お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第285話 護廷十三隊侵軍篇? アイツは良いやつだったよ……

「ああ、湯川隊長。お待ちしていましたよ」

「どうも学院長。お待たせしてしまったようで申し訳ありません」

 

 真央霊術院の来賓室へと入るなり、学院長が頭を下げながら挨拶してきました。

 どうやら私が来るのをこの部屋で待っていたらしく、こちらも頭を下げつつ挨拶を返します。

 

「いえいえ、来訪予定時刻ぴったりでしたので……ああ、どうぞ。お掛けください」

「はい、失礼します」

「では私はこれで」

 

 席を勧められて腰掛けたところで、案内役を務めていた教師が退出していきました。

 霊術院内なんて私一人で――それこそ目を瞑ってでもどこにでも行けるくらい熟知していますが……今の私は一応部外者です。なので形だけでも案内役は必要なんです。

 

 ――と、そんな細かい事情はどうでもいいですね。

 お互い忙しい身の上ですし、とっとと本題に入ってしまいましょう。

 

「今回は、突然の無理なお願いを聞き入れて頂きまして誠にありがとうございました」

「いえいえ、その辺の事情は三ヶ月前に重々お聞きしています。それに霊術院側としても、それが仕事ですから」

「本当ならば私が直接教導できれば良かったんですけど……」

「湯川隊長は四番隊の業務もお忙しいですから、仕方ありませんよ。まあ霊術院(こちら)としても、十年前までのように特別講師として定期的な講義をお願いしたいという気持ちもありますが……」

 

 そこまで話を広げかけたところで、ハッと気付いたように学院長は頭を掻きます。

 

「おっと、申し訳ない。つい無駄話をしてしまいました。ご依頼の件ですが、書面で通知した通りです。いやいや、彼女は優秀ですね。死神としての基本的な技能は既に持ち合わせていましたので、主に知識面を補完しました。三ヶ月という短期間での促成栽培ではありましたが、一人前と判断するには十分すぎるほどですよ」

「そうでしたか」

 

 私からすれば知っていたことの再確認、といった所でしょうか。

 彼女(・・)なら、そのくらいは出来て当然の出自ですからね。

 ある意味で予想通り、当然の結果に満足しながら頷いていると、部屋の扉がノックされました。

 

「失礼します」

 

 ノック音に少し遅れて聞こえてくる声。

 その声を耳にしながら、三ヶ月ほど前のことを――藍染が倒され一護が意識を失った後のことを、彼女(・・)と出会った事件のことを思い返していました。

 

『というわけで、回想シーンに入るでござるよ!! つまり、もう始まってるどころか完結済み! 先ほどまでの会話シーンはオチの部分の早出し先出しというやつでございます!! 未来はもう決まってしまってひっくり返すのは不可能ということでござる!!』

 

 全部、射干玉が言っちゃったわね……

 ……え、えーっと……それでは回想シーン、どうぞ!

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「はい、そろそろ今日の作業は終了よ。仕掛かり途中の物はちゃんと全部済ませて、終わったところは最後にもう一回確認してね。じゃないと現世にどんな影響が出るか分からないんだから」

 

 夕日が地平線に半分ほど身を隠したところで、作業中の死神たちに向けて声を掛けます。

 これが終われば今日の仕事が終了ということもあってか、みんなラストスパートを掛け始めました。

 

 現在、私たちは現世に来ています。そこで転界結柱や藍染たちの激戦やらの後始末をしています。

 大変な作業なんだけど、この対応をしないままだと現世に変な影響が出ちゃうからね。

 なので不具合対応のために、鬼道が得意な死神を集めて後始末を頑張っています。

 何故か私が現場の総監督を務めていますが、四番隊は支援も担当なので仕方ないんです。こういった作業は十二番隊が主軸となるハズなんですが、仕方ないんです。

 

 ……この事情、以前にも言った気がするわね。無駄だったかしら……?

 

『いやいや藍俚(あいり)殿! 大事なことは二回言う!! これは大事でござるよ!!』

 

 そう、よね……

 

『あとこれは回想シーンですからな! 簡単にでも良いので"こういう事情です"と説明するのは大事なことでござるよ!! 何しろ認識度合は個人によってムチムチプリンでございますからな!!』

 

 ……個人でまちまち、ね。一応ツッコんでおくけれど。

 

 えーっと、どこまで話をしたかしら……?

 ああ、そうそう。現世で激戦の後始末をしていたって話よね。

 後始末の作業だけど、全体の進捗は予定の半分を過ぎたくらいってところかしら。でも今日の作業はもう終わりなの。

 

「はい、全員揃っているわね? それじゃあ、今日もお疲れ様でした」

「「「お疲れ様でした」」」

 

 と、こんな風に作業に加わった死神全員を集めて終わりの挨拶をすることで、本日の業務は終了です。

 何しろ作業場所が現世なので、下手をすると集合に遅れる死神がいるかも知れません。だから点呼を取る意味でも、開始と終了の際にこれをやっています。

 

「ふう、これで全員……と」

 

 穿界門(せんかいもん)が開き、隊士のみんながその中に入っていくのを見届け終えてから、私は軽く息を吐き出しました。

 重ねてになりますが、私はこの場の責任者です。しかも他の部隊の隊士も預かっているわけです。

 なので全員揃って帰ったことや、現世に変な影響が出ていないかの最終確認は欠かせないわけです。

 

『お仕事お疲れ様でございます』

 

 ありがと射干玉♪

 でも今日はこの後、綜合救護詰所に顔を出して軽く指示を出して、隊士たちの作業日報に目を通せば終わりだから。

 

『まだ仕事があったのでござるか……?』

 

 そういうこと。

 最終確認作業も終え、みんなに遅れて私も穿界門(せんかいもん)を通りました。

 

 

 

 

 

「……あ、先生! お疲れ様です!」

「イ、イヅル君……!?」

 

 穿界門(せんかいもん)を抜け、尸魂界(ソウルソサエティ)に向かって断界(だんがい)を少し進んだ先に、イヅル君の姿がありました。

 まったく予想していなかった相手の登場に、思わず目を丸くしながら彼のことを凝視してしまいます。

 

「どうしてここに? イヅル君は、今日の現世作業担当でもなかったでしょ?」

「その、先生が心配で迎えに来てしまいました……駄目、でしたか……?」

「ううん、そんなことないわ」

 

 軽く首を横に振ると、にっこりと微笑みかけます。

 

「ありがとう、イヅル君」

「あ、い、いえ……そんなことは……」

 

 するとイヅル君は顔を真っ赤にしながら視線を逸らし、照れ隠しをするように頬を掻きました。

 その微笑ましい様子は、どこか私の心をくすぐるものでした。

 

「でもまさか、イヅル君が迎えに来てくれるなんて思わなかったな」

「そ……そうですか?」

 

 二人並んで断界(だんがい)の中を歩きながら、そんなとりとめの無い会話をします。

 

「ええ、そうよ。だってまさか断界(だんがい)の中まで来てくれるなんて、思っても見なかったもの」

「そんなことは! ボクは先生のためだったら……!!」

「でも断界(だんがい)の中で待つのって、ちょっと危険なのよ? だから、次からは門の外でお願いね?」

「あ、すみませんでした……」

「それとイヅル君、今日は尸魂界(ソウルソサエティ)の方で仕事があったはずでしょう? そっちはどうしたの?」

「う……そ、その、それは……」

 

 視線を逸らしながら言い淀む姿に、私は何があったのかを何となく察しました。

 

「途中で抜け出して来ちゃったのかしら? もう、悪い子なんだから」

「すみません……」

「こーらっ」

 

 お説教と、オマケで頭の上へゲンコツをコンと軽く落とします。すると当人も悪く思っていたのでしょう、足を止めてしまいました。

 おかげで少しだけ距離が離れ、イヅル君が私の後ろに回る形になります。

 

「でもね、私はイヅル君に対してずっと真面目な印象を持ってたの。だから、良い意味で裏切られたっていうか……」

 

 振り向かず、顔を向けることもないまま言葉を続けてから――

 

「なッ!?」

「……本当に、こんなことをする子だなんて思ってなかったわ」

 

 ――即座に振り返り、彼の手首を掴み取ります。その手には何やら薬品が握られているのが見えました。

 おそらく、今のようにこうやって無理矢理にでも動きを止めなければ、この薬品をかけられていたことでしょう。

 

「くっ! 放せ!!」

「駄目よ!」

「ぐああああっ!!」

 

 手首を握る手に力を込めて痛みで動きと握力を奪いながら、もう片方の手で薬を奪い取ります。

 一瞬だけチラリと薬品に視線を走らせれば、それはよく知っている物でした。

 

「これは穿点(がてん)かしら? 撃ち込まれてたら、ちょっと危なかったわね」

 

 穿点(がてん)は麻酔の一種です。

 上位席官でも肌に触れただけで意識を失うという、結構強力な薬品ですね。四番隊(ウチ)の子たちならばそこそこ馴染みがあるお薬なので、イヅル(・・・)君が持っていても不思議ではありません。

 ありませんが。

 

「……それと、あなたは誰なのかしら?」

「何を言っているんですか!? ボクは吉良イヅル――」

「ええ、最初はそう思っていたんだけどね。でもこうやって直接触ってみるとよく分かるわ。ちょっとだけ……ほんの少しだけど、イヅル君とは霊圧が違うのよ」

「な……っ……!!」

 

 それまで私の拘束を振りほどこうとしていたイヅル君……もとい偽イヅル君ですが、そう伝えた途端に顔色を変えながら動きが止まりました。

 

「……いつから気付いていた?」

「そうね……いつからと聞かれたら、最初からかしら? イヅル君は真面目な子だから、途中で抜け出してくるなんてどうも信じられなかったのよ」

 

 まあ、一番不思議に思ったのは「イヅル君って、ここまで積極的に来る子だったっけ……?」という疑問なんだけどね。

 

『いやいや藍俚(あいり)殿! お尻に火が付いてグイグイ来るようになったかもしれませんぞ!?』

 

 ええ、その可能性も勿論あるわよ。そうやって、ちょっと突拍子もない行動に出るのも、十分にありえることだから。

 だから今まで、こうやって少しずつ探りを入れてたの。

 会話の中で反応を見たり、軽く叱りながら背中を見せることで隙を作ったりと、結構苦労していたのよ?

 

『……つまり藍俚(あいり)殿は吉良殿のことを信頼していないと……?』

 

 ち、違うから!

 イヅル君はちゃんと責任感がある真面目な子なの!! 他人に迷惑を掛けるような子じゃないの!! だから不思議に思っただけなの!!

 

 って、今は本物じゃなくて偽イヅル君の方よ!!

 

「何か理由があって、私にこんな風に接触してきたんでしょう? それとも実力行使がお望みかしら?」

「……原種が羨ましいですよ」

 

 え、今なんて言ったの? げんしゅ……って聞こえたけれど……

 

『原酒……? つまりお酒ですかな? なるほど、藍俚(あいり)殿の弱点を用意してきたわけでございますよ!!』

 

 お酒に弱いのは認めるけれど、その言葉は絶対に違うと思う。

 

『では厳守! 締め切り間近なのでしょうな!!』

 

 だから、そんなわけないでしょ! 普通に原種――オリジナルとか大本(おおもと)みたいな意味の言葉を言ったんでしょ!!

 

 ……って、えええ!?

 ということはもしかしなくても、このイヅル君はコピーなの!?

 しかも自分がコピーだと認識しているってこと!?

 その上で私を襲ってきたってことなの!?

 

「……しめた!」

「しま……っ! 待ちなさい!!」

 

 どうやら自分でも思った以上に考えごとに集中しすぎていたようです。

 拘束が緩んだ一瞬の隙を突いて、偽イヅル君は脱兎のごとく逃げ出しました。中々の身のこなしに思わず感心しつつ、私も慌ててその後を追います。

 

 全力で逃げていく偽イヅル君を追いかける内に気付いたのですが。この偽物、足が速いですね。

 逃げ足だけを比較しても、本物のイヅル君よりも身体能力が上です。私の拘束を振り切った時の身のこなしからでもそれは明らかです。

 

「……遅い」

「が……っ……!!」

 

 ですが隊長(わたし)から逃れるには、ちょっと力不足みたいですね。

 追いつくと同時に一撃をたたき込んで意識を刈り取り、さらにはダメ押しとばかりに穿点(がてん)を投与します。

 

「そん、な……」

「へえ……」

 

 思わず感心してしまいました。

 かなり強烈な一撃を与えたはずなのに、声を上げる余裕があるわけです。

 

「さて……」

 

 静かになった断界(だんがい)の中、意識を失った偽イヅル君を見下ろしながら思案します。

 

『このまま襲ってしまおうか、それともお持ち帰りしてしまおうかの二択というわけでございますな?』

 

 そうじゃなくて! この偽物がどこから来たかってことよ!!

 

 見た目は本物そっくり。

 受け答えや反応も、違和感は特になし。

 戦闘能力は本物よりも上。

 そんな偽物。

 

「……こんなことをしそうなのは……」

 

 真っ先に浮かんだのは技術開発局――というより、涅隊長でした。

 

「でも、違和感があるのよね」

 

 ですが浮かんだ考えを即座に自分で否定します。

 こんなことをする意味がないというか、複製体を作って一体どうするのか? その理由がさっぱりわかりませんでした。

 仮にネムさんの研究の産物だったとしても、私を襲う理由がわからない。

 百歩譲って涅隊長だったとしても、こんな場所で襲うのは考えにくい。涅隊長だったら、もっと詳細なデータが取れる場所を選ぶはずですから。

 

「まあ、駄目で元々。技術開発局を尋ねてみましょうか」

 

 そこまで考えて、偽イヅル君を肩に担ぎ上げたところで、思考の片隅に何かが引っかかりました。

 

「あら……? そういえば、こんな複製体の研究ってどこかで聞いたような覚えが……えーっと……何の技術だったかしら……あれは、確か……」

 

 独り言を呟きながら、記憶を必死に掘り起こします。

 

「……あっ! そうよ! アレだわ!!」

 

 悩んだ甲斐あってか、出口が見えたところでようやく思い出すことができました。

 

 さて、まずやるべきは――

 




●今回の元ネタ
大人の事情で生まれたアニオリエピソードの「護廷十三隊侵軍篇」です。
上記アニオリの概要を記載しますと――

・時間軸は藍染を討伐後(一護が霊圧を失う前)
・一護の設定を「意識を失う → 起きてるが徐々に霊圧を失う」に変更。
・一護は(霊圧を失うまで)代行の仕事を続けている。ルキアも一緒にいる。
・死神側は、激戦や転界結柱等の後始末で一ヶ月ほど現世を行き来している。

 ――という前提で、第一話は――

・後始末は無事に完了。勇音と七緒が一緒に穿界門を通って尸魂界に帰る。
・だが二人が行方不明に。なので捜索隊を出して穿界門の中を調べることに。
・捜索隊、穿界門の中で「一護の死神代行証」を見つける。
・どうしてこんな物が落ちていたのか不思議がっていると、勇音と七緒が戻ってくる。
・二人は無傷。それどころか「行方不明だった」自覚すらない。

・一方、現世ではコン(一護の身体に入った状態)が散歩していると、穿界門が開いて「親方! 空から裸の女の子が!!」となる。
・裸の女性を連れ帰るコン。当然そこで一悶着。
・一護、代行証が落ちていたことで尸魂界から呼び出される。

 ――みたいな感じで、ストーリーが展開していきます。

勇音と七緒に何があった!?
代行証は何故落ちていた!?
謎の裸の女性は何者だ!?

といった感じで、そこそこ楽しめると思います。

●なんでアニオリ挟んだの?
(上述した)裸のお姉さんを揉むためです。
(あと小説版で、マユリ様がチラッとこの事件のことを口にしていたので、一応挟んでおこうという魂胆もあります)
挟むのはおっぱいだけで充分

●(ここまでの説明を踏まえて)当初やろうと思っていたネタ
(※ 尸魂界で仕事中の藍俚に、勇音がいなくなったと知らされてから)

……えっ! 勇音が行方不明!!
ちょ、ちょっと待ってどういうこと!? 穿界門(せんかいもん)を通ったのまでは確認しているのよね!? そこから消息不明って……まさか拉致!? それとも誘拐!?

……あああっ! わかった、私わかっちゃった!!
きっともう少しすると、謎のビデオレターが届くんだわ!!
D・V・Dだかブルーなレイだか謎のURLだかが、送られてくるの!!

で、それを再生すると――

『隊長、見てますかぁ? 私、四番隊を辞めてこの人についていきますぅ。この人専用の副隊長にしてもらったんですよぉ。今から副隊長として初めてのお仕事をしますからぁ、ちゃんと見ててくださいねぇ……あんっ♥ も~、隊長ったらぁ♥ 今撮影している最中なんですから、イタズラしちゃ駄目じゃないですかぁ……やぁんっ♥ 甘えんぼうさんなんですからぁ♥』

――みたいな感じで、勇音が見知らぬ男の斬魄刀のお手入れを入念に……

藍俚「いっ、いやああああぁぁっ!!」
浮竹「落ち着け湯川! 部下が心配なのはわかるが……!!」
京楽「悲鳴がちょっとだけ色っぽく感じたのはボクの気のせいかな?」

(ここまで考えて「これ以上広がらない」と諦めました)

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