お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第270話 返信と周知は大事

 一護が目を覚ましたそうです。

 そして、霊力を失ったそうです。

 

 両方とも事後報告で知らされました。

 

 ……まあ、何が起きるかは浦原から事前に知らされていたから特に驚くこともないんだけどね。疎外感っていうか……

 

『お見舞いとか、行きたかったんでございますかな!? ですが相手は意識がありませんぞ!!』

 

 そうね。

 寝ている一護の前で「意識がないんだから、間違いを犯しても気づかれないわよね……」とか言い訳しながら、ベッドの中に潜り込んで、服の下に手を……

 

 ……って! そんなことするわけないでしょ!!

 

 そうじゃなくて!

 きっと一護が目覚めて「ほどなくして霊力を失う」と告げて驚くシーンとか、いざ霊力が消える日に「ははは……もうお前の声が聞こえねえや……姿も、霞んでみえてやがる……」みたいなお別れのシーンとか。

 そういうのがあったと思うの! 

 そういうのにちょっとくらい、漫画的に言うなら一コマくらいは絡んでもバチは当たらないんじゃないかなって思っただけなの!!

 

 一護が目覚めた日も、最後のお別れの日も、私は結局別件で忙しくて出られなかったし! なのにルキアさんやら桃やらイヅル君やら海燕さんやらの"先遣隊メンバー"は大体が参加していたから!

 だからズルいなって思っただけなの! 私だって、少しくらい顔を出しても良いかなって思ったの!

 

『なるほど確かに……なにしろ一護殿の"初めて(戦った隊長)"は藍俚(あいり)殿ですからな!! 初めての相手というのは男児にとって、それはそれは特別な……』

 

 そういう誤解を招くような表現はしないの!

 

『でしたら藍俚(あいり)殿も行けば良かったのでは? 部下の雛森殿や吉良殿には融通を利かせたのですから、ご自身も少し抜けて見送る程度であれば……』

 

 うん、そう言われればそうなんだけどね……

 でもその頃って、面倒に面倒が重なって一番面倒で忙しい時期だったの。だから尸魂界(ソウルソサエティ)からあんまり離れられなかったのよ。

 

 それと一護が目覚めるのを待っている間は、織姫さんから逐一電子書簡(メール)が送られて来たから近況は大体分かっているし。あんまり疎外感は無かったかな?

 何度も言うけれど「ちょっとくらい良いかな?」って思っただけだから。

 

「まあ、何はともあれ。たとえ霊力を失っても、生きていてくれたのが一番よね……そうは思わない?」

「……せやね」

 

 私の質問に、リサはお茶を飲む手を止めて頷きました。

 

「黒崎一護のことやろ? あたしらも(ホロウ)化で死にそうな目にあったから、気持ちは分かるわ」

「さすがはリサ、耳が早いわね」

「耳が早いもなにも"黒崎一護の霊力が消えた"いう話題を振ってきたん、師匠やん」

「そういえばそうだっけ。ごめんね、リサが訪ねて来たところで織姫さんから電子書簡(メール)が来たから、話の繋がりがこんがらがっちゃって」

 

 苦笑いをしながら、お詫びとばかりに彼女の湯飲みに追加の一杯を注ぎます。

 

「そんで、そのメールにはなんて書いてあったん?」

「え? そこまで大したことじゃないんだけどね……」

 

 伝令神機の画面に目を落としながら返事をします。

 

「"黒崎君が霊力を失って戸惑っている。何か力になる方法はないか?"――簡単に言うと、そんな内容ね」

「それで、なんて返すつもりなん?」

「まだ考えてないんだけど、それよりも――」

 

 改めて、目の前のリサに向き合います。

 

「今日はどうしたの? ただ、茶飲み話をしに来たってわけじゃないんでしょリサが来るなんて珍しいじゃない」

 

 とりあえず解決すべきは、目の前のリサの来訪理由についてです。

 私が四番隊にいたところ急に訪ねてきて、お茶を出したところで織姫さんから電子書簡(メール)が来たのでそのまま一護の話になってしまい、うっかり流してしまうところでした。

 特に約束とかしていた覚えもないですけど。

 

「もしかして、護廷十三隊に戻る気になったとか!?」

「いや、そんなんとはちゃうねん」

 

 ちょっとだけがっかりするような事を言いながら、彼女は包みの中から一冊の本を取り出しました。

 

「これ、師匠に頼まれとった現世の本。届けに来たで」

「……あ」

 

 そういえば、そうだったわ。

 リサは時間と都合が自由になっているから、頼んでいたんだっけ。

 

『やはり通販の際に「おるかー?」と事前確認は必須でございますな!! もしくはコンビニ受け取りを!! でないと家族に見られてしまいます!!』

 

「そのついでに、師匠んとこに遊びに来たんやけども。もしかしてあたし、お邪魔やった?」

「ううん、全然そんなことないわよ。久しぶりに、何かお喋りでもしましょうか」

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「先生! あの、織姫さんからの電子書簡(メール)についてなんですけど!!」

 

 リサと久しぶりに自由な時間を過ごした翌日。

 桃に、少し強めに問い詰められました。

 

 ……織姫さんからの電子書簡(メール)か……そういえば昨日、来てたわね。

 リサとお喋りしてて、返すの忘れちゃったわ。

 とはいえその件は浦原に依頼してあるから、気にしすぎることはないんだけど。

 

「織姫さん、黒崎さんのことで凄く悩んでいて! 黒崎さんの力になってあげられないかって悩んでいて、それで私心配になって!」

「うん……」

「連絡したら、今日は午前中までだから午後から尸魂界(こっち)に来ても良いかって聞かれて、それで!」

「落ち着いて」

 

 矢継ぎ早に聞かれる中に何やら聞き捨てならない内容があったため、いったん桃の言葉を遮って聞き返します。

 

「えっと、織姫さんが来るの? 尸魂界(こっち)に? 今日?」

「はい。それで、四番隊の穿界門(せんかいもん)を使う許可をいただきたくて……ダメですか?」

「それは問題ないわよ。ただ、ね……」

 

 はぁ、と思わずため息を吐き出してしまいました。

 

「ごめんね、心配させちゃって。今回のことは、私が悪いの」

「え……どういうことですか?」

「織姫さんの電子書簡(メール)、私のところにも来たわ――黒崎君が霊力を失って、今までの常識が全部ひっくり返って、元気がない。織姫さんが能力で元に戻そうにも効果が無くて、どうしたらいい――って内容のものがね」

 

 電子書簡(メール)の宛先には桃の伝令神機も含まれていたからね。

 内容に差異が無いことを確認したかのように首肯しつつ、視線で先を促してきます。

 

「それで肝心の……霊力を取り戻す方法についてなんだけど……実はもう、浦原さんに依頼済みなの」

「ええっ!!」

 

 そうよね……驚くわよね……

 私、全然周知してなかったからね……

 

『大喜びでマッサージをしていましたからなぁ……虚圏(ウェコムンド)やらなんやらで』

 

「でも、大丈夫なんですか……? その、具体的な方法とかは……」

「桃は詳しく知らないかもだけど、あの人こういう事は尸魂界(ソウルソサエティ)で一番頼りになるのよ。その浦原さんが"なんとかしてみせる"って言った以上、時間は掛かっても絶対になんとかしてくれるわ」

「じゃあ……」

 

 桃の表情がぱっと明るくなりました。

 

「なので……雛森三席! あなたにはこれより特別任務を言い渡します!」

「は、はいっ!」

「本日の業務は午前中までで切り上げて、午後からは織姫さんを出迎え、悩みを直接聞いた上で今の話をしてあげなさい!」

「わかりました!! 雛森桃、午後からの特別任務を拝命します!!」

 

 背筋をピンッと張った良い姿勢で、内容を復唱します。

 

「それと、炊事場は自由に使って構わないわ。一緒にお料理をしてもいいし、桃の手料理で出迎えてあげてもいいから」

「ありがとうございます! では、失礼します!」

 

 ニコニコ笑顔で去って行く桃を見送り、その姿が見えなくなったところで私はホッと息を吐き出しました。

 

 ……良かった。上からの命令というノリで、なんとか誤魔化せたわ……

 

『結局のところ、藍俚(あいり)殿が浦原殿に依頼したことを話していたり。最悪でも昨日のメールで今の内容を返信していれば、こんなことにはならなかったのですからな!!』

 

 ……でもでも! 一緒の時間を過ごすのも大事だから!! だから私は悪くない!!

 

 決して、昨日リサと一緒に遊んでいたことの後ろめたさがあるわけじゃないんだから!!

 

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