳴り響いた「キンッ!」という金属音が雀蜂の文句の言葉のように聞こえて、思わず笑いがこみ上げる。

 

「よくもこの儂を! 虚圏(ウェコムンド)の大帝たるこの儂に傷を……!!」

 

 これも能力によるものなのだろう。

 真っ黒に染まった巨大な戦斧――帰刃(レスレクシオン)する前に手にしていた物よりもずっと大きく禍々しい形状となったそれを片手に握りながら、よろよろと起き上がる。

 

 倒れ伏して地に這いつくばったままでいるなどプライドが許さないのだろう。

 霊子を固めて己の身を支えることでバランスを取っているらしく、バラガンは上半身だけで浮かび上がり斧を構えていた。

 砕蜂は再び雀蜂雷公鞭を構える。

 

「貴様、さきほど言ったな? 自分は大帝――つまり王であると」

「それがどうした!」

「そうか……残念だな。王では私には勝てぬ!!」

 

 霊圧を注ぎ込み、雀蜂雷公鞭の弾頭を装填する。

 

「世迷い事を! 儂の力の前ではあらゆる者は均しく平等!! 全て老いて朽ち果てるのみ!! 藍染とて同じ事! スターク亡き今、奴を倒して儂は奴に奪い取られた全てを取り戻してみせよう!!」

 

 ――スターク? 察するに、同じく現世へと現れた十刃(エスパーダ)の名か?

 

 問い質したいところではあるが、バラガンが撒き散らす老いの吐息が厄介だった。無差別に広がりあらゆる物を滅ぼし続けるながら襲いかかってくる相手に、遠慮など無用。

 

「老いを感じる間など与えるものか……今度は光より速いぞ」

 

 ――命中精度だけが難点だがな!!

 

「ぬかせええぇぇ……っ!!」

瞬閃(しゅんせん)!!」

 

 砲弾が再び消える。

 

「どこで知ったかは忘れたが……古来より、王の身辺には常に危険が差し迫っているそうだ。貴様が本当に王ならば、隠密機動の総隊長――暗殺者の頂点に立つ私を前に立たせるような真似など絶対にさせぬぞ? たわけが」

 

 バラガンの髑髏が、一瞬にして半分消えた。

 

「お゛お゛お゛お゛お゛お゛ッ!!」

「なにっ!?」

 

 顔面の半分以上を失い、残った半分をバラバラと砕け散らしながらも、バラガンは動きを止めなかった。

 執念と怨嗟だけを支えとし、砕蜂目掛けて手にした戦斧を叩き付けようとする。

 

 だがそれは叶うことはなかった。

 突如として現れた黒い棺にバラガンは閉じ込められ、その中からはボキボキと何かが砕け散っていく音だけが聞こえてくる。

 

「これは!!」

 

 ――鬼道、それも黒棺!! こんなことが出来るのは……!!

 

「ダモクレスの剣、か。中々面白い話を知っているようだ」

 

 バラガンがいたところよりもずっと後ろから声が届く。

 

「王が暗殺されるなど、恥以外の何物でもないだろう? ならばその前にこうして手を下すのも慈悲。これは名誉だよ」

「……藍染!!」

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 砕蜂とバラガンが戦いを始める、その少し前。

 

「……困ったなぁ。あんたみたいに強い相手とは、戦いたくないんだが」

「あら、そうですか? 私は楽しみで仕方ありませんよ。十刃(エスパーダ)が、それも藍染がこの場に連れてくるほどの者が、どれほどの力を持っているのか」

「あー……卯ノ花隊長、あんまり遊びすぎないようにお願いしますね」

 

 第1(プリメーラ)十刃(エスパーダ)コヨーテ・スタークは、卯ノ花と京楽――二人の隊長を前にして、腹の底から嘆息していた。

 




その逃げ足、光の如し

●ダモクレスの剣
栄華の最中にも危険は迫っている。
または常に身に迫る一触即発の危険な状態のこと。

●暗殺
秘密裏でなく、強襲して殺しても定義としては正解だからセーフ。

●王様と暗殺者
スパイは大将を倒せます(軍人将棋)

●雀蜂雷公鞭
元々の破壊力を速度と貫通力だけに振り直した、一点集中の超速攻撃。
速度に加えて霊圧がギチギチに詰まっているので対処も難しい。
(霊圧差が大きいのでバラガンの能力も無効化できた。
 なので実は速さはあんまり関係ない、とかだったら面白いかなと想定)

●スターク
……どう頑張っても善戦すら出来なさそうなのでカットします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。