お前は天に立て、私は頂をこの手に掴む   作:にせラビア

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第307話 よーい、ドン

「な……なっ……!?」

 

 斬魄刀を片手に、敵味方関係なくこの場にいる全ての強者へと敵対宣言する藍俚(あいり)の様子に、雨竜は言葉を失った。

 事前に聞いた話から察するに、十一番隊は味方のはずだ。あの痣城という名の死神を獲物として狙っているということも簡単にではあるが聞いている。

 

 その上で、どうして彼女は全員を敵に回そうとしているのか? それが分からない。

 

 雨竜から見た湯川藍俚(あいり)という死神は、少々とんでもないことをサラッと行うものの、温和で友好的。こちらの事情もある程度は汲んでくれる、苦労人のような性質を持っていると判断していた。

 

 となるとこれは、ストレスが限界に来たんだろうか……?

 

 ――そう雨竜は考える。

 狙っている相手へ先に手を出されて不機嫌になるというのも、まあ理解はできる。だがその程度でここまで逆上するだろうか?

 自分が守ろうとしている相手――その相手は(ホロウ)なので、滅却師(クインシー)である自分には少々納得できないものの――を狙う相手がやってきて、余裕がなくなったのだろうか?

 はたまた、これまで気にかけていたドン観音寺が勝手にいなくなったことが原因か?

 

 ――根拠はないが、最後の理由な気がする……

 

 ドン観音寺の性格とこれまでのやりとりの内容を思い返して、そう結論づけた時だ。

 

「(……石田君、聞こえてる?)」

「……ッ!?」

 

 藍俚(あいり)の小さな声が、雨竜の耳に届いた。

 

 

 

 

 

 ――な、なんで……どうして……!?

 

 ネリエルもまた、藍俚(あいり)の言動に戸惑っていた。

 事情をよく知らない彼女から見れば、今の状況は「さっぱり分からない」の一言に尽きるだろう。

 ロカを狙う死神がいて、シエンもロカを狙っているかもしれないという事は聞いていた。

 だから虚圏(ウェコムンド)を探してシエンを見つけて、でも返り討ちにあって、それでもロカのことを諦められなくて、藍俚(あいり)との約束を破って現世まで来てしまって……

 

 ――ひょっとして、私が現世(ココ)に来ちゃったから!? だから湯川さん、こんなに怒っているんじゃ……!!

 

 そんな結論に達してしまっていた。だが、そう一概に「その結論は間違っている」と責められるものでもない。

 ネリエルからすれば、話をした直後から藍俚(あいり)の様子がおかしくなっていった。となれば、自分の存在が引き金となってしまったと考えるのも十分にありえることだ。

 

 ――ど、どどどどうしよう……!? ひょっとして、私このまま……

 

 斬られるのではないか?

 

 藍俚(あいり)をよく知る――色々とアレな明言を避けたくなる腹の内側までをよく知る者ならば「それは絶対にありえない」と自信を持って言い切れる結論に、怯えていたときだった。

 

「(ネリエル、聞こえてる?)」

「…………ぇ……っ!」

 

 耳に届いた小さな声に、それまで宙を泳いでいた視線を藍俚(あいり)へと向けた。

 

 

 

 

 

「…………」

 

 九条望実もまた、困惑する者の一人だった。

 まだ死神となったばかりの新人だが、同じ隊士である更木にまで刃を向けることが理解できなかった。

 望実から見た藍俚(あいり)の印象は、雨竜と似たようなものだ。とても親切で慎み深い死神。

 

 

 

「(九条さん、それにコンちゃん。聞こえてる?)」

 

 

 

 

「(三人とも聞こえてる? 聞こえていたら足で地面を叩いて。リズムを取るみたいに)」

 

 聞こえた声に雨竜とネリエルと望実は、一瞬視線を交差させた。

 そして互いに聞こえているのだと判断すると、藍俚(あいり)の言葉通りにつま先で軽く地面を叩く。

 ほとんど音も鳴らない、小さな現象。だがそれが響けば、再び藍俚(あいり)の声が聞こえてきた。

 

「(よかった、聞こえてるみたいね)」

 

 逆上しているとはとても思えない優しい声色。

 その様子から、彼女が意図して今の状況を作ったのだと三人は理解する。

 

「(変なことしちゃってごめんなさい。このままだとあなたたちにまで危険が及びそうだったから、ああして注目を集めさせてもらったの)」

「――っ!」

「(声は出さないで!!)」

 

 思わず反射的に口を開きかけたところを、少し強めの口調で抑えながら藍俚(あいり)は続ける。

 

「(この三人と十一番隊は、私がなんとしても抑えてみせる。だからネリエルは、ロカちゃんを追って守ってあげて。案内と事情説明には石田君、お願いできるわよね?)」

 

 ――トン。

 つま先で地面を叩く小さな音が、再び響いた。なるほどこれが返事の代わりか。それを察したネリエルもまた、雨竜に倣って小さく地面を叩く。

 

「(九条さんは、ここに残って。痣城剣八に最も効果的に攻撃できるのは、多分貴女だから……)」

 

 ――トン。

 三度響く小さな足音。

 

「(それじゃあ、私が合図を出すから、二人は――)」

「……なかなか勇ましいですね」

「――この、声は……ッ!」

 

 藍俚(あいり)の小さな声をかき消すように、凜とした声が響いた。

 見れば更木の後ろから、卯ノ花を筆頭に十一番隊所属の死神たちが数名、姿を見せる。そのほぼ全員が、更木ほどではないものの怪我を負っていた。

 彼らも藍俚(あいり)の言葉を聞いていたのだろう。一角はおろか、やちるまでもが不機嫌そうな表情を覗かせている。

 

「おい藍俚(あいり)、お前どういうつもりだ? 事と次第によっちゃ、タダじゃすまさねえぞ……?」

「ぶー! ダメだよあいりん!! 剣ちゃんの邪魔しちゃだめ!!」

「皆の言う通りです。今回の件、あなたも理解していると思っていましたが?」

「……卯ノ花隊長こそ、わかっていますか?」

 

 それぞれの言葉に、藍俚(あいり)は臆すことなく言い返す。

 

「私の前で、無関係な相手へ勝手に手を出して命の危険に晒されるなんて、許せないんですよ。そのためなら、剣八だろうと容赦はしません」

「……ああ、なるほど。そういうことですか」

 

 言葉数の少ない説明であったが、それだけで卯ノ花は理解した。約七百年間、師弟関係であったのは伊達ではない。

 

「確かに、あの(ホロウ)を斬れば此度の痣城剣八の件は、その大半は終わります」

「え……ッ!?」

「ですがそれは、あなたの流儀ではありませんからね。とても貴女らしい理由です」

「ええ、まあ。それに十一番隊は敵対する意思のない(ホロウ)や、いくら邪魔だからといっても現世の人間を斬るような、矜持も何もない殺人集団ではないでしょう?」

 

 ロカを死神たちが斬れば大半が片付く。そう聞かされて、思わずネリエルが小さく叫ぶ。

 だがそんなことは関係ないとばかりに卯ノ花と藍俚(あいり)は言葉を交わし合う。特に藍俚(あいり)は、十一番隊としての矜持を擽ることでロカへ手を出させないように意識を誘導する。

 

「なるほど、確かに。何より、そんな決着はちっとも面白くない――……もとい、剣八が許さないでしょうからね」

 

 さらりと本音を言葉に交えつつ、卯ノ花は部下たちへ「ロカに手を出さない」と命じるよう心を決めた。

 

 

 

 ――矜持、か……無駄なことだ。だが今だけは悪くない。

 

 痣城は、藍俚(あいり)と卯ノ花のやりとりを眺めながらわずかに安堵する。

 彼の目的はロカから能力を、糸車を引きずり出して自らの力とすること。

 そのためにはロカを下手に倒されるわけにはいかない。目的を達成できなくなるからだ。そういった意味では、十一番隊がロカを狙わないのは都合が良い。シエンやピカロたちから守ってくれれば、なお好都合だ。

 

 ならば、と彼は目星をつけ直す。

 当面の邪魔となるのは、先ほど自分の霊圧を吸い取った死神(九条)。次に邪魔なのは(ロカ)の存在を抹消しかねない滅却師(石田)だろう。

 手傷を負わせた藍俚(あいり)も邪魔ではあるが、そこまで恐ろしい相手ではないと判断した。同時に更木も。

 藍俚(あいり)も更木も手強い相手ではあるものの、雨露柘榴の能力から見ればそこまで恐れる相手ではない。

 確かに邪魔をされた。侮れる相手ではない。

 

 だが少なくとも、前述の二人と比べれば、目的達成の邪魔にはならない。

 いかに霊圧が高く、強力な斬魄刀を持っていようとも、戦い方次第でどうとでもなる。優先しなくてもそれほど困らない。となると……

 

 ――まずは破面(アランカル)の男から始末しておくか。

 

 ロカを狙い、ピカロたちを率いているシエンはこの場で最も邪魔な存在だ。そう判断した痣城は、いつもと同じように空気中に刃を顕現させて相手の心臓や喉を切り裂こうとした。

 しかし相手の周囲には妙な霊圧の流れがあり、うまく刃が具現化できない。

 

「おや、僕からかい? 名指しで喧嘩を売られたのだから、てっきりあの女死神を狙うのだと思っていたよ」

 

 訝しがる痣城の様子に、シエンは愉しげに語った。

 

 

 

 

 

 ――僕たち全員を狙う、とはね。理解しがたいよ。

 

 痣城が攻撃を仕掛ける少し前。

 シエンもまた、藍俚(あいり)と十一番隊のやりとりを注視していた。

 自らの意思でロカを手に掛けようとするシエンからすれば、十一番隊と藍俚(あいり)は敵――元々(ホロウ)と死神は敵同士だが――であり、目的が近い痣城は利用できる相手とすら思える。上手く潰し合わせられれれば、漁夫の利も夢では無い。

 

 だが……と心のどこかでストップが自分に掛かる。

 

 漁夫の利を狙うと同時に、戦ってみたいという気持ちも湧き上がる。

 それほどまでに、更木の霊圧は圧倒的だと、シエンの目には映った。取り戻した力を全力で振るっても、壊れる心配が無いくらいに。

 

 ――さてどうしようか。死神たちの死で世界を満たすべきか、それともピカロたちへロカを追わせるべきか……

 

 そこへ、痣城の攻撃が放たれた。

 

 

 

 

 

 ――敵、かよ! おいおい、藍俚(あいり)も斬っちまっていいのか!?

 

 更木は藍俚(あいり)の言葉を反芻していた。

 

 痣城剣八を斬り、剣八としての名を確固たるものにする。彼が認識している今回の任務は、大雑把に言えばその程度だ。詳しい説明は受けたが、後は忘れた。

 ただ、強い強い痣城剣八を――彼が斬った鬼厳城剣八よりもずっと強く、ずっと剣八らしい相手を斬ればいい。

 そのための晴れ舞台は、十一番隊全員で用意してやる。

 

 そうすることで、もっと強くなれる。

 そうすることで、剣八という名はより濃いものとなる。

 

 有り体に言ってしまえば、彼の認識はそんなものだ。

 断界(だんがい)の中で相まみえた時には逃げられ、急いで現世にまで出てきてみれば他にも強そうな破面(アランカル)がいて、最後にはいつも世話になっている藍俚(あいり)まで敵に回ると言うではないか。

 頭がおかしくなりそうだ。

 

 ――だが、真っ先に狙うとすれば!

 

「剣八!」

 

 動き出そうとした瞬間、卯ノ花の声が聞こえて来た。

 

「あなたはあなたの思うがまま、剣を振るいなさい! 後のことは私たちがやっておきますよ!」

「……へっ! そうかよ!!」

 

 ああ、そうだ。グダグダと考え込むのは趣味じゃねえ。

 いつも通り、ただ強え相手に斬りかかるだけだ。

 その途中で痣城が斬られるというのなら、そこまでのことだ。そのときは痣城を斬ったやつごとぶった斬れば済む話だ。

 しかもうまく生き延びてくれれば、藍俚(あいり)が治してくれる。そうすりゃまた斬り合いが楽しめる。

 気に食わないことがあるとすれば、真っ先に斬れないというくらいか。

 

「オラアァッ!!」

 

 抜き身の斬魄刀が振り下ろされる。

 向かう先は痣城とシエン、その両方だ。刃を放とうとするのを塞がれ、空間に闘気が昂ぶっていた。

 言うなれば"本能の赴くまま、戦いの匂いに導かれた"に過ぎない。

 

「君も僕の相手かい? 困ったなぁ、大人気だ……」

 

 剣八の攻撃を避けながら、シエンもまた霊圧を昂ぶらせつつ斬魄刀を引き抜くと、それを飲み込んだ。

 

 

 

 

 

「――二人とも今ッ!!」

 

 更木が動いた瞬間を逃さず察知すると、それを合図代わりに藍俚(あいり)が叫んだ。同時にネリエルと雨竜が駆け出す。

 あらかじめ教えられていたことで、心構えができていたのだろう。飛廉脚(ひれんきゃく)響転(ソニード)という違いこそあれど、車が走り去っていった方向へ向けて脇目も振らずに突き進んでいく。

 

 動いたのは二人だけでは無い。

 藍俚(あいり)もまた瞬歩(しゅんぽ)を用いて、痣城目掛けて斬りかかる。

 

「無駄だ」

 

 霊圧の込められたその攻撃は、空気と同化することで無意味となる。

 いくら藍俚(あいり)が空気を斬ることができても、斬られると分かっていれば避けることは容易い。

 むしろ、これで隙が生まれた。邪魔な相手を無力化するだけの隙が。狙うのは九条望実、今この場において痣城を最も害する可能性の高い死神だ。

 彼女目掛けて力を振るおうとして――

 

(まみ)れろ、射干玉っ!!」

「く……っ……」

 

 斬魄刀を始解させながら藍俚(あいり)は再び剣を振るう。

 その動作に痣城は再び攻撃を中断させられた。操ろうとしていた霊圧そのものが藍俚(あいり)の持つ斬魄刀によって断ち切られ、霧散させられてしまった。

 ダメージはない。あっても、軽い切り傷程度だ。だが攻撃を邪魔されたことに、痣城は軽い苛立ちを覚える。

 

「まさか、今のは……」

「九条さんは切り札よ? 無防備にしておくわけがないでしょう」

 

 望実を狙おうとする、その隙を突いたということか。

 ならばと藍俚(あいり)目掛けて攻撃を放つが、これも上手くいかない。

 霊圧を高め、攻撃へと移るその一瞬のタイミングで、ひらりとその場から飛び退いてしまう。まるで手の内を読まれているようだ。

 

「……先ほどの宣言、あれは擬態というわけか」

「さあ、どうかしらね?」

 

 ――なるほど、確かに厄介だ。だが、まだまだ私のことを甘く見ているようだ。

 

 激昂したように見えて、想像以上に冷静かつ抜け目ない戦術を仕掛けてくる。そんな様子から判断しながらも、痣城は別の目的を優先して遂行すべく霊圧を高める。

 

「――啜れ、邪淫妃(フォルニカラス)

 

 爆発的に高まった霊圧を感じたのは、そんなときだった。同時にシエンという名の破面(アランカル)の姿が劇的に変化していく。

 なるほど、これが報告にあった帰刃(レスレクシオン)か――視界の端に映った光景に、痣城は得心していた。

 

 

 

 

 

「ねーねー、戦ってるよ?」「楽しそう!」「僕たちも混ざらない?」「一緒に遊んでくれるの!?」「えー?」「シエンが、糸のお姉さんを潰して遊ぶって言ってたよ?」「遊んじゃ駄目なの?」「でも死神のお姉さん、お菓子くれたよ?」「おいしかったよねー」「もっとちょうだい!!」「ぼく、他の味も食べたいな」「マンゾク……デモ モット ホシイ……」「GUUUUUUUUUUUU」

 

 四人が戦い始めた途端、口々に言い合っていたピカロたちであったが、シエンが帰刃(レスレクシオン)したことでそれは最高潮に達していた。

 全員が目をキラキラと輝かせながら、姿を変えたシエンへと集中する。

 

「わあ! すごい霊圧!!」「戦ったら面白そう!!」「殺したり殺されたりしようよ!!」「遊ぼう!!」

「ピカロたち!!」

 

 ワイワイと騒ぐピカロたちへ、シエンは叫んだ。

 

「お前達はロカを追え! その途中、邪魔するヤツは全て消せ!!」

「えー、遊んでくれないの!?」「糸のお姉さんを?」「ネリエルが先に行ったんだよね? じゃあ、ネリエルも?」「ええーっ! それはダメだよ!!」「あー、コイツ!!」「こいつネルのこと好きなんだよね!」「ひゅーひゅー!!」

「チッ! 使えない道具どもが!!」

「あー! 道具っていうなー!」「私たち、あなたの道具じゃないよ!」「だからザエルアポロ、嫌われるんだよ!」「僕は好きだよ?」「シエンだってば!」

 

 発した命令に従わず、難色を見せるピカロに苛立つシエン。

 すると子供たちはそれが気に障ったのか、さらに文句を言い始めた。不満の声が増していく中、藍俚(あいり)が叫んだ。

 

「じゃあピカロ君たち! 私とそのシエン、どっちがすき?」

「「「「「「「お姉さん!!」」」」」」」

「じゃあみんな、私と一緒に戦ってくれる!? ロカちゃんを潰したりしないで、ネリエルと一緒に守ってくれる!? そうしたら後で、もっとお菓子あげるわよ!!」

「なっ……!!」

 

 意図を察し、シエンが叫ぶが遅い。

 

「えええっっ! 本当!!」「もっといっぱい!?」「もっとおいしいヤツ!?」「うん!! わかった!!」「まってー!!」「任せて!!」

 

 ピカロたちは次々に、ネリエルらの後を追って駆け出していく。

 その様子に苛立ちつつも、シエンは手近なピカロの首根っこを掴み取り動きを抑える。

 

「ふえ?」

「チッ! 役に立たずどもが……まあいい。一匹は確保した」

「放してよシエン! 僕も行くんだ! 行かないとお菓子もらえなくなっちゃうから!!」

「気にする必要は無いさ。というより、お菓子の事を気にする暇もなくなる」

 

 そう告げると同時に、シエンは黒腔(ガルガンタ)を開いた。

 広がった穴は近くにいた更木を取り込み、続いて痣城や藍俚(あいり)までもを取り込むと、その口を閉じる。

 

「湯川隊長!!」

 

 姿が消えたことで、望実が叫んだ。

 破面(アランカル)のことも黒腔(ガルガンタ)のことも、経験の薄い彼女はよく知らない。それこそ、シエンに喰われたと思ってしまったほどだ。

 だが、彼女の衝撃はそれだけでは終わらない。

 

「…………」

「え……っ!?」

 

 同じように喰われたはずの痣城が、霞が湧き出るように姿を現した。おそらくは雨露柘榴の能力を使い、空気と同化して逃れたのだろう。

 一切の痛痒を感じさせぬ立ち振る舞いに、望実は思わず身体を硬くする。

 藍俚(あいり)がこの場から姿を消した今、戦えるのは自分だけ。

 有効な戦力なのだと教えられ、その期待に応えようと彼女は斬魄刀を構える。

 

 ――無駄なことだ。

 

 退紅時雨(あらぞめしぐれ)の能力は既に割れている。一度は不覚を取ったが、二度目はあり得ない。

 望実の手から斬魄刀を取り上げ、無力化すべく力を振るおうとしたときだ。

 

『キハ! 本当にそうかな?』

 

「……っ!?」

 

 突如聞こえてきた雨露柘榴の声。同時に鋭い痛みが顔に走った。

 

「ぐ……っ!?」

「やらせないって言ったでしょう?」

 

 痛みと驚きに耐えながら見れば、そこには藍俚(あいり)の姿があった。

 背後には、今にも閉じようとしている小さな黒腔(ガルガンタ)を背負いながら。

 




三人称ちゃん「私の時代!」


●書いたは良いけど、上手く組み込めなかった部分の晒し
(原作で雨竜を傷つけて、鎌鼬の称号を奪い返す部分のシーン)

※ 雨竜を狙った攻撃を藍俚(あいり)が防いだ。その後、二人が会話している。

「まさか現世の人間を狙うなんて……彼が滅却師(クインシー)だからかしら? それともまさか……彼が"鎌鼬"の称号を持って行ったから、とか?」
「……馬鹿々々しい」

 あらら、切って捨てられたわ。
 まあ、普通ならそうよね。前者だって思うわよね。
 滅却師(クインシー)に存在そのものを滅ぼされると魂魄のバランスが狂っちゃうから、だから石田君に手を出した。けど現世の存在だから、ガードレールを巻き付けて捕獲する程度で止めただけ。

 痣城を知っている死神なら、誰だってそう思うわよね。

 でも、雨露柘榴の話を聞いちゃったからねぇ……あれで物凄い衝撃を受けちゃったからねぇ……ぷぷっ!!
 案外「ぼくのカマイタチなのっ! ボクが頑張って呼ばれるようになった結果なのっ!! だから返して!!」って思ってても不思議じゃないのよね。

 あー、煽りたい……もうちょっと煽ってみても大丈夫かしら……?

『なあに! 剣の字の方はもう私がキチンと煽ってるから何の心配もないよ! キハハハハッ!!』

 そうなの!? うわぁ、なにそれ聞きたい! どんなこと言ってるの!?

『拙者が思うに! ねえねえ今どんな気持ち!? 自分の渾名が知らない間に他人に持って行かれて、しかも海外流出していたのをようやく取り返せて、今どんな気持ち!? ……といった感じでございますかな!?』

 しかも朽木隊長に「いらない」って辞退されたのよね! 鴇哉(ときや)君には「パパは鎌鼬よりもっと凄い」って感じで、要らない子扱いされた称号なのよね!!
 そんな残念な称号を取り返してみて、今どんな気持ち!? これも追加で!!

『ああ、そういえばそんな出来事もあったっけねえ! 安心しなよ藍俚(あいり)ちゃん! その分も含めてあっちの私が煽っておくからさあ!! キヒヒヒヒッ!!』

 ……これ本当に、どういう状況なのかしらね……

(※ この辺まで書いたものの「これ、入れる隙間が無い」と判断して没。

 結果「ねえねえどんな気持ち、このネタ入れようと思っていたのに入らなくて、今どんな気持ち?」と自分で自分を煽る羽目になりましたとさ)
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