お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第256話 一護、一抜ける

「何よ、あれ……なんであの状態のウルキオラを治せるのよ……おかしいでしょ!」

 

 藍俚(あいり)の治療を遠巻きに眺めていたメノリが、思わず吐き捨てた。

 四肢は腕の一本を残して全て消滅。内臓もごっそりと失っており、生きているのが不思議なくらいの大怪我――その状態でまだ多少なりとも動けたウルキオラも恐ろしいが、それを治療してみせた藍俚(あいり)の方がよほど、彼女の目には異形の存在として映ってた。

 

 織姫はまだ理解できる。藍染が自ら連れてくるように指示を出した相手であり、彼女の目の前でも不可思議な力を使って見せた。

 だがあの死神はそれ以上の化け物だ。

 ハリベルを下し、ウルキオラを圧倒したあの虚の様な死神(黒崎一護)の仮面を易々と砕いてみせた。壊すも治すも自由自在など、さながら神の所業。

 それを考えれば尻を叩かれたことなど温情。もしもアレがその気になっていたら、死よりも恐ろしい目に遭っていたのではないかと、メノリはようやく理解出来た気がした。

 

「メノリ……」

「ロリ! ロリもそう思うでしょう!?」

「グリムジョーにやられたメノリも、あのくらい酷かった……」

「……え?」

「それを織姫(アイツ)は治してた……」

 

 メノリと同じように、ロリもまた恐怖していた。

 今よりも幾らか前――丁度一護たちが回廊で分断された前後といったところか。今と似たように彼女たちは織姫にちょっかいを出したところを、グリムジョーに襲われた。

 圧倒的な力の差で蹂躙されて大怪我を負った二人であったが、織姫は癒やしてみせた。

 その時の記憶が、ロリの脳裏に鮮やかに蘇っていた。

 身体をガタガタと震わせながら、当時の状況を言葉少なく。けれども自身の身体と感情とで何よりも雄弁に語る。

 

「……もう、アレに関わるのはやめない?」

「それがいい、のかな……」

 

 五体満足――少なくとも二人の目にはそう映っている――となったウルキオラと、まだ誰か怪我人がいるのか再び治療らしき事を始めた藍俚(あいり)を眺めながら、ロリとメノリは小声で頷き合う。

 

 

 

 

 

 

 ……なんだか、化け物を見るような目で見られてる気がするんだけど。誰かしら?

 

 ウルキオラの治療も終わって、今度は石田君を治しています。こっちは片腕だけですし、織姫さんの能力があるからかなり楽でした。

 私の役目は、補充したくらいですね。

 ちょっと拒絶に回すだけの霊圧が足らなかったようなので、織姫さんの身体に霊圧を。

 

『……それ、藍俚(あいり)殿は治療していないということでは?』

 

 再生させるのって大変なのよ? それに傷口を整えて治療しやすくしたりとかもしたの! ただ遊んでいたワケじゃないんだから!!

 

「これでどう、かな?」

「ああ、問題ないよ。ありがとう井上さん」

 

 そうこうしている内に治療が終わったようです。

 石田君は生えてきた腕を軽く動かして調子を確認してから、そう答えました。

 

「それじゃあ次は黒崎君ね」

「え……俺か? でも、どこも怪我なんて……」

「傷は治っていても霊圧は消耗しているの。だから、私はそっちの担当」

 

 最後に、残っていた一護へ補給をします。

 これは織姫さんにはちょっと難しいので、私の担当です。

 手を当てて霊圧を流し込みながら、耳元で一護にだけ聞こえる声で囁きました。

 

「織姫さんじゃなくて、ごめんなさい。私で我慢してね」

「……ッ!! い、いやそんな……」

 

 ふふ、慌ててる慌ててる。顔を真っ赤にしてるわ。

 それどころか急な反応に疑問を持った織姫さんが、一護の顔を心配したように覗き込みました。

 

「黒崎君、どうしたの……?」

「べ、別になんもねえ……あーっ! それよりも湯川さん! 井上も! ウルキオラを助けてくれてありがとな!!」

 

『おやおや、必死で誤魔化してるでござるなぁ……』

 

 仕方ないわよ。

 今の織姫さん、ちょっと服が破れているから。ちょっと肌色面積が大きいからね。背徳感が増しちゃって、ちょっとエッチな目で見てしまうのもやむなし。高校生だもの。

 

「大したことはしてないわよ。四番隊は治療するだけだし、桃との約束もあったからね」

「私はそんな……」

「僕としては、これほど強力な破面(アランカル)を蘇生させるなんて考えられないのだけれどね」

 

 石田君はまたそんなことを……

 

「そうそうウルキオラも。勝負はもう付いたんだから、黒崎君とこれ以上の戦いは駄目よ? 私たちと協力しろとは言わないまでも、少なくとも不介入の立場をお願いね」

「ああ、わかっている」

 

 忘れないうちにウルキオラにも釘を刺しておきます。

 とはいえ本人も理解していたらしく「当然だ」といった表情で頷きました。

 

「それにお前は俺を治した。約束通り、お前の言うことに従おう」

 

 え……約束……? そんなことしたかしら……

 

 

 

 ――無駄だ……死神の力では俺を癒やすことなど……出来るわけがない……

 ――だったら! 治ったら私の言うことに従って貰うわよ!!

 

 

 

 ……あら、本当。

 割と必死だったから、こんなことを言っていたなんて完全に忘れてたわ。

 

 でもこれなら、不安は無い……と考えて良いかもね。

 

「それじゃあ治療も済んだことだし、みんなで下に降りましょうか? 特に黒崎君は、現世に戻るんでしょう?」

「……あっ、そうだった! ってか下のこと、浮竹さんに任せっぱなしじゃねえか!! 早く行こうぜ!!」

 

 忘れるのは酷くないかしら?

 

『正直、あんまり目立つ場面がありませんでしたからなぁ……』

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 天蓋の上に上がったのと同じように、一護とウルキオラ・織姫さんと石田君・私とロリとメノリ――の三組で、虚夜宮(ラス・ノーチェス)の中へと戻りました。

 ウルキオラは本調子からほど遠いため、一護が気遣い肩を貸しての移動です。

 二人ともちょっと前までは殺し合っていたというのに。まさかこんなことになるとは、想像もしていなかったでしょう。

 

 それにしても。

 上から見下ろすと、また違った発見がありますね。

 

 ……ええ、本当に……行きには見られなかった、凄い光景が見られました。

 

「なっ! なんだありゃ!」

「大きい……とてつもない大きさの破面(アランカル)だ……」

「ええっ!? でもあの人って確か十刃(エスパーダ)の――」

「ああ、そうだ。ヤミーで間違いない」

 

 一護たちが驚いています。

 ええ、そうです。十刃(エスパーダ)のヤミーです。私が塔から叩き落としたあのヤミーがいました。

 巨大化していますが。

 

 高さだけでも六十六尺(20メートル)はあるでしょうか? いえ、もっと……九十九尺(30メートル)くらい? きょ、巨大すぎて目測が追い付きません。

 しかも巨体に見劣りしないほどの霊圧も備えており、暴れ回る姿は自然災害が意思を持ったかのようです。

 

「あれ、が、ヤミー……?」

「……う、あ……ああ……っ……」

 

 抱えている二人も絶句しています。

 二人が最後に見たのは、まだ人間サイズの範疇に収まっていた頃のヤミーですから。それがこんな、怪獣大決戦みたいな存在を見せつけられたら、恐怖ですね。

 

『しかし藍俚(あいり)殿? 塔から天蓋の上へと移動する際にコレに気付かないというのはやはり問題があるのでは……?』

 

 ……上のウルキオラと一護の霊圧に気が向いていたからね。

 それと、大急ぎで移動したから気付かなかったの! そうなの!!

 

「け、けどよウルキオラ! ヤミーって確か……もっとこう、小さかっただろ!? アレどうみても怪獣じゃねえか!!」

「多分それが、帰刃(レスレクシオン)の能力なんでしょうね。巨大化して霊圧も強くなる能力……何らかの条件がいるんでしょうけれども……」

「……考え方は間違っていない、とだけ言っておこう」

 

 一護の言葉を補足するように付け足せば、ウルキオラが言葉少なく頷いてくれました。

 まあ、ウルキオラの立場としてもこのくらいが精一杯でしょうね。一応は仲間ですし、全体としてみればまだ完全に決着が付いたわけでもない。

 となれば、どちらかが有利・不利になることは言えないわけです。だから、こんな風な言い回ししかできない。

 

 ちなみにヤミーの斬魄刀は、たしか憤獣(イーラ)って名前だったと記憶しています。

 解放すると下半身が白い蠍のように変わり、尾も生えます。ですが蠍といいましたが生える脚の数は百足のように無数。その脚一本一本も象のように太いという、十刃(エスパーダ)の中でも屈指の異形。

 個人的にはアーロニーロと良い勝負かなと思います。

 

 そしてヤミー最大の特徴といえば、肩に刻まれた数字ですね。

 この状態になると数字が10から0になるんですよ。十の位の数が消えるんです。

 「十体の十刃(エスパーダ)の持つ数字が1から10だと誰か言ったか? 十刃(エスパーダ)の数字は0から9だ」という台詞は、かなりロマンがあると思います。

 

『お前それがやりたかっただけだろ!! という激しいツッコミが入ること間違いなしでござるな!!』

 

 でも結構好きよこの演出。

 第0十刃(セロ・エスパーダ)って改めて名乗るところとかも。

 

『……普段は最下位だけど時々最上位になるとか、十刃(エスパーダ)の中の人も大変でござるな……』

 

 うん、本当にそう思うわ。

 でもこの様子から察するに、第0十刃(セロ・エスパーダ)って高らかに名乗りを上げるところはもう終わっちゃったみたいね……

 

「なんだよそれ……じゃあ、浮竹さんたちはやべえんじゃねえか!? すぐに加勢に……」

「大丈夫よ。戦場を、よく見てみなさい」

 

 慌てて飛び出そうとする一護を制します。

 だって、ほら。

 

「いいじゃねえか!! デカくて強ええなんざ最高だ!! しかもいくらでも斬れるってんだから文句の付けようもねえ!!」

「まったく、(けい)には呆れるな……」

「全員気をつけろ! コイツまだ大きくなっている!」

「マジですか隊長!! ったく、虚圏(ウェコムンド)に来てから化け物の相手ばっかさせられてる気がするぜ……!!」

 

 隊長・副隊長がそれぞれ二名ずつ、ヤミーの相手をしています。

 特に更木副隊長と来たら、野晒を片手に大暴れです。すっごいお気に入りの玩具で遊ぶ子供みたいに、心の底から良い笑顔をしています

 一護もそれを見て、私の言いたいことを悟ってくれたようです。

 

「あ、ああ……なるほど……」

「ね? だから、巻き込まれない程度に離れた場所に降りましょう」

 

 そう提案して、全員で少し離れた位置へと移動していたときでした。

 

「あん……ウルキオラ! テメエ、生きてやがったのか!!」

「……チッ」

 

 ヤミーに私たちの存在を気付かれました。

 こういう巨大なタイプは鈍感だと相場が決まっているんですが、どうやら今回は当てはまらなかったようです。

 四名の死神に翻弄されているのに、それを気にした様子もなくこちら――というよりもウルキオラを注視しています。

 

「オイ、なんだそのザマは! まさか死神にやられたってんじゃねえだろうな……?」

「……見ての通りだ」

「はっ! 散々偉そうな態度を取っておいてそれか!! ったく、どいつもこいつも使えやしねえ!!」

「う……っ……なんて、声だ……」

 

 石田君たちが耳を塞ぎました。

 巨大な身体のヤミーが怒鳴っているわけですから、その声量は推して知るべし。と言いたいところなんですが。単純な声にすら霊圧が込められているのか、ヤミーは声だけで私たちを揺さぶってきました。

 

「仕方ねえ! だったらウルキオラ!! コイツら雑魚どもと一緒に、負け犬のてめえも纏めてブチ殺してやるよ!!」

 

 うわ……ヤミーの身体がまた一回り大きくなりました。

 霊圧も上がっていますし……強化の上限って、まさか無いのかしら……?

 

 ブチ殺すと叫んだヤミーでしたが、それでも隊長たち四人はそう簡単に突破出来ないようで、マゴついています。全員海千山千の強者ですからね。

 ……あら? 海燕さんの斬魄刀って、あんな形状……じゃ、なかったわよね? ……ひょっとして卍解? え、まさか卍解したの!?

 

 うわぁ、凄く聞きたい! 何があったのか凄く聞きたいんだけども! それをグッと我慢して、まずは地面へと着地します。

 

「……っ!」

「きゃあ!」

「湯川さん!?」

 

 ですが足を付いた途端、膝から崩れ落ちてしまいました。

 腕の力も抜けてしまい、抱えていたロリとメノリの二人も落としてしまいます。

 

「……う、これは……」

「だ、大丈夫ですか……?」

「平気よ……ちょっと疲れただけだから……」

 

 霊圧を、ちょっと使いすぎたようですね。

 考えてみれば虚圏(ウェコムンド)に来てからこっち、ほぼ休み無しで働いていましたから。チルッチ・ハリベルとその従属官(フラシオン)・桃・ロリとメノリ・ウルキオラ……頑張ったわね私。

 

『(ほぼ敵側なのは……いえ、拙者も異論はありませぬが……)』

 

 特にウルキオラの回復、アレの消耗が大きすぎました。それでもさっきまでは気を張っていたので平気だったんですが、最後の最後で気を抜いちゃいましたね。

 

 それでも心配はさせじと、顔を上げて笑顔を見せます。

 だって私隊長ですから! 弱音は吐けません!!

 

「せ、先生! 大丈夫ですか!?」

「あら、イヅル君……?」

 

 顔を上げたらイヅル君がいました。

 フラつく私を支えようとしてくれているのか、おっかなびっくり腕を掴んでいます。

 

「そっか、助けに来てくれたのね。ありがとう」

 

 塔の周辺まで集まってきているのは霊圧で感じていましたけれど、ちゃんと合流できたんですね。

 でも先ほどの四人の中にはいなかったから――

 

 合流してルドボーンと戦っていたところにヤミーが降ってきて、ヤミーが帰刃(レスレクシオン)して暴れて、それを見た更木副隊長が始解してもっと大暴れして、先遣部隊の面々は戦いの邪魔だから離れていた。ついでに結界を張って姿の見えなかった皆を余波から守っていた。

 

 ――そんなところかしら?

 

「迷惑ついでにもう一ついい? 私はいいから、黒崎君の手助けをしてもらえないかしら?」

「え……」

「彼、現世に向かいたがってるのよ。だから、イヅル君に同行をお願いしたいの。こっちの仕事は私が引き継ぐから」

「そ、それは構いません! ですが黒腔(ガルガンタ)はもう閉じてしまって……」

「……涅隊長よ」

「え?」

「涅隊長なら、もうとっくに調べているんじゃないの?」

「フン、耳聡いことだネ」

 

 私の言葉を肯定するように、涅隊長の声が聞こえました。

 

「それにしても、好き勝手飛び回っていた割にはまるで見てきたかのように言ってくれるじゃないか。もしも私が黒腔(ガルガンタ)を解析していなかったらどうするつもりだったんだネ?」

「まさか。未知の宝庫の虚圏(ウェコムンド)に涅隊長自ら足を運んでいるんですよ? そのくらいはとっくに済ませているって信じていましたから」

 

 嘘です、ごめんなさい。

 ザエルアポロの資料から、その辺のことができるようになるって知っていました。

 

「まあ、いい。今の私は気分が良いからネ。こうも早く黒腔(ガルガンタ)の検体志願者が出るとは思っても見なかったヨ」

「あ、あの隊長……検体、って……」

「大丈夫、涅隊長のアレはどこに出しても恥ずかしくない、絶対に自信の現れでもあるの。だから、失敗なんてありえない」

 

 不安がるイヅル君の肩に手を置いて、勇気付けてあげます。

 

「だから、頼んだわよ」

「は……はいっ!」

「うん、良い返事ね」

 

 よし、これで一先ず一護の方は終了。

 

 

 

 次は――

 

「なんだ……?」

 

 ――ウルキオラの番ね。

 




現世へ行ったら平子が「お前誰や!? 藍俚ちゃん連れてこんかい!!」とか言いそう。
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