お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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登山には入念な準備と膨大な訓練が必要なのです。
山を甘く見るのは大変危険です。

なので、実際に登山できる(ちちをもむ)のは後々になります。
(具体的には16話)


第3話 準備は大事

 私は今、お店のご主人に案内されて先日話をしていた"良いところ"に向かっている最中です。

 

 ご主人に連れられて居酒屋を出たのは朝食も済んで一段落着いた頃。

 大汗を掻くことになるからと、女将さんから渡された運動用の服――着なくなったのを仕立て直した物らしい――に着替え、ちょっとした気遣いと簡単な荷物を持って一路、目的地へと向かっています。

 

 ただ、歩幅が違うせいか私の方が先を歩いているんですけれどね。

 

 とはいえ案内されて即、何処に向かっているのかは予想がつきました。なので迷う心配もありません。

 流魂街の大通りを真っ直ぐと向かうその先には、流魂街の風景とは違う景色が。発展した街並みが見えます。流魂街とその"向こう側"の間に、とても大きな溝があるのも見えてきました。

 ここまで来ると、ほぼ間違いなく分かります。

 

 向かっているのは瀞霊廷――より正確に言うならば、瀞霊門のようです。

 

 

 

 

斷蔵丸(だんぞうまる)さん! いらっしゃいますかな?」

「む……おお、誰かと思えば料理屋の!」

 

 やがて辿り着いたのは境目の近くに建てられている、巨大であるものの粗末な造りの小屋でした。

 そこへご主人が声を掛けると、小山のような巨人がのっそりと姿を見せます。日焼けしたような浅黒い肌に、強面の容貌。その身に纏うは黒を基調とした衣装――死神が身に付ける死覇装です。

 

 現れた男を見て、納得がいきました。瀞霊門の門番の方ですね。

 そう言えば原作にもこんな巨大な門番がいたような。名前は……なんだっけ? な、なんとか坊?

 

「お久しぶりですなぁ!!」

「今日は何ぞ用か?」

「いやいや実は、この子が死神になりたいと言っていましてね」

「ふむ?」

 

 そう言われて門番――斷蔵丸さんはジロリ、とこちらを見ました。視線を数回、頭の先からつま先まで値踏みするように動かすと、やがて落胆したように口を開きました。

 

「……この娘がか?」

「お腹が空いたと言っていたので、霊力はあるようです。本人の意志を尊重してやりたいのでしてな」

「あの、お知り合いなんですか?」

 

 親しげに会話する二人の様子に、思わず口を挟んでしまいました。

 

「ああ、そうだよ。こちらの方は北の黒稜門の番人をしている斷蔵丸さんだ。腕前は当然として、死神としての教育も受けているからね。死神を目指す藍俚(あいり)ちゃんの師匠役をお願い出来ないかと思って」

「な、なるほど……」

 

 そう言われると、納得ですね。私は(おもむろ)に斷蔵丸さんを見ます……というか見上げます。

 本当に背が高い、というかデカいですね。目算ですけど10メートルくらいありませんか? 昔動物園で見たキリンの倍くらいあるように見えるんですけれど……

 

「……まあ、よかろう。素質はともかく、霊力があるのならば可能性はあるだろう。暇な時でよければ稽古をつけてやる」

「本当ですか!? ありがとうございます!」

 

 不承不承と言った感じではありましたが、了承してくれた斷蔵丸さん――

 

 ――いえ、これからは師匠と呼ぶべきですかね。

 

 師匠に私は頭を下げながらお礼を言います。隣ではご主人も"よかった"とばかりに胸をなで下ろしていました。

 結局の所、霊力の使い方すらよく分かっていないですからね。知ってる人に聞いて効率良く学んでいくのは大事ですから。

 

「よかったねぇ。じゃあ、自分はこれで。藍俚(あいり)ちゃん、夕方頃までに帰ってきてくれればいいから。頑張ってね」

「はい、わざわざ骨を折っていただいてありがとうございます」

 

 自分の役目は終わったとばかりに手を振りながら来た道を戻っていくご主人。

 やっぱり良い人ですね。色々と厄介になりっぱなしです。

 

 ですから。

 

 ここに来る途中で、お尻に注がれていた熱い視線は気付かなかったことにしておきます。女将さんにも黙っておきますから、安心してくださいね。

 

 

 

 

「さて、それではさっそく稽古に入りたいところだが、その前にだ」

「その前に?」

「まずお主がどれだけの実力を持っているかの確認からだ。それを知らなければ、稽古のつけようがないわ」

 

 なるほど、確かにそうですね。

 

「そこでだ。まずは儂に掛かって来い。お主の戦いぶりを見て判断する」

「えっと、その……」

 

 い、いきなりですか!? いや、それ以前に問題が……!!

 

「なんじゃ? まさか儂が怪我するとでも思っておるのか? 心配するな、ヒヨッコ相手に怪我などせんわ」

「いえ! そうじゃなくて!!」

 

 何かを勘違いした師匠の言葉を慌てて否定しながら二の句を継ぎます。

 

「あの、私、素手なんですけれど」

「それがどうかしたか?」

「刀とか武器とか、その……そういったのは……」

「なるほど。確かに死神は斬魄刀という刀を扱う。だがそれだけではないぞ。斬拳走鬼と言ってな、白打――拳で戦う技術も学ぶのだ。刀を持っていないは理由にならん! 御託はいいから掛かってこんか!!」

「はっ! はいっ!!」

 

 怒鳴るような声に駆り立てられて、私は無我夢中で師匠に挑みました。

 

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

 

 ――とてもとても大きな収穫がありました。

 

 どうやら私には"類い希な運動能力の才能"みたいな物はカケラも無いようです。

 

「はぁ……はぁ……ぜぃ……ぜぃ……」

 

 中腰になって手を膝に付けた――いわゆる馬跳びの馬役のような――姿勢を取りながら。荒い呼吸を必死で繰り返します。それでも最後の意地とばかりに、地面にへたり込むような真似だけはしないように、必死で抗います。

 

 素手で挑んでみたのはよいものの、結果は当然というか惨敗というか無残というか。

 元々、何もかもが自分よりも上の相手です。中途半端な攻撃は全ていなされ、避けられ、潰されてしまいます。攻撃の"こ"の字すら見せられません。

 私的にはもう十分だろうと思っているのですが、それでも師匠は途中で止めることを許さず、次を促してきました。

 

 その結果。

 

 身体の限界まで挑まされ続けて手足はガタガタ、喉はカラカラ。全身はびっちょりと大汗をかいており、汗を吸った服が肌に貼り付いてきて気持ち悪いです。絶え間なく襲ってくる疲労感も凄まじく、もう指一本たりとも動かしたくないほど。

 

 

 

 そしてもう一つ、今の私に絶対に必要なものがあることが分かりました。

 

 

 

「……次からはサラシを絶対に用意しておかなきゃ……」

 

 ブラジャーすら付けていないのに、このおっぱいで運動するのは無理です。

 乱菊とかハリベルとかって、あんなおっぱいと不安定な格好でどうやって戦ってたんでしょうか……? 絶対にこぼれ落ちますって!

 え、何がって? そりゃ勿論おっぱいです! 激しく動く度に振り回されます! バランスがあっと言う間に崩れました!

 なんなんですかもう!! 格闘ゲームの人たちはなんで、あんなスタイルにあんな格好なのに、あんなに動けるんですか!?

 

「ふむ……ある程度最悪の事態を想定してはいたが、これは酷いな……」

 

 重心の使い方とか、身体の動かし方とかをゼロから鍛え直さないと駄目ですね。

 と、そんなことをひっそりと決意していたところ、落胆したような師匠の声が聞こえてきました。

 

「や……っぱ……そ、う、で……しょ、か……?」

「いいから、まだ休んでおれ」

 

 顔を上げ、ヒリつく喉でそう言い掛けた私を遮るように師匠は言いました。なのでお言葉に甘えさせてもらい、ゆっくり休んで呼吸を整えさせて貰いましょう。

 

「あ、そうでした……師匠、一つ聞いても良いでしょうか?」

 

 鼓動も落ち着いて喉の渇きもマシになった辺りで、気になっていたことを思い出して尋ねます。

 

「師匠?」

「あ、師事する身になるわけですから。斷蔵丸さんと呼ぶのもどうかと思って……駄目でしたか?」

「いや、かまわん。それで、聞きたいことはなんだ?」

「今の死神の……護廷十三隊の隊長さんの名前とかを窺いたいのですが」

 

 知りたかったのは、今がいつ頃なのかと言うこと。

 いえ、お店のお客さんとかに聞いてみたんですが"建永"や"建治"、"応保"の生まれとか言われまして。

 それが西暦何年の事なのか、私の頭ではさっぱりわかりません。

 代わりに思いついたのが隊長の名前です。

 知っている隊長の名前があれば、そこからある程度は逆算して推測できるはずですから。

 

「ふむ、儂も詳しく覚えている訳ではないが――」

 

 そう前置きしつつも師匠は護廷十三隊の隊長全員と、ついでに各隊の役割についても教えてくれました。

 その内で、聞いたことのある名前は二人。

 

 一番隊隊長兼総隊長たる山本(やまもと) 元柳斎(げんりゅうさい) 重國(しげくに)と四番隊隊長 卯ノ花(うのはな) (れつ)だけです。

 他の隊長も聞いたものの、記憶にまるで引っ掛からない名前ばかり。

 

 つまり今は……私が知っている頃よりもずっと昔ということ?

 メタな言い方をすれば「原作開始よりもずっと前」ということですかね??

 でも逆に考えれば幸運かもしれません。私の今の状況から鑑みるに、修行期間はどれだけあっても困らなそうですから。

 

「しかし、どうしてそんなことを聞いた?」

「それは……もしもどこかで出会えたら、繋がりの一つでも作っておけば死神になりやすいかと思ったので」

「なるほど、確かにそう考えるのも当然か。だがツテがあればなれるほど、死神というのは甘くはないぞ! ほれ、そろそろ立たんか。続きをやるぞ。お主はまず身体の使い方から知らねばならんからな」

 

 事前に考えておいた言い訳を口にすると、師匠は納得したように少しだけ笑いながら修行の続きが始まりました。

 

 

 

 続いて始まったのは、師匠も言っていた「身体の使い方」の訓練。早い話が、まともに動けるようになるための修行ですね。それが終わらないとまともな訓練もできやしない。

 いわゆる体幹を鍛えたり、基礎的な筋力トレーニングをしたりで、身体に動きを覚え込ませませます。

 

 身体の修行が終わったと思ったら、今度は霊力の修行です。

 まず「魄睡(はくすい)」と「鎖結(さけつ)」について教えて貰いました。そういえば、そんなのがありましたね。記憶の片隅に残っていたような気がします。

 

 魄睡とは、人体における霊力の発生源。

 鎖結とは、人体における霊力の増幅器(ブースター)

 

 ――だそうです。どちらも急所で、ここをやられると霊力が一切使えなくなるとか。

 

 そして霊力も体力を付ける要領で鍛えられるそうです。霊力を使うことで引き出されて、結果的に内在する霊力が高まっていくとのこと。

 なので、こうやって力を高めて、ぐぐぐぐー……っ……って……うぐぐぐ、し、死んじゃう! もう無理!

 

 発生させた霊力は予想以上に弱く、なのに私の頭はクラクラです。気が付けば、可哀想な子を見るような目を師匠に向けられていました。

 

 こ、これから(霊圧は)大きくなるもん!!

 

 

 

「ほ、本日は、ありがとうございました……」

「うむ。それと先程も言ったが、儂も暇ではないのでな。稽古は月に二回程度、それでよければ次も来い」

「はい……次回もよろしくお願いします……」

 

 結局、その日の修行が終わったのは、そろそろ日が沈み始める頃。お店が夜になって忙しくなる二時間ほど前でした。

 慣れぬ運動と慣れぬ霊力の制御のおかげで頭も身体もヘロヘロになりながら、私は北門を後にしました。

 




●斷蔵丸
北・黒稜門の門番。
(原作で一護が戦った兕丹坊は西・白道門の門番)

原作登場キャラだが、見た目以外の描写が全くない(台詞すら無し)
よって内面は捏造設定。

加えて。
門番が死神の教育を受けているのかは不明。
(一応作中では「最低限は受けている」という設定)
斷蔵丸がいつ頃から門番をやっていたのかも不明。
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