お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第293話 始まりは子供の悪戯

 お待たせしちゃってごめんなさい。直前までちょっと手が離せない用事があって。

 それで今日はどうしたの? 瀞霊廷通信の取材って話らしいけれど、また四番隊についてかしら?

 

 ……え? ドン・観音寺について? なんでそれを私に聞くの?

 まあ、別に良いわよ。私が知ってる限りのことになるけれどね。

 

 彼はね、現世のテレビタレント――大道芸人や演劇の役者みたいなものって言ったら、現世学を履修していない子たちにも伝わりやすいかしら?

 人前で芸や芝居を見せることで、人を魅了するのが仕事みたいなもので――

 

 あら、どうしたの? 不満そうな顔をしちゃって。

 え? 違う? 聞きたいのはそんなことじゃない?

 

 まさかとは思うけれど、あの事件について?

 

 ……やめておいた方が良いわよ。

 知る権利については否定しないけれど、四十六室から睨まれることになるだろうから。

 六車隊長だって良い顔はしないでしょうし、最悪の場合は瀞霊廷通信を廃刊に追い込まれてもしらないわよ。

 

 それでも知りたい?

 知る権利だけじゃなくて、伝える義務がある?

 これは檜佐木君だけじゃなくて編集部全員の意向?

 

 ちょ、ちょっと!

 そんなに熱心に頭を下げられても困るの!

 私も全容をしっかりと把握しているわけじゃないし、そもそもあなたたち、あの事件についてどのくらい知ってるの?

 

 ……ふむふむ、そのくらいね。

 となると、そうねぇ……ドン・観音寺――

 

 

 

 

 

 彼は非常に英雄的な人物で、そしてとてもミステリアスな存在だったわ。

 

 

 

 

 

 私が言えるのは、こんなところかしら。詳しく聞きたかったら、もう少しちゃんと調べてから出直してらっしゃい。

 

 

 

 

 

 ――瀞霊廷通信、編集部所属の某記者 取材メモの走り書きより抜粋

 

 

 

 

 ……

 …………

 ………………

 

 

 

 英雄的な人物で、ミステリアス……かぁ……

 物は言い様よねぇ……

 

 

 

 さて、と。九番隊の子たちが帰ったから聞きたいんだけど……何コレ?

 射干玉は何か知ってる?

 

 ……え? 本家へのリスペクト?

 

 今のでリスペクトできてたの? 本当に??

 信じるわよ! 信じて良いのね!?

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 虚圏(ウェコムンド)

 地平線の果てまで続く砂と、広大な暗闇とが支配する(ホロウ)たちの故郷のような世界。

 藍染惣右介の事件も片付き、ハリベルらの治世によって落ち着きと静寂とを取り戻したその世界も、今日は久方ぶりに騒々しさを復活させていた。

 

「のわああああぁぁっ!! 来る、もうそこまで来てるスよ~っ!!」

「振り返っちゃ駄目でヤンスよ~!!」

「うむ! 何も考えずに走るのだ!! 走らないと……」

 

 ネル・ドンドチャッカ・ペッシェの三人(と、ついでにペットのバワバワも)が、悲鳴を上げながら虚圏(ウェコムンド)の砂漠を全力で駆け抜けていく。

 彼らが口にしているように、脇目も振らず、後ろを見ることもなく。ただ愚直に前だけを見つめながら全力で、体力と呼吸の続く限り、一目散に。

 追いつかれることのないように、逃げるために。

 

 だが、自ら口に出して気になってしまったのだろう。

 ペッシェが走りながらそーっと、後ろを覗き見る。

 

「遊ぼう!」

「遊んでよネル!」

「久しぶりー!」

「ア ソ ぼ !!」

 

 そこには、十歳にも満たない子供の姿をした破面(アランカル)たちが――小柄であってもその多くは完全な人型としており、ヘッドホンのような仮面を頭に付けた百体を超える破面(アランカル)たちがいた。

 

「ほらやっぱりぃ!! もうすぐ後ろにいるからねぇ~っ!!」

「だああああっ!! なんで後ろを見たんスか!!」

「見ちゃいけねえって言ってたでヤンスよ!!」

 

 彼らの名は"悪戯小僧(ピカロ)"。

 個別の名を持たず、集団を一纏めでピカロとだけ呼ばれる特殊な破面(アランカル)

 彼であり、彼女でもあり、中には人型ではない(ホロウ)すらもが含まれる。個であり、集団でもあるという破面(アランカル)。 

 ネルたちを追いかけるピカロたち。その光景は、さながら作物の全てを食い荒らすイナゴの群れのようだ。

 

「遊ぼう」「遊んでよ」「えーっ! もう遊んでるじゃん!」「これ、鬼ごっこでしょ?」「楽しそう!」「待ってーっ!」「捕まえたら今度はネルたちが鬼ね!」「捕まったら針千本飲むんでしょ?」「ハリセンボンって何?」「しらなーいっ」「オイシソウ」

 

 彼ら彼女らの子供たちは、口々にそんなことを言い合いながらも追跡を止めることは無かった。

 ピカロたちは見た目通り、子供のように無邪気で、そして加減も物の道理も知らない。(ホロウ)の根源である欲望への忠実さを抑える理性も無い。

 加えてあの藍染ですら使いこなせずに「102」という十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)の番号を持っている。

 

「ネ、ネル!! なんとかしてネル様に連絡は出来ないのか!?」

「そ、そそそそそそうでヤンスよ! ネル様!! お情けを~っ!! でヤンス!!」

「はうわっ! そ、そっスね! ぜんぜん気がつかなかったスよ! ネル、なんとかやってみるスから!!」

 

 ペッシェとドンドチャッカの言葉に「今はじめて気がついた!」とばかりに衝撃を受けつつ、ネルは両目をぎゅううううっと瞑って精神を集中し始めた。

 

「んぎ、んぎぎぎぎぎ……」

「頑張れ! ネル!! 頑張るのだ!!」

「ファイトでヤンスよ!!」

 

 ペッシェたちの必死の応援の声が続く中、ネルはゆっくりと目を開けると片手を頭を後ろへと廻す。

 

「……駄目(だ~め)だったス~」

「ノオオオオッ!!」

「ネルがみんなと一緒に遊べる時間を邪魔スたくねって言ってるスよ」

「ネル様ああああぁぁっ!! 何故今そのようなお気遣いをおおおっ!!」

「でもお心遣いは感謝するでヤンス~っ!!」

 

 発端は、本当に些細なことだった。

 子供のようなネルの姿と、ムチムチグラマーなネリエルの姿。二つの姿へ自由に変身できるようになったネリエルだが、基本は大人の姿で(ネリエルとして)過ごしていた。

 とはいえ常にネリエルのままではネルに不満も溜まるだろうということで、ときおり子供の姿のままペッシェらと思い切り遊ぶ時間というのを定期的に作っていた。

 ドMのネルにとっては、泣くくらい本気で追いかけ回す「無限追跡ごっこ」に興じる時間というのは、中々どうして。他の何ものにも代えがたい瞬間でもあったのだ。

 

 ただ、今回ばかりはいつもと勝手が違った。

 

 ピカロが出没しそうな場所には絶対に近づかないように注意をしていたのだが、所詮は相手は子供である。子供の無秩序な思考が、ネルたちの「ココには出てこないだろう」という予測とピタリ一致してしまったのだ。

 偶然とは恐ろしいものである。

 

「ホントに危ねくなったら助けっから、それまではネルと一緒に遊んでくれ……だそっスよ」

「今! 今がまさにその時なのだああっ!!」

「お情けが欲しいでヤンスよおおっ!!」

「遊ばれる! ピカロに遊ばれるううぅぅぅっ!!」

 

 ピカロたちの「遊び」は加減がない。壊れて動かなくなるまで遊び倒すのが、通例だ。

 一応、ハリベルの統治によって、ピカロもとりあえずは制御されている。壊れるまで遊ばれる回数は減っている……のだが……

 ……所詮は子供の集団である。

 律儀に言うことを聞き続けるわけがない。監視の目が無ければ、言いつけをコロリと忘れてしまうのも子供らしさである。

 

「いらなーい! そんな子供らしさはいらないのだああぁぁっ!!」

 

 ついでに言うなら、実力だって木っ端の破面(アランカル)では太刀打ち出来ないくらい強い。十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)は伊達ではない。

 現在の現役十刃(エスパーダ)ほど強ければ、遊び相手に選ばれても生き残れるだろうが……逆に言えば、弱い者にとっては壊れるまで遊ばれてしまう。

 そういう背景があって、逃げている最中になんとかネリエルに助けて貰えないかとドンドチャッカとペッシェは頼んだわけなのだが――

 

 どうやらネリエルからすれば、まだそこまで危険ではないようだ。

 

「ハリベルは何をやっているのだあああぁぁっ!! ピカロの面倒を見るのも仕事であろうがあぁっ!! 職務放棄かああぁっ!?」

「あ、そったらこと言うとハリベルさん怒るスよ?」

「というか、あの三人が激怒するでヤンスよ」

「では藍俚(あいり)ぃぃっ!! 藍俚(あいり)で良いから助けてえええぇぇっ!」

「隊長さんは死神だから、来てくれるとは思えねっス」

「つまりオラたちが自力でなんとかするってことでヤンスか~!!」

 

 悲鳴を上げるドンドチャッカを横目に、ペッシェは決意を込めてその場に立ち止まる。

 

「でえええぃ、ならば仕方あるまい! 覚悟を決めるぞ兄者、プランBだ!」

「了解でヤンス! ……プランBってなんでヤンスか?」

「この間考えたであろう! ホラ、まずは兄者が飛び上がって――ゴニョゴニョ――」

「ああ! アレでヤンスか!! 行くでヤンスよ!!」

「……ネルはここで"ふんがー"って言うべきスかね?」

 

 と、そんなやりとりをしていれば当然、ピカロに追いつかれてしまうわけで。作戦を実行に移す暇なんて無くなってしまうわけで。

 残念、プランBは幻となってしまった。

 

「つかまえた!」「次はネルたちが鬼だよ!」「遊ぼう!」「グウウウ」「おなかへった」「ハリセンボン食べる?」「つかまったから罰ゲームでしょ?」「マル カジリ」「えー、ネルはだめだってばー!」「なぐるだけでしょ?」「腕をちぎって良いって」「バラバラだよバラバラ!」

「「「ひ、ひいいいっ!!」」」

 

 周囲をピカロたちに取り囲まれ、物騒な相談が繰り広げられる。その輪の中心でネルたちが震えていたときだ。

 突如、どこからか放たれた虚閃(セロ)がピカロたちを飲み込んだ……当然、中心にいたネルたちも巻き込んで、砂漠に巨大な砂柱を上げる。

 

「ぷはーっ」「なに今の?」「虚閃(セロ)だったね」「どこから来たんだろ?」「ぺっ、ぺっ! 砂が入っちゃった」「ジャリジャリしてる~」「スナ ウマ イ」「そんなの食べちゃ駄目だよ」「お腹壊すよ?」「でもお腹には溜まるよね?」「えー、美味しくないよ」

 

 その勢いと余波も収まったところで、砂の中からピカロたちが続々と顔を出した。

 虚閃(セロ)を受けたにも関わらず、まるでダメージを受けた様子もない。ただ砂中に埋まっただけのようだ。

 というか、虚閃(セロ)を打たれたことすら忘れたように、各々が不毛な会話を続けていく。その途中、一人のピカロが気付いた。

 

「あれ、ネルたちは?」「いないねー」「消えちゃった?」「さっきの虚閃(セロ)で?」「ちぇー、つまんないの」「じゃあ別の遊びだね」「ルドボーンとか?」「アイツつまんなーい!」「じゃあ大虚(メノス)の森――」

 

 ネルたちの姿が見えなくなったことで興味を失い、また別の遊びを始めようとしたのだが――

 

「!」「アレ?」「……!?」「!!」

 

 奇妙な霊圧を感じ取り、彼らは一斉に砂漠の一点を見つめる。

 そこには、顔の半分だけを髑髏面で覆った寂しげな顔の女性が立っていた。

 突然現れた女性にピカロたちは興味を抱き、彼女へと一斉に近づいていく。

 しかし女性は子供たちを一瞥したかと思えば、その姿を空気に溶け込ませるようにして消え去ってしまった。

 

「すごーい!」「何今の!?」「もう一回! もう一回やって!!」「もういなくなっちゃったから無理だよ」「じゃあ探そうよ!」「追いかけてもう一回やってもらおう!」「賛成!」「面白そう!!」「みんなで探せばすぐ見つかるよ!」「じゃああのお姉さんを探しにいこう!」「最初に見つけた人が勝ちね!」

 

 文字通り、新たな玩具を見つけた子供のように。

 ピカロたちは好奇心の赴くまま一斉に黒腔(ガルガンタ)を開き、断界(だんがい)の中へと入っていく。

 その途中、後ろの方で順番待ちをしていたピカロたちが何やら不思議そうに口を開いた。

 

「でも変じゃなかった?」「ナニ ガ」「女の人の他に、誰か知ってる人の霊圧があったよね!」「そうだっけ?」「うーん……」「えー、あったでしょ!」「誰の?」「思い出せないや」「じゃあ、それが誰か思い出した人も勝ちね!!」

 

 

 

 

 そして、砂漠が静寂を取り戻したと思ったところにまたしても喧噪が訪れた。

 

「ぶはあああぁっ! ほ、本当に死ぬかと思ったでヤンス……」

 

 砂の中からドンドチャッカが顔を出す。ネルやペッシェ、バワバワがそれに続く。

 

「た、助かったスね……」

「ああ、あの虚閃(セロ)を受けたときのドサクサに紛れて砂の中に身を隠す! 機転が利いていたぞバワバワよ!!」

「~~~!!」

 

 褒められて嬉しいのか、バワバワが得意げに胸を張る。

 

「よし! 今の一連の行動をプランBと名付けよう!」

「あれ? プランBはもう決まってたような気がするでヤンスが……」

「細かいことは気にす――む、どうしたのだネルよ?」

「いや、なんか……知ってる霊圧があったような気がするって言ってるっスよ……」

「知っている霊圧? それはつまり、ネル様がご存じということか?」

 

 ネルはキョロキョロと辺りを見回し、やがて一点を指差した。

 

「あーっ! あそこにチルッチさんがいるっスよ!」

「ホントでヤンス! ということはあの虚閃(セロ)はオラたちを助けるために……!?」

「だとしたらもっと早く助けてくれても良かったのではないか!? 大方、私たちがピカロに襲われているのを見物して……けんぶつ……その、だな……」

「そんなに姿勢を低くして何をしているでヤンス?」

「いや、ちょっと腰が痛くて。決して頑張ったらこの距離でもパンツが見えそうとか思って視線を低くしているわけでは――どわあああぁぁっ!!」

虚弾(バラ)が降ってきたっスよ!」

「ペッシェ~、生きてるでヤンスか~?」

 

 

 

 

 ネルが離れた場所にある小高い砂丘を指し示す少し前。

 その上にたまたまいた(・・・・・・)チルッチは、ウルキオラに向けて声を掛けていた。

 

「アンタも人が良いわね」

「偶然だ。自分の調子を確認するために虚閃(セロ)を放っただけだ」

「ふーん……」

 

 ネルたちがピカロに見つかり、追いかけっこが始まった。

 それを偶然目撃したチルッチはどうなるものかと見物をしていたところ、偶然にもウルキオラが通りかかり、包囲していたピカロ目がけて虚閃(セロ)を放った。

 ただ、それだけのことだ。

 

「ま、あたしには関係ないけどぉ」

「お前こそ、あの三人を助けに行こうとしているように俺には見えたが……まあ、どうでもいいことだな」

「……可愛くないヤツ」

 

 そう告げると、ウルキオラは背を向け飛び去っていく。

 不満たらたらに小声で呟いたところで、チルッチの探査回路(ペスキス)に引っかかるものがあった。

 

「あら、何アイツ? さっきまでいなかったわよね……?」

 

 彼女が見つけたのは、ピカロが見つけたのと同じ女性だった。

 遠目から観察していたところ、その女性は突然現れ、かと思えば溶けるように消えて、それを見たピカロが大はしゃぎをしている。

 

「あれ? ちょっと待ってピカロ(あいつら)! 勝手に黒腔(ガルガンタ)を開いてる!! まさか、現世に行くつもりじゃ……」

 

 黒腔(ガルガンタ)が開かれたところで、チルッチは懐から伝令神機を取り出した。

 

「……ま、まあ一応藍俚(あいり)に連絡くらいはしておこうかしら。別にあたしにそんな義理とかは無いんだけどさ……一応、ね……」

 

 そう自分に言い訳しつつ、伝令神機を操作する。

 尸魂界(ソウルソサエティ)にいるであろう湯川藍俚(あいり)へと通話をしようとたところで――

 

虚弾(バラ)!!」

 

 何故か猛烈なむかっ腹を感じ、チルッチは渾身の虚弾(バラ)を放った。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)もすっかり暖かくなって、もう春の陽気でポカポカしています。

 1話前で「寒い」とか「冬も本番」とか言っていたのが嘘みたい。

 

『話数とかは、藍俚(あいり)殿が仰るのはどうかと……そういうのは拙者の役目ですから!!』

 

 でも、もう言っちゃったし……春になったのは変わらないし。

 しかもこれ、前話から数えて二度目の春なのよ。

 コンちゃんを現世まで送ってから、大体十五ヶ月くらいは経ってる計算ね。

 

 十五ヶ月かぁ……

 あら? ということは、一年と三ヶ月?

 ……藍染の事件が片付いたのは十月だったから……計算すると……

 

「そういえば、もう三年生なのね」

「はい? 何がですか隊長?」

 

 思わず口に出た言葉に、勇音が反応しました。

 不思議そうに私の顔を見つめてくる彼女に、何でも無いとばかりに軽く手を振ります。

 

「え、ああ別に大したことじゃ無いの。ただちょっと、黒崎君や織姫さんたちのことをね」

「皆さんがどうかしたんですか?」

「そろそろ三年……あと一年で卒業するなって思っただけよ」

「ええーっ! もうそんな時期なんですか!?」

「現世の高等教育は三年だからね。六年制の霊術院とはまたちょっと違うし」

 

 そんな会話をしながら、ふと思い出しました。

 

「そういえば、黒崎君の霊力を戻す方法も、まだ完成していないのよね……」

「そう言われれば、そうでしたね。なんとかならないんでしょうか?」

「浦原さんが集中しているみたいだから、そこは続報を待つしかないわよね」

 

 ……あれ? そうよね、三年生になったのよね?

 こんなに音沙汰が無くていいの!? アレ、仮にもアレって主人公よね!? けど事件らしい事件なんて殆ど起きてないし……

 活躍とかしなくていいの!? 主人公でしょ!!

 

『まあまあ藍俚(あいり)殿。そういう時期もあるということでございますよ』

 

 ま、まあねぇ……でもこのまま行くと、一護は大学生になるのよ?

 主人公が大学生でいいの!?

 ……別に良いのかしら?? むしろ十六歳であんな大事件に巻き込まれている方がよっぽど異常だし……

 

『高校生で事件に巻き込まれたかと思ったら、三十七歳になっても推理して謎を解く羽目になったパターンもありますから! 何にも心配することはありませんぞ!!』

 

 そうよね! 変な薬を飲まされて身体が小さくなって幼なじみの家に転がり込んでいるわけでもないし!!

 心配するだけ無駄――

 

「隊長、伝令神機が鳴ってますよ」

「あら本当」

 

 机の上に置いていた伝令神機に着信? 誰からかしら?

 あら、この番号って……

 

「もしもしチルッチ? どうかしたの」

『あ、藍俚(あいり)!? 藍俚(あいり)よね!』

 

 通話を開始した途端に聞こえてきたのは、チルッチの焦ったような声でした。

 鬼気迫るって言うか、切羽詰まった様子っていうか……まさか、虚圏(ウェコムンド)で何かあったのかしら?

 

「ええ、そうよ。虚圏(そっち)で何かあったの!?」

『何かあったわけじゃなくて、ただ一応伝えておかなきゃって思って。ピカロって覚えてる!? 前に言ったと思うんだけど』

「ピカロ? それって、子供の破面(アランカル)の集団っていうあの?」

 

 破面(アランカル)という、言葉を聞いて勇音の表情に緊張が走りました。

 

『そう、そいつ! そいつらがどうも現世に行ったみたいなのよ』

「ええっ!! で、でも確かハリベルが抑えているって……」

『ガキがいつまでも大人しく言うこと聞いてるわけないじゃない!!』

 

 うわぁ……でも、ご尤もな理屈だわ……

 

「そ、それで、現世のどこに行ったかわかる!?」

『そこまでは知らないわよ! 何度も言うけど、ガキが勝手に動いているの! 予想なんて出来ないってば!!』

「そうよね……となると、現世に駐在している死神たちにまずは警告を――」

 

 いえ、その前に総隊長に報告をあげるべきかしら? そんなことを考えた時です。

 伝令神機の向こうが何やら騒がしくなり始めました。

 

『あ、ちょっと何すんのよ! ちょ、ネリエル!? 今はあたしが藍俚(あいり)と――』

「ネリエルもいるの!? え、どういうこと!?」

『もしもし湯川さん!』

「ネリエル!?」

 

 聞こえてきた声が変わりました。

 

 これ、漏れ聞こえてきた会話から察するにチルッチから伝令神機を奪い取って会話をしているのよね……

 つまり、それだけ緊急の要件――無礼を承知で一刻も早く伝えたい何かがあるってことかしら?

 

『お願い! 彼女を……ロカちゃんを助けてあげて!!』

「ロカちゃん……って誰のこと!?」

 

 ネリエルの悲痛な訴えが、耳に届いてきました。

 




(三人称が混ざっているのは、某斬魄刀に備えるためでもあります)

●この辺の話
小説 BLEACH Spirits Are Forever With You より。

時系列は、完現術者(フルブリンガー)が出るちょっとだけ前。
具体的に言うと「一護たちが2年生から3年生になる辺り(春頃)」に起きた、現世と尸魂界と虚圏がちょっと大騒ぎになるお話。

(ドン・観音寺が主役で、剣ちゃんが大暴れして、一護はうなぎ屋でバイトしている(特に出ない)作品)
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