お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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※ 今回、同日2話更新(19時と19時半)しています。
  19時半以降に「最新話」から見に来てくださった方は、
  お手数ですが1話前にお戻り下さい。


第280話 マッサージをしよう - ロリ・アイヴァーン & メノリ・マリア -

「えーっと……理由を聞いてもいい?」

 

 虚圏(ウェコムンド)に到着して、ロリと顔を合わせるなり「私たちにマッサージをしろ」などと言われては、藍俚(あいり)でなくとも面を食らうだろう。

 ましてや「どうしてそういう結論に至ったのか」その課程を全く察することも出来ないのであれば、怪しむのは当然だ。

 

「それは……ハリベルから聞いたのよ……!」

「何を?」

「アンタ、お気に入りの相手にはマッサージをするんでしょ!?」

「え!?」

「だから、その……」

 

 何をどう聞いたら「お気に入りの相手にマッサージをする」という結論に至ったのか、じっくりと問いただしたいところではあるが。藍俚(あいり)がそれを聞くよりも早く、ロリとメノリは揃って頭を下げた。

 

「「ごめんなさい」」

「……?」

「その、アンタが前に言ってたでしょ……統率を手伝って欲しいって……」

「私たち、藍染様の側近だなんて言ってたけれど、本当はそんなこと全然なくて……」

「でもアンタは"期待している"って言ってくれた……それに"相談しろ"とも言ってくれた……だから……」

 

 そこまで告白されて、藍俚(あいり)もようやくこの件の背景が読めてきた。

 言うなれば、二人なりに筋を通したかったということだろう。

 期待していると告げられた際、即座に否定できなかったことへの後ろめたさの謝罪。

 それと、マッサージを受けることで贖罪の気持ちを表す――もしくは"お気に入りの相手には"という但し書きがあったことから、気に入られてなんとか許して貰おうというズルい事情も少しはあったのかもしれない。

 

 そしてもう一つ、藍俚(あいり)からでは絶対に読み取れないが。

 二人がそう口にしたのは、覚悟と決意の現れでもある。

 今まで藍染への忠誠心を誇っていたロリとメノリが、それを断ち切って藍俚(あいり)のことを受け入れたことを明確にする。禊ぎの儀式のような意味合いがあった。

 

 ――何はともあれ。

 

「そう……うん、良くちゃんと言ってくれたわね。そういう事情なら、問題なしよ」

「いい、の……?」

「ええ、勿論」

 

 頭を下げた姿勢のまま、二人は恐る恐る顔を上げて上目遣いに藍俚(あいり)の表情を読み取ろうとする。

 そこには穏やかな表情があって、ロリたちはホッと胸を撫で下ろす。

 

「けどそれとは別に――」

 

 一瞬で二人の背後まで移動すると、藍俚(あいり)はロリとメノリをそれぞれ小脇に抱えてみせる。

 

「え?」

「なに? なに!?」

「――マッサージ、受けたかったんでしょう? いいわ、二人とも"特別"にしてあげる」

「……ッ!」

「……ぁ……っ!」

 

 特別――その言葉に二人の胸が僅かに高鳴った。

 藍染の下にいた頃には感じることの無かった、特別な扱いという言葉の響きを耳にして、ロリは即座に叫んでいた。

 

「お、お願い!」

 

 実際は、藍俚(あいり)がこの機を逃すまいと半ば適当なことを口にしただけなのだが……知らない方が幸せなこともある。

 

 

 

 

 

 

 ロリとメノリを抱えて部屋まで移動する。

 既に何回も通った道だ。今の藍俚(あいり)なら目を瞑っても辿り着ける。

 迷うことなく入ったそこは、まるで高級なホテルの一室を思わせる広さの部屋だ。そこに最低限の物や家具・それにベッドが二台並んで置かれている。

 そこが、ロリとメノリへ虚夜宮(ラス・ノーチェス)内に与えられた空間だった。

 

 二人をベッドの上へそっと寝かせると、着ている物を脱ぐように催促する。

 その指示に――互いに肌を見せ合うのが恥ずかしいのだろう顔を真っ赤にするものの――二人は意外にも素直に従っていた。

 二人が準備を進めるその間、藍俚(あいり)は余っていた白いシーツを用いて即席の仕切り(カーテン)を作ると、二人の間を挟むような位置へ設置する。

 

「それ、何……?」

「これ? お互いに姿が見えると恥ずかしいと思って、即席だけど仕切りを作ったの。これなら恥ずかしくないでしょ?」

「あ……うん……」

「そう、だね……」

 

 簡易的な物だが、無いよりはマシといったところだろう。

 そもそも突然依頼したのは自分たちなのだ。文句を言う資格などないと考えて、二人は頷いた。

 

「さて、準備はいいかしら? 急なお願いだったから十分な準備は出来なかったけれど……でもその分だけ特別に、腕を振るわせて貰うわね」

 

 開始の宣言をしながら、藍俚(あいり)は仰向けに寝ているメノリの肩に手を置いた。

 

「それじゃ、まずはメノリから。申し訳ないけど、ロリはちょっと待ってて」

「う、うん……」

「わかったわ……」

 

 ハリベルなどと比較すれば、メノリの身体はまだ少女のように華奢だった。

 それでも似たような体格の相手と比較すれば多少はがっしりとしており、肩幅も広め。そこからバスト、ウェストへと曲線を描きながら流れていく。

 引き締まった腰回りに比べれば、胸元は肉付きも良かった。大きいとまでは言えないものの、それなりの膨らみが二つ備わっている。

 それらに目で確認しながら、藍俚(あいり)はメノリの腰回りから揉み始める。

 

「ん……く……っ……」

 

 腰から骨盤、太ももの付け根辺りへと指を伸ばしていくと、メノリは身体を微かに震わせ始めた。

 他人に触れられ、ほぐされていくという刺激に彼女の身体はまだ慣れていない。肉体の底からじわじわと湧き上がってくる感覚に戸惑いながら、鼻を鳴らす。

 

「痛かった? 力、入れすぎたかしら?」

「そ、うじゃなくて……なんか、声が……」

「それはね、誰だって声が出るの。普通のことだから」

「ふつ、う……? ……んんっ!」

 

 色っぽい声を上げながら「これが普通のことなの?」と心の中で訴える。

 藍俚(あいり)に太ももを、それも内側の辺りを丹念に揉まれていくと、臍の少し下の辺りにゾクッとした痺れが走る。

 

「ぜったい、これ……っ! 普通じゃ……!」

「普通のことだってば。ハリベルたちもそんな感じだったわよ」

 

 「絶対に嘘だ」と思いながら、メノリは背中を僅かに仰け反らせて快感を堪えていた。

 

 

 

「メ、メノリ……?」

 

 突然、甘く蕩けるような声が聞こえてきた。

 今まで耳にしたことのないような嬌声に驚き、ロリは仕切り布(カーテン)越しにメノリの様子を窺おうとする。

 とはいえ、薄くとも一枚の布に隔たれているのだ。

 当然様子が分かるわけもなく、見えるのはカーテンに浮かぶシルエットだけだった。

 まるで影絵のように映し出される二人の姿。

 

「あっ、ああっ……!」

 

 藍俚(あいり)の影が微かに動くたびに、メノリの影がビクンと跳ねて喘ぐ声が聞こえてくる。

 その声を聞けば聞くほど、ロリの心臓は興奮したように鼓動を早くする。

 

「んっ……! くうん……ぅっ……!!」

 

 ――い、一体何をしてんのよ……!?

 

 穴が開くほどカーテンを見つめても、その向こうが透けて見えるわけもない。

 興奮と好奇心に導かれるまま、ロリはベッドの上からそっと降りる。

 

 ――ちょ、ちょっとだけ……

 

 続いて二人に見つからない様にと身を低くして、カーテンの端からそっと覗き込む。

 そして向こう側の光景に息を呑んだ。

 

 一心にメノリの太ももを揉みほぐしているのだから、マッサージには間違いないだろう。だがそれを受けるメノリの表情は、普段見ているそれとは明らかに違った。

 やや柔らかめな印象を受ける瞳は目尻が垂れ下がり、唇を半開きにしながら僅かに涎を垂らしている。

 弓のように身体を仰け反らせながらも必死に声を我慢しているその表情は、同性のロリから見ても蠱惑的で艶やかに感じられる。

 

 ――う、羨ましい……!

 

 一体、どんな刺激を受ければそんな表情ができるのだろうか。

 声を聞いて妄想し、影を見ながら膨らんだ妄想。けれどもそれは、実際に目にした方がよっぽど衝撃的な光景だった。

 眺めているだけで喉の奥がカラカラに乾いて、ロリは生唾を飲み込みながら食い入るように見つめ続ける。

 

 身を低くした体勢のまま、無意識に腰を床に押しつけながら。

 

 

 

「あっ……ああっ……!」

 

 ふんわりと、やや小さめではあるものの形の良い胸を手のひらで優しく掴まれて、メノリは嬌声を上げる。

 藍俚(あいり)の手の中にすっぽりと収まってしまうそれに指が絡みつくと、ゆっくりと沈んでいく。

 張りのある肌はその指を健気に押し返そうとするものの、力が及ばなかった。

 下から上へ揉まれていけば、メノリの身体の奥底がじわじわと疼いていく。

 

「そこ……っ! 絶対、関係……な、い……っ……でしょ!?」

「関係? 勿論あるわよ。こうやって形と身体の中の流れを整えるの。そうすると、胸も大きくなるのよ?」

「それ、本当……にいいっ!!」

 

 円を描くようにして揉まれて身体の中の疼きがさらに強くなり、胸の先から快感が走る。

 おとがいを大きく逸らしながら、メノリは疑問の言葉を忘れたように甲高い声を上げていた。

 

 ――う、うそッ!? こんな大きな声が出ちゃうなんて……!! ロリに、ロリに聞かれちゃう……!!

 

 刺激に苛まされて霞んでいく思考の中、自分の上げた声に驚いてメノリは必死に口を噤んだ。さらにベッドのシーツを強く掴んで何とか堪える。

 けれども、そんな耐えようとする気持ちなどお構いなしに藍俚(あいり)は胸元のマッサージを続けていく。

 丁寧に、けれども遠慮無く指が這い回っていく感触に自然と声が漏れてしまう。

 

 ――うう……き、聞かれてない……よね……?

 

 なんとかカーテン越しにロリの様子を窺おうとするが、そんな余裕はなかった。

 藍俚(あいり)のマッサージは胸の先にまでおよび、その先端にある膨らんだ突起を指先で摘まむ。

 

「ひゃあああぁっっ!!」

 

 それまでとは比べものにならないほどの快感が押し寄せてきて、メノリは両脚をつま先までピンと思い切り伸ばしていた。

 全身をゾクゾクと痙攣させる刺激に視界もおぼつかなくなり、全身をベッドに預ける。

 

 ――あれ……? いま、一瞬……

 

 腰が蕩けるような痙攣の最中、カーテンの端に一瞬だけ人影が見えたような。誰かと目があったような気がした。

 けれどもすぐに頭の中に靄が掛かり、その気付きは思い出せなくなってしまった。

 

 

 

「さて、メノリはこんなものかしら? それじゃあ次は、と……」

 

 満足そうな表情で、荒い呼吸をするメノリを見下ろしながら、藍俚(あいり)は呟く。

 誰に向けたわけでもなかったその言葉が響いた瞬間、カーテンの陰から焦ったような気配と慌てて何かが移動したような小さな音が聞こえてくる。

 目を凝らせば小さな水溜まりも出来ていた。

 

 

 

「あ……はぁ……はぁ……」

 

 痙攣から数十秒ほど経っただろうか。

 言い表せない快感と疲労感、それと心地良い脱力感にメノリは襲われていた。

 もう何も考えたくない、このまま眠ってしまいたいという誘惑に必死で抗いながら口を開く。どうしても、これだけは確認しておきたかったのだ。

 

「ロ……ロリ……ィ……きこえ、てた……?」

「み、見てナイ! ミてないから!」

 

 問い掛けた瞬間、間髪入れずといったタイミングでロリの声が返ってくる。

 だがその声はどうしたことか、緊張しすぎた時の様に所々で裏返り奇妙なアクセントになっている。

 

「あたし全然、見テいナいし! 聞こえテもいナいから!!」

「そっかぁ……」

 

 こうしてカーテン越しに会話をしているのだ、聞こえない筈がない。

 そもそも最初の「聞こえていたか?」という問い掛けに対して「見ていない」という返答は不自然だろう。

 

 ――よかった、ロリには聞こえてなかったんだ…… 

 

 けれど夢見心地な今のメノリでは、それがおかしいと感じられなかった。

 ただ、安堵したように安らかな表情で瞳を閉じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ……ハァ……」

 

 自分のベッドの中に慌てて潜り込みながら、ロリは激しい呼吸を繰り返していた。

 先ほどのやりとりは、おかしなところはなかっただろうか? 気づかれていないだろうか? 気づかれたらメノリに嫌われてしまうのではないか?

 そんな思いが身体を緊張させ、けれどもそれが溜まらなく興奮してしまい、ロリは両脚の付け根の辺りへ手を伸ばす。

 

「ロリ、お待たせ」

「……ッ!!!!」

 

 下腹の辺りに指先が触れたところで、藍俚(あいり)が姿を現した。

 突然の登場にロリの心臓が跳ね上がり、思わずシーツを巻き付けながら身体を隠す。悪戯をした子供が、悪事の痕跡を隠すように。

 

「ごめんね、ちょっとメノリの汗とか拭いて後始末をしていたの」

「そ、そう……」

「床にも飛び散っちゃってたから時間が掛かっちゃって……」

「ゆ、床……!?」

 

 聞きたくなかった単語が飛び出して、額から一筋の汗が流れ出た。

 

「それじゃあ、ロリのマッサージを始めるわよ。ほら、そんなシーツなんて巻き付けてないで」

「……あっ……!」

 

 一瞬の早業で巻き付けたシーツを剥ぎ取られ、身体が露わになる。

 のぞき見で程よく興奮したロリの肉体は全身が薄らと桜色に染まり、ほんのりとした香りを放っている。

 見る者が見れば、彼女が何をしていたかは一目瞭然。

 けれども藍俚(あいり)は様子を変えることはない。

 気付いていないのか、それとも気付きながら見て見ぬふりをしているだけなのか判断が付かず、それがまたロリの心を緊張させる。

 

「じゃあまずは――」

「ひ……っ!!」

 

 ほんの少し、腿を撫でられただけでロリの腰が激しく浮かび上がった。

 期待と興奮と緊張に包まれ、焦らされ続けた肉体はそんな些細な刺激でも大きな波となってロリの身体を襲う。

 

「――あら? ずいぶんと敏感なのね。じゃあもう少し優しく……」

「あっ、ああああああっ!!」

 

 そんなロリを気遣い、藍俚(あいり)の手つきは更に優しいものとなった。肌にほんの少しだけ指先を押しつけ、揉みほぐしていく。

 そんな触れるか触れないか程度の刺激であっても、昂ぶったロリの身体は敏感に反応してしまう。

 

「これも駄目? でもこれ以上は無理だから、ちょっとだけ我慢してね」

「ひっ、あううっ……!!」

 

 ――なっ、何これ……なんでこんな、すごい……っ……!

 

 全身を撫でられるたびに、ロリの身体はゾクゾクと震えていた。

 ほっそりとした太ももをマッサージされると、足の中に電流を流されたような衝撃が走り、その衝撃は足の付け根――下腹の辺りを"きゅん"と疼かせる。

 腰から下に襲いかかる甘い痺れを、ロリはお尻に力を入れながら必死で耐える。

 メノリと同じように両脚をつま先までピンと仰け反らせながら、下半身をほぐされる快感を貪っていく。

 

「そろそろ(こっち)も、ね」

「~~っ!!」

 

 藍俚(あいり)はロリの胸へと手の平を押し当てる。

 平均よりも小さめ、僅かな膨らみしかないロリの胸は藍俚(あいり)の手にすっぽりと収まるどころか足りないくらいだ。

 自然と、手の平は胸の先端を強く擦り上げていた。

 ロリの口から声にならない嬌声が上がり、ゾクッとするような快感が胸の奥へ向けて走っていく。

 

「少しだけ我慢して」

「……っ! ……んんっ!!」

 

 押し当てた手が、ゆっくりと円を描きながら動く。

 そのたびに先端と手の平とが擦れあい、途切れ途切れの悲鳴が上がる。

 小さな山には指がしっかりと絡みついて、押し込んでくる指先に弾力を返していた。

 

「はい、最後はちょっと強めに行くわよ」

「んひぃぃぃぃぃっ!!」

 

 言葉通り、指に力が込められた。

 胸元を全体的に鷲掴みにされてマッサージされる衝撃に耐えきれず、断末魔にも似た悲鳴が上がる。

 

 ――メノリ、ズルい……っ……!! こ、こんなの……先に受けられたなんて……っ!!

 

 刺激に耐えきれずに口元が緩み、半開きになった唇から舌先が見え隠れしている。

 つり上がった瞳も垂れ下がり、温和な草食動物のようなだらしない表情を浮かべながら、ロリは何故かメノリに小さな嫉妬をしていた。

 

 

 

 

 

 

 ――ロ、ロリの嘘つき……ッ!!

 

 その声をカーテンの向こう側で耳にしながら、メノリもまたロリのことを小さく恨んでいた。

 強すぎる刺激と疲労に負けて一時的に意識を失ったものの、隣から響いてくる悲鳴に彼女は意識を目を覚ます。

 意識がはっきりとしてくるに従ってロリの声が耳に届いているのだと気付き、そこから「何も見ていない、聞いていない」という言葉も嘘だと気付かされる。

 

 ――き、聞かれてたんだ……それにあれ! あのときロリと目が合ったのも、気のせいなんかじゃなかった……!! ロ、ロリのバカぁ……!!

 

 冷静になった頭で思い返せば記憶がはっきりと甦り、メノリは再び顔を赤く染める。

 そして、ロリがしていたことをやり返すように、メノリもまたカーテンの隙間から隣を覗き込む。

 そこに映っていたのは、普段の強気な表情からは想像もつかないほど緩み、今にも蕩けてしまいそうなロリの表情だった。

 

「あ、あたしもきっと……あんな顔してたんだ……」

 

 自分の身体を自分でギュッと抱きしめながら、メノリは覗きを続ける。

 

 

 

「そういえば、背中側がまだだったわね」

 

 胸周りのマッサージを終えたところで、藍俚(あいり)がそんなことを呟いた。

 

「せ……なか……ぁ……?」

「そう。ちょっと前、あなたたちのお尻を叩いたでしょう? だから、一応――」

「――……あ……!」

 

 マッサージの快楽に負け、身も心も蕩けきった声で聞き返す。

 だが藍俚(あいり)の「お尻を叩いた」という言葉に記憶が想起され、慌てて上半身を起こしながら断ろうとする。

 

「い、いらにゃ()い……っ! もう、ごめんにゃ()さい! あたしたちが、悪かったから……っ……! あやまるから……っ!!」

「遠慮しないで」

 

 だが藍俚(あいり)の中では、背中側のマッサージをすることは既に決まっていた。

 ロリの腕を掴むとそのまま有無を言わさず一気にひっくり返す。

 

 こちらも胸と同じく肉付きは薄かった。

 張りを取り戻した肌と少ないお尻のお肉がぷるぷると不安そうに揺れていた。

 ぽんと、お尻に手を当てれば、慎ましやかな膨らみが指先に弾力を返す。

 

「おっ……!」

「もう痛みは引いてるでしょうけど、手入れは必要だから」

 

 けれどもお尻に手を当てられた瞬間、過去の記憶が鮮明に甦った。

 メノリに頬を抓られながら藍俚(あいり)に尻を叩かれるという屈辱の記憶が、今のロリの不安定な状態と結びついていく。

 

 両手でお尻をマッサージされると、すさまじい快感が襲いかかってきた。

 記憶が痛みを思い出させ、快感がその痛みの記憶を別の記憶へと変換していく。

 お尻を叩かれるのが、たまらなく気持ち良い――身体はハッキリそう認識してしまった。

 

「も……」

「も?」

「もうちょっと……だけ……強く……」

 

 快楽に負けたロリは、恐る恐るリクエストを告げる。

 

「~~~~~~~~~っっっっ!!!!」

 

 返ってきたのは言葉ではなく、行動だった。

 ギュウウッと痛いくらい強めでお尻を揉みほぐされた途端、意識が吹き飛びそうな衝撃を受ける。

 俯せのまま反射的にベッドのシーツを強く噛み、必死に声を押し殺す。

 けれども隠せたのは声だけだ。

 両目は白目をむきながら涙をこぼし、大きく仰け反った背中はゾクゾクと絶え間なく震えていた。背中の震えと連動するようにお尻もガクガクと震える。

 

 ロリは今日最も強い"天にも昇るような気持ちよさ"を味わっていた。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「あら、もうこんな時間? そろそろ戻らないと」

 

 ロリはベッドの上でぐったりと、放心状態となっていた。

 そんな彼女の後片付けを済ませたところで、藍俚(あいり)が呟く。

 

「今日はね、渡したい物があって来たの。本当はちゃんと付けてあげたかったんだけど、ごめんなさい」

 

 そう言いながら藍俚(あいり)は、持ってきた荷物の中から手絡(リボン)を取り出すと、ロリの髪に軽く巻き付ける。

 

「似合うと思って持って来たんだけど……この分だと、聞こえてない……わよね?」

 

 自分の言葉通り、ロリは未だ夢見心地のままだ。

 

「仕方ない、か……メノリ、悪いんだけどロリが起きたら伝えてくれるかしら?」

「ふぇ……!? あ、はい……」

 

 なので背後、カーテンの隙間から気配を窺っていたメノリに声を掛ける。

 まさか気付かれているとは思っておらず、メノリは驚きながらも素直に頷いた。

 

「勿論メノリの分もあるわよ。それとこっちは、今日の分の差し入れ。よかったら食べて」

「ど、どうも……」

 

 その反応に、藍俚(あいり)は持ってきた荷物から更に追加で渡すとそのまま帰って行く。

 その姿をメノリだけが見送っていた。

 

 

 

 

 

 

「……あ……あれ……?」

「気がついた?」

 

 藍俚(あいり)が退室してから三十分ほどは経っただろうか。

 ロリの上げた声にメノリが反応し、心配そうに顔を覗き込む。

 

「あたし、いったい……っ!!」

 

 その表情を見上げながらゆっくりと身体を起こしたところで、ロリは思い出した。

 藍俚(あいり)のマッサージで痴態を晒し、堪えきれないほどの声を上げたことを。

 さらにはメノリの問い掛けに「何も見ていないし、聞いていない」と答えたものの、逆の立場になればそれが嘘だということは明白。

 

 メノリが意識を取り戻す前にロリのマッサージが終わったかもしれないという淡い期待を抱くものの、それは自分を見つめるメノリの表情にほんの少しの恥ずかしさが含まれていることから、無駄だと悟る。

 

「メノリ……あ、あのさ……声、とか……」

「だ、大丈夫! あたしも、何にも聞こえてないから! ね!?」

「う、うん! そう、そうよね!!」

 

 怯えながら尋ねれば、どこかで聞いたような答えが返ってきた。

 この瞬間、二人の間で"あのときのこと"は無かったことにすることが決定したようだ。

 ロリとメノリは、互いに確認するようにうんうんと首肯しあう。

 そうしているとロリの頭から、ハラリと何かが落ちた。

 

「ん……? なにこれ?」

「あ、それはあの死神がくれたの。ロリに似合うだろうからって」

 

 摘まみ上げながら疑問の言葉を口にすると、メノリが言う。

 

「……はっ! 今更ご機嫌取りのつもり!? こんなもん、いらないわよ!」

 

 

 

 

 

 

 ――翌日。

 

「ねえロリ、その髪に結んでるのって……」

「い、いいでしょ別に! ただ、捨てるのも面倒だって思っただけよ! そういうメノリこそどうなの!?」

「あ、あたしは……あたしも……捨てるのも面倒だなって……」

 

 ロリの髪とメノリの手首には、それぞれ藍俚(あいり)がプレゼントした手絡(リボン)が結ばれていた。

 




今回、もっと上手く転がせた気がするんですよね。
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