お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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普段の百倍くらい、頭の中をカラッポにしてからお読みください



第258話 運命の出会い ~Black meets White~

 遠目から私を見つめる視線に気付いて、なんとなくそちらを見返した瞬間。その瞬間に、私は全身に電撃が走ったような衝撃を受けました。

 

 あの姿……間違いない! 絶対に間違いないわ!!

 今を逃したら、もう二度と会えないかもしれない……ううん! こんなことが出来るのはきっと今だけ! 今を逃したら絶対に後悔する!!

 だから――だからごめんねハリベル! チルッチ! それに桃も!! 後で謝るから許して!

 

『あ、藍俚(あいり)殿……急に何を……?』

 

 逃がさない! 絶対に逃がさない!!

 その想いだけで、視線の方向目掛けて一気に駆け出しました。

 向かう先は、建物の残骸で出来上がったと思しき物陰。その物陰に隠れてこちらの様子を窺っている相手にこそ、用があります。

 

「……へ?」

「な、ななななんでヤンスか!?」

 

 全力の瞬歩(しゅんぽ)を使えば、その距離なんて無いに等しいものでした。

 一秒にも満たない僅かな時間で近寄った先にいたのは、二人の破面(アランカル)。一人は大柄で、もう一人は痩身。

 

「や、やっぱり……」

「や、やっぱり……?」

「やっぱり! やっぱりそうだったわ……!!」

 

 思わず飛びかかりたくなる気持ちをグッと抑えながら、胸元に手を当てて気持ちを落ち着かせます。

 二度、三度と深呼吸をしてから、私は改めて尋ねました。

 

「あ、あのッ! ペッシェ……ペッシェ・ガティーシェさんですよね……!?」

「む? いかにも私はペッシェだが……はて、君は一体……?」

 

 間違いじゃなかった!

 それを理解した瞬間、もう感情が抑えきれませんでした。

 私は失礼なのを承知でペッシェの手を取ると、両手でギュッと握り締めながら叫びます。

 

「はじめまして!! 私、四番隊隊長の湯川藍俚(あいり)って言います! 私、貴方のファンなんです!!」

 

 言った……言ってやりました……

 

 

 

 

 

 

「いやぁ、よいぞよいぞ! ついに、ついにこの私の時代がやってきたということだな!!」

 

 私の突然のファン宣言に最初こそ戸惑っていたペッシェ――あ、名前を呼び捨てで問題ないって許可を貰いました――でしたが、アッという間に受け入れてくれました。

 少し会話をしただけで信用してもらえて、もうすっかり友達です。

 

『あの~……藍俚(あいり)殿……??』

 

「いや、時代が私に追い付いたということか!? どちらにせよ今日はめでたい日だ!!」

「そうですね♪ 私も、今日は絶対記念日にします」

「ううう……なんでペッシェばっかり……ズルいでヤンスよ~……オイラは? 藍俚(あいり)はオイラのファンではないでヤンスか!?」

「フハハハハハ! 諦めろドンドチャッカよ!! 藍俚(あいり)は既に私のファンなのだ!! 彼女の両手は既に私の手を握って塞がっているのだよ!!」

 

 さっきからずっと、私はペッシェの手を握ったままです。

 なので文字通り手が塞がっています。

 だからごめんねドンドチャッカ、その気持ちには応えられないの……

 

藍俚(あいり)殿?』

 

「そういえば藍俚(あいり)は四番隊と言っていたな?」

「はい、そうですよ」

「ということは以前出会った、雛森という死神の……」

「そうです! 桃は私の部下なんです!!」

 

藍俚(あいり)殿藍俚(あいり)殿!!』

 

 なに、どうしたの射干玉?

 

『ご説明を! いい加減ご説明をお願いいたします!! もう何が起こっているのやら、拙者にはさっぱりわかんないでござるよ!!』

 

 んもう……仕様が無いわねぇ……

 

 いい、この人はペッシェ・ガティーシェ。

 ネルちゃんと一緒に虚圏(ウェコムンド)で暮らしている破面(アランカル)の人よ。

 

『それは知ってるでござるよ……そうではなく、知りたいのは……』

 

 そして、そしてね!!

 この人こそ伝説の「触れたものをものすごいヌルヌルにする汁が出せる!!」と言った人でもあるのよ!!

 

『………………っっ!?!?』

 

 いい? ブリーチの中で一番の名言と言われれば何と答えるのが正解かしら?

 

 なん、だと……?

 チャドの霊圧が消えた?

 私が天に立つ?

 あまり強い言葉を使うなよ、弱く見えるぞ?

 憧れは理解から最も遠い感情だよ?

 百年後まで御機嫌よう?

 

 いいえ! 私の考えはそのどれも違う!!

 

 触れたものをものすごいヌルヌルにする汁が出せる!! これこそが最も素晴らしい言葉なのよ!!

 

『えーと……ひょっして今回は拙者がツッコミ役でござるか!?』

 

 それを口にしたどころか、実際にやってのけたのよ!!

 つまりはペッシェこそが至高なの! これは……これだけは異論は認めないわ!!

 

『そ、そうでござるか……』

 

 そうなの! 

 

『(ああ、だから藍俚(あいり)殿は以前にペッシェ殿だけフルネームで覚えていたのでござるか……)』

 

「なんと! そうであったか!! いやぁ、あのような可愛らしい死神の上司が、まさかこれほど色っぽく美人の死神であったとは……あの時、彼女を助けたのはもしや運命!? 運命が私たちを引き合わせたくれたのかもしれぬ!!」

「運命……確かに、運命かもしれませんね……」

 

 運命って、良い響きの言葉ですね……

 何というかこう、不可能も可能にして次に繋がりそうで……

 

 ……そうよ! 運命、これは運命じゃない!!

 

『ななななんぞ!? 急に一体どうしたでござるか!?』

 

「あの、あのねペッシェ……その……実は……」

「ん、どうした藍俚(あいり)よ? 怖がらずに言ってごらん?」

 

 ペッシェが私の頬を優しく撫でてくれました。

 

『無視でござるか藍俚(あいり)殿……』

 

 ああ……もう駄目……言いましょう……もう、この抑えきれない気持ちを口に出してしまいましょう……!!

 

「一生のお願い!! お願いだから私に無限の滑走(インフィナイト・スリック)をかけて欲しいの!!」

「!?」

 

藍俚(あいり)殿ぉぉぉっ!?!?』

 

 私、何か変なことを言ったのかしら……?

 勇気を出して想いを口にした途端、ペッシェの動きが固まりました。

 

「あ、藍俚(あいり)……? 今、なんて……」

「だからその、貴方の無限の滑走(インフィナイト・スリック)が欲しいの!!」

 

 固まったポーズのままそーっと私から距離を取ったかと思えば、隣にいたドンドチャッカに話しかけています。

 

「なあ、ドンドチャッカよ? ひょっとして私の耳がおかしくなったのか? 彼女は今……その……」

「オイラも聞こえたでヤンスよ。ペッシェの無限の滑走(インフィナイト・スリック)を掛けて欲しいと言ってたでヤンス」

「おかしくないか!? 絶対におかしくないのか!? こう言ってはなんだがな、私のあの技はこう……その、何というかだな! うまく口で説明するのは難しいのだが……」

「大丈夫でヤンスよ! オイラも分かるでヤンス!! 言いたいことは全部伝わってるでヤンスから!!」

「おお、有り難いぞ! なのに自分から"かけてくれ"と言い出すのは……」

「そうでヤンスな……」

 

 当人たちはひそひそ話のつもりでしょうが、全部丸聞こえです。

 

 私、そんなに変なことを言ったのかしら……?

 

「あの~……」

「はうぁっ!! や、やややややあ藍俚(あいり)! どうしたんだい?」

「お話、終わりました?」

「それは……そ、そうだ藍俚(あいり)!! いったいどうしてその、私の無限の滑走(インフィナイト・スリック)を掛けて欲しいのだ!? よければ聞かせてくれたまえ!」

 

『拙者にも! 拙者にも理由を教えてくだされ!!』

 

「理由、ですか……特に理由はないんです。ただペッシェの名前を聞いて、存在を知ったときに、ふと憧れたんです。その憧れはいつしか、体験したいという想いに変わった……ただそれだけのことなんです」

「むむむ……いや待て冷静になれ私、確かに私ならば虚圏(ウェコムンド)に名前が轟いていたとしても不思議ではないかもしれないが、だからといって死神たちにまで名前が届くのであろうか……?」

 

 繰り返しになるんだけど、どうしてそんなに悩んでいるのかしら?

 ……そっか! きっと想いが少なかったのね!! だったら、もっと熱い気持ちを伝えればいいんだわ!!

 さっきちょっと、物理的に距離を取られたからもう一度。そっと近寄り、ペッシェの手をぎゅっと握り締めます。

 

「恐れないで! 怖がらないで!」

「へ?」

「ここで私たちが出会ったのは、運命!」

「……」

「運命の初めまして!!」

「お、おう……」

 

『なるほど……』

 

 ちょっと! なんでドン引きしてるのよ!!

 それにね射干玉!! これはあなたにとっても悪い話じゃないのよ!?

 

『そ、それは一体どういうことでござるか!?』

 

 考えてもみなさい!

 今のあなたは、誰もが知ってる真っ黒でヌルヌルな存在!! 言うなれば界隈の頂点! 真っ黒ヌルヌル界のトップアイドルなのよ!!

 

『やっぱりでござるか? 薄々そうではないかと確信していたでござるが……』

 

 でもそれは、あくまで真っ黒ヌルヌル界隈だけの存在なのよ!!

 けれど、けれどよ?

 もしもそこに、真っ白でヌルヌルが加わったら……果たしてどうなると思う?

 

『……ッ!! そ、それは……』

 

 ええ、そうよ!! 黒と白が一つになったら、もう怖いものなんて何にもない!! 完全無欠よ!!

 求肥(ぎゅうひ)餡子(あんこ)が合体したら、大福になる!! 黒を白で包めば黒星も白星に変わる!!

 クロとシロがいれば使い魔(ファミリア)にだってなれる!!

 

『つまりは……プリキュア!? 黒と白ということはもうこれは初代でござるな!! なんと……なんというご慧眼……拙者が、拙者が間違っていたでござるよ!!』

 

 それにね! それにね!!

 もの凄いヌルヌルにする汁って言われたら、一度くらいは体験してみたいでしょう!?

 

『それでしたらチルッチ殿と出会った時点で頼み込んで残り汁を……』

 

 あの時点のチルッチにそんなこと言えるわけ無いでしょう!?

 何より、出してから時間が経つと乾いちゃうでしょ! 一番搾りでないと意味が無いのよ!!

 

『そのためのペッシェ殿にお願いを……?』

 

 そういうこと!!

 

 

 

「む……むむむ……よ、よーしわかった!! 私も男だ! やってやろうじゃないの!!」

 

 何やら難しい顔をしたまま悩み続けていたペッシェでしたが、やがて覚悟を決めてくれました。

 拳を力一杯握り締めながら、私のことを見つめてくれます。

 

 これには私も、全力で応えなければなりません。

 

 かけやすいように膝を突いてしゃがんで、こぼさないように両手でお椀を作って、それから顎を上げて舌を出しながら……

 

ふぁい(はい)ひつれもろうぞ(いつでもどうぞ)

「…………ままままま待て! これはその、良いのか!? 絵的に問題ないのか!? 本当に大丈夫なのか!?」

 

 ……?

 ペッシェは一体何を心配しているんでしょうか?

 ただ私に、ものすごいヌルヌルにする汁をぶっかけるだけなのに……

 私は私で気を遣って、ぶっかけられても問題ないような姿勢で待ってるだけなのに……

 

『……ペッシェ殿も言っておりますが、絵的には多分完全にアウトでござるよ?』

 

「あーん……」

「ええい! ままよ!!」

 

 長い長い時間を経ましたが、ようやくペッシェは無限の滑走(インフィナイト・スリック)を出してくれました。

 仮面の先端の穴から、真っ白な液体が勢いよく噴出されます。

 

「ん……っ……」

 

 その白い液体は私の眉間の辺りに降り注ぐと、顔全体をねっとりと汚していきました。

 言葉通りに液体はヌルヌルとしていますが、けれども不思議な粘性を兼ね備えていました。私の顔にべっとりとへばり付いたかと思えば、自重に従ってとろりと流れ落ちていく白い液体たち。

 それらはとても重く感じられました。

 

「ちゅ……っ……る……っ……ごくっ……」

 

 大量の粘液は顔だけでなく、頬から顎を伝わって手の中に滴り落ちていきました。

 手の中で感じるのは大量のヌルヌルとした液体たち。指の隙間から逃げだそうとする白い液体を逃すまいと、一気に口の中へと流し込み嚥下しました。

 

「ん……変な味、なのね……なんだか生臭いような……でも、そこまで嫌じゃない……」

 

 喉を通り過ぎて奥へと流れ込んでいく液体。

 身体の中からヌルヌルとした感覚が湧き上がってくるようで、私は不思議な火照りを感じていました。

 ここには鏡がないので確認できませんが、間違いなく私の頬は真っ赤に染まっていると思います。

 それともまさか、無限の滑走(インフィナイト・スリック)の液体にはそういう効果もあるんでしょうか?

 嫌悪感と好奇心、好きと嫌いを同時に味わっているような……思わず「もっとぉ……」と甘い声を上げてしまいそうで、我慢するのが大変でした。

 

「れろ……っ……ん、ぱ……っ……」

 

 だってまだ、液体の残滓が手の中に残っているんですから。

 

 へばり付いた粘液も逃さないように、指を一本一本奥まで丁寧に咥え、じっくりと舐め上げていきます。

 白い液体をこそぎ取るために、舌先で指を絡め取るのも忘れません。

 

「んん~……」

 

 やがて、十指全てを舐め取り終えると、よく味わうように口の中で軽く攪拌してから飲み込みました。

 

 

 

『……はっ! あ、藍俚(あいり)殿……!? 一体何を……』

 

 何を……って、せっかく分けて貰ったんだから隅々まで体験しないと損でしょう?

 目・鼻・口・舌・指・耳! 五感をフル活用して余すところなく感じ取るの!! おかげでなんだかこう、不思議な気分になってきたわ!!

 飛び越えてはいけないラインのギリギリを攻め込んだような、そんな気分!!

 

『五感……? なにやら一つ多かったような……』

 

 それよりも射干玉! そっちはどうなの!?

 

『へ……? おお、言われてみれば確かに……何と言いますか、こう……ジョグレス? メガ? しそうな感じでござるよ!!』

 

 ね、そうでしょう!

 

『今の拙者たちなら、気持ち的には世界すら支配できそうでござるよ!! 気持ち的には!!』

 

 そうね! 絶対にできるわよ!! 気持ち的には!!

 あと気持ちだけじゃなくて実際に霊圧も完全回復しているし!!

 

 行ける、行けるわよ!

 




「触れたものをものすごいヌルヌルにする汁が出せる!!」
は、ブリーチの"めいげんの中のめいげん"だと思っています。

あの1コマが無かったら、ここまで書けなかったです。
あの1コマに、どれだけ勇気づけられたことか。
むしろ前話までは、今回の前振りとすら言えるかもしれません。

……その結果がコレなんですけどね。

(なお、話的には全く進んでいないんですが、強化フラグなので問題ありません)
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