お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第253話 藍染を打倒せよ

「それにしてもその卍解……フフッ、随分と難儀なことだ」

 

 雀蜂雷公鞭――バラガンを一撃で半壊させるほどの破壊力を秘めた砕蜂の卍解を眺めながら、藍染は口元を僅かに緩めた。

 

「護廷十三隊に籍を置いていた頃からある程度は知っていたが、霊圧の消費が多すぎる。あれだけの威力の物を二発も撃ってしまっては、もはや霊圧もまともに残ってはいまい。それでもまだ私を倒すつもりでいるのか?」

「……ッ!」

 

 遠くから聞こえてくる、全てを見透かしたような余裕の声に砕蜂は眉間に皺を寄せる。

 口にしていることが全て事実だったからだ。

 速度と貫通力に特化させて全てを打ち貫くようにしなければ、老いの能力と霊圧の守りを突破しきれない、そう判断していた。

 バラガンがもう少し弱ければ、もっと霊圧を温存して、雀蜂雷公鞭の消費を少なくして戦えたのだが……

 

「フン! 貴様に私の霊圧の底が分かるのか?」

 

 挑発的な笑みを浮かべながら、彼女は自身の中のその考えを否定する。

 結局は仮定でしかない。バラガンとの戦いは、アレで正解だったのだ――そう自分に言い聞かせながら、雀蜂雷公鞭を藍染に向ける。

 弱みを見せまいと、まだまだ霊圧は残っていて戦えるのだぞという、精一杯のアピール。示威行動だ。

 

「た、隊長!? あのすんげぇ卍解ってまだ撃てるんスか!? いや、撃てりゃ藍染だってイチコロでしょうけれど今の弱った霊圧じゃあ……」

「…………」

 

 なお大前田三席には伝わらなかった模様。

 オロオロし続ける部下を一切無視して、砕蜂は卍解に霊圧を込めてみせる。

 

「子飼いの破面(アランカル)が反応すら出来ずに貫ぬかれたのだ。貴様とて只では済むまい……?」

「止めときぃや、砕蜂ちゃん。休憩も必要やで?」

「お前は……平子、隊長……」

「おー、覚えてくれてたんやな。ま、こっちは砕蜂ちゃんのことは藍俚(あいり)ちゃん挟んで顔と名前を知っとったくらいやけども」

 

 急に現れた平子真子に、砕蜂は思わず動きを止めた。

 

「せやけど、その顔……疑問に思っとらんな? 俺たちがこの場に現れたことを」

「ああ、話だけは聞いていたからな」

 

 まだ砕蜂が幼かった頃に平子は隊長職に就いていたため、顔と名前くらいは当然知っている。一方の平子も幼い砕蜂が藍俚(あいり)と共にいる所を希に目撃しているため、多少なりとも覚えていたようだ。

 ついでに言えば、仮面の軍勢(ヴァイザード)のことも藍俚(あいり)を通してある程度は話が伝わっている。そのため、死神側には既に受け入れる程度の土壌が出来ていた。

 

「それで、我々と共闘すると考えて良いのか?」

「んー……ちょっとだけちゃうな。総隊長サンのところでも言ってきたんやが、敵の敵みたいなもんや。つまり……」

 

 斬魄刀を抜いた瞬間、平子の姿が消える。

 

「こっちで勝手に、やらせてもらうっちゅうこっちゃ!!」

 

 現れたのは、藍染の目の前だった。

 瞬歩(しゅんぽ)を用いたとはいえ、これだけの距離を一瞬で。砕蜂が気付くよりも速く動いてみせたことで、この場にいた死神たちは平子の実力を否応なく理解する。

 

 瞬間移動のごとく動いた平子は、そのまま藍染目掛けて手にした斬魄刀を振り下ろす。

 頭部を狙った攻撃に反応したのは東仙だった。攻撃の最中の平子の額を狙って斬りつけるその一撃を、大慌てで上体を仰け反らせることでなんとか回避する。

 

 その一瞬のやり取りの間、藍染は動くことはなかった。まるで、この結末が全てわかっていたと言わんばかりの余裕ぶりだ。

 

「外したか。左目から上を斬り落とすつもりだったが……」

「アホか! 見てみいコレ、男前が台無しや!」

 

 東仙の言葉に平子は自分の額を指さしながら答える。

 出血などはしていないものの、薄皮が一枚だけ切れていた。ついでに前髪が半分ほどばっさりと切り落とされている。つまり、もう一瞬反応が遅ければ頭を斬られていたということだ。

 

「残念ながら見えないものでな。お前の顔がどれだけ無残になろうとも知ったことではない」

 

 その事実を誤魔化すように軽口を叩くが、東仙の反応は冷ややかなものだった。

 斬魄刀を構え直すと冷徹なまでに平子へと追撃を仕掛けるものの、その攻撃に狛村が割って入る。

 

「狛村……!」

「すまぬが、少々故があるのでな! この男は儂が貰うぞ!!」

「あー、好きにしたらええよ……」

 

 表情と言葉のどちらからも平子を信頼しきっている。

 狛村から感じる謎の信用に少しだけ毒気を抜かれつつも、平子は再び藍染を睨み付けた。

 

「こっちの本命は初めから、藍染だけや」

「せやな」

「ハゲ真子、お前に言われんでもわかっとんのや」

 

 その言葉に同意するように、ひよ里とリサの二人が平子の隣へと並ぶ。

 

「なんやお前らだけかい」

「しゃあないやろ。他の奴らは周りのお手伝いしとるからな」

 

 彼らが戦場に姿を現す少しだけ前、大量の最下級大虚(ギリアン)を伴って破面(アランカル)ワンダーワイスがやって来ていた。

 平子らを除く者たちはそれらの殲滅へと向かっている。

 

「真子、とっととしいや」

「わぁっとる! 迂闊に近寄らんとけよ、特にひよ里!」

「……わかっとる! ウチかていらん煮え湯を飲まされたからな。慎重にもなるわ」

 

 藍染を睨みつけながら、じりじりと間合いを詰めていく。

 今にも飛びかかりたくなるのを我慢しつつ、平静になるよう心を落ち着かせながらひよ里は自然体になるように努める。

 その脳裏に浮かぶのは一ヶ月ほど前、仮面の軍勢(ヴァイザード)のアジトへと激励――という名目で暴れに来たとある死神のことだ。あれだけ好き放題暴れられては、実力不足を嫌でも理解する。

 その死神の口から「藍染はこの程度ではない」と言われ、仮面の軍勢(ヴァイザード)の面々は己の心技体を少しでも鍛え上げていくことに余念はなかった。

 

「流石、思いやりの深い言葉だ平子隊長。その言葉に免じて、私が相手をしてあげよう。だが、迂闊に近付けばとは……その言葉、滑稽に響くな。迂闊に近付こうが慎重に近付こうが、或るいは全く近付かずとも全ての結末は同じだよ」

「せやったら、アホみたいに近付いたらどうや?」

 

 淡々と語る藍染の言葉に横槍を入れる形で、平子が口を挟んだ。その手にはいつの間にか、始解した逆撫(さかなで)が握られている。

 

「面白い形の刀だな。だが、阿呆のように近付くとはどういう意味かな?」

「そら勿論、言葉通りの意味や。お前にはわからんやろ」

 

 三人が仮面を被り(ホロウ)化すると、藍染目掛けて襲いかかる。

 迫り来る三人を認識しながら、藍染は僅かに目を見開く。逆撫の能力の影響を受けたのだと気付いた時には遅かった。

 

「反応が遅ぉなったな!」

「今やっ!」

「ッ!」

 

 迫り来る三つの刃を躱しきれず、藍染は身体を切り裂かれる。

 傷そのものは深くはないが、決して浅くもない。どくどくと血が流れ患部が痛みを訴えるが、藍染にはそんなことは問題ではなかった。

 

「上下、前後、左右、見えている方向まで全てを逆にする能力か」

「はぁ……一発で気付くあたり、ホンマ可愛くないなぁ。けどま、その通りや。オマエの鏡花水月と比べたら格は落ちるかもしれんが、中々オモロイやろ?」

「確かに面白いな。一度きりの余興としてならば、そこそこ愉しめたよ」

「まあまあ、そんなつれんこと言わんともうちょいと付き合えや!」

 

 再び三人の攻撃が繰り出された。

 だが今回は藍染にも事前知識がある。逆撫の能力は目の錯覚に等しい。ならば一度体験して慣れてしまえば、なんということもない。

 頭の中で全てを逆にしながら三つの攻撃を捌こうとして――

 

「な……っ!」

 

 ――再び、斬られた。

 

 新たに増えた痛みから藍染は気付く。

 上下左右前後は逆だが、見えている方向だけがそのままだ。

 たった一つだけ、感覚が逆になってない。その違いが藍染の計算を狂わせ、二度目の傷を負わせるほどの結果に繋がった。

 

「全部が全部、ずーっと逆になっとるワケないやろ? どないオモロイ余興かて、なんぞ変化がないと飽きられるもんや。オマケに一対一やのぉて、三対一。どない慣れた言うても、限度っちゅうもんがあるわ!!」

「覚悟しぃ!」

「終わりや!」

「変化、か……なるほど、確かにそうだ。まさかまだ、あなたから学ぶことがあったとはね。平子隊長」

「ぬかせ!!」

 

 三度目の攻撃が繰り出される。平子たちが動き出すのを感じながら藍染は片手の指を二三度、軽く回転させると薄く微笑んだ。

 

「があ……っ……!?」

「な……っ……!!」

 

 リサとひよ里、二人が斬られていた。

 斬魄刀を握りながら藍染は悠然とその場に佇んでいる。その刀身が血に塗れているところから、彼が斬ったのは間違い無いだろう。

 だがその動きは誰も見えなかった。

 

「だが、この程度の変化に対応できないと思ったのかい? ほんの少し、確認するだけの時間を取れば良いだけのこと……確かに確認を終えるまでに隙はあるが、君たちが相手ならば確認を終えてからでも十分。隙など無いに等しいよ」

「く……っ……」

 

 ――なんちゅうバケモンや! 見積もり甘過ぎたか!?

 

 二人が倒れていくのと同じように、平子も血を流しながら歯噛みしていた。

 ほんの一、二回。指を動かしただけで現在の逆様の世界を認識し直すほどの感応力の高さにも驚ろかされたが、確認を終えてから三人を一瞬で斬り倒すほどの速さも問題だ。

 殺そうと襲いかかってくる相手に対して一瞬よそ見をしてからでも対応できる。

 それは単純に、藍染と平子たちとの実力の差へと繋がる。

 

「……おや? 要……しかたない……」

「東仙!? 東仙!! おおおおおおおおおおっ!」

「な、なんや!?」

 

 倒れる平子たちには目もくれず、藍染は急に遠くへと視線を投げた。

 そして、何かをした――それが何なのかは、目の前にいた平子ですら分からなかった。ただ、何かをしたというのだけは分かる。

 一瞬だけ、藍染がそれまで身に纏っていた雰囲気が変わったかと思った途端、狛村の悲壮な叫び声が周囲一帯に響き渡った。

 

 それは、藍染と東仙との間で交わされた契約。

 東仙が死神たちの許しを受け入れるようなことがあれば、苦しむ前に消し去るという絶対の約定。

 その盟約に基づいて、藍染は東仙を敗残者ではなく慈悲を以て手に掛けただけだ。

 許しを受け入れてしまった自分に絶望し、心が壊れる前に。

 

「おおおおおおっ!! 藍染!!」

 

 だが狛村は、そんなことは知らない。

 ようやく心のそこからわかり合えたと思った友――その親友を虫けらのように殺した、憎い憎い仇としか彼の瞳には映らなかった。

 

「今度は狛村隊長か。また私にやられたいのかな?」

「許さぬ! 許さぬぞ藍染!! なぜだ! どうして東仙を殺した!!」

「言ったところで理解などできないだろう。だが、あえて語るとすれば慈悲。要はああなることを望んでいただけのことだよ」

「ふざけるな!!」

 

 やや離れた位置から始解・天譴にて藍染へ攻撃を仕掛ける。

 怒りに任せて放った未熟な攻撃など容易く避けられるものの、だがその一撃で冷静さを取り戻したのか狛村は落ち着きを取り戻す。

 

「仮面の客人よ! 儂も加わるぞ!!」

「ざけ、んなや……」

「あたしらかて、まだやれんで……」

 

 リサとひよ里が立ち上がる。

 だが相当無理をしているのだろう。痛みに顔を歪ませ、口の端から血を滴らせている。動きものろのろとしているところを見るに、気力を振り絞っているに違いあるまい。

 

「その、今にも倒れそうな身体でかい? それとも平子隊長の能力を当てにしているのか? どちらにせよ、とんだ思い上がりだ」

「くっ……!」

 

 静観を続けていた藍染だったが、今度は襲いかかってきた。

 一瞬にして手の届く距離まで近寄られ、その場の全員に緊張が走る。

 

「うおおおおっ!」

「はあああぁっ!!」

「ちいっ! やったらぁ!!」

「くっ……」

「止めろ!! お前ら全員攻撃すんなっ!! 同士討ちだ!!」

 

 藍染目掛けて斬魄刀を振るう三名(・・)へ向けて、外から声が掛かった。

 同士討ちという言葉に平子たちは反応し、直前ギリギリでなんとか剣を止める。するとその寸止めの褒美だとばかりに、藍染の姿が掻き消える。

 

「は……?」

「い、いつのまに……?」

 

 三人が狙う剣の先にいたのは、狛村だった。

 尤も狛村本人だけは平子たちが完全催眠に陥っていると認識していたらしく、天譴にて防御を固めていた。

 このまま攻撃を受けたとしてもダメージは無かっただろう。操られていたという屈辱以外はだが。

 

「気をしっかり持て! 藍染の鏡花水月だ!!」

「ほう……よくぞ気付いたものだよ、日番谷隊長」

 

 小さな拍手と共に、どこからともなく藍染が姿を現す。こうなってしまえばもはや仕掛けは明白、驚きの表情を見せる者たちも事情を飲み込めた。

 鏡花水月の能力にて狛村を藍染と誤認させ、平子たちの同士討ちを誘ったのだと。

 そこまでは理解できる。

 

「……ホンマ、よぉ気付いたのぉ……そこの小っこい隊長」

「へっ、当然だ! 藍染!! もうお前の鏡花水月は効かねえ!!」

 

 日番谷が得意げに胸を張って――

 

「……って誰がチビだ!!」

 

 ――ちょっとだけ怒った。

 その漫才のようなやり取りを横目にしながら、藍染は瞳を細める。

 

「なるほど……その自信の源は、この場に最初から控えている"あの有象無象"たちかな?」

 

 周囲を簡単に見回せば、隊長・副隊長といった戦闘を主目的としている死神。四番隊の上位席官といった治療を主目的としている死神。

 それ以外にもう一組。何やら長方形の機械を手に持つ死神がいる。

 彼らは戦うでも援護するわけでもなく、ただ影や空気の様に存在感を消しながら戦場を俯瞰するように眺めているだけだ。

 とはいえ無意味にこの場にいるわけではない。彼らの仕事は、戦場を撮影すること。

 かつて藍俚(あいり)が挙げた、鏡花水月の完全催眠対策の案。

 カメラにて撮影し、その映像を別の――鏡花水月の影響を受けていないと確信できる――者が確認し、何か異変があれば音声にて戦闘担当の死神たちに知らせるという備えを、忠実に実行していた。

 

「さてな、何のことだか」

「隠すのならば、もっと上手くやりたまえ。その耳飾り、よく似合っているよ日番谷隊長」

「チッ……」

 

 惚けてみせるものの、藍染はむしろより一層の確信を持って断言してきた。

 

 まず、戦場で何もしないのであれば邪魔だから下がらせた方がよほどマシだ。だが居続けている以上は何か役割があるはずという疑問。

 続いて、死神たちは鏡花水月に気付いたようだが、仮面の軍勢(ヴァイザード)たちは騙されたままだったこと。

 最後に、死神たち全員が揃って同じデザインの耳飾り(音声受信機)を付けている。

 これらを考慮すれば、答えは自ずと導き出せるだろう。

 

 確かに気付かれることも想定していたが、とはいえこうもあっさりと気付かれては腹も立つ。

 日番谷は返事の代わりに、苛立ちまじりの舌打ちを返した。

 

「仮に我々が対策を講じており、貴様がそれに気付いたからといって、それがどうかしたのか?」

「砕蜂ちゃん! もうええんかい!?」

「ええ、私が霊圧を少々補充しましたので」

「なるほど、卯ノ花サンの仕業か……」

 

 少し前に下がったかと思えば、もう最前線へと戻ってきた砕蜂の姿に驚き。続いて砕蜂の横までやって来た卯ノ花の姿を見て平子は全てを納得する。

 ついでに「そういやアンタ今は十一番隊のトップって……ホンマ何があってん……!?」と心の中でツッコミを入れるのも忘れない。

 

「ハッチ、リサとひよ里を頼むわ。それくらいなら治せるやろ?」

「はいデス」

 

 忘れないが、それはそれだ。

 スタークを相手としていた死神たちまでもが加わった今、怪我を押してまで無理に戦わせ続ける必要もない。それを理解している二人は、口惜しそうな表情ではあるものの一旦下がる。

 

「あらら、藍染隊長ってば、なんや大人気で羨ましいわ。ボクもお手伝いしましょか?」

「不要、と言いたいが……そうだな。君の判断で頼むよギン」

「へえ……」

 

 次々と死神たちが集まり藍染へ敵意を向ける中、市丸の呑気な声が聞こえてきた。

 てっきり断られると思っていた提案を肯定されて、口にした当人が一番驚く。

 

「ええんですか? てっきり不要や言われる思ってたんですけど」

「せっかくの機会(チャンス)なんだ。君も少しくらいは暴れたいだろう?」

「ほな、邪魔にならん程度には」

 

 藍染の少し後ろ――いつでも援護に行くことも庇いに出ることも、逃げ出すこともできるような、そんな絶妙な位置へと市丸が動く。

 

「させるか!!」

「ぬううぅっ!!」

 

 日番谷と狛村、二人の隊長が動いた。

 それを皮切りに、更に別の者たちが動いて藍染へと波状攻撃を仕掛けていく。だが隊長数人がかりの攻撃全てを、藍染はたった一人で受け流し防いで反撃すら行う。

 

「自信満々だな日番谷隊長。私の鏡花水月を封じられたのがそんなに嬉しいのかい?」

「うるせえ! テメエは……テメエは!!」

 

 あまつさえ、敵に挑発の言葉を投げ掛ける余裕すらある。

 その挑発を受けた日番谷は、氷の弾丸を全力で生み出すと藍染へと雨の様に放つ。

 

「この程度では――」

「今だ! 天貝!!」

 

 それら全てを打ち払おうとしたところで、日番谷は叫びながら大きく身を引いた。

 

「雷火・業炎殻!!」

 

 そして、藍染の周囲が猛火に包まれる。

 氷の弾丸を一瞬にて蒸発させ、人を瞬く間に黒焦げにするほどの炎の中にありながら、藍染は動じない。

 

「ああ、なるほど。君が、私たちが抜けた後に護廷十三隊の隊長になったという」

「よろしくする気はねえから、自己紹介もしねえがなっ!!」

「なるほど。そういうことか」

 

 卍解した斬魄刀、その刀身に業火を纏わせて天貝は斬り掛かるものの、藍染は易々と受け止めた。

 そして顔を間近で見ながら、納得したように呟く。

 

「確かに君には鏡花水月をかけ損なった。機会に恵まれないまま長期遠征に行ったからね……だが、問題はないよ。要するに"瀞霊廷内に存在する死神"にのみ鏡花水月を掛けていれば、何も問題はなかったからね。君一人が正気だったところで、それがどうかしたのかい?」

「ほざけ……くっ!!」

 

 さらに追撃を行おうとするが、それを潰すように横から伸びてきた刃が天貝を襲う。市丸の斬魄刀、神鎗による援護攻撃だ。

 それを躱しつつ、天貝は攻撃の出所へ視線を走らせる。

 

「なんや、ボクの後輩なんやね……これは、はじめましての御挨拶代わりや」

「テメエ!!」

 

 元と現という違いはあれど、三番隊隊長同士ということで興味が沸いたのだろうか。

 二人の目が合った瞬間、市丸は挑発するような物言いを見せた。

 

「もう一つ、その斬魄刀は流刃若火にはほど遠い。風が吹けば消えてしまいそうな弱い火など恐るるにたりないよ」

「では、もう少し年期があればどうでしょうか?」

 

 炎の壁を切り裂きながら、卯ノ花が飛び込んできた。

 空気を切り裂き、音を置きざりにし、光すら断ち切れそうなほど鋭い一撃に、藍染の身体が切り裂かれる。

 だが致命傷ではなかった。

 彼女の斬撃は、紙一重ではあるものの、防がれていた。

 

「今度は卯ノ花隊長のお出ましか」

「ええ、そうです。というよりもむしろ、当然のことでしょう?」

 

 言うなれば、今までの全てはフェイント。

 鏡花水月の対策に機械を用意することで一時しのぎとして、さらに隊長の中で唯一完全催眠に掛かっていない天貝を本命にする戦術を組み立てた――ように見せかける。

 

 死神は鏡花水月封じに苦心しており、それを封じれば藍染など恐るるに足りないと考えている。そう思わせることで、注意を逸らす。

 十一番隊現隊長、最強の死神である卯ノ花烈を藍染と一対一で戦えるようにする。

 現に天貝は既にこの場にはおらず、市丸の相手を始めていた。

 

「この場にいるのが更木剣八であれば、驚異だったよ。だが初代剣八、貴方ならば取るに足らない」

「その言葉、後悔しませんね?」

 

 感情の抜け落ちた表情で、卯ノ花は語った。

 




とりあえずこのくらい描写すれば、必要な義理は全部果たしたはずだと思います。
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