お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第306話 自称・四人目の魔人

 姿を見せた更木副隊長は、そこそこ怪我を負っていました。

 死覇装はボロボロであちこち出血や火傷をしています。ですが足取りそのものはしっかりとしていますし、闘気については……言うまでもないですね。

 私を今にも殺しそうな目で見ている時点で、心配するだけ無駄です。

 

「あれは、十一番隊の……いや、けど何故だ!? どうして湯川さんを!?」

「私が、痣城剣八を斬っちゃったからでしょうね」

「そ、それだけのことで……!?」

 

 ある程度は見知った顔だからでしょうか? 石田君が私と更木副隊長のことを交互に見ています。

 

『おっかねぇ……おっかねぇでござるよ……』

 

『キハ! アレを相手にするってのは、剣の字にも荷が重そうだね! でも今は藍俚(あいり)ちゃんのことしか見てないようだし……やったね藍俚(あいり)ちゃん! モテモテだよ!!』

 

 そんなモテ期、要らない……

 

「……詳しくは省くけれど、彼が名乗っている"剣八"って名前についても一騒動ある状況なのよ。あの痣城は更木副隊長が剣八になる三代ほど前の剣八でね」

「三代前……? い、一体なにが……?」

「詳しくは省くって言ったでしょう? 一対一で斬り合いをしたかったけど、私が先に斬っちゃったから不機嫌なの。下手に手を出すと石田君も斬られるってことだけ覚えておいて。ロカちゃんとドン観音寺さんも」

 

 そう忠告をすれば、石田君は無言で頷きました。

 絶対に手を出さないとばかりの決意が、顔にありありと溢れています。

 

 よしよし、良いわよ。

 でも今から私はね、自分で「手を出すな」って言った相手を説得しなきゃいけないの。まったく、面倒ったらないわよね……

 

「転んだ程度の傷ですよ! そんなに文句を言わないでください! 気になるなら私が治しておきますから!!」

「湯川さん!?」

 

 石田君が驚いた顔で私を見ます。

 ですが、返事をしている余裕はありません。だって下手に気を散らして説得を間違えるような真似はできないの!

 なにしろココにはもう一人、気に入りそうな相手がいる!! そっちに興味を向けさせれば良いだけなんだから!!

 

「それよりも、こっちに破面(アランカル)がいるの! 私はこっちの相手をしますから、更木副隊長は引き続き痣城の相手をお願いします!!」

「あん?」

 

 シエンへ注意を向けるような言葉を投げかければ、更木隊長は思惑通りに視線を動かし、やがてニヤリと犬歯を剥き出しにしながら凶暴そうな笑顔を浮かべました。

 

「おいおい、そりゃ駄目だ。痣城以外にもう一人、面白そうなのがいるじゃねえか! どっちも俺が斬るに決まってんだろうが!!」

 

 よし! 上手くいったわね!!

 この二人とも、相手は任せたわよ! 私はロカちゃんの護衛をするから!! それで文句はないでしょう!?

 

「だからよ、こいつら全部斬り終わったら、久しぶりに斬り合おうぜ!!」

 

 ……え? 何それ……

 それは知らない……

 

「それで、俺の獲物に手ぇ出した件はチャラにしてやるよ!」

 

 わー、やったー……チャラにしてもらっちゃったわ……

 

『おめでとうございます藍俚(あいり)殿!!』

 

『キハハハハ!! キヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!』

 

 雨露柘榴は笑いすぎ!!

 

 ま、まあ良いわよ! とにかく注目は集めた! 目標も定められた!!

 更木副隊長の放つ、底冷えするほどの殺気と霊圧に痣城とシエンの二人は思わず身構えています。

 今すぐにでも飛びかかってきそうな気配に射竦められてか、痣城もシエンも下手に動けずにいるようです。とは言っても、痣城は怯えている感じがしてシエンは好戦的な気配がしているっていう違いがあるんだけどね。

 

 あと、他に気になることがあるとすれば……私にもその気配が向けられているってことなんだけど……気にしない、気にしないわよ!!

 

 さて次は――

 

「ドン観音寺さ……ん?」

 

 ……いない。てか、車もない。

 

 遠くから「ホアアアアアアアアアアーーーッッ!!」という奇声? かけ声? とにかく大声みたいなのが聞こえてきました。

 その声の方角には、猛スピードで走り去っていく車の姿が。

 

「にげ、た……?」

 

 まさかさっきの、更木副隊長の霊圧に気圧されている隙に!?

 だ、だとしても私も痣城もシエンも、誰も気付かなかったの!?

 確かに、他のことなんて気にしている余裕がなくなるくらいの恐ろしさだったけれど!!

 しかもそんな恐ろしい霊圧が放たれているってのに、逃げようとするだけの胆力……

 

『さすがはスーパースターでございますな!!』

 

『現世の人間ってのは、とんでもないのばっかりだね!』

 

 いえ多分、雨露柘榴が知っているのは少数派ばっかりだから。

 特にアレは、例外中の例外だから……

 

 ピカロたちはこの霊圧にすらキャーキャーと、スリルを楽しんでいるかのように大声を上げています。

 

「……湯川さん」

 

 まったく、破面(アランカル)は気楽なものね……

 

「湯川さんってば!」

「……あらネリエル?」

 

 ピカロたちの霊圧に混じって気付くのが遅れたのか、いつの間にかネリエルが私の隣まで来ていました。彼女は場の空気を読んでくれたのか霊圧を抑えながら、小声で呼びかけてくれています。

 

「ごめんなさい、勝手に現世まで来ちゃって……でも、どうしてもロカちゃんのことが心配で。シエンのヤツも狙っているし。気付いたらなんだか凄い霊圧が放たれていたから、こっそりと……」

「そう……」

「ところでロカちゃんは……?」

「……あれ」

 

 私は、もう殆ど見えなくなってしまった車の方を指差します。

 

「あれ……って……?」

「逃げてるの……現世の人間と一緒に……」

「逃げてる?」

「ええ、そうよ……」

 

 いえまあ、正しいと言えば正しい行動なのよ。

 

「ちょっと前までは、こんな状況じゃなかったのよ……事前にどんな状況か説明して、余裕もそれなりにあって……」

 

 でも、だからってさあ……私、結構頑張ってたつもりなのよ?

 危ないから逃げろって注意してあげたのよ?

 

「私が引きつけて、ピカロの協力も少しは取り付けられたから、個人的には勝算もあったの……あったはずなのよ……それなのに……」

 

 想定通り、想定通りなのよ……

 でもさあ……

 一言くらいはさ、あってもいいんじゃない……!?

 

「……うふ、うふふふ! うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ!!」

 

『あ、藍俚(あいり)殿?』

 

『キヒ! どうしたんだい藍俚(あいり)ちゃん?』

 

 射干玉と雨露柘榴だけではありません。

 突然笑い出した私に、この場の全員が私へと注意を向けています。

 

「なんだかさ、私もう疲れちゃった……」

 

 私はといえば、がっくりと肩を落として俯いた姿勢をとっていました。両側で括って束ねていた髪が流れて、まるで表情を隠しているようです。

 その姿勢のまま、突然笑い出したんですから、そりゃあ驚かれますよね。

 

「考えてみればさ、どうして私がここまで気を遣わなきゃいけないの? これでもね、ちゃんと考えていたのよ? 痣城の討伐は更木副隊長に任せなきゃって、剣八の名前が絡んでるからなんとか相手をさせようと思って! ロカちゃんのことはネリエルから頼まれたからなんとかしようと思ったら、シエンなんて相手が増えるし! そっちも絶対気に入るはずだから紹介してあげて、さあ次はあなたの番よって思ったら、心配していたはずの人間は一言の断りもなく勝手に逃げてるし!!」

 

 未だ俯いたまま、表情を隠したまま呪詛のように呟き続けます。

 そして最後の言葉を言い切ると同時に、私は力一杯顔を上げました。

 

「……もうさ、全員斬ればいいのよね? そうすればもう、こんな馬鹿なことで悩まなくて済むのよね……?」

「オイ藍俚(あいり)、こいつらは俺の獲物だって言ってんだろうが!」

「ハァ!? ちょっと傷つけたくらいでガタガタ文句を言ってんじゃないわよ!! そもそもそっちの落ち度でしょうが!!」

「ちょ……!」

 

 石田君が大慌てになりますが、私は止めません。

 

『!?』

 

藍俚(あいり)殿!?』

 

 ついでに射干玉と雨露柘榴も慌てましたが、私は止めませんよ。

 

「斬られたくらいで文句があるなら、いっそ今から私が痣城から剣八の名を奪い取ってやるわよ!! そうすりゃ文句も出ないでしょうが!!」

「なんだと手前(てめぇ)!! そりゃどういう意味か、わかってんだろうな!?」

「知ってて言ってるのよ!!」

 

 途中から薄々気付いてたけれど、私主役じゃないんでしょ!?

 

 これ多分、更木剣八が主役のエピソードか何かなんでしょ!?

 

 一護が霊力を失った間の描写とかそういう感じのお話だったんでしょ!?

 

 アレが主役なら私が好き勝手やっても影響なんて微々たるものでしょ!? むしろ暴れまくるくらいで丁度良いに決まってるもの!!

 

 ……ええ、やってやる! やってやるわよ!! 全員私が相手になってやるわよ!!

 

「痣城! 更木! シエン! 私の邪魔をするなら、あんたら全員敵よ!!」

 

 手にした斬魄刀を突きつけながら、私は力一杯叫んでやりました。

 

 

 

 

 

藍俚(あいり)殿……おいたわしや……』

 




最初は、素直で良い子な藍俚(あいり)殿が、献身的にサポートしつつ助けてくれるはずだったんですよ。

でもそのルート、全然面白くなかったんですよ。

もう、喧嘩売るしかなかったんです……
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