お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第288話 災禍の渦中にはヤツの影あり

「湯川隊長の複製体を作れない……? 霊圧を再現できなかった、ということでしょうか……?」

「フン……真っ先に思いつく仮説がその程度かネ? お前の知識ならばもっとマシな考えを捻り出せると思っていた私がバカだったヨ」

「申し訳ありません」

 

 私の複製を作ることが出来なかった!

 

 そう叫んだ因幡七席の言葉に対して十二番隊のお二人はそんな会話を交わしていました。

 ですがネムさんの考えも、分からなくはありません。

 強い相手は完全にコピーできないとか、コピーした途端に身体が持たずに崩壊するとかは、割とお約束のパターンですからね。

 

『なんと! それはつまり藍俚(あいり)殿が暗に「自分、パなく強えっスから!」とか言ってるでござるよ……成長しましたな。みんなのアイドル射干玉ちゃんも感激のあまり目からローションが溢れそうでござるよ……よし! ではその自信のままに更木殿と卯ノ花殿に喧嘩を売りに――!!』

 

 すみません、調子に乗りました!!

 自分クソザコです!! クソザコで粗悪品すぎてコピーできなかっただけです!!

 だからごめんなさい許して!!

 

 ……って、いいじゃない! ちょっとくらいは調子に乗っても!!

 コピー能力者に「お前はコピーできないんだよ!」ってキレられたら、ちょっとくらいは嬉しく思っちゃうでしょう!? 特別製だと思っちゃうでしょ!?

 

 あと、ちゃんとした理由も予想できてるから!

 どうせアレでしょ! (ホロウ)化できるからでしょ!?

 改造魂魄(モッド・ソウル)霊骸(れいがい)も、どっちも純粋な死神相手の研究しかしてこなかったから、異物の混じっている相手は保証対象外なんでしょ!!

 どうせ「一護もこの事件に巻き込まれたけれど(ホロウ)化できる関係上コピーできなくて目障りだ!」みたいな感じだったんでしょ!?

 もう私に対してネタバレ配慮とか良いから、さっさと全部素直に吐きなさい!!

 

『えっと……その、大体正解でござるよ。一護殿は再現不可でござる……』

 

 やっぱり! だって私のことを"特異点"とか言ってたし。

 あとネムさんの推測に対する涅隊長の反応が「期待外れだ」って雰囲気だったから、となればやっぱりある程度知られている(ホロウ)化が原因じゃないかと思ったの!

 

『ファイナルアンサー!?』

 

 いえ、ここはテレフォンで!!

 具体的には因幡七席の話を聞くわよ!! だって何か喋りたそうにしてるし。

 

「湯川だけ? 何を呑気なことを言っている、貴様もだ涅ネム!!」

「私……ですか……?」

 

 まさか槍玉に挙げられるとは予測していなかったようで、きょとんと首を傾げます。

 ネムさんのそんな反応にすら苛立ったのか、コメカミをピクピクとさせながら更に叫びます。さっきからずっと思っていますが因幡七席は「麻痺毒、何するものぞ」って感じの反応を見せてくれていますよね。

 

「貴様らだけではない! 二番隊隊長(砕蜂)! 四番隊(勇音)八番隊(七緒)十番隊(乱菊)の副隊長などなど!! どういうわけか女の死神(・・・・)霊骸(れいがい)改造魂魄(モッド・ソウル)も悉く失敗するのだ!! どれだけ労力を割いても原種の半分程度を再現するのがやっとだ!!」

 

 ん……? んん……??

 

『おや……? おやおや……??』

 

 女性死神だけが……無理……?

 

『そのようでござるな。しかも偶然にも全員、藍俚(あいり)殿が丹精込めてマッサージをした方々でござるよ。これは一体……』

 

 ……なんでかしらねー? ふしぎねー?? ぜんぜん、まったく、これっぽっちもこころあたりがないわねー???

 

『不思議でござるな……不思議が当然!』

 

 フェアリーランド!! ……ネタが古すぎるわよ!!

 

『では、そのとき不思議なことが起こったで!!』

 

 いやいや、だからそうじゃなくて!!

 なんて言ったら良いのかしらね……ああもう、理由なんて一発で分かっちゃったけどそれを口に出したくない!!

 

 えーっと、その、だから……

 さっきの言葉から察するに、さっき出した(ホロウ)化って答えは、もしかしなくても間違ってる、わよね……?

 

『確かにそうでしたな! ですが女体の神秘を再現できないというのは、至極真っ当な理由だとしか思えないでござるよマジで。具体的にはあのおっぱいとかあの太ももなどなど、もう神の作り出した奇跡! ミラクル!! それを簡単に再現できるわけないでござる!! よってこれは(ホロウ)化よりもずっと分かり易い理由だっただけのこと』

 

 いや射干玉……あなたさっき"一護だけは再現不可"って言ってたでしょうが!!

 ということは逆説的に、本来なら女性死神も複製できたはず! それが何故かこうなっている以上、もう原因は一つしかないでしょうが!!

 今まで言いたくなかったから言葉を濁していたけれど、もう言うわよ!

 言ってやるわよ!!

 責任の所在を明確にしてやるわよ!!

 

『なるほど、つまり……』

 

 そう、つまりは……

 

藍俚(あいり)殿のマッサージが原因!』

 

 射干玉のヌルヌル体液ぶっかけプレイが原因!!

 

 

 

 …………

 

『…………意見が、割れましたな』

 

 不思議ね、こんなこともあるのね……

 

『どうしてこうなってしまったのか……? どなたか! どなたかこうなった原因が分かる方は! どなたか論理(ロジック)律動(リズム)を聴かせてくださる方はいらっしゃいませんか!?』

 

 もうボケ合戦は良いから! 諦めましょう!

 ええ、認めるわよ! 認めてやるわよ!!

 

 私が、射干玉の粘液(オイル)で、マッサージをします。

 すると射干玉の粘液が邪魔したのか、私の霊圧が邪魔したのかは分かりませんが、複製体を作るのが難しくなりました。

 それに加えて粘液の総本山かつ(ホロウ)化もする私に至っては、例外の例外に加えて保証対象外すぎて、どうやっても複製できませんでしたとさ。

 

 ――多分コレが正解の理由。

 調査とか検証とか一切していないけれど、多分間違ってないと思う。

 

『なるほど……まさかそんなことになっていたとは……となると、山本殿や浮竹殿も失敗している可能性が……!?』

 

 多分ね。

 でも隊長クラスは複製が大変みたいだから、きっと後回しにしていて気付かなかったんでしょ? だから話題に上がらなかった。

 

『その割には砕蜂殿の複製を失敗していたり、藍俚(あいり)殿に至っては失敗しまくっていたようですが……』

 

 それはほら私の場合、現世によく行ってたから。

 断界(だんがい)管理者でもある因幡七席からすれば、霊子のサンプル回収も簡単だったんでしょうね。

 そこから「大量にサンプル確保したから今度は隊長クラスを試作してみるか」とやってみたら「全然出来ないぞ!? どういうことだ!?」となって「よく調べたら女性死神が全滅してるぞ!!」になったんじゃないかしら?

 これなら無理のない理由の説明に……

 

 ……いやいや、なんで私は敵の状況を慮っているのよ……? 本人に尋ねればいいじゃない。

 

「――つまり、女性死神だけが複製できない原因を調査していたものの、不明のまま。そこで私を直接拉致・捕縛して解析――あるいは排除しようと考えた。囮役には四番隊(ウチ)の隊士かつ複製可能な中で最も強くて私の油断も誘えるイヅル君に白羽の矢を立てた……こんなところかしら?」

「……くっ!」

 

 頭の中で今まで纏めたことを列挙したところ、悔しそうに吐き捨てました。

 どうやら正解だったみたいですね。

 

 ……でも、やられる方は大迷惑よね。

 早い話が――複製した海賊版を作ろうとしたら、謎のコピーガードが掛かっていて複製が出来ませんでした。なので一番怪しい相手に文句を言いいます。ついでにその相手を捕まえて解析もします――ってことでしょ?

 

 まったく失礼な話よね。

 私はただ、女性死神(みんな)心身のケア(おっぱい)を思って山登り(マッサージ)をしていただけなのに、それがこんな結果になるなんて……よよよ……

 

『この時代に"よよよ"と泣くのはどうかと思いますなぁ! しかも思いっきり嘘泣きでございますぞ!! ほらほら、マユリ殿が何やら喋りますから聞きましょう藍俚(あいり)殿!!』

 

「随分と短絡的じゃないかネ、因幡?」

「……何ィ……?」

 

 その言葉に、項垂れた姿勢のまま視線だけを移して涅隊長を睨みます。

 

「未知の研究材料を発見するということは、新たな発展の可能性が増えたということだヨ。生まれた例外に悩み、自らの才にてそれ以上の物を生み出す。ままならぬからこそ、創造の余地が生まれる……わかるかネ?」

 

 その理屈はわかりますよ……わかるんですけど……

 

 それを私を横目で凝視しながら言わないで貰えますかね涅隊長!?

 心の中で何を考えているのかは分からないですけど、どんな気持ちなのかは分かりますよ! きっと「調査項目が新しく増えた」みたいに喜んでるんですよね!?

 

「次はもっと確実に、万全かつ慎重に行うべきだヨ……まあ、次がお前にあればの話だがネ……ああ、丁度来たようだ」

「何を言って――む! こ、これは……!?」

「いた! 藍俚(あいり)様!!」

 

 話を切り上げるように明後日の方を向いたかと思えば、そちらの方向やら複数人分の霊圧がやって来ました。

 続いて砕蜂の声が聞こえ、彼女がこの場へと姿を現しました。背後には隠密機動の面々も連れてきています。

 

「ご無事ですか!? 連絡を受け、急いでやってきたのですが……この惨状は一体……!?」

「ええ、私たちは無事よ。でも砕蜂、報告って……?」

 

 総隊長への報告だったら、出発前に十二番隊の隊士にお願いしました。

 でもそこから話が通って隠密機動が捕縛に動くには、少々時間が掛かるはずです。まだあの時点では確たる証拠などもありませんでしたからね。

 少なくともこのタイミングで砕蜂が来るとは思えない。

 それがどうして突然やってきたのか、理解が追いつかない頭で尋ねれば、彼女は涅隊長を横目で見つつ教えてくれました。

 

「そこの涅マユリから、この場所と状況についての連絡が入ったのです。過去に禁じられた研究を受け継いだ者がいて、このままでは藍俚(あいり)様が危険だと」

「なにそれ……?」

 

 連絡なんて、私は入れてないし……となればまさか!!

 どうやら同じ結論に思い当たったようで。私と因幡七席は同じタイミングで涅隊長に視線を移しました。

 

「隠密機動……まさか涅マユリ! 貴様、私の尋問の最中に!?」

「はて、ご想像にお任せするヨ……ただ――」

 

 ぎょろりと目を見開きながら、

 

「――霊骸(れいがい)改造魂魄(モッド・ソウル)も解析し準備を整えたとはいえ、不確定要素は残っている。湯川藍俚(あいり)だけでは対処できぬ可能性を考えれば追加の手勢を呼ぶのは当然のことじゃないかネ? それもあの女と友好的な相手であれば、余るほどの人数を連れてくることは分かっていたからネ」

 

 そうですよね……涅隊長ですものね……絶対に勝てる戦いしかしないタイプですものね……

 事前準備は万端なのは予想が出来ていましたが、まさか私を餌にして砕蜂まで呼んでいたなんて……

 

 この発言で、半ば掌の上で踊らされたと気付いたのでしょう。砕蜂の目が刺すように鋭くなって涅隊長を睨みますが、それを向けられる当人は涼しい顔のまま。

 それどころか隠密機動の皆さんに向けて平然と言い放ち始めます。

 

「アア、二番隊の諸君。その男が下手人だヨ。我々はこの場の証拠品を押収するという仕事がまだ残っているのだからネ。さっさと捕まえたまえヨ」

「勝手に仕切るな! 何が押収だ! ええい、お前たち! その男はとっとと捕まえろ! 他の者は現場検証と押収を……あ、こら! 勝手に触るな涅ネム!!」

 

 さらにはネムさんが残った現場資料をどんどん運び始めました。

 あの資料、押収するんでしょうね……自分の懐へ……

 可哀想に……そうならないために研究結果を断界(だんがい)の中に隠したり魂魄を分けたりしたのに、結局持って行かれちゃうなんて……

 

「ま、何はともあれ。これにて一件落着ってところかしらね」

 

 慌ただしく動く涅隊長たちや隠密機動の皆さんを眺めながら、私はそう呟きました。

 残る問題があるとすれば、複製した死神をどうするかくらいでしょうかね? 結局、廃棄するしかないんでしょうけれど……

 でも、それでも何とか生かしてあげたいって思うのは私のワガママなのかしら……

 

『ああ、それならもしかするともしかするかもしれないでござるよ』

 

 えっ!? それってどういう……!?

 

「マユリ様、どうやら扉が隠されているようです」

「ホウ? どれどれ……」

 

 そんな私のセンチメンタルな気持ちと射干玉の言葉への疑問など一切お構いなしに――ついでに砕蜂の制止もお構いなしに――研究成果を漁っていたネムさんでしたが、どうやら資料以外に隠し部屋まで見つけたようです。

 ペタペタと壁に数回手を触れただけだったのですが、ネムさん良く見つけられたわね。

 私には何の変哲も無いただの壁にしか見えないんだけど、涅隊長が怒り出さないところを見るにどうやら偽装されていたようです。

 

 そして、隠し部屋があると聞かされて黙っていられなくなった人もいました。

 

「やっ、やめろ!! そこには手を触れるな!!」

「暴れるな!」

「大人しくしていろ!!」

「ぐわっ……! は、放せ貴様ら!!」

 

 因幡七席です。

 ……隠密機動に捕縛されて、さらに鬼道も掛けられているからほとんど芋虫くらいしか身体が動かせないはずなのに、まだアレだけ暴れられるのね……とはいえマトモに動けないのは変わらないので、隠密機動の方々に連行されています。

 

 ですがアレだけ分かり易い反応をみせたということは、見られたくない何かがあるのでしょう。

 涅隊長も同じ考えだったらしく、嬉々とした様子で壁に何やら触れています。

 どうやらピッキングのような解錠作業をしているらしく、数秒後には壁に長方形の切れ込みが入るとアッという間に入り口が出来ていました。

 

「開いたようだネ。さて……何を隠していたのやら、たっぷりと見せて貰おうじゃないか!」

 

 そういえば涅隊長、虚圏(ウェコムンド)でザエルアポロの保管庫を漁っていたっけ。となれば今回もそれに類する何かがあるのかしらね。

 涅隊長もそのときの事を思い出しているのか、口の両端を釣り上げながら入室していきました。そしてネムさんが後に続きます。

 

 ……わ、私もちょっと興味があるから入っちゃおうっと!

 

「これは……」

 

 室内は薄暗く、最低限の照明すら灯っていませんでした。

 狭く、けれども堅牢そうに作られた部屋の中には霊骸(れいがい)を作成していたのと同じような巨大な水槽があるだけです。

 あら、何かしら……? 水槽の中に人影が……

 

「これは!」

「コレが、因幡が隠したかった物かネ?」

 

 人影をきちんと目視できる距離まで近づいた所で、思わず大声を上げてしまいました。

 隣の涅隊長が水槽の中を睨みながら訝しげに呟くのも、気になりません。

 

「これって由嶌(ゆしま) 欧許(おうこ)!? いえ、違うわね……彼は男性だった。この中にいるのは女性……でも、顔はそっくり……一体どういうこと……?」

 

 水槽のガラスに手を触れながら、私はそう呟きました。

 




●マユリ様
あの短時間で解析して、複製体を無力化する毒を作って、因幡の居場所を調べて。
さらに万全を期すために(藍俚(あいり)のことを利用して)砕蜂も呼ぶ。

でもマユリ様ならこのくらいやるだろうと思う。

由嶌(ゆしま) 欧許(おうこ)因幡(いなば) 影狼佐(かげろうざ)
身体が弱くて他者から評価されず、劣等感を抱いていた。
それが原因で「仲間とか要らない! 孤独こそが真の強さだ!」とボッチをこじらせた結論に至っていた(複製体を作ったのも、この辺が要因としてあるはず)

元ネタでは一護や仲間との連携で追い込まれたり、複製体が誇りを取り戻して邪魔されたりと、リア充友情パワーの前に破れた。

(拙作中では理不尽という名の粘液と天才科学者に振り回された挙げ句「こう言えば砕蜂が全力で助けに来るだろ」という友情パワー(マユリ主導)を見せつけられるという、とても可哀想なネタ)
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