昇進しました! なんと第十八席です!
これも始解が出来るようになったおかげですかね?
……二十席から十八席かぁ……いや、嬉しいんですよ。
百年掛けて二十になって、五十年掛けて二つ上がったわけですから。
それだけ聞くとなんだか法則性がありそうにも見えますが、だからといって二十五年後に三つ上がってるとは思えない……私がそんなに成長しているなんて思えない……
同僚のみんなは祝ってくれました。それだけが救いですね。
そうそう、忘れるところでした。
あの後色々と能力を試していて気付いたのですが、射干玉の声は始解していないと聞こえないようです。
さすがに四六時中アレと会話をするのはちょっと……楽しいのは認めますけど。
……というか、席次が変わったからまたお役所に届け出を出してこなきゃ……
あの混みっぷりのところへまた行くのね……
始解が出来るようになったら、次は卍解を目指します!
次のステップに進むためにも修行をしないといけません。ということで――
「
「ありがとうございます、隊長」
――卯ノ花隊長とのお稽古です。始解を覚えてからは、初めてのお稽古です。
もう私が始解が可能になったというのも伝達済みです。
「ですが……百五十年ですか……」
「それは……その……」
「この分では、卍解は何時になることやら……」
「……ううぅ……申し訳ありません……」
普通なら始解にここまで時間掛かる阿呆はいないんですよね……
とっくに見捨てられててもおかしくないのに。
面倒見が良いのでしょうか? それとも何か企まれてる??
「まあ、先のことを言っても仕方ありません。それよりも、これからのことに目を向けましょう。ということで
「え、私のですか? どうして……?」
「勿論、今日からは始解を使うからですよ」
……え!?
「た……隊長の始解をですか!?」
「違います。
「私の能力も、直接戦闘向きではありませんけど……」
そう前置きして、射干玉の能力を説明しました。
とはいえ粘液を塗りつけているというのは――面倒ですし、恥ずかしいので――省き、刀身で触れると摩擦を操っている、としましたが。
「なるほど……良いではありませんか」
説明を聞き終えた途端、隊長の目が爛々と輝きました。
「斬っても斬れない……ならば危険性はないでしょう。つまり、もっと激しくやっても問題ありませんね?」
「いえ、あの……」
「摩擦を変化させるとは盲点でした。これを突破できれば、私もどうやら更なる高みに上れそうです」
「隊長……隊長……!?」
なにやら呟きながらうっとりとした表情を浮かべていますが……恍惚の表情ではありますが、ひたすら剣呑というか、その……正直恐いです……
「何をしているのですか? さっさと能力を使いなさい!」
「は、はいぃぃっ!!」
今度は鬼気迫る顔で言われ、大慌てで能力を使いました。
一応、全身の摩擦を下げてあるので、多分大丈夫……
まあ剣を持つ都合上、手の平とかは無理ですけど。
それと死覇装は腰紐で抑えてあるので、摩擦を下げてもずり落ちたり脱げる心配もない……はず……
「では」
「うぐっ!?」
斬られた……んだと思います。
何しろ剣速が凄まじすぎて何も見えませんでした。私が感じられたのは、強烈な衝撃だけでした。
「なるほど、なかなか面白い手応えですね。にもかかわらず、斬れてはいない……面白い、実に面白いですよ!!」
一旦、何かを確かめるように剣を見ていた隊長ですが、その表情がどんどん恐ろしい物へと変わっていきます!
「ほらほらどうしました
「そんっ……な……っ……!」
確かに斬撃ではありませんが、代わりに打撃になっています。
鈍い痛みが各所から襲い掛かって来て、心が折れそうです。
必死で己に回道を使いながらがむしゃらに反撃しますが、今回はその一切がまるで通用しません。
「その程度ですか? 今あなたには本気――の少し手前くらいで攻撃しています。好機ですよ? 私の攻撃に喰らいつき、盗み取ってみなさい!」
「くっ……!!」
一秒間に少なくとも十回は攻撃をされている気がします。
それでも何とか、これだけ攻撃されて目が慣れたのでしょうか? 十数回に一回程度ですが、摩擦を利用して完全に攻撃を逸らせるようにはなりました。
「ふふ……うふふふ……! あはははははっっ!! やれば出来るではありませんか! そうです、それです! それを私に打ち破らせてみなさい!!」
時々混じる変わった手応えに気を良くしたのでしょう。
隊長が、その……剣術の鬼です……これはちょっと……下手な
『ぬほほほほほっ! これが卯ノ花殿の剣術でござるか!?
射干玉!? あんたなんで出てきたの!?
『これはもう! これはもう!! 逝ってよし!! 拙者、逝ってよしでござるよ!!』
何が"逝ってよし"よ!? って、ああああ!! ツッコミ入れてる場合じゃない!!
「どうしました? 集中が乱れていますよ! もっと私を愉しませなさい!! それとも私との戦いはそんなに退屈ですか!?」
ツッコミを入れるのには一秒も掛かっていませんが、その一秒という時間があれば隊長は私を十回殺せます。というか十回殺してもお釣りが来ます。
射干玉に気を取られて意識が散漫になったのを即座に見抜かれ、今まで以上に手痛い攻撃が何度も襲い掛かってきました。
というかこれ……斬られてる!? 摩擦をゼロにして攻撃を無力化するって能力はどこに行ったの!?!?
か、回道と防御と意識の立て直しにまずは全力を……!!
『オウフ! 退屈だなんてとんでもない!! 拙者が斬られるとは、ますます萌え萌えキュン!! でござるよ!! 尊し……いやさ、
「ああもう、うるさいっ!! ……あ」
……思わず叫んでしまいました。
「……なるほど」
「ち、ちちちちち違うんです隊長! これにはワケが……!!」
後の祭り・後悔先に立たず・覆水盆に返らず……
昔の人は、良く言ったものですね……
「
ひいいいいぃぃっっ!!!
今までで、今までで一番死を感じるっ!?!?
『んほおぉぉっ! これが修羅場! これが刃傷沙汰!! 殿中でござる! 殿中でござるよぉぉっ!!』
あんた……本当に、本当にいいぃぃっ!!
「熱っ!?」
「おや、燃えるのですか?」
斬られたところが熱い!? いえこれは、斬撃の痛みじゃなくて……燃えてる! 本当に燃えてる!?
……まさか、弱点の熱を!? でもどうやって……え!? 剣の摩擦で加熱して発火したの!?
摩擦を操るって話はどこに行ったの!?!? 摩擦ゼロってそんなに万能の能力じゃないの!?!?
「ま、待ってください! これ、燃えると能力消えちゃうんです! 今斬られたら本当に、本当に死んじゃいますから!!」
「そう言えば敵が手を止めてくれると思っているのですか? 弱点だとわかれば、なおさらそこを攻めるものですよ?」
敵じゃないですよね!? 今、稽古のはずですよね!?!?
死ぬ! 私、今日、ホントに死ぬ!!
……生き残れたのは奇跡以外の何でもないと思いました。
私、強くなれてますよね?
三冬とか真琴とか、伊佐子くらいには強くなれてますよね??
うのはな の れべる が あがった。
●三冬・真琴・伊佐子
……皆さん知ってますよね?
でもまあ、一応。
三人とも時代小説の女性剣士の名前です。
佐々木 三冬:剣客商売 より
堀 真琴:まんぞく まんぞく より
伊佐子:堀部安兵衛 より
藍俚が肩を並べるなんて烏滸がましい。