「少し、やり過ぎましたか? まあ、良い機会です。小休止としましょう」
「は……はい……ぃ……」
今日は非番の日――もとい何度も死ぬ日――もとい、卯ノ花隊長に稽古をつけて貰う日でした。
相変わらず朝早く四番隊に集合しては、全力で駆けても追いつけないほどのスピードで現地へ移動。
着いたと思ったらすぐさま剣術の特訓開始です。
回を増すごとに剣筋は厳しくなっていき、前回通じた戦法や剣技も今回は絶対に通じません。なので、前回の欠点を完全に克服した上で挑まないとなりません。
え……? もしも欠点克服を忘れたら??
――スパッ!! とやられてから、グチャッっとされます。あんなのはもう二度とゴメンです……少なくとも自分からもう一度やりたいとは絶対に思いません。
ただまあ、悪いことばかりではなくて。
最初の頃には私が攻撃してばっかりだったのが、ある程度は実力を認めて貰えたのでしょうか、隊長も剣を持ってお互いに斬り合いの様相を呈するようになっています。
稽古の最中には気付いた点はどんどん指摘されるので、すぐにそこを修正していきます。そのおかげか、多少なりとも強くなってきているみたいです。
たまに回される
そして剣術が終わるとこれまたいつも通り、回道の稽古です。
こっちも最初の頃よりも剣が鋭くなっているので、致命傷にならないように回避しつつ治していきます。
ときどき、今の私の実力では絶対に回避不可能な一撃が飛んできます。
その時は治療に専念してもよい、という合図でもあります。逆に言えば、今の私の実力では治療に専念しないと"大事故になっちゃう"ような大怪我をさせられるわけですが。
たとえば、冒頭のように。
「腕が動くって……とってもありがたいことだったのね……」
左腕――利き腕ではないとはいえ腕一本を落とされ、激痛と戦いながら治療を完了させました。
治している最中に隊長が「早くしないと切り落とされた腕が壊死しますよ。隻腕になりたいんですか?」といった有り難い励ましのお言葉を何度もいただきました。
おかげで
とはいえ、今のは隊長もやり過ぎたと思ったんでしょうね。なので小休止が入りました。
私は腕が治った安堵ともしもの恐怖と疲労とで座り込んでいて、ちょっと気を抜くと泣いてしまいそうです。
一方隊長は涼しい顔。
竹筒の水を飲んでいます……あの隊長、それ私のなんですけれど……いえ、構いませんがせめて一言"コレ飲みますよ"って言ってくださいよ……
あっ! 今度はおにぎりまで!!
まあ、いつものことなのでもはや怒る気にもなれませんし、美味しそうに食べているので作った方としては悪い気はしませんけれど……
……これ、もしも忘れていったらどうなるのかしら……?
「そういえば、
「えっ!? あ、ありがとうございます」
稽古を始めてからおよそ百年。
いつの間にか隊長の呼び名が湯川隊士から
「どうですか? 席官になった感想は?」
「感想、と言われましても……」
正式に席官になってから一ヶ月ほど。
連日業務に忙殺される四番隊ですので、もっと忙しくなった。くらいにしか思えないんですが……
「……あ、一応あるといえばあります」
一応席官、役職持ちになったわけですから。その立場になったことで見えてきたこともあります。
それは勤務体系について。
仮にも医療、そして患者のもしもに備える意味でも二十四時間勤務をしている部署なわけですから。
今は日勤と夜勤だけなので、早番・遅番・夜勤の三交代にしてみるとか。
勤務の交代時には軽くミーティングをして引き継ぎ内容や注意点を周知するとか。
でっかい黒板みたいなのを用意して、そこに全体周知事項や席官の予定なんかを貼っておくとか。
マトリクス図を用意して、全員の一ヶ月の勤務体系予定を分かり易くするとか。
休みを取りたい人もいるだろうから、そういうのを言い出しやすくするのと、いつ休むのかを分かり易くするとか。
前線に出て命を張っている死神と比べては危険度は低いですが、こっちは他人の命を預かっているので。
安くてもいいのでせめて技術手当を下の子にあげられないか? とか。
そういった内容を思いついた限り、伝えてみました。
「なるほど……」
「……言うだけなら只だと思ったので、考え無しに言ってしまいましたけれど、ひょっとして……」
「いえ、貴重な意見ですよ。胸に止めておきましょう。さて、そろそろ休憩も終了。続きをしますよ?」
だ、大丈夫ですよね……!?
私この後、稽古という名目で殺されたりしませんよね!?
――後日。
各隊士や席官の任務・予定といったものが分かり易くなっていました。交代についても実験的に行っており、とはいえ各人の評判如何で決めるようですが。
「これって……」
前に私が隊長に伝えた内容そのものですね。そう思っていると――
「お手当については現在申請中ですが、他の案は大体が形になったと」
「た、隊長!?」
――突然背後から声を掛けられました。
「また何か、気付いたことがあったら遠慮無く言いなさい」
「は……はい……」
それだけ言うと隊長は行ってしまいました。
……結構、信頼されているってことなんでしょうか?
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今日も非番の日――何度も死なない、普通の非番の日です!
あ、隊長が実験的に実施した勤務体系は現場で好評でした。
おかげでちょっとだけ業務が楽になったんですよ。作業の一元管理とか出来て、割り振りなどもスムーズに行くようになりましたから。他隊から押しつけられた仕事も、得意な人や似通った内容でまとめて実施するとかできますので。
たまに定時帰りする人も出る程度には。
そして私は非番の日なので戦闘訓練! ……ではなく、今日は真央図書館目指して中央一番区に来ています。
今まで何度か言っていますが、ここの図書館は情報の宝庫です。四番区にも図書館はありますけれど、医術書とか薬草大全みたいな医療関係の本が多いので。
色んな本を読みたいと思ったら、やはりここです。
他の部隊の死神などは、業務終了後にここにやってきて本を読む方もいるとか。
……いいなぁ、定時で帰れる人は……
「えーっと、鬼道の本……鬼道の本……頭文字が"こ"だから……」
館内へ入るなり、真っ先に向かったのは鬼道関係の書籍が並ぶ場所です。
お目当ては高等鬼道教本。
いつぞや霊術院で見かけたこの本は、番号が大きい――つまり強力で扱いの難しい鬼道が載っています。
危険なので席官でないと目にすることができないように徹底されている本でもあります。
「……あれ? ない……??」
ざっと本棚を見回しても見つかりませんね。
こういうときは司書さんに――はい、高等鬼道教本を――え? そうなんですか!?
――司書さん曰く、そう言う本は新人隊士が勝手に見られないように別の場所で管理しているとのこと。
今まで何度も来たことがありますけれど、見かけたことは無かったのですが。なるほど、そういう理由だったのですね。
てっきり毎回誰かが借りていて、いつもいつも見られないままだったのかと。
でも今の私は席官ですから! 堂々と胸を張って借りられます!!
「では、高等鬼道教本の貸し出しをお願いします。あと、それとは別に読みたい本があるので、ちょっと待って貰っても良いですか?」
「勿論構いませんよ。どうぞごゆっくり」
席官以上の死神だけが入れる特別書庫にて、司書さんにそう告げるとお目当ての本を探してみます。
それは、今まで何年も何年も探し続けていた、鬼道を簡単に放てる方法について。
既にそういった本は無いことを確認したつもりだったのですが、まさかこんな別館があったなんて、知りませんでした。
これは零から探し直しです。
「鬼道関係の本、鬼道関係の本……」
結論から言うと、結局見つけられませんでした。やっぱりそういう情報はおろか、試した人もいないのでしょうか?
結局この日は高等鬼道教本の他にもう二冊。
娯楽関係の小説と回道に関する本を借りました。卯ノ花隊長との稽古でホントに死が見えてきているので。
何か良い本がないかと探していた時のことです。
「これって……」
本棚にあったのは
豪華な装丁にフルカラーです。
……なんでこんな本まであるんですか!?
あ、エロ本の内容ですが、読んでみると実用的というよりもむしろ面白かったです。
どうやら自分にはこの程度ではエロさとか感じなくなっていたようで。
……これが感性の違いってやつですね。
●勤務体系
四番隊の苦労がちょっと減った。
●真央図書館
今まで言ってただけで登場させていなかった。
色んな本がある場所。
●本を借りる
真央図書館で年間千冊以上借りると殿堂入りするとのこと。