「うう……おしり、いたい……」
「メノリ……! ああもう、死神め……っ!!」
ロリとメノリ、二人のお尻をそれぞれ三十発ずつひっぱたいたところで"おしおき"は終了です。
メノリは泣きべそをかきながら、しゃがみ込んでお尻を押さえています。順番が後だったから、まだまだ痛みが新鮮みたいですね。
そんなメノリを、ロリが必死で気遣っています。
自分もまだお尻が痛いでしょうに、それを押してお友達の心配をしているのはポイントが高いわよ。
『ですが、叩いたのは
それはそれ! これはこれ!!
織姫さんを襲って怪我させるとか、許せるはずないでしょう!?
「それはそれとして……」
周囲を改めて見回します。
見回しますが、もう誰もいません。一護とウルキオラも、石田君と織姫さんも。全員姿が見えなくなっています。
どうやらお仕置きに夢中になりすぎてたみたいね。四人が移動したのに全く気付きませんでした。
『
そっか、まだ高校生だもんね。ちょっと刺激が強すぎたかしら……って、そんなわけないでしょう!
ちょっと探れば、
一護とウルキオラが戦いの場を上へ移して、織姫さんたちはそれを追って行ったに決まってるでしょう?
『…………』
……ち、違うから! 避けられたりとかしてないから!!
『ですが、場所を移動する際には一声くらいは掛けるのが礼儀かと……それが無かったということは、やはりドン引き……』
違うもん!!
戦いの規模とかウルキオラの霊圧とかが強すぎて面食らっちゃって、二人ともちょっと気遣いする余裕とかがなくなっていただけだもん!! シリアスモードに入っていただけだもん!!
『それほどの霊圧が放たれている最中にあって、それでも平然とお尻を叩き続けているというのもそれはそれで問題が……』
あ、それはちゃんとした理由があるの。
確かに強い霊圧だけど、このくらいならまだ大丈夫な範疇よ? 何より、霊圧が私に向かってきてないからね。
それなら、そこまで警戒することもないから危機感知に引っかからなくても仕方ないかなぁって……
それだけだから!
決して、お尻叩くのに興奮して楽しくて夢中になってて、気付くのが遅れたワケじゃないから! 忘れていたわけじゃないから!! 今から挽回するから!!!
「これはもう……追う、しかないわね」
「は? 追うって……あんた、何を言ってんのよ……?」
「ロリちゃんもメノリちゃんも気付かないの? 上から漂ってくるこの霊圧に」
「上……? ……ッ!!」
「な、なにこれ……」
私が促すと、二人もようやく気付いたようです。
この霊圧は多分、ウルキオラと
……ほら、二人もこれだけの霊圧に気付いてないでしょう!?
これも全部、意識を別に向けていたのが原因なの! 別のことに集中しちゃうと、ちょっとだけ視野が狭くなるんだから!
だから私はドン引きされないんだから!!
「……ちょ、ちょっと待ちなさいよ……!! "追う"って……まさか……」
「そのまさかよ」
一旦下ろした二人をもう一度肩に担ぎます。
「なっ! ちょっと何してんのよ!? 担ぐな!!」
「何って……二人も一緒に行くのよ? 上まで」
「いやあああぁっ! 行きたくない! こんな恐ろしい霊圧の場所になんて行きたくない!!」
「メノリちゃんも我慢してね」
「いやあああああああぁぁっっ!!」
あらら、とうとう泣いちゃったわ。
まあ、仕方ないわよね。この霊圧のまっただ中に飛び込んでいくとか、下手すれば余波だけで死にかねないもの。
でもね。
「いいの? ここに置いておいたら、ヤミーがまた来るかもしれないわよ?」
「……っ!!」
そう聞くと、途端に泣き止みました。
「治療と連れてきた責任があるし、私と一緒に来るのなら守ってあげる。でも残るっていうのなら……残念だけど、責任は持てないわ」
ちなみに二人の怪我ですが、まだ完治させていません。
意識を取り戻して、ある程度受け答えとかは可能だけど戦うには辛い。その程度で止めています。
そんな状況でこう言われてしまったわけで。
メノリは現在、おそらく頭の中で必死で損得勘定を計算しているようです。ロリも苦々しい顔をしているから、認められずとも従わざるを得ないってところですかね。
『ちなみに本音をどうぞ!!』
連れて行くと面白くなりそうだから。
「……残念だけど時間切れ。二人とも連れて行くわ」
「な……っ!」
「ちょ、ちょっと待って! もう少しだけ……!!」
「だーめ」
抗議の言葉を無視して塔の横穴から外に出ると、天蓋が大きく壊れていました。四分の一程が何か強烈な力で削り取られたようになっており、一面青かった筈の天井に夜空がかなり混じっています。
『
そうよね、
ルキアさんたちの霊圧が近くにあったから平気だと思ってたんだけど……
……あっちも治療に行かなきゃ駄目だったかしら……?
そんなことを考えながら天蓋の上を目掛けて移動していきます。
その途中、上から巨大な霊圧が降ってきました。
「えっ!?」
「ひいいっ!!」
「何よ、これ……まるで滝みたいに……」
また一つ、天蓋に大きな穴が空きました。空の底が抜けたような光景、とでも言うんでしょうかね。
おそらくは
……この攻撃って、確か……!!
「急ぐわよ!」
「え、ちょっ……」
「きゃああああっ!!」
記憶の片隅に、辛うじて覚えのある攻撃。それを目にした途端、全力で天蓋の上まで駆け上がって行きます。
……ロリとメノリの二人は加速に耐えきれずに泣き叫んでいました。
「黒崎君! 織姫さん! 石田君! 三人とも生きてる!? ……って!?」
「うえぇ……き、きもちわる……」
「お、おろして……」
天蓋の上へと到着したところ、そこには大惨事という言葉が広がっていました。
上から降ってきた
天蓋が抉れて火口のようになっています。その周囲からは砂煙が辺り狭しと立ち上っており、噴煙の中心部には黒崎君が立っていました。
ウルキオラを掴んで。
記憶通りなら、あの滝のような一撃を受けたんでしょう。ウルキオラの下半身は完全に消し飛んでおり、左腕もほぼ千切れ飛んでいます。むしろまだ原形を保っていることに驚きです。微弱ながら霊圧もまだ感じられます。
周囲を見回せば、石田君と織姫さんの姿もありました。
こちらは霊圧で盾を張って余波を防いでいたらしく、一応生きているみたいですね。
そして黒崎君ですが……
完全
あ、それとロリとメノリですが。
一瞬の加速だけで、あっというまにグロッキー状態です。なので本人たちの希望通りに下ろしてあげました。
……なにより、今の黒崎君相手に二人を担いだまま戦うとか絶対に無理だから。
「待ちなさい!!」
掴んでいたウルキオラを投げ捨てると、斬魄刀を片手にトドメを刺すべく黒崎君が動き出しました。
そこへ全力で割り込み、彼の動きを止めます。
「黒崎君、私が分かる!? 声は聞こえる!?」
「ア……グァ……モウ……ヤメ、ロ……」
「……?」
正気を失っている……? いえ、違うわね。辛うじて意識は残っているみたい……
その証拠に腕を掴んで止めたところ、黒崎君の力がちょっとだけ抜けました。多分ですが、今の状態に必死で抗ってるんでしょう。
でもこの状態になると、もう完全に意識を乗っ取られたみたいになるんじゃなかったかしら? 織姫さん以外は全部敵! みたいな感じで大暴れしていた覚えが……
「湯川さん!?」
「石田君! どうしたのその腕!?」
戸惑っていたら、石田君も参加してきました。
私が黒崎君の手を掴んで止めているので、それ以上何かをしているわけではありませんが。それよりも彼の片腕が吹き飛んでいる事の方が問題よね。
こ、こっちも治療しなきゃマズいかしら!?
「僕の腕のことはいい! それよりも黒崎を!!」
「力尽くでも止めれば良いのよね!?」
それなら一度経験があるから任せて!
ほぼノーモーションで裏拳を繰り出して、彼の仮面へ拳を叩き付けます。
「……っ! う、うそっ!?」
「なんだと……!?」
完全に不意を突いた一撃、そのはずでした。
ですが仮面を砕くには至りませんでした。
なんで!? 以前はこれで止まったはずでしょう……!?
『前の時には、更木殿が引きつけてくれましたからな。オマケにあの時の
……ああっ!! そういえば!!
で、でも今回は不意打ちなのよ!? これだって効果は十分あるはず……
『ですが相手も完全
判定負けって何!?
って、そんなツッコミを入れている暇もありません。
「う……っ!!」
「やめろ黒崎!! その人は味方だ! お前を止めに来てくれたんだぞ!!」
黒崎君が斬魄刀を振り上げて私に斬りつけてきました。
辛うじて半歩下がって回避できましたが、逃げ遅れた前髪が数本ほど宙を舞います。
これ多分、完全に敵と認定されましたね。
「トメ……タノ……ム……」
「黒崎君!! 湯川さん、お願いします!! 黒崎君を止めて!!」
あらら、織姫さんに頼まれちゃったわ。
本人もなんとか力を振り絞って止めるように頼んできています。
「こうなったらかなり荒っぽく行くわよ!! まだ重傷患者が控えてるんだから!!」
「くっ……まったく……!!」
瞬時に
石田君も片手に剣を持っています。
ただ、振りかぶったまま隙を狙っているので、斬りつけるのではなく投げて援護をしようとしてくれているみたいですね。
怪我してるのに本当、無理させちゃってごめんね!
「止まれ!!」
狙うは速攻、まずは動きを止めます。
速度に任せた斬撃を切れ目無く連撃で叩き込んで行きますが、相手も相手です。完全
とはいえどこか動きが鈍い。おそらく黒崎君が必死に押さえ込んでいるんでしょう。
この流れなら……ここっ!!
「……っ!」
「今だ!!」
一瞬だけわざと体勢を崩したように見せかければ、相手は嬉々としてそこへ切り込んできました。
誘い水とした攻撃――予想の倍くらい速かったですが――を身体を捻って躱せば、石田君が
片手なので矢として飛ばせず速度が少々遅いものの、このタイミングはお見事。
無理に対処しようとすれば私がそれを潰しますし、かといって無視していれば少なからず手傷を負います。
これなら――
「え……っ!?」
――と思ったら、攻撃の勢いを利用して飛び跳ねてきました。
逃げられる!?
「世話が焼ける……」
飛び上がった黒崎君に向けて、まるで最初から狙っていたように
威力は低く、牽制程度の効果しかありませんでしたが、それでも脚を止めるには十分過ぎます。
それと同時に聞こえた、呟くような声。おそらくこの声は……いえ、気にしている場合じゃありませんね。
「歯を、食いしばりなさい!!」
予想外の一撃に戸惑っている黒崎君――その仮面に向けて、再び拳を叩き込みました。
今回は
軽く罅が入っていたことも幸いしてか、二発目の拳によって亀裂は更に大きく広がり、やがて
仮面の下からは虚ろな瞳と表情をした黒崎君の顔が見えます。
「や……やったわ……」
殴り飛ばされた衝撃でちょっとだけ吹き飛んでいますが、傷一つ付いていませんね。
むしろ無理矢理
それよりも!!
「ウルキオラ! まだ生きてる!?」
「……」
黒崎君も気になりますが、あっちは織姫さんが担当してくれるでしょう。
なので私は、倒れたままのウルキオラに駆け寄ります。
言うまでもありませんが先ほど
ですが既に身体はボロボロで、再生に回す霊力すら残っていません。このまま放っておいても死んでしまうところを無理して更に援護したことで死期がさらに早まったらしく、末端部分がじわじわと朽ちています。
「無駄だ……」
グズグズはしていられません。
大急ぎで回道を唱え、霊圧を注ぎ込んで崩壊を食い止めていると、彼はそう呟きました。
「もう俺はここまでだ……何をしても助からん……」
「残念だけどね、まだ勝手に死なれるわけにはいかないのよ」
「なん……だと……?」
「雛森桃、この名前に聞き覚えはある?」
「…………」
目を閉じ、数秒ほど逡巡してから再び口を開きました。
「悪いが、覚えがないな」
「……あなたが織姫さんを連れ去る時と、
「ああ……あいつか……それがどうした?」
やっぱり覚えてなかったみたい。
まあ、ウルキオラの性格からすると知らなくて当然でしょうね。名乗る機会もなかったでしょうし。
「私はね、あの子と約束したのよ……"目の前に連れて行って謝らせる。二度も遅れを取った雪辱を絶対に果たさせる"……って」
延命処置はとりあえず完了、霊圧を込めたからもう少しは問題なし。
まずは吹き飛んだ内臓が問題よね。再生……超速再生って
どっちにしても今の霊圧じゃ無理でしょうね。となるとこっちで再生治療……いえ、それじゃあ間に合わない!
「そのために俺を助けるというのか……? 馬鹿な、そんなことのために……?」
「残念だけどね! 今の私はその"そんなこと"のために必死なのよ!!」
「そうか、勝手なことだ……だがどの道、無駄だ……死神の力では俺を癒やすことなど……出来るわけがない……」
「だったら! 治ったら私の言うことに従って貰うわよ!!」
叫びながら卍解して、能力でウルキオラの内臓を補填していきます。
霊圧がかなり異質だけど、伊達に
とはいえ、欠損部分が多すぎて……持つ、かしら……? いえ、持たせてみせる!!
「ウルキオラ……」
治療を続ける私の横に、元の姿に戻った黒崎君がやって来ました。
怪我は完全に治っていますし、そもそも完全
たしか、仮面を壊すと元に戻ってついでに超速再生で完全回復……で良いんだっけ?
「おぼろげだけど、覚えてるぜ……てめえの左腕と下半身、やったのは俺だよな……?」
「知ったことか」
何やら会話を始めましたが……
正直、そっちに気を回す余裕が無いのよね。治療で手一杯なのよ……
ああもうっ! 何コレ、これが完全
これを解きほぐして臓器を再生させていくとか、並みの苦労じゃないわよ!!
「
「だったらなんだ? 俺がお前の身体を切り刻めば満足なのか?」
「ああ、それで構わ――」
「黙りなさい!! 治療に集中させて!!」
さすがに我慢の限界でした。
「黒崎君!
「お、おう……」
よし、納得してくれたわね。
次!
「ウルキオラ! あなただって完全に納得しているわけじゃないんでしょう!? じゃなかったら私の治療なんて受け入れないはずよ!! その程度の余力は残っているはずだもの!!」
「……」
「それとさっきも言ったけれどね! 私はあなたを桃の前に連れて行って謝らせるって約束したの!! そのためだったら柱に括り付けてでも生きてて貰うわよ!! それが終わったら私が殺してやるわよ!!」
返事が無いって事は了解したって事よね。
最後!
「織姫、手伝いなさい!! 拒絶で血液の補充は出来る!? 駄目なら臓器から!!」
「は、はいっ!!」
拒絶の能力もあればもう少しだけ楽になるはず……だけど油断は出来ないわね。
原作で塵になっていくウルキオラに、ただ手を伸ばして掴もうと……してたと思うんだけど、それも仕方ないってよく分かるわ。
率直に言って、織姫さん一人だと荷が重すぎ。
まず、治すよりも崩壊の方がずっと早いから止められない。
仮に止められたとしても、このぐちゃぐちゃな霊圧が邪魔をする、
加えてウルキオラという巨大な存在が拒絶を妨げて、さらに余計な時間が掛かる。
それに手間取っている間に崩壊がどんどん進む。
ああもう! ロリとメノリのお尻叩いてる場合じゃなかった――ううん! あれはあれで必要なこと! どっちもやり遂げてこそ、四番隊の隊長なの!!
『四番隊の業務に尻を叩くという項目は無かったと記憶していますが……』
じゃあ射干玉は叩かない方が良かったの!?
『いいえ、まったく! アレは絶対に必要なことだったと心の底から信じているでござるよ!!』
よし、よく言ったわ!
「女……忘れたのか、俺はお前を……」
「集中させて!」
ウルキオラが織姫さんに何か言ったようですが、私も彼女も気にしていられないです。
二人掛かりで必死で治療を続けて――
「はぁ……はぁ……な、なんとか一命は取り留めたわね……」
「そ、そうですね……」
――治療は無事に成功しました。
終わった瞬間、私も織姫さんも思わずへたり込んでしまいました。霊圧を使いすぎてヘトヘト、身体中が汗でベトベト。目の前がチカチカしています。
おそらくは織姫さんも似たような状態です。
「ウルキオラ……?」
「……まさか、生き残るとはな……」
「せ、成功したのか湯川さん!?」
「なんとか、ね……」
ゆっくりと上体を起こすと、ウルキオラは自身の調子を確認するように手を握ったり開いたりしています。
その姿に一護が驚いて「どうなんだ!?」と目で訴えかけてきたので、力を振り絞って力強く頷いてあげました。
今回は時間との戦いでもありましたから、かなり無理をしました。
臓器の再生に全力を注いで、欠損した手足は霊圧で無理矢理補わせています。見た目は完全ですが、見た目だけ。
完全な状態にはほど遠いものの、とりあえず動くだけなら問題はありません。
後は休んで霊圧を回復させて、
「なんとも言えない、妙な気分だ……敵であったはずのお前たちに命を救われ、生き延びたことを喜ばれる……忌々しくも、どこか悪くないと思ってしまう……」
「それはきっと、あなたの心なんだと思うの」
握り締められたウルキオラの手に、織姫さんが自分の手をそっと掛けました。
「お帰りなさい、ウルキオラ」
それは、思わず見惚れてしまうほど、素敵な表情でした。
●救って大丈夫?
この後で雛森にウルキオラを土下座させるイベントが残っているので。
隊長が部下に嘘をつくとかありえませんから。
(よって、語気が荒くなるくらい本気治療です)
●一護がちょっと意識があったのはなんで?
アドバイスを受けているので、原作よりも「一緒に戦おう」という意識があるため。