「
「ええ、だから私も不思議なの」
思わず叫んだ言葉にネムさんが疑問を投げかけてきましたが、上手く返事をすることが私には出来ませんでした。
培養液で満たされた水槽の中に浮かぶのは、
……ええ、女性です。
しかも培養液たっぷりの試験管の中にいるわけですから、当然のように裸です。
『詳しく! 詳しく描写を! 特におっぱいとかおっぱいとか、あとおっぱいについて!!』
はいはい、落ち着いて。
繰り返しになるけれど顔立ちは
そうね……容姿はツリ目でクールな印象が感じられる女性ってところかしら。
髪色は濃いめの緑で、肩に掛からない程度のショート。
それで肝心の
……控えめ、かしら。
体つきは少女と大人の中間くらいで、その見た目に見合った大きさではあるんだけど。
織姫さんとかハリベルで目が肥えちゃったかしら? どう頑張って見ても、動きやすそうなボリュームの
ただね、脚が良いわ。
『
さっきからずーっと、頑張っているんだけど……チラチラみちゃうのよ!
評するなら「太ももがムチムチしてて、思わず抱きついて頬ずりしながら舐め回したくなる様な魅力を備えている!!」ってところかしら?
『ほほう、それはそれは……』
はいはい、ちょっと粘液が漏れているから我慢して。
今まだシリアスな場面だから。
「因幡七席が
「フン。大方、予備の複製体か、そうでなければ
興味の大部分を失ったような雰囲気で涅隊長がそう吐き捨てると、培養槽に備え付けられた機械に触わり始めました。
「何よりこれ以上の推論はどれだけ重ねたところで時間の無駄だヨ。知りたければコレに直接聞けば良いじゃないか」
「え……ちょっと涅隊長!?」
「静かにしていたまえ手元が狂っても責任は持たんヨ」
そう言いつつも淀みない手つきでコンソールが操作されます。おそらく、この少女を覚醒させようとしているのでしょう。
やがて水槽から培養液が抜け、続いて周囲のガラスが緞帳のように上がり――
「おっと、危ない危ない」
――支えを失って倒れるより早く彼女を受け止めました。ついでに隊首羽織を脱いで肩へ羽織らせてあげます。
さっきも言いましたけれど、全裸ですからね。このぐらいはしてあげないと。
『ここにいるのはマユリ殿たちと拙者たちくらいなので、全裸でも一向に構わないのでは? むしろ目の保養になるので拙者としては大助かりで!! まっぱだカーニバルを開催してしまっても一向に構わんでござるよ!!』
私だってしたいけれど!! そうしたいけれど!!
でもそれだと本人が目覚めたときの第一印象が変わってくるでしょう!? だから私も涙を呑んでこうやって肌色を隠し――
「こ、ここは……?」
――あら? 目が覚めたみたいね。受け止めた時の衝撃で意識を取り戻したのかしら? けど、コレはコレで好都合。話を聞いてみましょう。
「あなた大丈夫? 名前は?」
「名前……私は……
「そう、九条さんっていうのね。私は湯川
「ゆ、かわ……?」
目覚めたとは言っても、どうやらまだ完全には覚醒していないみたいね。
私の問い掛けに対して途切れ途切れになりながら答えたところから察するに、彼女はまだまだ正常な思考が出来ていないみたい。
私の名前をオウム返しした途端、今まで虚ろだった彼女の目つきが急激に鋭くなっていきました。
「……ゆかわ……ゆしま……っ!! そうだ私! ここは!? それにアイツは……え、ああっ!?」
そう口にして警戒するような眼差しで周囲を見渡したところで九条さんは自分の格好に気付いたらしく、動きが止まりました。
続いて肩に掛けられた羽織に気付くと、不思議そうにそれに手を伸ばします。
「これは……?」
「それは私の隊首羽織よ。あなた裸だったから、応急処置ってところだけど一応ね」
「ありがとう……」
「どういたしまして」
俯いて顔を真っ赤にしながら、か細い声でお礼を言ってくれました。
そう言いながらも彼女は背中を丸め、さらに羽織を両手でぎゅっと抱き込むことで必死で肌面積を少なくしようと奮戦していました。
羞恥心と戦うその姿が、とても素晴らしいですね。
ほらね射干玉、効果があったでしょう? こんな可愛い表情が見られたわよ!
『むむ、確かに……そうと知っていれば拙者の体液で全身を覆い隠していたというのに!!』
それは駄目! それはまだ早いから!! もうちょっと待ちなさい!!
初心者にはハードルが高すぎるから!!
「ところで……もしかしたら辛いことを尋ねるかもしれないけれど大丈夫?」
「……なに?」
様子が落ち着いたところを見計らって、そう切り出します。
「
「っ!!」
「どうやら、当たりみたいね」
再び視線が鋭くなりました。
驚きや警戒といった感情が入り交じった眼差しで、周囲を落ち着きなく見回します。
「あ、もしも
「え……!? ほ、本当か!? 本当に!?」
九条さんの表情が、ようやく穏やかなものになりました。
「ええ、本当よ。だから九条さん、落ち着いて話して欲しいの。あなたが何者で、
「まどろっこしいネ。ほら、聞いてやるからさっさと喋りたまえヨ!」
「――ちょっと涅隊長!? 彼女はまだ……」
「いや、大丈夫だ」
業を煮やした涅隊長がせっついて来たのでそれを諫めようとしますが、九条さんは力強い口調で言い放ちます。
「話させてくれ、私の知っていることを」
そうして、彼女は昔話を語り始めました。
――とは言っても、因幡七席の言ったことの補足みたいな内容が大半でしたけどね。
彼女もまた、因幡七席同様に
つまり、魂魄を二つに分けて二人の分身を作ったわけですね。そうすることで霊圧を変化させて誤魔化し、容易に発見できなくする狙いもあったとか。
その後、来たるべき時が訪れた際には因幡と融合することで新たな
ですが九条さんはそういった目的を嫌い、因幡と反目したとのこと。
なんでも生み出された九条さんは、
ですが、どれだけ邪魔な存在であろうとも因幡にとっては真の姿に戻るための大事な片割れです。始末なんてできるわけがない。
その結果、水槽の中で眠らせておいて必要になったら取り出して融合する――という処置に落ち着いたようです。
眠らされて意識を失い、再び目覚めた時に見たのは――
「――私たちだった、というわけね」
「ああ……それに驚いた。まさか、私が意識を失っている間に全てが終わっていたなんて……」
それについては、ねぇ……ご愁傷様としか言えないわ……
ひっそりと狂気の計画を練り続けていた相手をどうにかしたいと思いながらも眠らされてしまいました。
目が覚めたら全部終わっていました。
なんて言われたらねぇ……どんなリアクションすればいいのか分からないわよね……
『こんな時にどんな顔をすれば良いのかわからんでござるよ!!』
……太ももを眺めて鼻の下を伸ばしておきなさい。
『ムチムチ! ムチムチでござるよ!! 下からのアングルでなめ回してえでござるよ!! 何故この世界はドラクエでないのか!? なめまわしの特技を今ここで覚えるでござるよ!! そのためのダーマでござる!!』
「やれやれ……わざわざ聞いてやればつまらんオチだネ」
そんな九条さんの話でしたが、涅隊長の心には届かなかったみたいですね。
近場の荷物を椅子代わりに腰掛けて話を聞いていたのですが、そこから立ち上がると興味の無い視線で九条さんを一瞥しました。
「結局、お前も因幡の作った偽物共と変わらんということだろう? わざわざ隠していた以上、どれだけ珍しい力を持っているのかと思っていたというのに……これなら、既に確保した偽物共だけで充分だヨ。さあ、帰るぞネム」
「承知しましたマユリ様。それでは湯川隊長、失礼致します」
さっさと帰って行く涅隊長と、大きな荷物を抱えたネムさんがそれに続きます。
そして残ったのは私たち二人だけとなりました。
……あっ! これってつまり、私が九条さんの面倒を見ろってこと!?
だって彼女、今回の最重要人物だし。オマケに過去に廃棄を命じられた
涅隊長に面倒ごとを押しつけられたわ……!!
だ、だったら私だってやってやるわよ!! こっちだって一応は隊長なんだからね!!
「……九条さん。あなたはこれからどうするの?」
「どう、とは……?」
去って行く涅隊長たちの背中を眺めながら考えること十数秒。大まかな計画を決め終えたところで、そう切り出します。
ですが私が何を言いたいのか分からないらしく、彼女はきょとんと首を傾げました。
「どう生きていくのかってことよ。計画を遂行していた因幡七席は捕縛されて、多分刑罰は確実でしょうね。でもあなたは関係ない。
と、簡単にですがこれから起こるであろう出来事を簡単に説明します。
さりげなく「自分は味方ですよ」とアピールするのも忘れずに。
「でもそれだけだと弱い。過去に違法と判断された
さらに、未来への恐怖を少しだけ煽ります。
処罰から逃れるだけなら、流魂街に逃げ込むとかでも充分なんですけどね。
でも、どうせだったら恩を売ってこっちに引き込みたいじゃない? この太ももを逃す手は無いって思わない!?
『
「違う存在、か……けど、私には何も……」
「そこは私に任せて!」
不安そうに俯く彼女を力づけるように、私は胸をドンと叩きました。
――というのが、三ヶ月前。彼女と初めて出会った事件の大体のあらましなの!
『285話の最初に書いていた内容でござるよ!!』
この間も色々とあってね。
まず因幡七席――もとい、因幡さんはもう席官どころか一般隊士でもなくなったの。四十六室に処罰を受けて真央地下大監獄――藍染が送られたあそこって言った方が分かり易いかしら?――に収監されることになったわ。
過去に禁止された技術を復活させて
彼が作っていた
証拠となりえる部分は大丈夫だったから刑は執行されたけれどね。
しらない、私はなんにもしらない。十二番隊と取引なんてしてない。
続いて九条さん。
九条さんについては「何も知らなかった」ことや「否定的な立場を取っていた」ことを考慮されて、今回のことについては目論見通りにおとがめ無し。
で、その条件というのが――
「失礼します」
「どうぞ」
部屋の外から聞こえてきた声に、霊術院の学長が返事をします。
一拍遅れて扉が開けば、そこには
「へえ、見違えたわよ九条さん。どこからどう見ても死神だわ」
「あ、湯川隊長……ありがとうございます」
素直な褒め言葉に、彼女は頬を赤らめながら軽い会釈をしてくれました。
もう想像はついていると思いますが。
条件というのは、死神となって
ですが「有用な存在であると証明」するためには、まずは一刻も早く死神とならなければなりません。
そのためにまず、三ヶ月以内という猶予を四十六室にみとめさせました。
実際、かなり厳しい条件ではあったものの、九条さんは見事に期待に応えてくれました。短期間・促成栽培とは思えないほど立派な姿です。
私も忙しい合間を縫って、時々彼女に指導した甲斐がありました。
『
だって仕方ないでしょ! 時期が被っちゃったんだもの!!
……あ! え、えとですね!
そしてもう一つの「証明
「九条望実さん。もう聞いているだろうけれど、あなたは一週間後に十三番隊への入隊が決定しています」
「はい」
「それと入隊後は現世駐在任務……正確には先に駐在している死神の補佐という立場になります。本来は一地区に一人の死神が原則ですが、今回は特例。補佐の死神を認めるほどその地区は重要視されているからです。心してくださいね」
「わ、わかりました!」
少し緊張した面持ちで返事をしてくれました。
――とこのように、現世駐在任務のお手伝いです。四十六室と交渉して、この内容で認めさせました。
裏工作とは脅しとかは……いっさいやっていません。
『誓って非合法な手段は使ってないでござるよ!! ただちょっと、認めて貰わないと十一番隊がハッスルした際に、気になって全力が出せなくなるかも……とか口にしたとかしないとかそんな噂が流れたらしいでござるよ!!』
まったく、どこの誰がそんなことを言ったのかしらね?
「と、ところで湯川隊長。駐在任務というのは具体的にどこなんでしょうか……?」
「それはね――」
「――現世の重霊地、空座町よ」
同じ
●
護廷十三隊進軍篇のヒロイン。因幡と同じく由嶌の分身。
彼女は由嶌の理性や容姿を受け継いだ模様。
「初登場時がすっぱだか(ボロ布は巻いてるけれど)」だったり
「やたら太ももを強調される描写がいっぱいある」だったり
「スケベ(担当声優は金元寿子氏)」と言う破壊力抜群の台詞があったり
色々と活躍の場に恵まれている。
●
九条望実の持つ斬魄刀。
形状:十字剣(先端が十字架のようになっている西洋剣みたいなデザイン)
解号:降りしきれ
能力:相手の力を吸収し、それを自分の力にして放出する
能力は双魚理と大体同じと考えれば問題なし。
(あちらの「攻撃を受け流して反射」に対して
こちらは「攻撃を受けて溜めて反撃」と棲み分けは出来ている。
他にも「色々と攻撃を溜めて溜めて一気に反撃する」みたいな使い方も出来る)
アニオリだと因幡と九条で合体してパワーアップとかしていましたが、拙作では……
まあどっちも生きているし、やり直しとか和解の機会はある……といいな……