お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第291話 ボスタフ故郷に帰る

『ありのまま、今起こったことを話すでござるよ! 九条殿が現世に出発した翌日、道を歩いていたら声が聞こえたなぁと思ったら、現世にいると思っていたコン殿がいたでござるよ!! これは手品!? それとも魔法!? 進みすぎた科学は魔法と区別が付かないと偉大なるSF作家も言っていたでござる!!』

 

 はいはい、代弁ありがとうね射干玉。

 私が言いたかったこと、大体言ってくれたから助かったわ。

 

 ちょっとだけ訂正するなら、無目的に道を歩いていたわけじゃないわ。技術開発局に向かっていたところだったのよ。

 九条さんの事件については十二番隊にもお世話になったから、事の顛末くらいは報告しておこうと思ったの。それと、お礼の差し入れでもしようと思って。

 そうしたら、目の前に喋るヌイグルミが……技術開発局の門を叩きながら悲痛な叫び声を上げていたのが目に入って……

 直接目視したことは一切無いんだけど、知識としてはよく知っている相手がね……その……いたのよ……予想外かつ想定外にも……

 

『いやはやまったく、世界は驚きとワクワクでいっぱいでござるな!! これだから人間って……面白!!』

 

 いやいや、私が死神だから。あとアレは改造魂魄だから。この場には人間いないから。

 というかアレ、放置しておくわけにもいかないわよね……どう考えてもご近所迷惑だし……

 

「えっと……あのー……」

「新人か!? そんなに新人が良いってのか!? 新しいのが来たらもう古いのはポイってか!? チクショー、ふざけんなよ!! あ、けど"新人"って言葉を"若いお姉ちゃん"に置き換えたら、ちょっとだけ納得できちまった自分が嫌だ!! けどよぉけどよぉ、旧型には旧型で良いところあるんだぜ!! (ふる)きを(たず)ねて温故知新とかいうだろうが!! だからよ、おーい……采絵(トルエ)のネエさーん!! カムバーック!! あの素晴らしいおっぱいをもう一度っ!! いや、もう百! いやいや二百度くらいっ!!」

 

 ……どうしよう。関わり合いになりたくないって、ちょっとだけ思っちゃった……

 でも、九条さんの為にもココは勇気を出して声を掛け……

 

 …………あ。

 

 よく考えたら、こんな子の扱いって私が一番慣れてるのよね。多分だけど、現世・尸魂界(ソウルソサエティ)虚圏(ウェコムンド)を見渡したとしても。むしろ得意分野。

 うん、一気に気が楽になったわ。

 

『おやおや藍俚(あいり)殿、一体どうなされましたかな? なぜそんな晴れやかな表情を??』

 

「もしもし、そこのヌイグルミさん? あんまり大きな声で叫ぶとご迷惑になるわよ」

「ああん、うるっせーな!! 一体誰だ! オレ様の正当な抗議の訴えの時間を邪魔するヤツは!? 言っとくがこちとら、この件については最高裁まで争うつも――ほ、ほわああああっっ!!!!」

「え、え……?」

 

 私が声を掛ければ苛立ち混じりの表情で振り返ろうとして、その途中で動きが完全にとまりました。文句の言葉も途中から奇声に代わり、けれどそれもすぐに失って。まるで蛇に睨まれたカエルのようになりました。

 ただ、物言わず身動き一つ取らない状態になりながらも視線だけは元気でした。

 熱視線を猛烈な勢いで私に注ぎ込んでいます。

 

 具体的に言うと、胸の辺りに。

 

 なんだかこの反応、久しぶりな気がするわねぇ……

 尸魂界(ソウルソサエティ)じゃ、ここまで露骨におっぱいを凝視してくる子も少なくなってきたから……

 

『チラ見はまだまだたくさんいますがな!!』

 

 一瞬たりとも視線を動かすこと無く、じーっと見つめ続けていたかと思えば、やがてフルフルと身体を震わせ始めました。

 

「……お……おお……」

「……お?」

「おっぱいだああぁぁっ!! それも特盛!! いやメガ盛、ギガ盛り!? 井上さんにも勝るとも劣らない!?!? ッかああァッ!! なんだよなんだよオイ、話せるじゃねえか!! 地獄に仏たぁこのことだな!!」

 

 地獄に仏って……

 その言葉、世界観的にどうなのかしらね……?

 

「言っている意味はよく分からないけれど……あなたって黒崎君の所にいた義魂丸よね? ルキアさんから聞いているわ」

「おおっ、知ってんのかよ! それなら話がはええや! そうとも、オレ様の名前は――」

「ボスタフ、でしょ?」

(ネエ)さああああぁぁーーーーんっ!! どうしてその名前をぉぉぉっ!!」

 

藍俚(あいり)殿おおぉぉっ!? なんで、どうしてこの場でボケたでござるか!?』

 

 あ、ボスタフと射干玉の声がシンクロしたわ。

 

『シンクロとかエクシーズとかリンクとかではなく!!』

 

 だってぇ、見た瞬間にボスタフって名前が出てきちゃったんだもの。だからつい言っちゃった。

 

『まったくもう、ボケるのは拙者の役目でござるよ!! 大体最初に拙者が"コン殿"と言ったというのにボケるなど……あ! だから地の文含めてここまで一切"コン"という単語が出てこなかったわけでござるな!?』

 

 えへっ、ごめんね。

 

「冗談々々。コンちゃん、よね?」

「お、おう……なんでぇ冗談か……寿命が数年縮まった気分だったぜ……」

 

 そう言いながら、コンちゃんは額の汗を拭うような仕草をしました。

 加えて、テンションが乱高下したことで冷静になったのか私のことを改めて上から下まで見てきます。

 

「ってか、さっきまではそのご立派なお山(おっぱい)に気を取られてて気付かなかったんだが、その羽織……まさか、あの技術なんたらの中の一番ヤベーのと同じ……」

「え? ええ、そうよ。自己紹介がまだだったわね。私は四番隊隊長の湯川 藍俚(あいり)。よろしくね」

「はーいっ! よろしくお願いしまーすっ!!」

 

 隊首羽織を軽く見せつけつつ挨拶をすれば、一秒前の警戒心はどこへやら。猫なで声を上げながらコンちゃんは私に向かって飛びついてきました。

 具体的には胸元目がけて。ヌイグルミの身体全身を埋もれさせる勢いで。

 

『かーっ、ぺっ!! まったくこれだからヌイグルミは!! 小さい身体とヌイグルミ特有の見た目は愛らしいという特徴を存分に利用しまくってるでござるよ!!』

 

「コンちゃんが言っていたのは多分、十二番隊の涅隊長のことかしら? そんな警戒するような事をされたの?」

「ああ、柔らけぇ……暖けぇ(あった)……ルキアの(ネエ)さんすまねぇ……オレ様これから、藍俚(あいり)(ネエ)さん()の子になる……」

「あらら」

 

 聞いてないわね。完全に蕩けた顔で私に身を任せている。

 

「……まあ、とりあえず放ってはおけないし。詳しい話は四番隊(ウチ)で聞くわね。コンちゃんもそれでいい?」

「もうどうでもいい……このままずーっとこうしていたい……」

 

 ……うん、じゃあ問題ないってことで。

 

『ところで藍俚(あいり)殿、このまま帰るのですかな? 確か本来ならば、十二番隊の皆さんへのお礼のためにここまで来たはずでは?』

 

 あ! あー……その辺はまた今度で。

 報告とか受けても「ああ、そうですか」で終わりそうな性格の人ばっかりだし。改めてお礼の手紙でも出しておけばいいわよね。

 強いてあげれば差し入れの品物が無駄になったくらいだけど、それもこっちで処理するから実質被害は無し。

 

壺府(つぼくら)殿がちょっと泣くくらいでございますな。甘い物でしたから』

 

 

 

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「あ、隊長お帰りなさい」

「おおっ、おおおっ!! なんとココにも美人のお姉さんが!! しかも藍俚(あいり)(ネエ)さんに負けねえくらいでおっぱいも大きくて……まさかココが理想郷だったのか!?」

「えええっ!? た、隊長なんですかそれぇ!? なんでヌイグルミが喋って動いて……せっかく見た目はちょっと可愛いのに、言ってることがぜんぜん可愛くないですよぉ……!!」

 

 コンちゃんを連れて隊首室まで戻ってきたところ、勇音が出迎えてくれました。

 そしてその勇音を見た途端、胸元に抱いていたコンちゃんが大喜びです。

 この子も美人だもんね。自慢の副隊長よ。でも、この子は私のものだから見るだけね。

 

「留守番、ありがとうね勇音。何も無かった? それと悪いんだけどお茶を二人分用意してもらえるかしら? あ、もしかして勇音も話を聞きたい? だったらもう一人分追加でお願いね」

「え、あ、はい、特に何もありませんでした。それとお茶ですか? すぐにご用意しま――って隊長!! そうじゃなくて説明を、説明をお願いします!!」

 

『おお、ノリツッコミでござるよ!! 勇音殿も成長しておりますなぁ……!!』

 

 ちゃんと「何も無かった」って報告してるのもポイント高いわね。

 

 

 

「――というわけで! オレ様は一護の身体に入っていたは良いんだが、気がつきゃ尸魂界(ソウルソサエティ)に来てたってわけなんでさぁ! 急に気を失った時にゃ焦ったぜ!! まあ、すぐに意識を取り戻すと勇敢にも辺りの調査を始めたんですけどね!!」

 

 勇音がお茶を用意してくれるのを待ってから、説明会を始めました。

 まずは私とコンちゃんとが出会うまでを。続いて、コンちゃんが黒崎さん家の居候(どういう立場か)という説明を勇音にしました。

 そしてようやく、コンちゃんによる「どうしてオレ様が尸魂界(ソウルソサエティ)にいるのかの説明」の番になりました。

 部屋に備え付けられた来客用のテーブルの上で熱弁を振るいだしたわけですが……

 

「これって……」

「はい、そうですよね……転界結柱の転送……」

 

 勇音と二人、ヒソヒソ話をします。

 コンちゃんは改造魂魄だし、空座町にいたわけだし。巻き込まれてしまうのも、その後で意識を取り戻すのも当たり前です。

 ただ、すぐに意識を取り戻したって辺りは嘘だと思う。自分で勇敢にもとか言ってるし。

 死んだふりでもしてたんじゃないかしら?

 

「そうして探索を始めたオレ様の前に現れたのが、あのナントカ開発局の面々だったわけで! 怪しい見た目だし強え連中だったわけですが、それをバッタバッタとなぎ倒しまして! ですがそのとき、素敵なおっぱ――お姉さんが登場しましてね!」

 

 今、おっぱいって言いかけたわね。

 勇音も気付いて、ちょっと怪訝な表情してるわ。

 

「オレ様、女は殴れませんから……それにそのお姉さんの話を聞いて、そのナントカ開発局へ行こうと心に決めたわけです!」

 

 多分その美人のお姉さんって、采絵(トルエ)さんね。

 見た目は熟れた美女って言葉が似合う、巨乳で色っぽいお姉さんなの。白衣の胸元をガバッと大きく開けてて、谷間を見せつけているのが特徴よ。

 でも、その谷間から巨大な手が飛び出して襲いかかってくるから油断は厳禁ね。何しろ彼女、技術開発局の研究素材捕獲科の科長だから。

 あの谷間に見とれていると、アッという間に無力化されるわよ。

 

 ……あ、でも感触は本物と変わりませんでした。

 

『アレは中々どうして、得がたい経験(かんしょく)でしたな!!』

 

「ところが! 行った先では人を人とも思わぬ人体実験の日々! いくらオレ様が改造魂魄だからってやっていいことと悪いことがあるだろうが!! チクショー! なにが『頭髪が全部真っ白になるくらい気持ちいい』だ!! とんでもねえ地獄にダンクシュート決めやがって!!」

 

 明後日の方向に向かって叫ぶヌイグルミ。シュールな光景ね。

 

 ……というかコンちゃん、自分が本来は存在しちゃいけない改造魂魄だってこと忘れてない? 本来なら、見つかったら破棄されるはずの存在なのよ?

 私も一応、気を遣って改造魂魄って言葉は口に出さなかったのに……自分で言っちゃったけどいいの?

 

「挙げ句の果てにゃ、散々人の身体を玩んだところで『もっと良い研究素材が手に入ったからもう帰れ』とか言いやがったんですよ!! ああっ、思い出したら腹立たしいやら悲しいやら助かって良かったと思うべきやら!!」

 

 感情のやり場に困ったのか、頭を抱えて苦悩しています。

 しかし、これでようやく謎が解けました。

 

 コンちゃんの言う「もっと良い研究素材」というのは……間違いなくアレよね、因幡の事件の時の……

 捕まえた時点のコンちゃんは改造魂魄という珍しい存在だったのに、その後すぐにもっと技術的に進んだ存在が大量捕獲出来たから、注目度が一気に下がって……

 最初に「放置プレイ」とか言っていたのは、実験されなくなって用済みで捨てられたってことでしょうね……研究素材として保管しておくにも維持費が掛かるし……

 

『その結果、九条殿とコン殿の奇跡のすれ違いが起こってしまったわけでございますな!! いやはや、拙者の群青(ぐんじょ)色の脳細胞を駆使しても分かりませんでした! 真実は今は一つ! 割ったら二つ!!』

 

 本当にねぇ……

 って、そうよ! 九条さんと引き合わせてあげようと思ったのに、なんですれ違っているの!?

 

「隊長……その、この子さっき改造魂魄って……ということは、九条さんの……」

「ええ、そうね。一応関係者ってことになるのよね……」

 

 そして再び繰り広げられる、勇音と私のヒソヒソ話。

 そんな私たちに気付かないまま、コンちゃんはひとしきり悲しみのポーズを取っていたかと思えばそれも飽きたのか、テーブルの上をトテトテ歩き始めました。

 

「あ-、話してたら喉が乾いた……あ、お茶頂きますね……って、オレ様ヌイグルミだから飲めねえっての!! 茶菓子も食えねえ!! でも用意していただいてありがとうございます!!」

「ど、どういたしまして……?」

 

 ちゃんとお礼が言える子なのね。

 いえ、そうじゃなくて!

 

「なるほど、コンちゃんが尸魂界(ここ)にいるのはそういう理由だったのね」

「そうなんスよ! ボロ雑巾みたいに捨てられるし! オレ様がいねえってのに一護のヤローは全然迎えに来ねえし! もういやだ! だからオレ様、これからはこちらにご厄介になろうと思います!!」

「「……え?」」

 

 私と勇音の声が重なりました。

 

「ここにゃ藍俚(あいり)(ネエ)さんもいますし、勇音の(ネエ)さんもいます! 他にも美人死神がわんさか! ここで働かせてください!」

「でもコンちゃん、基本は義魂丸でしょ? 尸魂界(ソウルソサエティ)じゃ出番が無いっていうか……」

「雑用でも何でもやりますから、ここで働かせてください!!」

「いや、だからね。任せられる仕事も無いし……」

「今日からオレ様、死神になりますから! ここで働かせてください!!!」

「わかったからちょっと静かにしてぇ!!」

 

『一回ずつ"!"を増やしている辺り、熱意マシマシでございますな』

 

 そんな熱意、いらない……

 というか私は、コンちゃんを現世に押しつけ――もとい、送り届けることしか頭にないわけで……

 

『一瞬、本音がスケましたな』

 

「隊長……まさか……」

 

 勇音もそんな顔で見ないで!! 雇わないから! というか雇うはずないでしょ!!

 

 ……えーっと……どうやって説得すべきかしら……

 コンちゃんの性格からすると……

 

「ねえコンちゃん。四番隊(ウチ)で働くのも良いんだけど、あなたに是非とも頼みたい仕事があるの」

「オレ様に!? 是非!? そ、そいつぁいったい……!?」

 

 食いついてきました。

 目をキラキラさせながら、食い入るように耳を傾けてきます。

 

『ヌイグルミなので、目も耳もよく分からんでござるよ』

 

 チャチャを入れないで!

 

「昨日、現世の駐在任務に赴いた死神がいるの。でも現世の事は不慣れだから、コンちゃんに補助(サポート)をお願いしたいのよ」

「あー、また現世ですかい? 確かにオレ様、慣れちゃいますが……」

「ちなみにこんな子よ。先輩として手取り足取り、ちゃんと教えてあげて欲しいの」

「是非とも行かせてください!!」

 

 アッという間に掌を返して、頼み込んできました。

 伝令神機に保存しておいた九条さんの画像を見せただけなんですけどね。

 

 ……うん。あのとき頑張って、色んな写真を撮った甲斐があったわ。

 太ももとか、それ以外とか。

 

 

 

 ……あ! 書類を提出しないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、またこの町に来るなんて思わなかったわ……」

 

 眼下に広がる都会的な町並みを眺めながら、そう呟きます。

 ヌイグルミを同伴しながら。

 




コンと出会って、現世に送り届けました。
おしまい。

やってることはそれだけなのに……どうしてこんな……

●ボスタフの名前
本文中で「ルキアから聞いた」と書いておいてなんですが。
多分(この世界だと)ルキアはボスタフの名を知らないと思う。
(原作だと、破面篇で黒崎家に正式に居候していた頃に知る機会がありそうですが。この世界だと恋次とイチャコラしてたはずなので)

●コンが尸魂界に来た理由。
本文中の通りです(そして原作通りでもあります)
詳しくは、単行本41~45巻(43は除く)のオマケページ参照。

それよりも。
(死神の力を失ったとはいえ)一年半くらいコンが不在だったのを一護は気に掛けなかったんでしょうかね?
(お盆篇では)一勇(かずい)の子守りまでさせてるのに……
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