お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第302話 その頃の死神たち

 無数の地獄蝶に導かれ、断界(だんがい)内に存在する道を十一番隊の面々は進んでいた。互いにぶつからないように舞う蝶たちの羽ばたきに合わせて歩いているため、その速度は通常のそれよりも遅いものとなっていた。

 

「ちっ……とろくせぇな……」

「まあまあ、良いではありませんか。こうやってゆっくり歩いて行くのも乙なものですよ。なにより――」

 

 ゆっくりと進んでいくことに焦れた更木剣八が、とうとう舌打ち混じりに呟いた。

 その言葉を卯ノ花烈は穏やかな言葉で押さえ込んだ。

 

「出入りというのはこのように、自然体かつ威風堂々と行うものですから」

「……ま、あんたがそう言うのなら、そういうもんなんだろ……」

 

 かつて、初代剣八として尸魂界(ソウルソサエティ)中を所狭しと暴れていた女傑の言葉である。たった一言であっても、その重みは並大抵ではない。

 続いて紡がれた言葉には、十一番隊の隊士であっても一聴しただけで背筋が震えそうになるほどの圧が込められていた。だが更木は「そういうものなのか」と程度の認識で、その気配ごと言葉を飲み込む。

 

「相変わらず、桁が違え……」

 

 二人のやりとりを、一角は息を呑みながら眺める。

 彼は決して弱いわけではない。むしろ死神全体から見ても上位といえるだろう。

 そんな一角ですら一筋の汗を流す圧を放つ隊長と、その圧を物ともしない副隊長。

 討伐対象の痣城剣八がどれほどの強さを持っているかは知らないが、この二人を相手にしなければならないという事実に、一角は哀れみと羨ましさを同時に覚えていた。  

 

 続いて、ふと気付く。

 隣を並び歩いていた弓親の様子が、なんだかおかしなことに。

 

「……ん? どうした弓親?」

「一角は感じないかい? この霊圧は……」

「あら、綾瀬川五席もようやく気付きましたか?」

 

 後ろから聞こえてきた会話に対して、視線を真正面に固定したまま卯ノ花が割り込んできた。

 

「ようやくって……それじゃやっぱり!」

「ここから先は、逸る気持ちに加えてよそ見も厳禁です。死んだら私は治せませんから」

 

 弓親に語るにしてはやや声量が大きすぎた。

 良く通る澄んだ声は隊の最後尾まで届くと確信できるほどであり、それが十一番隊の隊士全員に向けて発せられたのだと否応なく理解できる。

 

 声に続いて、前を進む更木と卯ノ花の足が止まる。

 前方に視線を向ければ、そこには一人の男が立っていた。

 現世へと通じる穿界門(せんかいもん)と、十一番隊の隊士集団との合間。まるで門番のように立ち塞がるのは、白い羽織を纏った線の細い男。

 

 その男を目視した瞬間、隊士たちは一瞬だけ神経を高ぶらせたものの、その気勢を一息に飲み込むと自制してみせた。

 もしも彼らが勢いのままに行動していたとすれば、相手を見た途端「テメエが隊長のパチもんかぁ!?」「パクリ野郎が!」「無茶苦茶弱そうだぜ!」「生皮剥がすぞゴルァ!」「赤猫這わしたろか(火をつけてやろうか)ァ!?」などの怒声が雲霞のごとく飛び交ったことだろう。

 

 だが彼らは、知っている。

 自らを率いている隊長が、現在副隊長の地位にいる男よりもずっと小さな隊長が、どれだけ強いのかを。

 百年ほど昔、当時四番隊の副隊長だった某女死神に全隊士の九割近くをボコボコにされた上に、ボコボコにされた全員を完璧に治療されたこともある。

 つまり、見た目だけで判断するのが如何に愚かな事なのかを、彼らは骨身に染みている。

 

「…………」

 

 無言のまま睨み付けてくる群れを、痣城は無表情のまま眺めていた。

 

『あらら、罵詈雑言の百や二百は飛んでくると思ってたけど、しっかり引き締められてるねえ! 剣の字が隊長だった頃とは大違いだよ!! キハハ!!』

「…………」

『無視かい? 相変わらずつれないね。藍俚(あいり)ちゃんなら表情を変えないまま、そりゃもう見事に合いの手を入れてくれるんだよ?』

「…………?」

 

 なぜここで雨露柘榴が湯川藍俚(あいり)の名を出したのか。その理由を痣城は分からなかった。

 だが考えても無駄なこと。いつもの無駄なお喋りと断じて、更木と卯ノ花へ意識を集中させる。

 

 ……というか、分かるわけないだろ。アレ本当にどうなってんだよ。なんで持ち主である痣城剣八に全然知られないまま藍俚(あいり)と射干玉と会話して、しかも痣城の様子まで共有してるんだよ。そんなの痣城が察しろって方が無理に決まってるだろうが。

 

「久しぶりですね、痣城剣八。隊首会以来ですか?」

 

 沈黙を歓迎の挨拶とでも受け取ったのか、口火を切ったのは卯ノ花だった。

 

「あなたの能力からすればもう知っているのでしょうが、改めて言わせて頂きます。今回の主役は私ではありません。この更木剣八です」

 

 彼女はそう告げると、後進へと道を譲るように一歩脇へと退ける。必然的に最前列へと押し出される形となった更木は、一言だけ。己の中で渦巻いている様々な感情を引っくるめた言葉を吐き出した。

 

「更木剣八だ。てめえを、ぶった斬りに来た」

「……痣城剣八だ」

 

『キハハ! どうするよ剣の字、更木が出て来ちゃったよ! 剣の字も更木の強さは知ってるだろう? だって見てたんだからさ!! 今からでも逃げた方が良いんじゃない?』

 

 黙れ――意思を込めながら横目で睨みつけるが、雨露柘榴の言葉は止まらない。

 

『それにしても卯ノ花が一緒に来てるのを見るとさ、まるで保護者同伴みたいだよね!? あ、でも剣の字も私がいるから保護者同伴みたいなもんか!? キハハハ! そうそう、保護者同伴といえばさ、この場にはいないんだけど凄いのがいるから教えて――』

 

「つっても、どうも俺は正式な剣八じゃねえらしい。ウチの隊長サマが言うには、剣八を名乗るにゃ、ちょいと足らねえらしいんだわ」

「……剣八を名乗るには、先代の剣八を斬らねばならない。だが君が斬った鬼厳城剣八は、正式な剣八とは言いがたいからな」

「そういうこった。だからよ、俺の剣八って名の為にも……」

 

 雨露柘榴の言葉を遮ったのは、更木の言葉だった。

 軽く息を吐きながら、彼は斬魄刀を抜刀する。

 

「斬り合おうぜ!」

 

 周辺の空気が一瞬で緊張感を増し、断界(だんがい)内の霊子は煮詰められたかのように濃密さを増す。霊力の弱い者であれば、その空気に触れただけで押しつぶされかねないだろう。

 死神である十一番隊の隊士たちとて、己の身体に何か薄い紙のような物を巻き付けられているような、そんな動きにくさを感じるほどだ。

 そんな中にあっても、更木はその動きを一切淀ませることなく痣城目がけて疾走すると大上段に構えた斬魄刀を振り下ろした。

 

「……手応えがねえな」

 

 単純な、力一杯に切り下ろすだけの一撃。

 だが更木の霊圧が加わったその攻撃は、それだけで必殺の一撃へと昇華される。霊圧が前方へと吹き飛び、剣圧が通路に暴風を巻き起こす。

 穿界門(せんかいもん)まで到達した一撃は門を半壊させながらも、痣城には傷一つ負わせることはできなかった。

 無傷で立ち塞がる痣城の姿を、更木は不思議に思いながら。そして卯ノ花は笑み浮かべながら受け止める。

 

「無駄なことだ。君に私は斬れない」

「あ、そうそう剣八。うっかりと伝え忘れていました。痣城剣八は空気になれます。斬りたければ、空気を斬る必要がありますよ」

「なんだ、そういうことかよ」

 

 明らかに「わざと伝えませんでした。だってその方が面白そうなんだもん」と言わんばかりの卯ノ花の言葉に、更木は我が意を得たりとばかりに嗤って見せた。

 

「なら、空気をぶった斬ればいいわけだ!」

 

『キハハハ! 当然のことみたいな口ぶりしてるよ!! けど、どうするのさ剣の字? 更木はやるよ? 本当に斬るよ? そうなったら大怪我しちゃうよ? 誰かに助けて貰ったらどう??』

 

「無駄なことだ」

 

 更木と雨露柘榴、二人に返事をするように呟くと、痣城は更に力を振るおうとする。だがそれをあっさりと打ち破る声が、通路に木霊(こだま)した。

 

「あれー? 変な人たちがいる」

 

 お下げ髪の少女型の破面(アランカル)だった。

 緊張を台無しにするようなその脳天気な声に、痣城の動きが止まる。更木も卯ノ花も、十一番隊の隊士たち全員が思わず少女へと視線を移した。

 

 だが、現れた少女は注目を浴びていることなど気にすることなく、髪留めになっている仮面の欠片に触れながら中空へと呼びかける。

 なんだか面白そうな集まりがある――と、友人を呼ぶような気軽さの声が発せられると、その数秒後には空間内に無数の亀裂が生じ、内部から数十人ほどの白い子供たちが姿を表した。

 

「こ、こいつら……」

「外周部に出た破面(アランカル)じゃねえか!?」

「こんな時に出てくるんじゃねえよ!!」

 

 一角を初めとした隊士たちが、その正体に気付き思わず声を上げる。

 剣八同士の決闘に邪魔が入るやもと考え、けれども敵意の薄い子供を斬るというのもそれはそれで決闘を汚しそうに思えて、彼らはどうするかと躊躇してしまう。

 

「わー、死神がいっぱいだー!」「これ、お祭りなの?」「たのしそう!」「あ、ねえねえきいてきいて!」「一緒に遊ぼう!」「なーに、どうしたの?」「Qrrrrrr」「なんだか現世で死神さんがお菓子くれるから集まってって言ってるよ?」

 

 だが集まったピカロたちは、そんな十一番隊の葛藤などお構いなしだ。

 口々に好き勝手なことを言い合いながら死神たちに絡もうとしたところで、最後の発言にピカロたち全員の動きが一瞬止まった。

 

「お菓子!?」「なにそれ?」「とっても甘いんだって!」「でも知らない人だよ? シエンとのゲームもあるよ?」「お友達になったみたいだからだいじょーぶ!」「剣ちゃん! あたしも行って良い!?」「タべタい」「美味しそう!!」「早く行かないとなくなっちゃうよ?」「お腹いっぱいあるんだって!」

 

 再び動き出せば、それは怒濤の勢いだった。

 この場にはいない個体から齎された"お菓子"という情報に、ピカロたちは無我夢中で食らいつく。あと、一部の死神もお菓子という情報に食らいついた。

 

「何だ、こいつら……手を出してこねえのは、空気を読んでるとも言えるけどよ……」

「というか今、死神がお菓子を配っているって言ってたよね? それって……」

「おそらく、あなたたちが想像している死神(あいて)で間違いないでしょうね」

「後にしろ! やちる!」

「ちぇーっ、食べたかったなぁ……あいりんのお菓子……」

 

 死神たちの脳裏に浮かぶのは、現在別行動中の"とある死神"の姿だった。

 何の狙いがあるのかは知らないが、彼女はピカロを利用するつもりなのだろう。ならばこちらも彼女を利用させてもらおうと、卯ノ花が動く。

 

「あなたたち。今私たちはとっても大事な戦いをしているところなの。だから邪魔をしないで、その死神さんのところで遊んで貰いなさい」

「遊んでくれるの!?」

「ええ、そのお菓子をくれる死神さんがね。だからあなたたちは、今すぐにお帰りなさ――」

 

 卯ノ花はその場から小さく飛び退く。

 同時に一人のピカロの喉元から刃が生え、傷口から血飛沫が噴出した。

 背後からうなじへと突き刺されたようなその刃は、もしも卯ノ花が下がらなければ彼女にも襲いかかっていたことだろう。

 

「何を言うのかと思えば……死神にとって(ホロウ)とは不倶戴天の敵。それを見逃すなど、初代剣八の言葉とは思えないな」

「……あなたの仕業ですか」

 

 そう告げる間にも、ピカロたちは痣城が生み出した刃に切り裂かれていく。

 生み出されていく血霞を背にしながら、微動だにもせず卯ノ花は告げる。

 

「しかし、良いのですか? 今のあなたは、剣八との戦いの真っ最中なのですよ」

「問題はない。そちらも既に対応済みだ」

 

 痣城の言葉を証明するかのように、どこからか声が響いてきた。

 

 ――散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪

 ――君臨者よ 血肉の仮面・万象・羽愽き・ヒトの名を冠す者よ

 ――槍打つ音色が虚城に満ちる

 ――蒼火の壁に双蓮を刻む

 ――散在する獣の骨 尖塔・紅晶・鋼鉄の車輪

 ――大火の淵を遠天にて待つ

 

 それが鬼道の詠唱だということは、死神ならば誰もが即座に気付いた。

 問題はその数だ。

 まるで出来の悪い、下手くそな輪唱を聞かされているかのように、無数の詠唱が瞬く間に増えていく。一つの声が「増えた」と認識した瞬間には、また別の方角から声が追加されていく。

 

「これは!?」

 

 隊士たちは警戒するように周囲を見回し、すぐに気付いた。

 断界(だんがい)内の通路、その壁・床・天井のあちこちから、口と手だけが奇妙な植物のように生えている。その全てが呪言を唱え、印を結んでいる。

 技術開発局にあった全ての義骸を――廃棄されたものも含めて何百体とあった義骸を能力にて支配し、鬼道を一斉に放つ為の道具として利用しているのだ。

 

「どれだけ力があろうと、君たちは尸魂界(ソウルソサエティ)にとって害悪でしかなかったようだ。無駄なものは排除する」

 

 数百の鬼道が一斉に十一番隊に襲いかかった。

 

 

 

■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□

 

 

 

「なんだ!?」

 

 空から放たれた凶悪な霊圧の感覚に、九条望実は思わず天を見上げた。

 それは痣城が数百の鬼道を放つ数分前。

 丁度、更木剣八が小手調べの一撃を放って門を半壊させた瞬間だった。ただの斬撃が門を通り抜けて、現世の空まで影響を与える。

 多少なりとも霊感を持つ者ならば、音と光を発しない花火が打ち上げられたような、そんな感覚を味わっていた。

 

「お、おい望実! 今の感覚って……」

「ああ、そうだ。連絡のあった痣城剣八という罪人の仕業だろう。そしてアレは、おそらく穿界門(せんかいもん)が……」

 

 斬魄刀を握りしめ、いつでも抜刀できる準備を整えながら空全体に注意を向ける。

 痣城剣八が空座町へ現れるという情報は、伝令神機を通じて望実も知っていた。十一番隊の剣八が相手にするため、下手な手出しは無用ということも伝えられている。

 

「まさか壊したってのかよ……と、とんでもねえな……」

「多分、追っ手の死神を足止めするため。だから、ここからは私が……」

 

 下手な手出しは無用とは命じられているが、穿界門(せんかいもん)を破壊するほどの強烈な一撃が放たれたのだ。

 きっと、十一番隊に何かあったに違いない。けどその異変はすぐに尸魂界(ソウルソサエティ)が察知して、おっつけ援軍もやってくることだろう。

 ならば自分の役目は、時間を稼ぐこと。適わないまでも、一秒でも長く。それが出来るのは、空座町にいる自分しかいない。

 

 ――そう決断し、望実はコンだけでも逃がそうとしていた。

 

「まさか逃げろって言うんじゃねえだろうな!? バカ言うんじゃねえよ! オレ様だってなぁ!」

「その気持ちはとても嬉しいんだ。でも、今回は相手が悪い。だからコン、お前だけでも逃げてくれ!」

「そんなこと出来るわけがねえだろうが!! オレは……!」

 

 望実の狙いを知り、反論すべく語気を強めていたコンであったが、その言葉を空に膨れ上がった激しいオーラが遮る。

 反応は丁度先ほど、穿界門(せんかいもん)が破壊されたのと同じ地点。

 だがその規模は段違いだ。

 打ち上げ花火に例えた前回と違い、今度のそれは空間に亀裂が走り膨大な霊子の奔流と爆風があふれ出した。

 

「ぐ……っ……!?」

「うひいいいいぃぃっっっ!!」

 

 強烈すぎる現象に望実は斬魄刀を引き抜くと、盾にするように構えてそれをやり過ごす。

 そしてコンは――

 

「コン……?」

「……はっ! ち、違うぞ望実!!」

「……っ!?」

 

 望実の太ももに思い切り抱きついていた。

 それだけなら反射的な避難行動と受け取ることも出来るが、太ももに頬ずりをしているとなると批難すべきか否か。

 呆れながらも口を開こうとして、望実は気付いた。いつの間にかすぐ目の前に、見知らぬ死神がいることに。

 

「な、なんだコイツは!? しかもその格好、隊長じゃねえか!!」

「その顔……痣城剣八……ッ!」

「この町の駐在死神か? いや、お前たちは……」

 

 痣城の事を言葉でしか聞かされていないコンは誰何の声を上げ、画像を確認した望実は身体を硬くして斬魄刀を向ける。

 そして痣城は、二人の正体に気付いた。

 

『キハ! 私は二人とも知ってるよ! どっちも改造魂魄だね! よかったじゃないか剣の字! 自分が昔やった事がこうして今も残っている! まだ剣の字のことが忘れられていないって証拠、生きていた証だよ!? キハハ!』

 

 雨露柘榴が現れ、コンと望実の二人を品定めするように眺めながら言う。

 だが彼女に指摘されるでもなく、痣城もまた二人のことは知っていた。

 

由嶌(ゆしま)の忘れ形見、とでも言うべきか」

「まさかお前、由嶌(ゆしま)欧許(おうこ)のことを知っているのか!?」

「無論だ。そもそも改造魂魄(モッドソウル)尖兵計画(スピアヘッド)は、私のかつての理念を引き継ぎ、研究を推し進めた結果生み出されただからな」

「え……!?」

「なにィ! ってことは、俺たちの生みの親の親……みてえなもんか!?」

 

 予想だにしない事を聞かされて、コンと望実は完全に硬直する。

 言葉の真偽を計りかねている、といったところだろう。だが相手の心情など気にすることもなく、痣城は一方的に告げる。

 

「そう受け取って構わない。私がいなければ、お前たちは存在していなかった。その造物主からの命令だ。本分を果たせ」

「本分……?」

「死ぬまで(ホロウ)を倒せってことかよ!?」

「本来ならばその認識で構わない。だが今は少し事情が異なる。私の手足となれ。お前たちはそのために存在しているのだからな」

 

 融合して支配する能力があれば、痣城一人でも目的は達成可能だ。

 だが死神たちの数は多く、(ホロウ)たちもロカのことを探している。加えて現世は痣城にとっても不慣れな場所。

 ならば少しでも手数を増やすことも、選択肢の一つとしてはありだろう。

 

『キヒッ! まさか剣の字が他人を頼るとはね! 良いじゃないか良いじゃないか! でも相手はもっと大所帯だから気をつけなよ!』

「少しでも効率的な手段を選んでいるだけだ。それと頼っているのではなく、手数を増やしているだけのことだ」

『そういう意味じゃないんだけどねぇ! キハハハハ!!』

 

 雨露柘榴の「もっと大所帯」という言葉を「十一番隊とピカロ、どちらも追っ手は多い」という意味に捉えた痣城は、対抗手段の確保程度の意味合いで返事をする。

 ……まあ、餌付けして勝手に第三勢力を作っている死神がいるなんて想像できるわけがないのだが。

 

「やいやいやいっ! さっきから黙って聞いてりゃ、なんだその言い草は!! 俺たちにだって生きる権利ってモンがあんだよ!! 親だからって『はいそうですか』って言うこと聞くわけねえだろうが!! 頼みたいことがあるってんなら、それなりのスジを通してみせやがれってんだ!!」

「……! ああ、そうだなコン! 痣城剣八、たとえお前が何者であろうと、そんな不確かな言葉を聞くわけにはいかない!! 私はそれを示してみせる!!」

 

 そして雨露柘榴への返答を自分たちへの言葉と認識したコンと望実は、揃って抗う意思を見せる。

 その様子を、痣城は落胆するでもなく、ただ嘆息する。自分の言葉に従わぬ二人の改造魂魄は、彼からすればもはや何の用もない。

 

「過去の計画は失敗だった、ということか」

 

『おいおい剣の字、まさか手に掛けるっていうのかい? あんたの子供か、孫みたいなもんじゃないか! 真面目に死神やってる相手にそんなことすると藍俚(あいり)ちゃんだって怒るよ? 射干玉ちゃんなんて名前までつけてくれて可愛がってくれるってのに!!』

 

「射干玉……?」

 

 聞き慣れぬ名に一瞬訝しむ。

 

『おおっと、いけないいけない! その辺は剣の字にも秘密だったんだ! ひょっとして気になるかい? 気になっちゃうのかい? でもだーめ、女にゃ秘密が多いのさ! キハハハ!!』

 

「誰が失敗だゴルアアァッ!!」

「降りしきれ、退紅時雨(あらぞめしぐれ)!」

 

 失敗という言葉に激高したコンは、自らの腕を肥大化させると痣城へと殴りかかる。

 望実は始解を発動させると、同じく痣城へと斬りかかる。

 

「退け」

「ぐおおおっ!!」

「コン!! ……ぐうっ!!」

 

 襲いかかる一体と一人を前にしながら、痣城は手近なコンへと攻撃を仕掛けた。

 その手段は、周辺の空気を爆弾のごとく破裂させて二人とも吹き飛ばすという極めて単純なもの。

 現世での能力の扱いには慣れたとは言えぬ痣城からすれば、これは練習のようなもの。

 加えて改造魂魄など物の数ではないと、そう認識していたがゆえの行動だ。

 

 目論見通り爆発で吹き飛ばされたコンはぬいぐるみの肉体の大半を失い、その余波は望実にまで襲いかかる。

 肌を焼き髪を焦がし、その場から吹き飛ばさんとする熱波と衝撃を、だが彼女は歯を食いしばって堪える。

 望実は見たのだ。爆風に吹き飛ばされながらも、コンが後を託すように笑っているのを。

 その期待に応えたいと、望実は前に進む。

 

「うう、ああああぁっ!!」

 

 爆煙の中から現れた彼女は、痣城目がけて斬魄刀を振るう。

 しかしそれは、先ごろ更木が放ったのと同じく、むなしく空を斬るだけ――そのはずだった。

 

「な……!! がああぁぁっ!?!?」

 

 振り下ろされた斬魄刀。

 その刀身が触れた瞬間、痣城は激痛に苛まされる。意識を直接刈り取られるような痛みに、彼は無理矢理に能力を操るとその場を大急ぎで離れる。

 

「……消え、た……?」

 

 望実からすれば、目の前にいた痣城が突如として消えたようにしか見えなかった。だがなぜそんなことになったのか、理解が出来なかった。

 

「いや、そんなことよりも……コン!! 無事か!?」

 

 疑問は残るが、それでも直感的に相手を退けることに成功したと判断した彼女は急いで相棒たるヌイグルミを探す。

 

「よ、よぉ……やったじゃねえか望実……」

「コン、コン……!! ああ、お前のおかげだ!」

 

 幸いなことに、探し()はすぐに見つかった。吹き飛ばされたコンは、幸運にも近くの壁に引っかかっていた。

 とはいえ爆発の直撃を受けたのだ。焦げ跡だらけ、ボロボロになったヌイグルミを、望実はそっと抱きしめる。

 

「へへ……まあ、オレ様の身体はコレだからな。そう簡単にゃ死なねえんだ……っててて……」

「待っていろ、すぐに治してやる!」

「あー……だったらよ、キスして貰えると痛みが引くって……ぐへっ!」

「ちょ、調子に乗るな!」

 

 望実は顔を真っ赤にしながら、ヌイグルミの口元を指で抑えた。

 

 

 

 

 

 

『ありゃりゃ剣の字、忘れちゃったのかな? 望実ちゃんの斬魄刀の能力を! 瑠璃色孔雀を抑えて油断しちゃったのかな? それともちょっと前に即席で死神になった改造魂魄のことなんて無駄だって思ってた!? キヒヒ!!』

 

「黙れ……」

 

 雨露柘榴の軽口に、痣城は顔を苦痛に歪ませながらも言い返す。

 

 斬魄刀、退紅時雨(あらぞめしぐれ)の能力は「相手の攻撃を蓄積して返す」というもの。相手が放った鬼道や虚閃(セロ)といった攻撃を受け止めて放つのが基本だ。

 だがこの能力は、霊圧を纏った兵装に対しても効果を発揮する。装備や能力に対しても、刀身が触れていれば問答無用で吸収してしまう。

 世界そのものと融合できる痣城にとって、天敵と呼べる一振りだろう。

 

 痣城は退紅時雨(あらぞめしぐれ)の事を忘れていた訳ではない。融合の能力にて瀞霊廷中の出来事を見聞きできる彼は、その能力のことも知っていた。

 ただし、完全に理解していたとは言いがたかった。

 望実は死神として促成栽培で鍛えられた存在だ。加えて始解を発動させたのは、尸魂界(ソウルソサエティ)に居た頃には片手で数えられるほど。つまり始解を充分に検証する時間は無かったのだ。

 加えて現世で死神として働いている際にも、霊子兵装を相手にする機会は訪れなかった。

 今回の出来事は、望実本人も痣城も知らない退紅時雨(あらぞめしぐれ)の使い方。怪我の功名のようなものだった。

 

『子が親を超すってのは、こういうことなのかねぇ? 無駄だ失敗だって思ってた相手にここまで苦渋を舐めさせられるなんてさ! こういうのがあるから楽しいんだよ! キハハハハ!!』

 

「黙れ!」

 

『怪我をしたなら四番隊だよ? 藍俚(あいり)ちゃんも来ているんだし、助けて~ってお願いしてみたら?』

 

「黙っていろ!」

 

 空座町の上空――コンと望実の二人と戦った位置から離れたその場所――にて、痣城は苛立ちげに叫び声を上げた。

 




●九条とコンと痣城
痣城が流魂街の魂を改造して対(ホロウ)用の兵士に仕立てた
 → それを発展させたのが改造魂魄の技術(コンや九条)

なので「痣城とこの二人が顔を合わせる。ちょっと会話する。そういうのも面白いかも?」という妄想から。

●退紅時雨
今まで出番が無かった退紅時雨さん、ここに来てちょっと活躍しました。
(霊力を吸収して打ち返すので、痣城さんに有効な斬魄刀)

車谷よりずっと活躍しています。
(伝令神機をロストして状況に取り残されてます(※ 原作通り))
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