お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第295話 ニアミスが続く

「現世へと向かう破面(アランカル)とはの……藍染惣右介の一件以来、大人しくしておった彼奴らが……」

「突然言われても、総隊長のお立場ではすぐに信じられないのも重々承知しています。確かに証拠はありません。ですが、信用できる情報なんです。追っ掛け、技術開発局も霊子観測して異変を報告してくるとは思いますが……」

 

 渋面を作る総隊長へ向けて、私は頭を下げながら食い下がります。

 

 現在、一番隊の隊首室にて総隊長を説得している最中です。

 え? 報告なら伝令神機で十分だろう? 内容が内容だし緊急を要するだろうから、その一報だけで事足りるだろう?

 

 それは、そうなんですけどね。

 

 実際、四番隊を出た辺りで一番隊には伝令神機で前もって連絡は入れておきました。

 ですがソレとは別で、こうやって総隊長に直接報告を入れる必要があるんです。伝令神機の通話だけだと、細かいニュアンスとか伝わらない恐れがありますから。

 なのでこうやって、四番隊から直接一番隊の隊舎までやってきました。

 

 走って。ええ、走ってです。そりゃあもう、物凄いスピードで。

 

『あれはもう……道路交通法があったら、一発で免許停止になってるレベルの速度でしたな!』

 

 オービスにも映らないくらいの速度で走ってたから大丈夫でしょ。

 

「……湯川。お主がこの情報をどうやって知りえたのか、この際問わぬ。お主の交友関係についても、とやかく言うつもりは無い。お主の人格についても、理解しているつもりじゃ」

「…………」

 

 バレてますよね。そりゃあ、そうですよね。

 だって「虚圏(ウェコムンド)にいた破面(アランカル)が現世に行った」なんて情報、現地で目にしてなきゃ知ることは出来ないですし。

 しかも、十二番隊が観測するよりも先にとか。

 

『山本殿の腰をマッサージしたり、失った腕を治療したり、雀部殿のお茶会をサポートしたりと、業務外のところで点数稼ぎまくりの藍俚(あいり)殿でございますからな!! その辺のおかげでお目こぼしをして貰っているわけでござるよ!! 盆暮れの付け届けは欠かしたことが無いのが、藍俚(あいり)殿の自慢ですからな!!』

 

 いやいや、付け届けって!

 あ、でも信じて貰えているっていうのは、ちょっと嬉しいかも。

 

『本性を知らないでございますからなぁ……虚圏(ウェコムンド)に行っているのも"山登り"ですからな! ぬふふふふ……!!』

 

 ……なんだかちょっとだけ、申し訳ない気分になってきたかも……

 

「そして"破面(アランカル)が現世へと向かった"という事実までならば、異論を口にするつもりも無い。お主の到着とほぼ同じ頃、十二番隊より空座町を中心に破面(アランカル)出現の報告を受けておるからな。万が一に備え、各隊への通達も先ほど済ませた」

「でしたら……」

「ただ、その破面(アランカル)が現世へと向かった理由が、どうにも納得できぬのだ」

 

 すぐにでも対応を――そう言おうとしたところで、総隊長が渋い顔をしていた理由を教えてくれました。

 なるほど……そうよね……そりゃあ、そうよね……普通はそうなるわよね……

 私だって、無茶を言ってる自覚はあるもの。

 

「現世に向かったのは、別の破面(アランカル)を追いかけただけ。何故追いかけたのかは"(こども)ゆえの気まぐれ"でしかない。加えて、その童が追っている破面(アランカル)を保護せよと言われては――」

「総隊長! 失礼致します!!」

 

 すっぱい言葉を話していたところで、隊首室に一人の隊士が飛び込んできました。

 

「――何事か!!」

裏挺(りてい)隊の伝令部より報告です! 尸魂界(ソウルソサエティ)に旅禍が現れたとのこと!」

「なんじゃと!?」

 

 その報告に、総隊長が反射的に視線を私に向けてきました。おそらくは「これもさっきまで言っていた破面(アランカル)の仕業なのか?」って聞いているんだと思いますが……

 そんな目をされても私は知らないですってば。

 でも、もしかするとピカロが尸魂界(ソウルソサエティ)まで来たのかも知れませんね。そういう意味では……

 

 ……よし! 一応、頷いておきましょう。

 

「旅禍の出現位置は!?」

「東西南北それぞれの門付近に現れました! どうやら瀞霊廷内部へと侵入しようとしているようです!!」

「なんですって!!」

 

 あ、今叫んだのは私です。

 だって聞き逃せないことがあったんだもの。

 

「四門全てに! じゃあ、北門も!?」

「は、はい! 報告はそうなっています! 詳細はまだ不明ですが……」

「そんな……」

 

 ということは……斷蔵丸師匠が危ないってこと!?

 

『お忘れかも知れませんが、斷蔵丸殿は北門の門番ですな。そして藍俚(あいり)殿が霊術院に入れるように鍛えてくれた御仁でもあります。なので今もこのように師匠と呼び慕っております』

 

 その説明、いらないでしょ? 師匠のことは皆知ってるはずだもの。

 

『いえいえ一応は必要かなと思いまして。あと藍俚(あいり)殿? 門番である以上、危険も仕事の内でございますぞ。それと他の三門の門番の方々はご心配なさらないのですか?』

 

 ……わー、西と南と東門もしんぱいだわー

 

「確認しておくが、その旅禍は滅却師(クインシー)たちではないじゃろうな?」

「詳細は不明ですが(ホロウ)――情報が正しければ小柄な破面(アランカル)とのことです」

 

 私が師匠のことを心配している間に、総隊長は総隊長で確認を取っていました。

 そっか、滅却師(クインシー)が攻めてくる可能性もあったのよね。時期的にはそろそろなのかしら?

 そろそろ千年経つワケだし、その復活に対する準備も死神(こっち)はしているから……

 ……あら? ということは一護ってそのタイミングで霊力が復活するのかしら?? 今考える事じゃないんだけど、どうしても気になっちゃう!

 気になっちゃうんだけど、今は気にしない!! それより死神のお仕事が優先!!

 

「総隊長! 四番隊、動かせていただきます!」

「無論じゃ、そちらは任せるぞ。護廷十三隊の各員に通達。各部隊は直ちに近くの門へ応援に向かえ! 細かい指揮は各隊長へと一任する!」

 

 総隊長が命令を発したのを背中で聞きながら、私は一番隊の隊舎を飛び出して伝令神機で勇音に連絡を取ります。

 

「……あ、勇音? ……ええ、そうよ。そっちにも連絡が行くと思うけれど、各門が襲われているみたいなの。四番隊(ウチ)も現地へ援護に向かわせて。振り分けは任せるけれど、勇音は隊舎に残って指示を出して。私もすぐに戻る――」

 

 そこまで口にした瞬間、視界の端に光が走りました。それに遅れて、瀞霊廷全体を震わせるような重々しい轟音が響き渡ります。

 

「――か、ら……」

 

 慌てて音のした方角を振り返れば、遠くの方で黒煙が上がっているのが見えました。

 さっき一瞬だけ見えた光、あれが爆発の光なんだと遅まきながら理解します。立ち上り続ける煙の勢いは猛烈で、かなりの被害なのだろうことがここからでも理解できます。

 

「今の、聞こえた? あれは私が行くから、そっちはまず四門への応援を優先して。その後で、救援の人員を編成して」

 

 『分かりました!』という声が聞こえたのを確認してから、通話を終了します。

 あの位置と方角……おそらくは技術開発局、よね……何があったのかしら? 

 

 それになんだか、妙な霊圧も感じるのよね。

 

 コレ、どこで感じたんだったかしら……確か虚圏(ウェコムンド)で……

 ううん……それとは別の、なにこれ?

 昔、どこかで感じた霊圧が混ざっている……??

 

 一体、なんなのかしら……? まさか、何か妙なことが起きているの?

 

 ……え、一護抜きで?

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「大丈夫!? 怪我人はいない!?」

「ん? ああ、湯川隊長」

 

 爆発を確認してから、多分十分(じゅっぷん)も掛からない位だと思います。

 事件の現場は、予想通り技術開発局の一画でした。そこへと到着するなり声を張り上げて状況を確認しようとしたところ、阿近三席が反応しました。

 

「助かりました。あのままだったらどうなっていたことか……」

「あのままだったら……?」

 

 その表現に疑問を覚え、そっくりそのまま聞き返します。

 軽く見渡しただけでも技術開発局の局員やら、警備担当の隊士やらが大勢怪我をしているのが見えました。

 意識を失うくらい大怪我をしている子もいるみたいだけど、見える範囲では全員生きているみたいね。

 

「それ、どういう意味かしら? 私は救護に来たのよ」

「ええ、わかってますって。順を追って説明します」

 

 手近な怪我人に回道を使い、傷を癒やします。

 阿近三席や久南さん――妹のニコさんの方ね――といった、比較的元気な局員が怪我人を連れてきてくれます。

 そうやって治療と並行しながら、この現場で何があったのかを教えてくれました。

 

 

 

「ザエルアポロ……?」

 

 聞かされた説明は、思わず耳を疑うものでした。

 

「確認だけど、それは破面(アランカル)十刃(エスパーダ)だったザエルアポロ、よね? その、涅隊長が捕まえた……」

「あー……そりゃ、引っかかるのも当然っすよね。けど、そうです。技術開発局(ウチ)の倉庫の奥で標本になってるヤツですよ。間違いありません」

 

 私が言い淀んでいると、太鼓判を押すように肯定してくれました。

 

「……ザエルアポロは、そこで標本になってるわよね?」

「ええ、そうです」

「そのザエルアポロが突然現れて、暴れてここら一帯を破壊して、自分の標本を見つけて、最終的に逃げたのよね?」

「俺たちも信じられないんですよ。けど、その通りです」

 

 ……いやいやいや! あり得ないでしょ!?

 だってアレ、涅隊長に「百年後まで御機嫌よう」されたじゃない!

 いくら、ネムさんの身体を使って赤ちゃんプレイで復活する能力を持っていたからって、超人薬に侵されて心臓貫かれてたでしょ!?

 ホルマリン漬けにされているところ、私も確認したのよ!!

 しかもその標本、現在進行形で私も見ているし!

 

『不死鳥は、炎の中から、甦る。などと言いますし、そのくらいは楽勝なのでは? ザエルアポロ殿もそういう能力なワケですし』

 

 でもあの能力って多分、発動させるのに"自分の死"を認識しないと無理だと思うの。

 お薬で感覚が数万倍に研ぎ澄まされて、自分の死をゆっくり認識している間に"特殊召喚できない"って無力化されて標本にされたんでしょ。

 そもそも対象が除外されていたら、蘇生も転生もあったもんじゃないってば!

 

「……よく似た別人、あるいは複製……ちょっと前の霊骸みたいな物かしら?」

「その辺りはよくわかりませんね。観測データを解析すりゃ、何か出てくるかもしれませんけど」

「予め、何らかの用意をしていた? うーん……分からないわね……あ、怪我人はこれで全部? 瓦礫とかの下敷きになっている子はいない?」

「いないと思いますよ。一応、確認してきます」

 

 話を聞きながらも治療は進めていました。なので、見える範囲は全員完治済みです。

 それでも他にまだ誰か残っていないか尋ねたところ、確認のため阿近三席が一時的に場を離れていきました。

 

「……なんだ? もう終わっちまってんのか?」

「そのようですね。あの異質な霊圧は、もうどこからも感じられません」

 

 阿近三席がいなくなったのと入れ替わるように、別の声が聞こえてきました。

 それもよく知った声……具体的に言うと十一番隊……

 

「どうしてここにいるんですか? 卯ノ花隊長、更木副隊長」

「あら湯川隊長、ご機嫌よう」

「よう藍俚(あいり)

 

 無視できずに声を掛けたところ、さも「今気付きました」と言わんばかりの態度でお二人が挨拶してくれました。

 

「ご機嫌よう、じゃないですよ! 確か十一番隊は、門の外に出た旅禍対応の応援に行くはずですよね!? 総隊長からも、そう指示が出ていたはずですよね!?」

「ええ、そうですよ」

 

 にっこり笑いながら、卯ノ花隊長が肯定します

 

「ですが、こちらの方が面白そうだったので。つい足が自然に」

「こっちの方が面白い斬り合いが出来そうだったからな」

「…………」

 

 こ、この二人は……

 

『自由に生きておりますな! 実に自由でございますな!!』

 

 自由すぎるでしょ……

 いやまあ、卯ノ花隊長がこっちを優先したってことは門の方(ピカロ)はそこまで驚異ではないと思ったんでしょうけど……

 

『ですがその根拠は、今のところ"卯ノ花殿と更木殿の勘"のみですが』

 

 ……十一番隊の仕事、大丈夫かしら?

 

「あー! 剣ちゃんいたーっ!!」

 

 今度は何!?

 いや、わかっているのよ! 草鹿さんでしょ、一瞬でわかったわよ!!

 更木副隊長がいるんだもの、そりゃあ出てくるわよね!!

 

「やちる? お前、どこに行ってた?」

「あいりんのところ! でも剣ちゃんが気になってこっちに来たの」

 

 あら、更木副隊長が居場所を把握していなかったってことは、別行動を取っていたみたいね……

 ……え?

 

「私の所?」

「そりゃ、どういうこった?」

「そうだよあいりん! どういうことなの!?」

 

 まるで動きが連動しているみたいに、更木副隊長が顔を向けると草鹿さんは私の方を向きました。

 ほっぺた膨らませて「わたし怒っています」みたいな表情で。

 

「あいりん、今日は新しいお菓子を作る予定だったんでしょ!! だから、ちゃーんと四番隊のお台所で待ってたのに!!」

 

 ……草鹿さん、なんでそれ知ってるの?

 確かに、材料を注文はしたわよ? 受け取りが今日の予定だったわよ?

 でもそれは、誰にも言ってなかったわよ……

 

『鼻がきくというレベルを超えておりますな!! やちる殿もすっかり舌が肥えてしまったようで!!』

 

 ちゃーんとお台所で待っていたって……

 味見という名の完食するつもりだったのよねソレ……

 

「すんませーん、お待たせしました……って、ゲッ!!」

 

 間の悪いことに、と言いますか。阿近三席が戻ってきました。

 しかも二人を見るなり「ゲッ!」と嫌そうな声を上げています。

 

『十一番隊でございますからなぁ……精密機器が山ほどある技術開発局に、立ち入らせたくないのでございましょう! ああっ、駄目でござるよ!! そこには秘蔵のエロ画像が山ほど保管してある外付けHDが……!! 壊れる! 壊されてしまう!!』

 

 ……と、そういうことが起きそうだから、嫌がっていたのね。

 

 失言だと気付いたのでしょう。

 阿近三席はすぐに襟を正しながらお二人に頭を下げます。

 

「えー、十一番隊の皆さん。ご足労頂いたところ申し訳ありませんが、もう下手人は逃げちまったんですよ。あとの事は技術開発局の関係者でやりますんで、お引き取りを」

「そうでしたか。では、仕方ありませんね」

「チッ、つまんねぇな……気が乗らねえが、門の外のヤツの所にでも行くとすっか」

「駄目だよ剣ちゃん! お仕事はちゃんとやらないと!」

 

 斬り合いの気配が無いと悟り、卯ノ花隊長たちはさっさと引き上げていきます。

 その姿を見送り続けて豆粒のように小さくなった辺りで、安堵のため息が聞こえてきました。

 

「……ありがとうございました」

「え?」

「いや、少し前に話したでしょう? ザエルアポロが逃げたって。あれ、どうも湯川隊長の霊圧を感じ取って逃げたみたいなんですよ」

「私の霊圧を?」

「ええ、確か『この霊圧はハリベルを屈服させたヤツだね』――だったかな? そんなことを言いながら消えたんです」

 

 ……まあ、不思議じゃないわね。

 虚圏(ウェコムンド)に行った時点で、霊圧のサンプルくらい取られていてもおかしくないし。

 

「もし湯川隊長が先に来てくれなかったら、順番的には十一番隊のあの人ら(・・・・)が来てたでしょうから。そうなると、ほら……」

「ああ、なるほど……」

 

 遠慮とか、しなさそうだもんね……特に更木副隊長は。

 私がもうちょっと遅れていたら、戦いの気配を感じ取った更木隊長が殴り込んできて、下手をすれば大暴れして……

 この現場はもっと酷い有様になっていた可能性が、とってもとってもとっても高かったわけか……

 

『建物が倒壊しまくりんぐな可能性もあったわけですな! そうなると救助の人手がもっと必要になったわけで、四番隊の人手が足りねえでござるよ!!』

 

「そうそう、こっちの怪我人の調査も終わりました。後は局員だけで大丈夫ですから」

「そう? じゃあ、私は四番隊に戻るわね」

 

 現状把握の為にも、一旦戻ることにします。

 その途中、気付きました。

 

「……ハリベルを屈服させた、って言ってたのよね? でもその頃って確か、もうザエルアポロは涅隊長に捕獲されていたはずだけど……何で知ってるのかしら……?」

 

 …………

 

 え、まさか! 今回は私が主役ってこと!?

 ええ~っ! ど、どうしよう!! お化粧とか直してきた方がいいのかしら!?

 

 

 

『(……そんなことはなくて、主役はミサオ丸(ドン・観音寺)殿だなんて……拙者には言えぬ! 言えぬでござるよ!!)』

 

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