お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

298 / 406
第296話 駄洒落を言うのはだれじゃ

「やれやれ、ようやく解放されたよ……もうこのまま帰って、一杯やりたい気分だね」

 

 京楽隊長が「疲れた」とでも言うように息を吐き出しながら、そう呟きました。

 笠を目深に被って目元を隠しながら、けれども顔を上げて遠くを眺めています。

 

「京楽、あまり気を抜くなよ」

「いやいや、わかってるさ浮竹。言ってみただけだから」

 

 ご友人のその言葉を、浮竹隊長が諫めるように注意すれば、京楽隊長は手を軽く振りながらおどけた態度を見せます。

 

「でも気持ちは分かりますよ。今回の件が完全に片付いたら、私もお酌くらいはお付き合いしますから?」

「おやおや、それ藍俚(あいり)ちゃん本当? ならボク、ちょっと本気で頑張っちゃおうかな」

「勿論、お酌だけですよ? それ以上はご遠慮させていただきます」

「ありゃりゃ、そりゃ残念。やる気が減っちゃったよ」

「お前ら……」

 

 口でそうは言うものの、雰囲気は全然残念がってはいないですね。

 浮竹隊長も、どこか苦笑いを浮かべながらそのやりとりを眺めていました。

 

 

 

 尸魂界(ソウルソサエティ)に現れたピカロたちは、四門それぞれ……あ、西門だけは何故か無傷でした。なので、三門ですね。

 三つの門をそれぞれ突破しようと試みたものの、何故かその途中であっさりと撤退。

 理由はよく分からないものの、一時的にでも小康状態になったため、各隊長たちを緊急招集しての隊首会が行われました。

 

 といっても十一番隊と十二番隊の隊長は不参加でしたし、事態が事態なので副隊長は自分の所属する部隊に残っていたりと、ちょっと異例だったんですけどね。

 

 ……ちなみに私、十二番隊と十一番隊が不在の理由を総隊長に説明したんだけどさ……

 十二番隊はまだいいのよ! 技術開発局が襲撃されてその復旧を優先しているってちゃんとした理由があるから!!

 けど十一番隊は「ピカロもザエルアポロも戦えなくて、剣八が不て寝(ふてね)してるから休みます」って! それを総隊長に報告するのにどれだけ勇気が必要だったことか!!

 

 ちなみに隊首会の結果だけど。

 斬魄刀の常時携帯と全面開放の許可が降りたとか、各部隊はそれぞれ旅禍が瀞霊廷内部へと侵入しないように警戒体勢を取るようにだとか。

 ぶっちゃけて言うと、黒崎君たちがやってきたときと大体変わらない感じだったわ。

 門の守護者や技術開発局っていう、実際の被害が出ちゃったから。

 

 そう言った事態の再確認と決定事項の通達をされて、緊急隊首会は終了。現在はその帰り道で、珍しくといいますか京楽隊長・浮竹隊長と一緒です。

 いつもだったら隊首会の帰りは砕蜂が絡んでくることが多いんだけど、今回は二番隊と刑軍はピカロとザエルアポロの捜索や瀞霊廷内の重要警戒区域の警備を行っています。

 

「……それにしてもさ、門を攻撃してきた旅禍――ピカロって名前だっけ? なんで逃げちゃったんだろうね?」

「迎撃に当たった隊士からの報告によれば『糸が減った』と言っていたそうだ」

「糸、ねぇ……藍俚(あいり)ちゃんの情報からすれば、その糸ってのがカギになりそうだけど……」

 

 ピカロのことについては、もう情報として共有されています。なにしろ私が総隊長に喋っちゃいましたからね。

 当然、各隊長にも伝わります。総隊長も気を遣って頂けたので、ある程度はボカして伝えてくれましたけど。

 おそらくその糸が、ロカちゃんって破面(アランカル)の――

 

「あ! 文字通り『糸が解決の糸口になる』ってのはどうかな?」

「……ぷっ!」

 

 やめて! 真面目に考えてるところに変な駄洒落を飛ばさないで!!

 油断して吹き出しちゃったじゃない!!

 

『駄洒落を言うのはだれじゃー! というヤツでございますな!?』

 

 射干玉も! 悪乗りしないでよ!!

 

『タイトル回収! 今回のタイトル回収でございますぞ!!』

 

 やめて!!

 

「お、藍俚(あいり)ちゃんこう言うの好き?」

「おいおい……」

 

 私が笑ったことで調子に乗ったのか、したり顔で聞いてくる京楽隊長。不真面目な態度を注意しようと浮竹隊長も口を開き掛けたところ。

 

「ふふっ……」

「「「……ッ!!」」」

 

 そこに突然響いてきた、まったく聞き覚えのない小さな笑い声。

 同時に私たち三人は一気に警戒を強め、声が聞こえてきた方向へ注意を向けます。

 

「……あ、も、申し訳ありません! 笑うつもりはなかったんですが、何故かおかしくて嬉しくて、それでつい……すぐに消えますので、どうかお気になさらないでください」

 

 続いて聞こえてきたのは、大慌ての謝罪する言葉でした。

 自分の失態を主に謝罪して許しを請う使用人――そんな印象を受けるしゃべり方です。

 同時に声が聞こえてきた辺りの空気が微かに揺らぎ、うっすらと人の形が見えました。

 コレと言って特徴が無くて、目に付くものといえば顔の片側だけを覆う髑髏の面くらい。一瞬だけ見えたその姿も、すぐに空気に溶けていくような……

 

 ……え! ええっ!! ちょ、ちょっと待って!!

 

「……ひょっとしてあなた、ロカちゃん……?」

 

 消えかけていた姿が、ピタリと止まりました。

 

 

 

 

 

 ――見た目も地味だし髪だって短いし、精々が右半分に仮面の名残があるくらい

 

 あのときチルッチが教えてくれた特徴を、頭の中でもう一度反芻します。

 

 ……うん、情報通り。間違いないわね。

 

 地味、もとい清楚で自然な格好を容姿と姿形をしていて、髪も短め。

 体型も標準的で、お山(おっぱい)も控えめ。取り立てて大きいわけでも小さいわけでもない。揉んでもちょっと物足りなさそうな感じ。

 確かにこれじゃ、チルッチが困るのも納得よね。

 

 でも……彼女を助けたら揉めるわよね?

 

『その通りですぞ藍俚(あいり)殿!! 今、この瞬間が天に輝くときでございます!! キラッと煌めきましょう! 北斗七星のように! 参りましょう!! 輝きの向こう側へ!!』

 

 やだ……劇場版とかありそう……

 

 私が観察している間、彼女は特に動くことはありませんでした。

 名前を言われたことに驚いて動きを止め、目を丸くして私のことを見ています。

 ついでに消えかけていたはずの姿が、今でははっきりと見えています。驚きすぎて消えることも忘れたみたい。

 

「し、知り合いか湯川……?」

「驚いたよ……藍俚(あいり)ちゃんの顔が広いのは知っていたけれど、まさかここまでとは……」

 

 あらら、どうやら味方側も驚かせてしまったようですね。

 お二人も少しだけ焦った様子で私のことを見てきます。

 

『視線を独り占め!! なんと藍俚(あいり)殿は今回の主役に続いてビーチの主役にもなっていたとは!!』

 

 やっぱり私が主役なの!?

 

『……あ、いえいえべつなにも……(ちょっと悪乗りしすぎでございますかな……)』

 

「いえいえ、私が知っているわけじゃなくて。知り合いの知り合い、というだけですよ?」

「知り合いの知り合いってだけでも十分すぎるでしょ……ボクじゃ、知り合いの知り合いを百人辿っても彼女まで行き着けそうにないもの……」

「いや京楽、そういうことじゃないだろ?」

 

 死神が破面(アランカル)の知り合いを作るってのも、なかなか難しいわよね。

 

「あの、どうして私の名前を……?」

 

 内輪で会話をしていたところに「割り込んでごめんなさい」みたいな申し訳なさそうな様子でロカちゃんが尋ねてきました。

 

「ネリエルから聞いたのよ。あなたを助けてくれって」

「ネリエル様、が……? どうして私を……」

「それは本人に聞いて」

 

 そこまで話を聞けなかったからね。

 

「ねえ、それよりもロカちゃん?」

「は、はい何でしょうか?」

 

 じーっと見つめると、彼女は照れたみたいに視線を外してきました。

 

「勘違いだったらごめんなさい。私、あなたとどこかで会った事があるかしら……? なんだか知ってる霊圧なのよ……」

「いえ、勘違いではありません。あなたともう一人、そちらの方のことも私は知っています」

「……ボク? どこかで会ったっけ……?」

 

 まさか飛び火してくるとは思ってなかったのでしょう。

 普段の飄々とした態度ではなく、本当に面食らった様子で浮竹隊長は自分を指差します。

 

「はい。刳屋敷(くるやしき)剣八さんと一緒に居た方々、ですよね?」

「「「ッ!!」」」

 

 その名前に、私たち三人は再び息を呑みました。

 だって刳屋敷剣八は、二百年以上前に亡くなってますからね。ついでに言えば、私と京楽隊長はその最期の現場に立ち会っています。

 

藍俚(あいり)殿は本当に、色んな事をしていますなぁ……』

 

 あの頃は卯ノ花隊長に色々便利に使われていたからね。とっても忙しかったけれど、おかげで顔は売れたし、色々経験は積めたわよ。

 ……死にそうなくらい忙しかったけど!!

 

「その名前がどうして今……いえ、今はそれはどうでもいいの」

 

 嘘。

 聞きたい! すっごく聞きたい! 過去とか正体とか能力とか根掘り葉掘り聞きたい!!

 根は掘るのは理解できるけど葉を掘るってどういうことなのよ!! って怒りながら聞きたい!!

 

 聞きたいんだけど、かぶりを振りながらそれをグッと堪えます。

 

「ロカちゃん、悪いんだけどすぐに虚圏(ウェコムンド)に帰ってもらえない? ネリエルがとても心配していたわ」

「…………」

「それに、ネリエルは心配してくれているけれど、私たち死神はあなたを探している。最悪、討伐対象にされることもありえるの。ネリエルの頼みもあるから、私はあなたのことを助けたいんだけど、やっぱり限度があるから。だから、これ以上騒ぎが大きくならない内に収束させたいの……」

「その……私は……」

 

 できるだけ優しい声で、ロカちゃんを刺激しないように努めて、言い聞かせます。

 私の言葉に彼女は、躊躇うように顔を背けて、迷ったような態度を見せます。

 

「私は……あっ!」

「……?」

 

 数秒ほど逡巡していたかと思えば、突然何かに気付いたようにロカちゃんは声を上げました。

 

「いえ、申し訳ありません。そのような……いえ……」

 

 続いて、謎の独り言。

 まるで誰かと会話をしているような、伝令神機で通話をしているときみたいね。

 

 ……え、誰と? ロカちゃんを操っているのがいるの……??

 まさか……!!

 

「申し訳ありません、ザエルアポロ様」

「その名前……!!」

 

 まさかの名前に、思わず彼女を掴んで問い詰めようとします。

 ですが私が動くよりも先に、彼女は空気に溶け込むようにして姿を消してしまいました。

 

「……ネリエル様にお伝えくださいませんか? 私には、そんな資格はない、と……」

 

 完全に消えたロカちゃん。もはや霊圧の残滓すら感じられません。

 ですが声だけが、まるで残り香のように届いてきました。

 

 

 

 

 

 

 

「……そんな資格はない、か……」

 

 彼女に頼まれた伝言、その内容をもう一度呟きます。

 

 ……なんでかしらねぇ……

 そういう言い回しと彼女の態度から、陰キャが輪に入るのを無理して拒んでるみたいな、そんな印象を受けちゃうのよね……

 

藍俚(あいり)殿も経験がおありで?』

 

 そういう射干玉は?

 

 うふ、うふふふふふ……

『にゅふ、ぬふふふふふふ……』

 

 この話は無かったことにしましょう。

 

『賛成!!』

 

 

 

「刳屋敷剣八の名前を、まさか今になって聞くことになるとはね……それも破面(アランカル)からとは……」

「いや、それよりも。彼女が姿を消していくあの現象……二人とも、見覚えがないか?」

 

 私と射干玉が仲を深めていたのと同じ頃。

 お二人はお二人で思うところがあったみたいですね。それぞれが気になったところを口に出してきます。

 

「いやいや浮竹、確かに見覚えはあるよ。あるけど、それはないでしょ。だってあの男は……」

「ああ、無間(むけん)に囚われている。出てこられるはずがない……だが……!!」

 

 真摯な様子の浮竹隊長に、私と京楽隊長は頷きます。

 

痣城(あざしろ)、剣八……」

「単なる偶然、考えすぎ……それで片付けるってのは、無理だよねぇ……」

 

 互いに顔を見合わせると、私たち三人はため息を吐き出しました。

 

「とりあえず、自分の隊に戻りましょう。それと、総隊長に報告……は、しておきます?」

「いや、まだ何も確証は無い。だが、警戒くらいはしておこう」

「面倒なことになってきてるよ、ホント……」

 

 

 

 

 

 

 

 ――死神を相手にお喋りか? 道具でしかないお前が、随分と偉くなったものだね。

「……申し訳ありません」

 

 耳元に聞こえてくる声に対し、ロカは謝罪の言葉と共に頭を下げた。

 だが、その程度では耳元の声は止まらない。

 

 ――死神や滅却師(クインシー)が現れたら身を隠せ、そう命じたはずだ。それとも僕の命令すら聞けなくなるほど役立たずになったのかな?

「申し訳ありません……」

 

 ――ああ、そういえばさっきの死神とのお喋りの途中でネリエルの名前が出ていたね? まさかそれが原因かい?

「…………」

 

 ――今更ネリエルに尻尾を振るつもりとは……あの場でピカロたちから助けたのも、歓心を買うための演技だったわけだ。

「違います……そのようなことは決して……」

 

 ――本当かい? なら、ここからの働きで判断しようじゃないか。命令は覚えているだろう? 精々役目を果たしたまえよ。

「かしこまり、ました……」

 

 

 

 敢えて理由があるとすれば、それは偶然だった。

 

 偶然見たことがある死神が二人――その一人は、まだ隊首羽織を纏っていない頃だったが――揃っており、会話をしているのに気付いた。

 顔を知っている二人が並んでいたので、少しだけ気になって注意を払ったところ、糸という単語を使った言葉遊びが聞こえてきた。

 

 それが、自分の能力を褒められたみたいで、なんだか嬉しくて、おかしくて。

 ただの言葉遊びでしかなかったはずなのに。

 

 気付けば笑い出して、姿を見せていた。

 けれど与えられていた「姿を隠せ」という命令を思い出して、すぐに身を隠そうとしたところで、自分の名を呼ばれた。

 

 ロカ・パラミアではなく「ロカちゃん」という呼び方。

 その昔、自分のことを気に掛けてくれていたとある十刃(ネリエル)が口にしていた呼び方。

 彼女がネルという姿に変わり、そしてネリエルの姿に戻れたことを知った。

 

 もしかしたら、自分のことを覚えているかもしれない。

 主を失った自分のことを、ネリエルは昔のように受け入れてくれるかもしれない。

 そう考えると同時に、そんなことは出来ないと心のどこかで諦める。

 

 ネリエルが十刃(エスパーダ)から追放された時、ネルの姿へと変わったときに、ロカは彼女に手を差し伸べることは無かった。

 自分の都合で見捨ててしまった。

 そんな卑怯な相手を、どうして受け入れてくれるだろうか、と。

 

 ピカロから助けたのも、言うなればただの贖罪。

 ネリエルの姿に戻れば簡単に逃げられるのだから、これも余計なお世話でしかなかったのだろうと、思い込んでいた。

 

 だから、藍俚(あいり)という名の死神から「ネリエルが心配している」と聞いたときには、嬉しかった。

 差し出されたその手を掴み、虚圏(ウェコムンド)に戻ろうとさえ思った。

 

 だけどすぐに思い直した。

 ザエルアポロの道具でしかなかった自分が、ヤミーに叩き潰されて一度死んで、死んだかと思えば長い時間を掛けて復活して。

 復活したものの、主であるザエルアポロは死んでいて。

 自分は自由になったのだと悟り、けれど自分は何をすればいいのだろうか? 自分は何者かになれるのだろうかと、色んな場所を彷徨い続けて。

 

 そして、気がつけば再び現れたザエルアポロの命令を――ザエルアポロのような何者かの命令を聞いていた。

 そのときに悟った。 

 

 やはり自分はただの道具にしか過ぎない。

 命令が無ければ、まともに動くこともできないのだ。自分の意思一つ、まともに主張することができないのだと。

 だから今もこうして、耳元で聞こえる男の声に従っているのだと。

 

 

 

 ロカは、自分に向けて言い聞かせていた。

 悲しそうに瞳を伏せながら。

 




●ロカ・パラミア
 霊圧を知っている死神が二人いて、しかもお酒の話とかしてる。
 250年前のあのときの現場みたいだなぁと思って、つい出てきてしまった(自分探しはまだ継続していたというのもあるので)

 出てきたら自分の名前を呼ばれて驚く。
 しかもネリエルの名前まで出されてもっと驚く。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。