涅隊長らが一護を現世へと送る準備を進めているのを横目に、こっちはこっちで残った問題――ウルキオラの件を片付けることにします。
というかこのためにウルキオラを蘇生させた様なものですから。片付けなかったら私は一体何のために治療をしたんだってことになります。
さて、桃はどこに…………いたわ。
イヅル君が張った結界から更に後ろ、ハリベルたちと共にいます。ちょっと居心地が悪いのか、ネルちゃんの手を握っていますね。元気づけるために着せた隊首羽織にもそのまま袖を通しています。気に入ったのかしら?
ですが、私が見ているのに気付いたようで。彼女もまたこっちに近寄ってきました。
「あ、先生……」
「お待たせしちゃってごめんなさい。ちょっと時間は掛かったけれど、でもちゃんとウルキオラを連れてきたわよ」
「あ、え……ええっ!?」
再会の挨拶もそこそこにウルキオラを紹介したところ、桃は目を丸くして驚きました。
「ほ、本当に、その……」
「勿論よ。約束したでしょう?」
「い、いえあの、先生を疑っていたわけじゃありませんけれど、その……」
「…………」
ワタワタと落ち着かない様子で、私とウルキオラの顔を交互に見比べています。
ですが私はさも当然といった顔をしていて、ウルキオラは無言無表情で桃を見下ろしているものの大人しく従っているわけで。
『そんな光景を見せられては、雛森殿でなくとも困惑するに決まってるでござるよ。そもそも
そうよねぇ……驚かせちゃったかしら?
で、でもほら! サプライズって言うし!! ん? でもちゃんと「連れてきて謝らせる」って宣言しちゃったから、サプライズにはならないのかしら……?
『(うーむ、こういう面を見ていると……
「……ここへ連れてこられる前に、多少なりとも事情は聞いている」
「っ!」
私がサプライズの定義について悩んでいたところ、何の脈絡もなくウルキオラが口を開きました。
それを聞いた桃が思わず身構えます。反射的に腰の斬魄刀へと手を掛けて、いつでも抜刀出来る準備を一瞬で整えています。
「そこの女死神から『お前に謝れ。そして雪辱を果たさせろ』と言われた……確かにお前から見れば俺は邪魔な存在、排除したい相手なのだろうな」
ですがウルキオラはそんなことは気にも留めていないようで。
桃を見下ろしたままお構いなしに一方的に喋り続けつつ、無抵抗を示したつもりなのか両手を軽く左右に広げました。
「今なら簡単だぞ? 黒崎一護に殺されかけたところを、この女死神に無理矢理生かされている状態だ。お前からすれば俺は無傷に見えるだろうが、見た目だけだ。戦闘となれば出来損ないの
「……なんですかそれ……」
「……? 聞こえなかったか? 今の俺ならば、お前でも容易に――」
「――! 馬鹿に! 馬鹿にしないで!!」
「っ!」
我慢の限界だとばかりに、桃が叫びました。
と同時に平手打ちです。
感情を抑えきれなかったようで、刀の柄から手を放したかと思えば一瞬にして、腰の入った見事なビンタを繰り出しました。
ウルキオラは避けられず――というか、避ける気もなかったのかしら? されるがままに打たれて、頬に真っ赤な手形を付けています。
肌が病的に白いから、赤い紅葉が良く映えるわね。
「私でも勝てるくらい弱っているから殺せですって!? ふざけないで!! それってつまり、あなたは怪我してるってことじゃない!! 怪我人を倒して勝ちを拾うような恥知らずな真似なんて、出来るわけ無いでしょう!?」
「……理解ができんな。敵が弱っているのならば、それは排除の好機だろう? 現にお前は俺を憎んでいるはずだ」
「ええ、そうよ! 織姫さんを連れて行って、黒崎さんを傷つけたあなたなんて嫌い! 大っ嫌い!! でもそれは藍染から命令された、あなたの仕事だったんでしょう!? それに文句をつけるほど私は弱くない!! 謝罪なんて受け取る筋合いがないの!!」
「それは……」
……あら?
織姫さんの誘拐は藍染の命令だったのは覚えてるんだけど、
「だから! 私はこれからもっと強くなる! 実力であなたを上回ってみせます!!」
記憶を思い出そうとしている間に、桃はウルキオラに指を突きつけると高らかに宣言しました。
凜々しいその表情は、私があげた隊首羽織と相まって本当に隊長のように見えます。
「……そうか。だが俺は次に、黒崎一護と決着を付けろと言われている。仮にお前がどれだけ強くなったところで、まずはそちらを優先させてもらうぞ」
「ええっ! 黒崎さんも!? ううーっ! で、でも黒崎さんだったら……」
それはつまり、まず桃の件が最優先だった。でも桃が断ったから終了したと判断した。だから次は一護の方が優先になった。今なら殺せるぞと言ったのも、あの時点ではまだ桃の件が最優先だったから……っていうこと?
ウルキオラの思考に戸惑っていると、桃は次に私の方を向きます。
「あの、先生。ありがとうございました。私に踏ん切りを付けさせるために、ウルキオラを連れてきてくれたんですよね……? 自分がまだまだ実力不足だったのは本当に悔しいですけれど、おかげでスッキリできて……なんていうか、新しく出発できるような気分です!」
「え、ええ……お役に立てたなら光栄だわ……」
ごめんなさい! そこまで考えてなかったの!!
ただ連れてきて落とし前の一つでも付けさせればなんとかなるかなぁって、その程度の認識だったの!!
「やっぱり、先生は凄いですね……本当に……」
やめて桃……その視線が痛い……!!
「話は終わったか?」
桃の話が一段落するのを待っていてくれたのか、見計らったようなタイミングでハリベルたちもこちらに集まってきました。
「あらハリベル、チルッチも。待たせてごめんね」
「いや、それは構わん。それより、ヤミーだが――」
遠くの戦いにチラリと視線を向けたかと思えば、ハリベルは私に向けて軽く頭を下げてくれました。
「――先に言っておこう。すまんが、私たちはあの戦いに介入することは出来ん」
「やっぱりそうなの? ウルキオラの様子から、無理そうとは思っていたけれど……」
「ああ、無駄だ。ヤミーの奴はウルキオラですら否定したのだぞ? 私はそれよりも前に、既に敗れたと知られている。今のアイツの耳に、私の言葉など届かないだろう」
「ううん、気にしないで。今みたいに不介入の立場を続けてくれているだけでも十分助かっているから」
最初にヤミーのことを気遣っている辺り、ハリベルは
そう思っていると今度はチルッチがおずおずと口を開きました。
「ねえ、
「どうしたの?」
「あのヤミーって奴、随分とでっかくなってるけれど……アンタまさか、アレも治すつもりなの……?」
「え?」
「だってアンタ、四番隊は傷ついた相手を治すのが仕事って言ってたじゃない。ということはさ、アレも……?」
ええ、言いましたね。言ったけれども……
「あれはちょっと……難しい、かな……」
「やっぱりそうなの?」
「仮に治療するとしたら、多分四番隊の隊士総出じゃないと手が足らないでしょうね。でもそれ以前に戦っている相手が、その、ね……」
更木副隊長が本当に楽しそうに斬り合いを愉しんでいます。
アレじゃあ多分だけど、無理……よねぇ……生きていればどうにか出来ると思うんだけれど……
『ヤミー殿も降参とかするタイプには見えませぬからなぁ……意地の張り合いが死ぬまで続きそうでござるよ……』
仮にあの場を治めるとするなら、圧倒的な力で全員纏めて屈服させるとかじゃないと無理よね。今の私じゃ絶対に無理。
苦々しい笑みを浮かべながら曖昧な返事をする様子で察したのでしょう。チルッチもまた苦笑いを浮かべながらも頷きます。
「そっか……まあ、昔もいたわよ。ああいう頭がカラッポの奴」
「そもそもヤミー相手に中途半端は悪手だ。気絶させるまでやらせて、それでも生きていれば治してやってほしい」
「ええ、そうね……なんとか頑張ってみるわ」
「ああ、頼む。それとは別に、だ」
そこまで言うとハリベルは、視線をウルキオラへと変えます。それは信じられないものを見るような眼差しでした。
チルッチも釣られたように視線を動かすと、瞳を細めて疑うような目をしています。
「先ほど天蓋の上から感じた霊圧……あの黒く巨大な霊圧はウルキオラ、まさかお前の仕業……か?」
「ああ、そうだ。とはいえ、黒崎一護に負けたがな」
「はぁ!? う、嘘でしょう!?」
「嘘ではない。
「待て!
「そういえばウルキオラ、だっけ? あんたの霊圧、二回変化したわよね!? てっきり
「ん……? ああ、なるほど。そうだな、藍染様にも教えていなかったのだ。お前たちでは知らなくて当然だ」
「それはまさか、お前の方が私よりも番号が上、ということか?」
「ちょっと! それ教えなさい!!」
あらら、一気に話が盛り上がったわ。
でもやっぱり
上手く習得できれば力関係が一気に変わるかもしれないんだもの。
『会得……するのでござりましょうか……?』
さあ? そんな先のことを言われても分かんないわ。
でもハリベルとかだったらあるいは……
『拙者としてはチルッチ殿に是非覚えて戴きたい!! 3桁になったからこその屈辱をバネにするとでも言いましょうか!! そうした這い上がりが燃えるのは世の常でござる!!』
ああ、そっちもいいわね。
そうそう、忘れるところだった。
アパッチたちだけど、私じゃなくてロリとメノリの所に行ってるわ。
ちょっと遠目だから何を言ってるかまでは聞き取れないんだけど、二人をからかってるみたい。
とにかくこれで、ようやく一息つけるわ。
ちょっとでも休んで、霊圧を回復させないと……
「…………」
……あら? 何だか視線を感じるような……
ええっ!! あ、あそこにいるのってまさか――!!