総隊長からの「もう少しすると
隊士たちは、千年前の情報を調べたり、攻めてくるであろう
ですが個人のそれとは別に、各隊ごとでも情報の共有なら対策を立てています。大規模な戦闘が予想されるので、各部隊同士の連携なんかも意識されていますね。
そして我が四番隊の場合は、救護と後方支援に重点を置いた訓練をしています。
怪我人の搬送や救護手順などに加えて、前線での治療方法などの講習をしたり。収容後のケアや気遣いなどについてももう一度見直しています。
実際、通常時と戦時下とでは状況が異なるからね。気をつけなきゃいけない部分も色々と変わってくるから……
二百年前の
「……あ、白菜。これも買っておきましょう」
『色艶が良い感じでござるな!!』
「あとこれも、四番隊まで届けてください」
「はい、毎度!!」
あとは……卯ノ花隊長に当時のことを聞いてみたいんだけど……
なんだか、とんでもない返事が返ってきそうなのよね……笑顔で「あのときですか? 全員斬り捨てましたよ」とか平気で言いそうで……
「えっと、後は……」
「あれ、先生? どうしたんスか、こんなところで」
色々と頭を悩ませていると、阿散井君に声を掛けられました。
予期せぬ出会いに思わず足を止めようとしたところ、ここが大通りであることを思い出したので通行の邪魔にならない場所まで二人で移動してから、改めて話をします。
「こんなところって、買い物よ買い物。良い物が無いか探してたの」
「野菜を……ですか?」
「ええ。あ、当然だけど野菜だけじゃないわよ」
不思議そうに首を傾げる阿散井君へ、私は胸を張って答えました。
「ほら、総隊長から
「ああ! そういうことっスか!!」
疑問が解消した、とばかりにパッと顔を輝かせました。
お忘れかもしれませんが、私の作る料理――延いては四番隊全体もそうですが――は、食べると霊圧が補充されて強くなります。
大昔、曳舟隊長から教わった技術の応用ですね。
……そういえば曳舟隊長、どうしてるのかしら……? 零番隊に行ってからは会う機会も無かったし……
んー、でも零番隊が動かないってことは危機が迫ってないってことだし……
『(多分、二年くらいすると会えるでござるよ。ネタバレになるので言えねえでござりますが!!)』
――
普段は病人や怪我人の回復を主な目的としていたこの料理ですが、今回は大盤振る舞いです! なんと各隊の隊士に振る舞います!! 出来れば週に一回、全員に食べさせたい!!
少しでも強くなって欲しいからね!! だから、これも立派な
食べれば強くなるんだから。
それに、どうせ食べるなら美味しい物の方が良いからね。今もこうやって市場を歩いて食材を探していたところなの。
そうしたら阿散井君とバッタリ出会って、今に至るってわけ。
『隊長自ら食材探しというのは……凝り性と言いますか……』
いいでしょ別に!! ちゃんと自分の目で確かめたいの!! どうせなら美味しい物を食べて貰いたいでしょ?
「ところで、阿散井君はどうして
「いやその……えー……なんつったらいいんスかね……」
何気なく尋ねれば、照れくさそうに頬を掻き始めました。
そんなに言いにくいことなのかしら……?
「その、ルキアのヤツにっスね……プレゼント、とかを……」
「え、ルキアさんにプレゼント……? それがなんで恥ずかしいの?」
阿散井君とルキアさんはもう恋人同士みたいなものだし。
誰に憚ることもないんじゃ……?
「いやその! ほら、なんて言うんスかね!! 俺、先生と一緒にアイツを現世から連れ戻した時に、その……そういう関係になったじゃないですか! けどその後は、藍染の事とか
……ああ、そういうこと?
恋人同士になったはいいけど、イチャイチャするタイミングが掴めなくて。そのまま三ヶ月くらい経っちゃったから――
『――これはマズイと考えて、今からでも一発逆転を狙えるプレゼント攻撃! 初々しい雰囲気を取り戻すための魔法のアイテムを探して色々と街を練り歩いていたら、いつの間にやら通りを離れ……そして気づけば
阿散井君も大変ね。
というか、個人的には影で隠れてコッソリとイチャイチャしてるんだと思ってたわ。現世に行ったときなんて、上の目も届き難いのを良いことに"そういうこと"の一つや二つくらいは……ねぇ……?
二人とも真面目なのねぇ……
「なんで、ここで会ったのも何かの縁! 先生、俺と一緒にルキアへのプレゼント探し、付き合って貰えませんか!?」
「ええっ!?」
な、なんで私が……!?
剣術修行していたら指を切り落としちゃったんで、繋げてください――とかなら「任せて!」って二つ返事なんだけど……
どう考えても人選ミスでしょ!?
「ほら先生、この間も狛村隊長と
「それは誤解だから! 違うから!!」
「――噂が……え、違うんスか……???」
……まだそのネタ引っ張られるのね……
おかしいわね……ちゃんと瀞霊廷通信は止めたはずなんだけど……
『人の口に戸は立てられないでござるよ。いっそ発行させて記事にした上で、そういう関係では無いと公表した方が楽だったのかもしれんでござるよ』
けどそれはそれで、碌でもない噂になってた気がするのよね……
まあ、そのことは今は良いわ。
「うん、違うの。だから、私はあんまり力になれないと思うわ。期待を裏切るようで残念だけどね」
「いえそんな! 俺が勝手に期待してただけなんで……」
「ただ、あくまで私個人の意見として言わせて貰うのなら」
とはいえガッカリさせてしまったようなので、年長者らしくアドバイスの一つでもしてあげましょう。
『役に立つかどうかは、完全に未知数でございますがな!!』
「同じような不安はきっとルキアさんも抱いていると思うの。だからちゃんと話し合って、心のズレを認識しあって、もう一度ちゃんと今日から始めようって言ってあげれば良いんじゃないかしら?」
「仕切り直しってことっスよね……?」
「そういうこと。あとは、不安にさせちゃったお詫びとしてルキアさんのワガママを二つ三つ聞いてあげるのも忘れちゃ駄目よ?」
「うっ! ……やっぱ、それも必要になりますよね……はぁ……」
うん、これでなんとかなった……かな?
『うーん……駄目になりそうでござるな』
え? そのくらいで喧嘩別れするようなヤワな関係性じゃないでしょう?
『(いえ、拙者が言いたいのは……二人のお子様の名前……もどかしい!! ネタバレになるので言えないでござるよ!! でも言えないので)そうでございますな』
……あ、そうだ! 期待を裏切るで思い出したわ!!
「そういえば阿散井君、隊長候補の件は残念だったわね」
「え……? ああ、あの事っスか?」
藍染たちが裏切った事で、隊長の席が一時的に三つも空きました。
なので「卍解が使えるヤツを入れて埋めておけ」という意見もでていました。
阿散井君も卍解を使えたこともあって候補の一人でした。しかも「現世駐在任務の結果如何では隊長に格上げを!」なんて話も出ていたくらいです。
……結局、平子隊長たちが来たので話は流れてしまったんですけどね。
本人の経験不足だとか、過去の過ちを認めて隊長に戻すことで
「ま、ちっと残念ですけど。けど俺、卍解をちゃんと会得していないことが分かったんで。結局隊長にゃなれませんよ」
「……え? 阿散井君、卍解を覚えていたでしょう……?」
何を言ってるのかしら……?
「ええっ!! 忘れたんですか!? 斬魄刀が実体化したときに! 蛇尾丸たちが俺を完全に認めていないって見抜いたのは先生じゃないっスか!! ひでぇなぁ……」
「……あっ! ああっ!!」
忘れていました。
そうでした、結局半分しか認めていないって言ってたわね。
『ああ、それは仕方有りませんな! 拙者も忘れておりました!! (本来は和尚殿に教えて貰えることでございますからな……)』
ね? 仕方ないわよね?
「ごめんなさい、すっかり忘れていたわ」
「ああ、頭を上げてくださいよ! 何より先生が教えてくれなきゃ、俺一人じゃずっと気付けなかったと思うんで! だから俺、今度こそ彼奴らを完全に屈服させるために――!!」
卍解の完全取得に熱意を燃やす阿散井君を見ながら、私はあることに気づきました。
「……ひょっとしてルキアさんを放置していたのは、卍解の再修行も原因だったりする?」
「…………」
「はい、目を逸らさないの」
頭を掴んで強引に目を合わせれば、今度は泳ぎ始めました。
「予定変更よ!」
「へ?」
「ルキアさんには、お詫びの品を持って謝ること! 私も一緒に探してあげるから、ついていらっしゃい!!」
「おわわわわっ!! ちょ、先生!?」
阿散井君の首根っこを掴んで引きずりながら市場へと戻り、お詫びの品を購入。結局、そのあとルキアさんに謝罪するところまで面倒見てあげました。
はぁ……我ながら余計なことしちゃったかしら……?
でもまあ、これでこの件は解決――
「その、恋次のことでご相談なのですが……」
――しませんでした。
阿散井君の世話を焼いてから三日後、ルキアさんが私のところまでやってきました。
ただその表情は怒っているというよりも、思い詰めている。男の身を案じる女のそれですね。黙って見守っててあげたいような、けれどもどこか声を掛けて頼られたくもある。
そんな切なげな感情が表情から読み取れます。
思わず「……この子、本当にルキアさんよね?」と疑ってしまうくらいに。
「……何があったの? まさか喧嘩でもしたの??」
「いえ! 先日の恋次の件につきましては、先生にご迷惑をお掛けしました……その、おかげで恋次との
「だったら、もう問題は無いんじゃないの?」
「それはその、そうなのですが!」
ガバッと勢いよく身を乗り出してきました。
言い忘れましたがここは四番隊の隊首室です。仕事中にアポ無しで来るの本当に止めて欲しいなぁ……
「恋次の卍解が半分しか認められていないという件がありますよね? 先生に相談したと聞きましたが」
「ええ、そういう話もしたわね。それがどうかしたの?」
「恋次は斬魄刀に認められて欲しいのです……ですが同時に、そこまで無理をしないで欲しいとも思ってしまって……彼奴が今の自分で満足していないことは分かっています。ですが私のワガママで恋次の成長を止めてしまっても良いのかと……」
……また重い相談が来たわね。
『いじらしい乙女心でござるな!! 彼氏に無茶をして欲しくないものの、同時に道を邪魔したくないという相反する二つの心で揺れ動いているでござるよ!! 色々と知ってしまった結果、新しい欲が沸いて出てきたでござるな!!』
今までは、なんだかちょっと疎遠になってたから自分の中の気持ちに気付くだけの余裕がなかったのね……
でも今回は相手が阿散井君でしょう? だったら取るべき道は決まってるわ!
「そうね、私の意見としては……応援して、ついでにワガママも言っちゃって良いと思うわ」
「そ、それはつまり……りょ、両方ということですか!?」
どちらかを選べ、と言われるのを予想していたのでしょう。私の言葉に驚いた顔をしています。
……そんなに驚く様なこと、言ったかしら?
「ルキアさんは阿散井君の恋人でしょう? 恋人の言うことは聞いてあげたいし、頼られたいって思うものよ。だから、どっちも力一杯やってあげなさい」
「そうでしょうか……?」
「ええ、勿論!!」
ハッキリ断言します。
『野郎は悲しい生き物でござるな……』
ねぇ……本当に……
「ですが、卍解の修行は結局のところ死神と斬魄刀との――むぐっ!?」
「ええ、それも分かってるわ。だから、それ以外の部分で力になってあげれば良いの」
人差し指でルキアさんの口元を塞ぎながら、力説を続けます。
「修行の合間に手作りのお弁当でも持って行って、そこで阿散井君に『自分に出来ることはこのくらいしかない。応援している。でも、少しだけ寂しい……』みたいに囁けば、後は向こうでくみ取ってくれるわ」
『ああ、確かに……ちょっと色っぽくかつ不安げに、しな垂れかかられながら言われたら大抵の野郎はグッと来そうでござるな!』
来年には結婚するくらいの勢いでやらせるわよ!!
『ケッコンでござるか!? (確か原作では、ユーハ陛下の撃退後……ちょい早い展開になるでござるな……ですがやはり名前は……変わりそうでござるよ……)』
「
「はいっ! なんだかやれそうな気がしてきました!!」
ここに来たときとは打って変わって、ルキアさんは輝く様な表情でガッツポーズを決めました。
……かと思えば、再び表情に不安の影が差し込みます。
「で、ですが! それでも無理をさせてしまったらどうしましょうか!?」
心配性ねぇ。
「大丈夫。それで倒れたら、
「先生が……ですか?」
その問いかけには、首を横に振ります。
「いいえ、ルキアさんがやるのよ?」
「なっ! わ、わわ私が!?」
「恋人同士なんだし、
「ああああああの! そういうことでは……その……なぃ……」
「静かな病室で二人きり……それもルキアさんみたいに可愛い
「あうぅ……」
そうやって煽ってあげれば、顔を真っ赤にしながら俯いてしまいました。
……やりすぎたかしらね?
『藍染殿のせいでイチャイチャできなかったでござるから、このぐらいの後押しは許容範囲でござるよ!! 多分!! いっそ結婚式と出産を同年でやらせましょう! ヤケクソでござるよ!!』
一応朽木家の縁者なのに、それって大丈夫なのかしらね……?
まあ、とにかく。
これで今回の騒動は完全に解決――
「自分は、ルキアの義兄としてどうしてやればいいでしょうか……」
――しませんでした。
『テンドンは二回まででございますからなあ!!』
いらない! それいらないから!!
という私の心の声など届くことはありませんでした。
ルキアさんから相談を受けた五日後、朽木家に呼び出されて朽木隊長と緋真さんの相談を受ける羽目になりました。
「ルキアと恋次が仲睦まじくしているのは、自分としてもとても嬉しいのです! ですが、年長者として気の利いた助言の一つも出来ない我が身が恨めしい……」
「白哉様……大丈夫です。二人とも強い子ですよ」
悩む旦那の隣では、妻がそっと支えています。
……何コレ? 私が呼ばれる必要って無かったわよね……???
『頼られておりますなぁ……』
だけどこれって、身内の悩みでしょ!? 私が口を出すのは完全におかしいわよ!
このままだと「
『おっ! なにやら
「……ルキアさんたちの恋の進展が気になるのも分かりますが……朽木隊長の場合、千本桜との約束がありますよね?」
「うっ!」
痛いところを突かれた! とばかりに、呻き声が上がります。
数ヶ月前に起きた斬魄刀実体化事件。
この事件の最中、朽木隊長は自らの斬魄刀――千本桜から「子供の名前には桜の文字を入れてください!!」と頼まれていました。
私が"鴇"の字を推薦しちゃったからね……"桜"を使われなかったのが不満だったのよね……
とまあ、そういう一騒動がありまして。
その結果朽木隊長は、斬魄刀から常に無言の
「あまり待たせすぎると、また不満が爆発しかねませんよ?」
「……い、いやそのそれは……!! さ、授かり物ですので……」
なんとか弁明しようとする朽木隊長ですが、そこに緋真さんが割って入ってきました。
「白哉様……」
「ひ、緋真……」
名前を呼びながら旦那の手をそっと握り、潤んだ瞳を向けます。それだけで朽木隊長は、全てを察した様に凜々しい表情になりました。
……うわぁ、さすがは人妻……口以上に目が物を言ってるわ……
『こちとらいつでもバッチコイだから遠慮すんな!! 藍染の件も片付いた今がチャンスだろうが!! という意思表示でございますな!!』
しかも一瞬で二人の世界に入ってる!! よし、もう私は要らないわね!!
「では、私はこれで失礼します」
帰り際、
双王蛇尾丸フラグ
……と見せかけた、朽木家の二人目フラグ。
(きっとこの後で「二人目も取り上げてください」って依頼が……)