お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第272話 もっと復隊祝い

「どうも――ではないわ! 藍俚(あいり)、お主と言うヤツは……」

「え……? でも夜一さんも呼んだはずですよ?」

「なんじゃと!! 聞いとらんぞ!?」

 

 歓迎会の席に遅れてやってきた夜一さんですが、自分が呼ばれていないことに腹を立てているようです。

 なので「呼んだ」と教えてあげれば「そんな話は聞いていない」と驚いています。

 というか、お酒の席に加えて夜一さんも当事者なんですから、呼ぶに決まってるでしょうに……私、ハブるような女に思われていたのかしらね……?

 

 ……え? なんで夜一さんが呼ばれているのか……?

 

 前話で私、ちゃんと言いましたよ? 「尸魂界(ソウルソサエティ)に戻ります」と言った人たちだけだって。

 「死神になります」と言ったとか「仮面の軍勢(ヴァイザード)の人たち限定」なんて、一言も言ってないわよ?

 

『確かに……ですがその括り、リサ殿はちょっと厳しいと思いますが……』

 

 戻ってきているから良いじゃない。別荘みたいなものよ。

 それにリサだけハブるのも可愛そうでしょう? あと久南さんも、正式に死神に戻ったわけじゃないわね。

 あの子、勝手に居座っているだけだから。

 

『組織としてそれでいいのでございましょうか……』

 

 そんなことより今は夜一さんについてよ。

 

「聞いてない、ですか? 砕蜂経由で連絡はしましたが……」

「なっ! 藍俚(あいり)、お主は、またそういうことを……!!」

 

 がーっと文句を言いたそうに掴み掛かってきましたが、二の腕を掴んで動きを止めます。

 

「いいじゃないですか。もう一ヶ月以上も経っているんですし、そろそろ観念しましょうよ」

「ぐ……っ……」

 

 そこまで告げると夜一さんも観念したのか、お店のご主人に「儂にも酒と何か摘まめる物を頼むぞ!」と注文しつつ席に座りました。

 

『あの、藍俚(あいり)殿……夜一殿は一体どうしてこちらに?』

 

 射干玉は見てなかったっけ? 砕蜂が連れて帰ってきたのよ。

 

『……は?』

 

 藍染との戦いが終わった後でね、また砕蜂が捕まえていたの。

 ほら、一護たちが現世に戻る時のドサクサで夜一さんも現世に逃げちゃったでしょ? あのときは"藍染と破面(アランカル)の対応"って大義名分が一応あったから、砕蜂も中々動けなかったんだけど……

 でも今はその辺の問題も解決してるからね。

 尸魂界(こっち)に帰ってくるなり砕蜂が「今度こそ逃がさない。同じ轍は踏まない」って言いながら、外堀を次々に埋めていたわよ。

 

『外堀……!? ま、まさかケッコン――』

 

 死神としてしっかり籍を戻していたし、四楓院家に根回しに行ったり。

 ほら、百年前の(ホロウ)化事件では夜一さんも関与を疑われていたけれど、首謀者が捕縛されてその辺の問題も全部藍染に押しつけたからね。

 今の夜一さんは公的にも完全に自由の身なの。

 

『ああ、外堀ってそういうことでございますか』

 

 ただ、四楓院家はもう弟の夕四郎君が当主になっちゃったし。そこに夜一さんが戻っても今更だから……

 その辺の部分、砕蜂と四楓院家とで上手く収めたみたいね。

 

『四角い部分をまぁ~るく収めたわけでございますか……』

 

 仁鶴師匠!?

 と、とにかく――!!

 

「副隊長として頑張って砕蜂を支えてあげてください」

「……いやじゃ、働きたくない……」

「いや……もう観念しいや……」

「ちょっ! それボクの!!」

 

 中々最低の事を口にしながらも、夜一さんは鳳橋さんの杯をひったくりました。

 

「そうですよ。もう正式に副隊長にされてますし、認可までされています。四楓院家の許可も取ったと聞きましたから……嫌なら砕蜂に実力で訴えてください」

「それが出来れば苦労はせんのじゃ!!」

 

 きゅっと一口で飲み干すと、酒精の匂いを仄に放ちつつ文句を口にします。

 

「大体藍俚(あいり)! お主、喜助のヤツに密告(チク)ったじゃろう!? あれが原因で儂がどれだけからかわれたことか!!」

「でも、遅れを取ったのは事実でしょう?」

「……ぐっ!」

「しかも二回も」

「ぐおおっ! じゃ、じゃが次こそ……」

「二度あることは三度あるって言いますよ?」

「ぬおおおっっ!!」

 

 あ、ダウンしました。

 

「それとさっきも言いましたけど、この歓迎会については砕蜂に伝えるように頼んでおいたんです。砕蜂のことだからきっと"今日の分のノルマが終わった"ら教えてくれたと思うんですよ。でもそれを聞いていないということは――」

「……っ……っっ……!!」

「師匠の追い打ち……効果抜群やん……」

 

 突っ伏したまま、呼吸困難になったみたいに痙攣しています。

 

「あの、夜一サン……お疲れのところ悪いんだけど、四楓院家の雅楽隊ってまだ残っているかな? キャンディスのメンテナンスを頼みたいんだけど……」

「今の傷心したばかりの儂によくそんなことが言えるの!」

「ローズはそればっかりかい!」

 

 あ、起き上がった。

 ブレないわねぇ……バイオリンのことばっかりで……

 

「お疲れのところ申し訳ありませんが、いい加減諦めてください。じゃないと――」

「じゃないと……なんじゃ!?」

「瀞霊廷通信に夜一さんの特集を依頼します。昔のこととか普段の仕事ぶりとかをしっかりとアピールしてもらいますよ?」

「へえ……面白そうじゃねえか」

 

 六車隊長の目がちょっとだけ光りました。

 口ではなんだかんだ文句を言っておきながらも、ジャーナリストの魂が少しはあるんでしょうか?

 

「タイトルはそうだな――逃走幇助の罪に問われていた二番隊元隊長、その真実と高潔なる魂について――とかどうだ?」

「えー、ダサーい!! 拳西ってばセンスないよ!」

「んだと(ましろ)! じゃあテメエはどうなんだよ!!」

「あたしは特集しないから良いの!」

「「…………」」

 

 ぎゃーぎゃーと文句を言い合う二人を背景に、私と夜一さんは視線を合わせます。

 

「……これで何をするつもりじゃ?」

「……特集して美談にして貰えば、色んな人から神格化された目で見られる。そういう良いイメージを周りが抱いてくれれば、夜一さんもそれを壊すまいと少しは真面目になってくれる……と思ったんですが……」

「ふふん! この四楓院夜一、その程度で己の立ち振る舞いを変えるような容易い女ではないわ!!」

「他人の目を気にせぇへん鈍感女やんけ……」

 

 胸を張っていますが……その虚勢、いつまで続きますかね?

 

「特集されたら、四楓院家にも記事が届いて影響が出ますよ?」

「それがどうした!?」

「知り合いの期待を裏切るのって、結構心に来ますよ? ねえ探蜂(タンフォン)さん?」

「はは……湯川殿には適いませんな……」

「な……っ!? なああぁっ!?」

 

 懐かしい名前を耳にして驚いたのか、夜一さんが大慌てで振り返ります。その視線の先にいる人物――屋台の主人――を目にして、さらに驚きの声を上げました。

 

 それにしても……なんだかこの名前、久しぶりに呼んだ気がするわ!!

 

『名前だけは時々微妙に出たりしていましたがな!! このように直接会話をしたのは、なんとビックリ108話以来でござるよ!!』

 

 原作が始まっちゃうと、出番なんてないからね……

 

「お、お主……探蜂、なのか……?」

「ええ、お久しぶりです夜一様」

 

 おそらくですが、夜一さんの記憶にある探蜂さんの姿は刑軍の指南役として働いていた頃――まだ老いず、若々しい姿のはずです。

 ですが今の探蜂さんは初老のくらい。髪に白いものが混じっていて、落ち着きと風格や貫禄といったものが出ています。

 そりゃ、気づきませんよね。

 けど、ここに来て注文したときに顔を合わせているはずなんですけどね……

 

『砕蜂殿は割とすぐに気づいてくれたというのに……』

 

「か、変わったのぉ……」

「夜一様はお変わりないようで。あの頃のままですね……色々と(・・・)

「……ぐっ!」

 

 色々と。

 このたった一言の中に「精神的な成長していませんね」という意味が込められているのを感じてか、今日一番の呻き声が上がりました。

 

「は、謀りおったな藍俚(あいり)……」

「以前、黒崎君たちと一緒に尸魂界(こっち)に来た時に、こちらへは顔を出していないとお聞きしたので。それにもう現世に逃げることもないでしょうから、ちょうど良いでしょう?」

 

 そこまで告げて私も杯――あ、中身は番茶です。お酒が駄目なので――を軽く呷ります。

 

「どうしたんですか? 他人の目を気にしないとか言っていたじゃないですか」

「そ、それはじゃな――」

「夜一様! こんなところにいたんですか!?」

 

 俯き加減でモゴモゴと言い訳をしようとしたところに、今度は砕蜂の声が聞こえてきました。様子を見るにどうやら、逃げ出した夜一さんを追って来たようですね。

 

「駄目じゃないですか! 今日だけはちゃんと仕事は全部片付けてくださいってお願いしたでしょう!? 終わったら良いところへ連れて……いき……藍俚(あいり)様!? それに兄様まで!?」

「お疲れ様、砕蜂。ほらここ、座って」

「あ、はい……ありがとうございます……」

 

 私が席を立つと、砕蜂は素直に座りました

 どうやらここが目的の場所だと気づいていなかったようで、私や探蜂さんがいるのを見て驚いています。

 

『砕蜂殿……夜一殿の匂いを追ってここまで来たんでしょうか……?』

 

 さあ? それは分からないけれど……

 でも丁度良いわね。最初から、こうするつもりだったし。

 

「それじゃあ探蜂さん、久しぶりの夜一さんと話したいこともあるでしょうからごゆっくり。後は私が引き継ぎますね」

「お気を使わせてしまい、何から何まで申し訳ありません」

「な、なんじゃと……!?」

 

 聞いてないとばかりに夜一さんが目を丸くしていますが、言ってませんからね。

 知っているのは砕蜂だけです。

 

 このお店を選んだのは"気を遣わなくて良い"以外にも"夜一さんと会わせてあげたい"という狙いがあったんですよ。

 そこでこのように、歓迎会のお店でサプライズで再会させてあげようと企画しました。

 積もる話もあるでしょうし、昔話に集中したいでしょうと思って。

 

「良いですか夜一様。ご自身のお立場という物をよくお考えください。あのとき、自分たちは夜一様のご温情で――」

「うう……」

 

 さっそくお話が始まったみたいね、楽しそうだわ♪

 

 なのでここからは探蜂さんの代わりに私が料理を引き継ぎます! ちょっと味が変わって店主の味じゃなくなっちゃうかもしれませんが……まあ、なんとかなるでしょう。

 えっと……何があるのかな……あ、レンコンがある……

 

「ねえあいりん、ここのお店とどういう関係なの?」

「ああ、俺も気になった。なんで店主が夜一と知り合いなんだ?」

「せやな。俺も気になっとるわ」

「ひょっとしてここ、師匠が経営しとるお店なん? ……あ、もう一杯貰える?」

 

 これまで遠慮して声を掛けなかったのか。

 夜一さんたちが話し始めた途端、私の方で質問責めが始まりました。

 

「ここのご主人は夜一さんが隊長だった頃の隊士で、色々と目を掛けてもらっていたんですよ。ところが夜一さんが急に消えちゃって、それから大変だったんですけど――まあ、詳しい話はまたの機会ということで」

「なんやそれ!?」

 

 説明しながらリサにもう一杯おかわりを渡します。

 

「隊士だったってことは、昔の知り合いってわけか? それで、戻ってきたから気を遣って会えるように仕向けた……」

「あっ! まさか昔の恋人同士だったとか!? それが百年の時を経て運命の再会!? うわぁ……ロマンチック……それだったらあたしが特集したい!!」

「そういうのともまた違うんだけどね。けど、昔の知り合いっていうのは確かよ」

 

 キンピラをお出ししながら、久南さんの言葉は否定します。

 それにしても探蜂さんと夜一さんかぁ……

 

 アリね!

 

『アリでござるな!! 年上(見た目は)にリードされて焦る夜一殿!! ワガママを言っても包容力で包んでくれて、でもちゃんと叱ってくれる!! 今からでも焚き付けられねえでござるか……!?』

 

「昔の知り合い、か……七緒のところにでも顔を出しとこうか……」

 

 空を見上げながら呟くリサの姿が、印象的でした。

 

 

 

 ……そういえば。

 夜一さんはこの場所のことを知らなかったはずなのに、どうやって来たのかしら……?

 まさかお酒の匂いを辿って……!?

 




●夜一さん
もう尸魂界(こっち)側にガッツリ取り込んでも良いかなと思いました。

●探蜂さん
超が付くくらい久しぶりの登場。
このために、屋台みたいなお店と前話で書いていたりします。

ノスタルジーな感じで昔話をされて、色々と思うところがあって、夜一さんも最終的にもう少しは真面目になってくれると思うの。
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