お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第286話 黒幕が隠れる間が無い

「……あ、もしもしイヅル君? はい、お疲れ様。え? ええ、今日の現世の仕事は無事に終わったわよ。私は最後だったからちょっと遅れただけ。それでイヅル君の方は……うん、うん……そう、よかったわ。え? 別に何でもないの。ただちょっとイヅル君の声が聞きたかっただけ。あ、それと四番隊に戻るのがかなり遅れるかもしれないから、イヅル君から伝えておいて貰える? ……ええ、それじゃあね」

 

 そう言ってボタンを押し、伝令神機の通話を終了します。

 穿界門(せんかいもん)を通り抜け尸魂界(ソウルソサエティ)に到着するなり、即座に連絡を入れて確認してみたのですが、話を聞く限りどうやら本物は無事のようです。

 まずは一安心ですね。

 

『果たしてそうですかな? 実は入れ替わった偽物とやりとりをしていただけ。藍俚(あいり)殿がそれに気付かなかっただけ。という可能性も残っておりますが……?』

 

 やめてよ縁起でもない!!

 ……で、でもその可能性もまだちょっとだけ残っているのよね……やっぱりちゃんと自分の目で確認しなきゃ駄目かしら……!?

 こういうコピー物って、知らない間に要人を入れ替えて権力とか乗っ取られるのが一番怖いから……それこそ総隊長のコピーに「コイツは反逆者だから殺せ」とか言われた日には目も当てられない……

 藍染も似たようなことをやったけれど、やっぱり有効な手段よねぇ……

 

「けど、その前にこっちを片付けるのが先よね」

 

 私の肩には、未だ意識を失ったままの偽イヅル君がいます。少しずり落ちていた彼の身体をもう一度担ぎ直してから、私は足を技術開発局へと向けました。

 

 

 

 

 

「知らんネ」

 

 技術開発局へ着くなり涅隊長のところへと向かい、尋ねてみました。

 

 ……偽イヅル君を肩に担いだまま。

 おかげで通りを歩いているときも技術開発局の受付でお願いをするときも、奇異の目で見られっぱなしでしたよ。

 

『下ろせばよかったのでは?』

 

 でもこれ、証拠だから……

 

『つまるところ色々と衆目に晒されていたわけでござるからして、明後日辺りに変な噂をされてそうでござるな! 吉良殿と藍俚(あいり)殿は当然その渦中の中心でぐるぐる周りまくりんぐに! うっはぁ! 明後日辺り、どんな尾ひれが付いた噂が流れるのか今からすっげぇ楽しみでござるよ!!』

 

 ……あ、そっか……

 でももう遅いし……そ、それよりも今はこっちが優先だから!!

 

 先ほどのは「イヅル君のコピーを作りましたか?」と尋ねたところ返ってきた言葉です。

 しかも涅隊長は何やら研究中で、私に背を向けたまま。手を止めすらしません。まあ、らしいといえば「物凄くらしい」のですが。

 

「本当……ですか? 何か心当たりは……?」

「それらも含めて"知らん"と言ったんだヨ。そもそもそんな複製体を作って、一体何をしろというのだネ? ま、身代わり程度には役に立つだろうが、それならワザワザ他人を模倣する意味は無いからネ」

 

『馬鹿め! そっちは本体だ!! というアレをやりたいのでござるな!?』

 

 本体じゃ駄目でしょ! あくまで"当人のみがわり"だから!!

 

「ですがこれ、霊骸(れいがい)の技術で作られていますよね? それも――手前味噌な言い方ですけど、隊長の私が部下が偽物だと気付かないほど見た目も中身も精巧に出来ています。おそらくは改造魂魄(モッド・ソウル)かと」

「……ホウ」

 

 あ、研究の手が止まりました。

 ここはもう一押しするチャンスです!

 

「しかも、断界(だんがい)の中で襲われました。つまり、穿界門(せんかいもん)を利用して偽物を送り込めるだけの技術を持っている。となると、技術開発局の誰かが絡んでいると考えるのが自然です。なのでまずは涅隊長にお聞きしたのですが……」

「なるほど、それはそれは……少しだけ、興味が出てきたヨ」

 

 相変わらず背を向けたまま、けれどゆっくりと首だけがこちらを向いて、鋭い視線を投げかけてきました。

 精巧な偽物を作れること。断界(だんがい)を利用できること。

 そういう技術的な話なら食いつくと思っていましたから。

 

「それは良かった。でしたら、穿界門(せんかいもん)の利用記録を見たいのですが……構いませんか? まずはこの複製体を誰が送り込んだのか、その辺りから調べようと思って」

「その程度なら、勝手にやって構わんヨ。断界(だんがい)のことなら、十二番隊(ウチ)の因幡に聞きたまえ」

 

 因幡……? それって確か……

 

「十二番隊第七席兼、技術開発局断界研究科課長。因幡(いなば) 影狼佐(かげろうざ)のことです」

 

 私が記憶を引っ張りだそうとしているのを察してか、ネムさんが教えてくれました。

 そうそう、そんな名前だった――

 

『ええっ!! ネム殿がいたでござるか!?』

 

 ――って、急にどうしたの!?

 ネムさんならいたわよ? 最初からずーっと。

 ただ、黙って部屋の隅で控えていたから存在感ゼロだったけれど。

 

 涅隊長がいるなら、ネムさんもいて当然でしょ?

 

『言ってくれなきゃ分からねえでござるよ……』

 

「今ならまだ研究室にいるだろう。ネム、案内してやれ」

「了解いたしました」

「ああ、それと。その複製体だがネ」

「ええ……分かっていますよ」

 

 相変わらず肩に担いだままだった偽イヅル君を、近くの研究台の上へに下ろします。

 傷を付けないようにそっと扱ったことが良かったのか、涅隊長がニヤリと笑いました。まるで「よく分かっているじゃないか」とでも言いたげに。

 

 複製体、それも本物と見間違うほどの複製品なんて、技術屋としては一度は見てみたいでしょうから。

 こっちとしても対価で差し出せるのは偽イヅル君(これ)だけです。

 つまり、こうなることは必然なんです。

 

「打撃で意識を刈り取ってから、穿点(がてん)を投与しています。なのでまだ目は覚まさないでしょうが、慎重にお願いしますね。何しろ当人よりも霊圧が高いので」

「ホウ! それはそれは……」

 

 うわぁ……笑顔が強くなったわ……

 当人よりも霊圧が高い、というところがお気に召したみたい……

 

「あの、くれぐれも! くれぐれも慎重で丁寧にお願いしますよ!! 複製体だとしても彼は……!!」

「喧しいヨ。さっさと行きたまえ」

 

 興味が完全に勝ったようで、視線は完全に偽イヅル君に注いだまま。しっしっとハエを追い払うように手を振られました。

 

「……では、ご案内いたします」

「ええ……お願いね……」

 

 といったことで、話は終わったとばかりにネムさんが口を開きました。

 こちらとしてもこれ以上は出来ることも無いため、案内されるまま彼女の後に続いて歩きます。

 そして進むことしばし、研究室へと到着しました。

 

「……は? 因幡、ですか……?」

「そういえば、どこにいった……?」

「おーい、誰か因幡のこと知ってるか!?」

「そういえば、最近よく早退してたような……?」

「まだ残っているか、探してみます」

 

 ネムさんが研究室内にいる隊士たちへ尋ねたのですが、この反応を見るにどうやら目当ての人物は不在みたいですね。

 

 因幡(いなば) 影狼佐(かげろうざ)

 さっきも言ったけれど、十二番隊の七席ね。

 見た目はちょっと老けた感じで、髪の長い男性なの。しかも髪の半分は緑で、もう半分が金髪っていうかなり攻めた見た目だったわね。

 あと声が渋かった。

 性格は……軽く会話をしたことがある程度だけど、そのときの印象はとても腰が低くて冷静な死神……って感じだったかしら?

 

藍俚(あいり)殿、会ったことがあるのでござるか……?』

 

 そりゃあ、まあ……でも四番隊業務の一環として、くらいよ? それも一回だけ。

 そのときに抱いた印象だけで語っている、見た目以外は当てにならない情報だし。

 何より因幡七席って、何故か四番隊を避けていたのよね。当人曰く「健診などという無駄な行為で自分の研究時間を削られたくない」って話だったけれど……

 

 無駄って言われたのはちょっと傷ついたわ……

 でも十二番隊の隊士って多かれ少なかれあんな感じだったから……

 

「……あの、湯川隊長。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「何?」

 

 そんなことを思い出していたら、ネムさんから質問をぶつけられました。

 

「先ほどの会話にも出てきた霊骸(れいがい)ですが、一体どのような技術なのでしょうか? 申し訳ありませんが、私は特に覚えが無くて……」

霊骸(れいがい)のこと? ああ、それは知らなくても仕方ないわよ」

 

 というか、全死神を対象にしても知っているのは少なめだと思うわ。

 

霊骸(れいがい)って言うのはね――」

 

 私たち死神が、現世で活動する時に使う仮の身体が義骸(ぎがい)

 それに対して、尸魂界(ソウルソサエティ)で活動するための身体が霊骸(れいがい)です。

 ここだけ聞けば「死神が尸魂界(ソウルソサエティ)で使用する身体なんて無意味だろ?」と思うかもしれません。

 

 当然ですが、霊骸(れいがい)を使うのは死神ではありません。

 改造魂魄(モッド・ソウル)です。

 

 先兵計画(スピアヘッド)って覚えていますか?

 死んで魂の抜けた人間の身体に、人造の魂を注入して(ホロウ)対策に当たらせようとしたアレです。

 具体的に言うと、一護のところにいるコンのことですね。

 

 アレの尸魂界(ソウルソサエティ)で使う版です。

 作った仮の身体に、作った仮の魂を入れて戦わせる――そんな手段も、先兵計画(スピアヘッド)にはあったんですよ。

 死神そっくりの義骸を作れる関係上、霊骸(れいがい)も同じように死神と同じ見た目のを作って、そこに改造魂魄(モッド・ソウル)を入れる研究などもありました。

 

「――とは言ったものの最終的に『尸魂界(ソウルソサエティ)ならば死神が戦えば良い』ということに落ち着いたの。先兵計画(スピアヘッド)については、義骸のこともあって名前が今も残っているけれど、霊骸(れいがい)については話題に上がることすら久しくなってすっかりと風化……あら?」

 

 以上のことをネムさんに説明していたところ、気付けば研究室にいた死神たちの殆どが聞き入っていました。

 全員がぽかーんとした表情をしていたところを察するに、知られていない情報だったみたいね。

 

「知ってたか……?」

「いや、知らなかった……」

「確かに、尸魂界(ソウルソサエティ)でしか使わないんじゃ用途が限定的過ぎるだろ……?」

「いや、使い捨てと考えれば……」

 

 そんな声があちこちからヒソヒソと上がっています。

 

「なるほど……先兵計画(スピアヘッド)は覚えていましたが、そのようなこともあったのですね。勉強になりました」

「ええ、そうよ。九十五年くらい前だったかしら? 由嶌(ゆしま)……由嶌(ゆしま)……」

 

 あら、何だったかしら……?

 私と名字が似ているから、名字は覚えてたんだけど……名前が出てこないわ……

 

「下の名前は忘れちゃったけれど、十二番隊の由嶌(ゆしま)隊士が改造魂魄(モッド・ソウル)霊骸(れいがい)といった技術を開発したの」

「「「ええっ!?」」」

 

 集まっていた隊士たちが再び騒ぎ始めました。

 

「ウチに由嶌(ゆしま)なんてヤツ、いたか……?」

「いや、覚えてない……」

「計画は廃止になったとはいえ、そんなヤツなら話題に上がる……よな……?」

 

 半信半疑な会話をしてるわね。

 まあ、それも当然よね。だってもう在籍していないんだから。

 

由嶌(ゆしま)隊士ならもう護廷十三隊のどこにもいないわよ。地下特別管理棟に収容されているし、そもそも当人はもう廃人になっているの」

「地下特別……ウ、ウジ虫の巣に!?」

「廃人!?」

「な、何があったんですか!? そいつに!!」

 

 あらら、また大騒ぎになっちゃった。

 

「知っての通り、改造魂魄(モッド・ソウル)は廃案になったからね。資料や技術は全て押収対象になった。全てを失うのに耐えきれなくなった由嶌(ゆしま)は自らの手で研究成果の全てを破壊し、最後に自分の心までを壊した――私の所見(・・・・)とはちょっと違ったんだけど、当時の四十六室はそう判断したわ」

「私の……所見……?」

「ええ、そうよ。廃人となった由嶌(ゆしま)隊士を診察したの。治せなかったけれどね」

「「「『えええええっ!!』」」」

 

 また、大騒ぎに……

 あら……? 今なんだか、射干玉も一緒に叫んでなかった?

 

『……呼びましたかな? 拙者は今、ネム殿の太ももを舐めるように凝視するのに忙しいのでござるよ?』

 

 ううん、何でもないの。

 

『(危なかった! 危なかったでござるよ!! なんで元凶を診てるでござるか藍俚(あいり)殿!! ああ、ダメダメ! ネタバレ厳禁でござるからして!!)』

 

「すみません、お待たせしました!! ようやく調査が終わりました」

 

 と、丁度話の区切りが着いたところで、奥から一人の隊士が小走りで慌てた様子でやってきました。

 

「まず因幡さんですが、局内に姿はありませんでした。おそらく既に帰っているのかと思います。それと断界(だんがい)内の通行記録ですが、こちらも特におかしな物はありませんでした」

 

 おかしな記録が無い……?

 

「変ね……じゃあ、あの複製したイヅル君はどうやって来たの? 無理矢理通ったとしても、どこか不自然な記録は残りそうなものじゃない?」

「そう言われましても……断界(だんがい)調査は因幡さんが第一人者で、自分ではこれ以上は分かりません……お力になれず申し訳ありません」

「となると……記録を改ざんされた? それとも通行記録(ログ)に残らない手段で断界(だんがい)を操作した? その辺は分かるかしら?」

 

 報告してくれた彼に尋ねますが、やはり首を横に振りました。

 

「すみません、どちらも自分には……」

「じゃあ、誰か出来そうな人物に心当たりは?」

「それこそ、どっちも因幡さんくらい……でしょうか……?」

 

 結局、そこに戻って来ちゃうのね。となれば当人に直接話を聞くべきかしら……?

 そう考えたところで、背後から声が聞こえてきました。

 

「面白そうな話をしているようだネ」

「涅隊長!?」

 

 突然の登場に、十二番隊の隊士たちが背筋を伸ばします。

 

「あの複製体、実に良く出来ていた。中の魂魄も、改造魂魄(モッド・ソウル)としてはあり得ないほどの精度だったよ」

「まさか……もう解析を終えたんですか!?」

「必要最低限の部分だけだがネ。それよりも今は、この複製体の出所(でどころ)についてだ」

 

 ひ、必要最低限の部分だけって……それでもまだ半刻(1時間)も経っていませんよ!?

 相変わらず仕事が早い……

 

 感心している私を余所に、涅隊長は近くの端末を操作すると物凄い勢いでキーボードを操作し始めました。

 私は勿論、近くにいた隊士たち全員がその様子を食い入るように見つめています。

 

 それから十分くらい経過した頃でしょうか?

 

「……見つけた、これだネ」

「え……! もう見つかったんですか!?」

「当然だヨ。何を驚いているのかネ? しかし随分とまあ、巧妙に隠しているじゃないか……中々大した物だヨ」

 

 巧妙に……ですか……

 その割には機嫌が良い様子なのは、相手の技術を賞賛しているからでしょうか?

 

「……その隠蔽、誰が行ったのかも分かりますか?」

「そんなものは調べるまでもないヨ。これだけの事が出来るのは、因幡以外はありえないからネ。必然的に、これをやったのも因幡ということになる」

 

 ――この私を除けば、だがネ。

 

 ニマ~ッとした笑みを浮かべながら、最後にそう付け加えました。

 ……これは、どういう感情なのかしらね?

 因幡七席の技術を下に見ている? ……いえ、それよりも新しいオモチャを見つけたという方が近いのかしら……?

 

「痕跡を隠蔽した以上、因幡が関わっていることは確実……いや、もしかすれば因幡があの複製体を作り上げたのかもしれんネ。どれ、もう少しだけ調べてみようじゃないか」

 

 そう呟きながら、再びキーボードを操作していきます。

 やがて端末のモニターには因幡七席がイヅル君を――おそらく複製体を断界(だんがい)へと送り出す際の姿を捉えた映像が映し出されました。

 




『マユリ殿が参戦とか、ネタバレを隠す間もねえでござるよ』

因幡(いなば) 影狼佐(かげろうざ)
十二番隊の第七席であり、技術開発局断界研究科課長。
しかしてその実態は、護廷十三体進軍篇の黒幕である。

担当声優は、古川登志夫さん。
存在感溢れる演技と悪役の似合いっぷりから、マユリ様と似て非なる存在感で輝きまくる。
(あと旧アニメとしては作画が良い。特に一護と戦うシーン。
 そういう意味でも優遇されているかと思います)

(小説版にてマユリ様が「あれなら、うちにいた因幡の技術の方が遙かに~」と発言しているので、結構印象的だったのかもしれない)
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